Special Feature
加速する電子契約 “脱ハンコ”を円滑に進めるには
2020/05/28 09:00
週刊BCN 2020年05月25日vol.1826掲載
弁護士ドットコム
国内電子契約サービスのパイオニア 8万社が利用するインターフェースを用意
現在日本で最も普及している電子契約サービスが、弁護士ドットコムが運営する「クラウドサイン」。無料プランも用意されており、15年10月のサービス開始以来、国内の電子契約利用企業の約80%が採用(19年7月末現在、矢野経済研究所調べ)、20年4月時点で8万社以上の導入実績を誇る。同社が5月に発表したところによれば、現在の状況を受けて、4月の導入企業数は6544社と前年同月比で3.1倍、契約送信件数は15万6871件と前年同月比2.4倍に増加。特に「大企業が全社導入するための問い合わせが増えている」(橘大地・取締役クラウドサイン事業部長)という。
クラウドサインの成長の歴史は、国内の電子契約サービス普及の歴史に通ずる。同事業を企画・けん引してきた橘取締役は、「サービスを立ち上げる前、電子契約はほとんど普及していなかった。法ではなく商慣習の問題で、自社が良いと思っても取引先から断られる。他の領域のシステム化よりはるかに高いハードルがあった」と語る。
そこで同社はまず、ITなど電子契約を導入しやすい業種に狙いを定め、クラウドサービスを提供しているベンダーに採用を促し、そのサービスのユーザーが電子契約を行うようにすることで認知度を高め、少しずつ商慣習に風穴を開けてきた。
一方でサービスの使い勝手の部分も重要視してきた。クラウドサインのシェアが高い理由について橘取締役は、「必ずしも弁護士という冠があるので使われている訳ではない。顧客提供価値の高さが評価されている」と言い切る。クラウドサービスとして提供することで、「1社向けのカスタマイズでなく、集合知や要望を取り込み反映してきた。8万社から上がってきた課題や使い方のノウハウが集約されたサービスがすぐに使える」ことが強みだ。
システム構築面でも、Web-APIで既存の業務システムやITベンダーのサービスとも連携できるように設計されている。既存のワークフローや文書管理システムに、クラウドサインの契約フローを取り込み、他のシステムの画面からも操作できる。セキュリティについても、二段階認証や暗号化、IPアドレス制限など、「金融機関で利用できるレベル」(橘取締役)の高い安全性を確保している。
こうした取り組みが奏功し、コロナ禍を受けて市場をけん引している現状ではあるが、「日本全体の紙の契約量から見るとまだ1%もシェアを取っていない」とあくまで橘取締役は先を見据える。「これまで電子契約は外部環境によって妨げられてきていたが、今は変わっていくと確信できる。ただラストワンマイルはわれわれの力だけでは届かない。面展開やカスタマイズの部分で地域の販社やSI会社の力は必要。ハンコ社会をデジタル化していく取り組みを一緒に進めていきたい」と、パートナーにも協力を呼びかけつつさらなる普及を目指す。
富士ゼロックス
世界で使われている「DocuSign」を展開 文書管理ノウハウの組み合わせでDX推進
富士ゼロックスは、契約プロセスを電子化する「電子署名クラウドサービス(DocuSign)」を1月から提供している。同サービスは、188カ国、約30万社という世界で最も多くの企業に採用される電子署名サービス「DocuSign eSignature」に、富士ゼロックスの紙とデジタルによる文書管理のノウハウを組み合わせたものだ。
昨今の電子契約に対するユーザーの反応については、「リモートワークを目指す中で、電子署名のニーズが高い」と、同事業を推進するアドバンスドインダストリアルサービス事業本部デジタルプラットフォーム部アカウンティングサービス事業推進グループの木村幸造・グループ長は言う。「もともと電子署名の良さは理解されていたが、コロナ問題でプライオリティーが上がり、3月までと比べると今は問い合わせが2倍以上に増えている」という状況だ。
DocuSignのメリットについて木村グループ長は、「ワークフローに適合しやすいところ。APIが豊富で、顧客の業務に入り込みやすく拡張性も高い。直感的に分かる操作性も備え、契約書のテンプレートでは条件分岐がラジオボタンレベルで簡単に設定できるので、中小企業でも扱いやすい。グローバルで15年使われている実績もある」とする。
国内でDocuSignを取り扱うベンダーは多いが、同社の強みとなるのが幅広い販売網だ。顧客の業務システムや文書管理システムとのコンタクトを持っているので、顧客から見ても既存システム延長上の文脈の中で自然に話ができるという。
導入企業の性質については、「業種では建設業界が多く、領域としては雇用契約の部分での導入が先行している。相手があるB2Bよりも、“B2Personal”の需要がある」(木村グループ長)とのこと。導入パターンには、単純に電子署名を入れる、既存のシステムに組み合わせる、新たにワークフローを含めて導入するという3種類があり、「最短では2週間ほどで導入できるが、ステップアップで電子契約を進めていく場合だと、2カ月程かかる」という。ただし、同社は顧客に対して、ゼロイチで導入を検討するのではなく、アフターコロナを見据えてできる所から始める形を推奨している。
「企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めてきたが、契約書の部分だけは印鑑があり、分断されていた。それが、ITに詳しくない顧客も電子署名に対して興味を持つようになった」と木村グループ長は現状を表現する。富士ゼロックスとしては、まずは電子署名を入り口として、文書管理から契約ライフサイクル管理まで幅広いサービスを提供し、包括的なDX支援へとつなげていく構えだ。
オープンテキスト
EIMの一環でSaaS型契約管理を提供 新たなワークフローの中に取り込む
企業情報管理(Enterprise Information Management:EIM)ベンダーであるオープンテキストは、大企業を中心に社内に散在する非構造化文書データの活用を支援するソリューションを提供している。非構造化データの中には、ファイルサーバーや個々のPC内のデータのほか、紙による契約書や請求書、注文書なども含まれる。製品としては、手作業で実施していた処理を電子化し、データを一元管理しながら業務プロセスを設計するワークフローを提供。「電子承認のプロセスには、ペーパーレスと言われ始めた20年前から取り組んでいる」(市野郷学・EIMエバンジェリスト)という。
従来、同社のユーザーが解決したい課題には、「ガバナンス」「人手不足」「時間・場所の制約」「保管コスト」の四つがあるという。その中で、直近では時間・場所の制約が採用の動機になることが多く、「3月からは既存ユーザーからのテレワークや電子契約対応関連の相談が増え、サービス提案や事例紹介のウェビナーも実施している。まず社内で脱ハンコを進め、電子的なワークフローの中で承認をしようとユーザーの意識が変わってきている」と市野郷氏は現状を語る。
電子契約領域では、SaaS型のソリューションを用意。履歴を残しつつ、契約書を作る際の交渉から署名・締結、保管、そしてデータを検索するまで、契約周りの業務を一気通貫で網羅する。従来の導入事例では従業員1万人の製造業の場合、レガシーマイグレーション案件で移行期間が9カ月と、本気で取り組めば相応の期間を要する。ただし、即効性を求めて必要な部分だけのシステムを採用することも可能だ。
市野郷氏は、「本来はハンコの電子化だけでなく、今の業務プロセスのボトルネックは何かを考え、今の時代に会った働き方に合わせる必要がある」と指摘する。「契約の電子化は現状では必要かもしれないが、本来は老朽化したシステムにただ電子署名を組み合わせても意味がない。業務プロセス自体を今の時代に合った形で見直しながら、それをワークフロー化してデータもデジタル化し、電子契約に置き換えるのが理想」とする。オープンテキストの製品はそれを実現するものであり、テレワークの際の課題として挙げられる「業務で必要なデータを活用できない」という問題も解決できるという。
全体を一気に刷新するのは難しいため、まずは契約書や発行する請求書から始めて、最終的に全体を最適化するというのが同社のアプローチだ。「電子契約を行う際は目的を明確にして、われわれのようなベンダーのツールを入れながら、より良い働き方に組み上げていってほしい」(市野郷氏)としている。
Holmes
契約マネジメントプラットフォームを展開 脱ハンコにとどまらず組織的なプロセス構築を
電子契約にとどまらず、契約マネジメントというサービス展開で評価を高めているのが、2017年設立のスタートアップ企業であるHolmes(ホームズ)だ。同社は、営業や交渉などの前業務から締結・押印、契約後の納品・支払いなどの後業務、そして各契約の管理まで、契約に関わる業務全体を最適化するためのプラットフォーム「ホームズクラウド」を提供している。さらに昨今の情勢を受けて、中小企業向け特別プランを発表したり、契約業務プロセス変革に向けたコンサルティングを無償で提供するなど、活発な動きを見せている。
「大きく分けて2軸でサービスを展開している」と笹原健太代表取締役CEOは説明する。一つの軸は、新型コロナの感染拡大を受けて会社の指示で早急に電子契約に取り組まなければならない顧客に向けた提案だ。ここはテレワークと押印出社の議論にも通ずる部分だが、スピード感を持って導入できる部分から対応していく。同社サービスには押印のプロセスも電子契約も備わっているので、この機能を活用してもらう。
もう一つは、今回のコロナ禍を機にデジタルな契約プロセスをしっかり構築したいユーザーへの提案だ。その時に、「政府も電子化の検討を始めたとはいえ、半年や1年で全てが変わることはなく、紙の押印プロセスは一定期間残り、併存する形になる。そこをしっかり設計し、仕分けも含めたプロセス化のコンサルティングを実施する」としている。
笹原代表取締役は、きっかけはコロナ問題であっても「ホームズを導入して契約プロセスを考えていくうちに、ハンコレスや書類の電子化だけでは解決しないという本質的な議論に進むだろう」との見方を示す。例えば急速に進むテレワークでも、同社が直近で実施した意識調査では、「出社問題以上に、自宅では複雑な契約プロセスの進め方について気軽に周りに聞けず、契約業務が滞るという課題意識が高いという結果が出ている」という。その背景にあるのは、契約を取り交わすための組織的なプロセスが不明確という根本的な原因だ。
「組織形態が複雑化する一方で、契約の在り方は全くアップデートされていない」と笹原代表取締役は問題点を指摘する。「従来のIT製品にしても、文書管理システムの延長で契約を書類としてしか捉えていない。プロセスがしっかりしていないと契約は面倒で複雑なままだ」。そこでホームズクラウドは、全社的なプロセスの最適化を意識し、契約に関わる業務を簡素化することを設計思想に盛り込んだ。「すごろくのようにマスを用意し、その指示に従って進んでいけば誰でも契約プロセスが完了できるようにする」という。10月にはUI、カスタマイズ機能、契約管理を大幅にアップデートする予定だ。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生によって、従来の働き方を見直す議論が進んでいる。中でも象徴的なのが、日本独自の紙と押印を前提にことが運ぶハンコ文化の改革だ。企業内だけでなく対外的な取引でも「商慣習」として継続され、押印のために出社せざるを得ないなど、リモートワークの阻害要因となってきた。この問題解決に向け、改めて契約の電子化に取り組む必要性が広く共有されるようになった。“脱ハンコ”を取り巻く動向、ITベンダーのビジネスを追う。
(取材・文/石田仁志 編集/日高彰・前田幸慧)
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