新型コロナウイルスの感染拡大を受けて発令された緊急事態宣言が、5月25日に全面解除された。街には人出も戻りつつあり、経済活動の再開へ動き始めている。改めて、コロナの動向が国内でも連日大きく報じられ始めた2月から、感染が大幅に拡大し次第に収束に向かう5月までの期間に、IT業界ではどのような動きがあったのか。本紙で報じたニュースから振り返る。
(編集/前田幸慧)
2月 中国の感染拡大が依然深刻
日系SIerの中国ビジネスにも影響
まずは2月における国内の新型コロナ動向を振り返る。乗客の新型コロナ感染が確認されたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に入港したのが2月3日。同船をめぐる対応は連日メディアが報道し、国内で本格拡大前だった新型コロナに対する国民の注目を一気に集めた。2月の半ばごろからは国内でも徐々に感染が広がり始め、13日に初めての死者を確認。その後も連日新規感染者が発生していることを受け、政府は大規模イベントの中止や延期を要請。27日には、安倍晋三首相が全国の小中高校を臨時休校とするよう要請を出した。
2月24日付vol.1814掲載
一方、最初にコロナの感染が広がった中国では、1月下旬から続く武漢市の封鎖(ロックダウン)や、旧正月休暇(春節)の延長といった措置がとられ、操業可能な企業は、基本的に在宅勤務による事業継続が余儀なくされた。
こうした中国での新型コロナ感染の広がりで、現地でビジネスを展開する日本のSIerも対応を迫られた。中国関連ビジネスを手掛ける主要SIer各社は当時、現地の事業所での手洗いやマスクの着用の推奨、日中間の出張の制限など、職場の安全や衛生管理を徹底する対策を最優先で実施。また、体調に不安を持つ社員が出社しないことを許可したり、暫定的に在宅勤務を取り入れたりなど、従業員を守るための施策をとった。
ただし、中には事業の継続に影響が出た企業もあった。中国における感染拡大の中心地だった武漢に拠点を置くインテックによれば、感染拡大を食い止めるため地元政府から2月20日まで一般民間企業の操業を停止するよう指導があったという。また、武漢から遠く離れた大連に拠点を置くJBCCホールディングスのグループ会社・JBパートナーソリューションでも、大連市の指導によって旧正月の大型連休に続いて2月10日までスタッフを自宅待機に。日本を含む大連市以外から戻った社員については、戻った日から2週間の自宅待機の措置を行ったとしている。
こうした対応による業績への影響も懸念された。SIerにとっての中国関連ビジネスは、「日本向けのオフショアソフト開発」と「中国地場の市場向けのSIビジネス」の大きく二つに分けられるが、オフショア開発については、日本や他の海外拠点に業務を振り分けて開発の遅れをカバーするなど、影響を最小限にとどめようと動いた。一方、地場市場向けのSIビジネスは、現地での経済活動の停滞で中国におけるIT投資動向の見通しが困難な状況に。中国向けのSIビジネスが売り上げの一定割合を占める企業ではビジネスへの影響を懸念する声も聞かれた。
3月 感染が欧米諸国へ波及
国内ではウェブ会議需要が急増
3月に入ると、新型コロナは次第に中国から欧米諸国へと感染拡大の中心地を移し、世界中で猛威をふるうようになる。こうした状況を受けて、世界保健機関(WHO)は3月11日、新型コロナの「パンデミック(世界的大流行)」を宣言した。
国内でも、新規感染者数の増加ペースが加速。3月初頭では15人程度だったが、月末には200人以上の感染が確認されるようになった。小中高校の一斉休校も始まったことで、この頃から従業員の感染防止策として在宅勤務やテレワークを取り入れる企業が一気に増加したとみられる。かねてテレワークのための環境を整えてきた企業では大きな混乱もなく移行できた一方、多くの企業では急きょテレワーク対応を求められ、人事制度やツール面での準備に追われた。
3月16日付vol.1817掲載
ここで一気に注目を集めたのが、米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズが提供するウェブ会議ツールの「Zoom」だ。特にユーザビリティが評価されて、企業ユーザーのテレワーク需要だけでなく、広がる外出自粛で個人ユーザーの「オンライン飲み」需要にも応え、新規ユーザーを多数獲得。知名度も一気に広げた。
日本法人のZVC Japanが3月5日に開いた説明会では、「多くの企業にとって想定外もしくは想定より早くテレワークを始めないといけなくなっている。イベントを中止し、代わりにオンラインでできないかといった相談もいただいている」と、日本法人の佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャーは説明した。
4月 「緊急事態宣言」が発令
テレワークがさらに拡大
4月7日、政府は7都府県を対象に5月6までの「緊急事態宣言」を発令。16日には全国に対象を拡大し、首都圏や主要都市の13都道府県は「特定警戒都道府県」に指定された。ピーク時には1日で700人超の新規感染が確認。18日には、国内の感染者数が1万人を超えた。
緊急事態宣言を受けては、不要不急の外出自粛が要請され、それに合わせて全国の企業で在宅勤務の取り入れなど対応に動いた。
これまでよりも多くの企業がテレワークに取り組み始めたことで、テレワークで需要が旺盛な分野が顕在化。特に目立ったのが「コラボレーションツール」だ。
コラボレーションツールには、代表的なものに先述したウェブ会議ツールのZoomをはじめ、マイクロソフトの「Microsoft Teams」や、グーグル・クラウドの「Google Meet」などがあるが、これらのサービスが特にテレワーク環境下でのオンライン会議需要を獲得。各社の発表によれば、世界全体でのZoomの1日当たりの会議参加者数は約3億人(4月22日時点)、Google Meetは1億人に上り(4月29日時点)、Microsoft Teamsは1日当たりの利用者数が7500万人(4月末時点、5面に関連記事)になるという。こうした初期投資が低く導入しやすいツールの利用が一気に拡大した。
一方、この数カ月で一気に利用者を獲得し急成長したZoomには、セキュリティやプライバシー保護の点で問題が顕在化。一部の国の政府機関や企業が利用を禁止する事態にも発展した。
こうした問題を招いた要因について、米ズームのエリック・ユアンCEOは、「当社のプラットフォームは、完全なITサポートを受けている大規模な機関、企業を主な対象として構築されたが、数週間のうちに世界中の人が突然、自宅で仕事をしたり、勉強したり、私的に交流したりするのに利用するだろうという予測の下には製品を設計しなかった」と、急激な利用者の増加が同社にも予測できなかった課題を引き起こしたと説明。6月末までの期間、Zoomの新機能開発を凍結し、安全性、信頼性、プライバシー保護機能の向上に全ての開発リソースを投入する方針を示した。なお、5月7日に、同社はエンドツーエンドの暗号化の構築に向けて、暗号化メッセージやファイル共有サービスを提供するKeybaseを買収したと発表している。
4月20日付vol.1822掲載
在宅勤務・GIGAスクール構想で
PC需要も増加
在宅勤務の広がりで、個人向けPCの需要も伸びている。全国の主要家電量販店・ネットショップのPOSデータを集計した「BCNランキング」によると、4月第1週(3月30日~4月5日)のPC販売台数は前年比109.0%となり、前週の85.7%から23.3ポイント急伸した。
4月20日付vol.1822掲載
NECパーソナルコンピュータ執行役員とレノボ・ジャパン執行役員常務を務める河島良輔氏によると、特に4月に入って以降、テレワークを導入する企業が増え、需要が急拡大。Windows 7の買い替えでは15インチのA4ノートPCやオールインワンのデスクトップPCが売れ筋だったが、次第に薄型軽量なモバイルPCの販売が増えてきたという。
河島氏は「家にいながら、場所を変えられるモバイルのほうが取り回しがいいからではないか」と分析する。さらに「直近の1、2週間は、東京都の助成金を活用するため、助成の条件となる10万円未満のモデルが売れている。急きょテレワークの導入を決めた中小企業を中心に、すぐに使いたいというニーズがあるようだ」とみる。
さらに、政府が2020年度補正予算案に「GIGAスクール構想」の前倒しを盛り込んだことで、教育市場でのPC需要も増している。デルでは、全国の小中学校・教育委員会に対するChromebookの提案を強化する方針を表明。予算と期限が限られる中で、クラウドを活用した授業をスムーズに導入するには、シンプルでG Suiteとの親和性も高いChromebookが受け入れられやすいとみている。
4月27日付vol.1823掲載
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