Special Feature
ソフトベンダーの商機を広げるLGWAN接続サービス 自治体だって便利なITツールを使いたい!
2020/09/17 09:00
週刊BCN 2020年09月14日vol.1841掲載
LGWAN接続サービスのトップランナー
両備システムズはいかに市場を切り開いてきたか
LGWAN接続サービスの市場はまだまだ黎明期で、関係者も定量的な分析はほとんどできていないという。一方で、すでに市場で大きな存在感を発揮している有力プレイヤーは何社か出現している。その筆頭が、岡山市を中心に交通運輸、不動産業などを展開する両備グループの両備システムズだ。まずは同社のLGWAN接続サービス事業の成長のストーリーをたどることで、市場の現状を探ってみよう。主力の自治体向けシステムを
まずはLGWAN対応に
J-LISはLGWAN-ASP登録数の推移を定期的に公表しているが、最新の登録数を見ると、サービス層別に「アプリケーション及びコンテンツサービス」が1075、「ホスティングサービス」が539、「通信サービス」が183、「ファシリティサービス」が371となっている(次頁グラフ参照)。このうち、地方自治体がユーザーとして直接利用するサービス層はアプリケーション及びコンテンツサービスだが、この層だけでも、登録数はこの5年間で650以上増えている。LGWAN接続サービスの潜在的市場は急速に拡大していると言ってよさそうだ。両備システムズの宮宅俊輔・営業本部クラウドサービス営業部主任も「非常に有望な市場だと考えており、LGWAN接続関連サービスは当社にとっての注力事業と言える」と話す。
ただし、現時点でLGWAN-ASPサービスとして登録されている業務アプリケーション/コンテンツサービスは、コンビニでの証明書交付サービスなど自治体自身が提供しているサービスのほか、ITベンダーがもともと地方自治体向けにオンプレミスで提供していたシステムをLGWANに対応させたものが多い。両備システムズも、LGWAN接続サービスを始めた背景には、自治体向けのシステム構築・販売をメインの事業とするSIerだったことがある。
同社事業は、1965年に「岡山電子計算センター」として開所したのが始まりで、やがてSIにビジネスを拡張し、「オフコン、クライアントサーバーシステムと変遷しても、地方自治体向け業務システムの開発・販売は当社の経営の柱であり続けた」(宮宅主任)という。そうした中で2010年代初頭、農地台帳などの農業情報システム、グループウェア、財務会計、人事給与などの内部情報システム、住民情報システムなど、自治体向けの主力製品をLGWAN経由で提供してほしいという要望が既存ユーザーから上がり始めた。宮宅主任は「とにかく、既存顧客のニーズを先取りして当社のアプリケーションを使い続けてもらうことを優先した結果、LGWANにもいち早く対応した形になった」と振り返る。
こうして両備システムズは11年、自社データセンターに環境を整備して、自社開発の自治体向け業務アプリケーションをLGWAN経由で提供し始めた。
有力クラウドサービスを
LGWAN経由で提供できる強み
現在の両備システムズのLGWAN関連サービスラインアップは、自社業務アプリケーションだけでなく、サードパーティーのソフトベンダーにLGWAN-ASPアプリケーション/コンテンツサービスの稼働環境を提供するホスティング/ハウジングサービス、SaaSベンダーなどの既設のクラウドインフラとLGWAN網を接続するサービス「LGWAN連携基盤 R-Cloud Proxy」など、多岐にわたっている。
宮宅主任によれば、「現在では、自社開発のLGWANアプリケーションよりも、サードパーティーベンダーに提供しているLGWAN接続関連サービスの売り上げ規模の方がずっと大きくなっている。当社にとってLGWAN関連ビジネスは、SIを中心としたビジネスからプラットフォームビジネスに事業領域を拡張しようという戦略の下に注力してきたビジネスでもある」という。
特徴的なのは、セールスフォース・ドットコムのSaaS/PaaS群、サイボウズの「kintone」、マイクロソフトの「Microsoft 365」、シスコシステムズの「Cisco AMP」といった既に市場で広く使われている大手ベンダーのクラウドサービスとLGWAN網をつなぐサービスも揃えていることだ。事実上、これらのクラウドサービスをLGWAN経由で使うソリューションとしては、ほぼ独占的な地位を占めていると言っていい。宮宅主任は次のように説明する。
「他社に先駆けて自社アプリケーションのLGWAN対応に取り組んだことで、ファシリティを含むホスティングやハウジングの環境を自社データセンター内に整え、それをプラットフォームサービス化することにつながった。そこで実績ができてくると、大手ベンダーからも声がかかるようになった。大手であっても、自前でLGWANへの接続環境を用意するのは相応のコストと時間がかかる。それよりは実績のある両備システムズと組んだほうがいいと判断したということだろう。これらの事業は単なるLGWAN接続サービスではなく、一緒にビジネスモデルを組み立てる共同事業に近い」

大手ベンダーのクラウドサービスとLGWAN網をつなぐこうしたラインアップは、両備システムズ、大手クラウドベンダーの双方にとって、新規顧客として自治体を取り込むキラーコンテンツになっている側面がある。特に両備システムズにとっては、有力なPaaSをLGWAN経由で提供できるのは、大きな強みになっている。
新型コロナ禍への自治体の対応を支援するために、セールスフォースはローコードアプリケーション開発基盤「Lightning Platform」で開発した「保健所業務支援クラウドパッケージ」や「特別定額給付金管理システム」を提供しているが、これらも両備システムズとの協業により、LGWAN経由で利用できる環境を整えている。また、サイボウズと市川市は昨年、連携協定を結び、両備システムズの「R-Cloud Proxy for kintone」(LGWAN経由でkintoneを利用できるサービス)を活用した住民サービス向上や全庁的な業務改善に取り組んでいる。
自治体業務を取り巻く環境は、場合によっては民間企業以上に急激に変化しており、コロナ禍対応で新たに発生する業務を効率的に処理する、あるいは従来業務の生産性を向上させるために、Lightningやkintoneをはじめとするローコード/ノーコード開発基盤を使って業務アプリを内製化しようという動きは勢いを増している。一方で、そうした業務には個人情報を扱うものも多く、LGWANへの接続が求められることが多い。こうした背景があり、両備システムズのLGWAN連携基盤のニーズは継続的に拡大している。「PaaS上の開発・構築でも豊富な実績がある当社にとっては、大きな成長が期待できる領域だ」(宮宅主任)という。
プラットフォームビジネス
としての成長を目指す
一方で、大手ベンダーとの協業のように共同事業として自治体向けのLGWAN活用ソリューションを提供していくだけでなく、サードパーティーのソフトベンダーに同社のホスティングサービスやR-Cloud Proxyを広く使ってもらう働きかけをしていくことも、プラットフォームビジネスとしては重要だ。両備システムズのLGWAN接続・連携サービスを活用したサードパーティー製のLGWAN-ASPアプリケーションは既に自社製LGWAN-ASPアプリケーションの数を大きく超える規模になっているが、これをさらに拡大すべく営業活動を進める。
宮宅主任は「AI-OCRやチャットボットの活用などが自治体の新たなテーマとして有力になってきていて、そうしたアプリケーションをLGWANで提供したいというパートナーも出てきた。また、総務省が自治体の情報セキュリティ対策方針を見直していることもあり(前頁参照)、より厳格な認証管理が求められるようになる。ここのソリューションをLGWANで提供できないかとも模索している」として、パートナーエコシステムの拡充により、自治体の業務システムにおける新たなニーズに対応していく考えを示す。
ソフトベンダーを中心に、LGWAN接続関連サービスの問い合わせは現在も週に数回はある。また、今春に大きな話題となったマイナンバーカードを活用した定額給付金のオンライン申請でも、全国の多くの自治体が同社プラットフォームを活用したという。自治体側、ソフトベンダー側の双方に着実に顧客基盤は拡大しており、成長への手応えを感じている様子だ。
拡大するLGWAN接続サービス市場
富士通エフ・アイ・ピー総合支援体制を強みにソフトベンダーを開拓
今年10月から来年4月にかけて、大規模な再編を控える富士通グループ。10月1日に国内事業新会社「富士通Japan」が発足し、準大手以下の民需、地方自治体、医療、教育の各分野を担当する事業部門や主要子会社が段階的に集約されることになる。富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP)は富士通Japanに統合される主要子会社の一社だが、同社も近年、LGWAN接続サービスのラインアップを強化し、拡販に力を注いできた。
同社がラインアップしているサービスは大きく二つ。一つは16年にリリースした「LGWAN-ASP基盤サービス」で、自治体向け業務アプリケーションなどのベンダーに富士通のデータセンターを活用したLGWAN専用のIaaSを提供する。もう一つは、19年にリリースした「アプリケーションゲートウェイサービス」で、SaaSベンダーを対象に、既存のSaaS環境とLGWANをつなぐ中継機能を提供する。両備システムズがLGWAN-ASPアプリケーションの稼働環境を提供するホスティング/ハウジングサービスやR-Cloud Proxyをラインアップしているのと類似の品ぞろえと言えるだろう。
高麗安紀子・サービスビジネス推進統括部パブリックサービス推進部マネージャーは、「市場として成熟しているわけではなく、特にソフトベンダー、SaaSベンダーにこうしたサービスをあることを広く認知してもらう必要があるという段階。それでも既に、LGWAN-ASPサービスとして登録されているアプリケーションは1000を超えており、潜在的な市場は非常に大きいと考えている」と話す。
同社が強みとして打ち出すのは、「導入前のコンサルからLGWAN-ASPサービスとしての登録手続きまで含めてのトータルなサポート力」(高麗マネージャー)だ。インフラ構築・運用のノウハウや、アプリケーションサービスをLGWAN上に提供するための環境を個別に構築・運用してきた知見を生かす。
アプリケーションゲートウェイサービスについては、従来、Webブラウザ経由でサービス提供しているSaaSにしか対応していなかったが、今年6月の機能拡充でクライアントアプリやタイムレコーダー、プリンタなどと通信するアプリケーションまで利用範囲を拡大している。同社パブリックサービス事業部第一パブリックシステム部の中浩文・シニアエキスパートは「いわゆる“三層の対策”により、例えばプリンタの保守管理がリモートでできなくなり、プリンタメーカーの担当者が現地に行かなければならないケースなども出てきている。ここにLGWANを活用できないかというメーカーからの要望もあり、アプリケーションゲートウェイサービスの活用シーンはどんどん広がっていく手応えがある」と話す。両備システムズと同様に、AI-OCRを活用したソリューションをLGWANで使いたいというニーズなどもキャッチしており、関連のソフトベンダーをエコシステムに迎え入れるための働きかけも積極的に行っていく方針だ。
中シニアエキスパートは、「当社は自治体向けビジネスの実績は豊富だが、全国くまなくニッチな業務を細かく把握できているわけではない。LGWAN連携基盤サービスをさまざまなアプリケーションベンダーに広く活用していただくことで、自治体の業務効率化やデジタルトランスフォーメーションを支援できるエコシステムを構築していきたい」と意気込む。
この事業は10月1日以降、富士通Japanが進めていくことになるが、グループの総力を集めて認知度向上と活用事例の拡大に取り組むことになるか。
さくらインターネット
国産ITインフラサービスの雄も参戦
さくらインターネットも今年1月に「LGWANコネクト」をリリースし、LGWAN接続サービス市場に参入した。同社の石狩データセンターで「さくらのクラウド」もしくは「ハウジングサービス」を利用してLGWANに接続するサービスだ。LGWANコネクトを担当する営業部の深井雄輝氏は「ニーズは急拡大している」と市場のポテンシャルに期待を寄せる。
LGWANコネクトのリリースはごく最近だが、同社がLGWAN-ASPファシリティサービスの登録を済ませたのは2013年まで遡る。しかし当初は、重要顧客のソフトベンダーから個別に問い合わせがあった場合にのみ対応していて、サービスラインアップとして公にはしていなかった。それだけ限られた需要だったということなのだろう。
しかしやがて、ソフトベンダーからの問い合わせが徐々に増えてくる。昨年には、正式にサービスをラインアップする方向で事業を立ち上げ、LGWANコネクトのリリースに至った。近年のニーズの急増とLGWANコネクトを立ち上げた背景について深井氏は「国がクラウド・バイ・デフォルトの原則を打ち出したことは大きい。自治体側の意識も大きく変わり、それによって多くのITベンダーが、次の入札までには自社商材をLGWAN対応にしないとという目標を持つようになった傾向がある」と分析する。
さくらインターネットがLGWANコネクトの差別化ポイントとしてまず挙げたのは、LGWAN-ASPアプリケーションの登録申請におけるサポートだ。奇しくも本特集に登場したLGWAN接続サービスベンダーは全てこれを自社サービスの強みとして挙げている。それだけに、このプロセスが一筋縄ではいかないものなのだということがうかがえる。テクニカルソリューション部の服部和樹リーダーは「属人的な要素も含めて“コツ”があったりして、ナレッジの蓄積がものをいう側面はある。ユーザーであるソフトベンダーをしっかりサポートできるノウハウについては自信をもっている」と力を込める。
さらに、同部の清水美里氏は「さくらのクラウドを利用していただいた場合は転送量課金がないので、運用コストを節約できるという点はユーザーに非常に高く評価していただいている。ハウジングについては弊社のクラウドで提供していないようなアプライアンスを使いたいなど、用件に応じて自由にインフラを構成してもらえるが、当社側からも構成のアドバイスなどはさせていただくので、安心して使っていただける」と説明。ITインフラサービス事業者としての実績に裏打ちされた強みがあることを強調する。
LGWANコネクトに対する問い合わせは、サービスイン直後からリニアに増え続けており、新型コロナの影響で急増しているという状況ではない。しかし、「当初はふるさと納税のシステムをLGWAN対応させたいなどの問い合わせが多かったが、春以降は庁内業務や市民対応をリモートでできるようなシステムをLGWAN経由で使えるようにしたいという案件が増えてきた」と清水氏は話す。ニーズの質は変化しつつあるようだ。
LGWANを使って自治体向けに自社製品を提供したいソフトベンダーからは、「さくらインターネットならLGWAN接続をやっているだろう」という漠然とした相談も多いという。深井氏は「インフラ基盤を提供してきた事業者として、そうした期待には応えていきたい。コロナの影響で当社の商談もオンラインが増え、北海道から沖縄まで、これまでこうした案件ではお付き合いのなかった地場のソフトベンダーとの商談も増えている」と語る。まずは全国のソフトベンダーに対するサービスの認知度向上を図り、短期間で事業を大きく成長させたい意向だ。

民間企業を中心に活用されている最新の業務アプリケーションやアプリケーション基盤などを積極的に取り入れようという動きが地方自治体に広がっている。大きなきっかけとなったのは、政府が2018年に情報システム調達における“クラウド・ファースト”の方針を示した「クラウド・バイ・デフォルト」の原則であり、そうした傾向は新型コロナ禍でさらに加速している。この動きと軌を一にするように本格的に拡大しつつあるのが、「LGWAN接続サービス」市場だ。
(取材・文/本多和幸)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
