新型コロナウイルス対策として、ビジネス(B2B)領域におけるオンラインでのイベント開催が活発化している。今まで対面が前提だった展示会やセミナーがオンライン化されるとともに、顧客との接点を持つために、ウェビナーが積極的に活用されるようになっている。そこで注目されているのが、イベント関連業務をデジタル化するテクノロジーの「イベントテック」だ。イベントテックを有効活用することで、単にリアルイベントをオンライン化するにとどまらない、新たなイベント活用の姿が見えてくる。
(取材・文/石田仁志 編集/前田幸慧)
オンラインイベントが活発化も
期待と現実の間にギャップ
約1年前に発生した新型コロナのパンデミックが、人々の働き方を変えた。企業は社員の安全対策として、テレワークやWeb会議ができるようにデジタル環境を整備。緊急事態宣言のもと外出や対面での活動の自粛が求められる中でも売り上げを上げるために、営業活動のデジタル対応を進めた。
その一環で、企業は自社の製品やサービスをアピールするための場として、オンラインのイベントやセミナー(ウェビナー)に活路を見いだした。オンラインイベントは、インターネットとWeb会議システムがあれば開催することができ、場所にとらわれず多くの顧客に対してアプローチできるため、複数の出展社が集まる展示会から自社開催のセミナーまで、規模の大小を問わず開催されることとなった。
他方で、それまでイベントに参加していた顧客側においても、リアルな会場で行う各種イベントが開催されなくなったことで、情報をインプットしたり人や製品を発見したりする出会いの場所を失っていた。そのような状況の中で、リモートツールによって参加できることに加え、オンライン会議の普及により、イヤホンを使ってPC画面を眺めるという働き方が日常となったことから、オンラインイベントに積極的に参加するようになった。
その結果、多くの企業やビジネスユーザーがコロナ禍で飛躍的に普及したWeb会議システムを利用して、イベントへの参加やウェビナーの配信、視聴を経験した。しかし、セミナーの内容をWebで配信することはできたものの、それだけでは期待していたような効果や従来のオフラインイベント開催時のような成果は得られないという課題が見えてきた。出展企業側は参加者への一方的な情報提供やコミュニケーションに陥りがちで、参加者は集まるものの開催側は営業に役立つ質の高いリード(見込み顧客)情報を取ることが難しく、一方の参加者側は、オンラインという無機質な雰囲気の中で、人脈形成どころか気軽に質問もしづらくなるケースも散見されるようになった。
活気づく新たな市場
オフラインも対象
そうした背景から、期待値と実際のギャップを埋めるため、イベント・セミナー領域でのデジタル活用が模索されるようになった。課題が明らかとなり、従来製品に注目が集まると同時に、課題を解決するための新しいソリューションが昨年秋ごろから登場し、「イベントテック」として市場が活気づき始めている。
イベントテックとは、同事業を展開するSansanの定義では、「イベントの主催者や運営者がイベント関連業務に用いるデジタルのソリューションサービス」を指す。イベント開催前の集客・登録管理や、開催中の会場受付・動画配信、参加者データの取得、開催後のアンケート管理などが対象になる。
具体的な製品としては、イベントやセミナーの運営を一括して管理するオンラインイベントプラットフォームをはじめ、名刺管理やWebページの作成、集客、動画配信、SNSなど幅広い。従来のリアルイベントでできたことを再現するだけでなく、イベント開催前、開催中、開催後にデータを取得・活用しやすいという、デジタルならではのメリットも期待できる。なお、イベントテックはオンラインイベントだけを対象としたものではなく、オフラインイベントの価値を高めるものも含まれている。
大規模な展示会から
自社開催のセミナーまで
ビジネス向けのオンラインイベントやセミナーには、「ブランディングや認知拡大(リードの創出)を目的としたイベント」と、「商談や面談といったより深いリード情報の獲得を目的としたイベント」がある。前者は講演会やカンファレンス、企業の大掛かりなイベント、採用説明会などで、後者は東京の有明や千葉の幕張、大阪の南港で行われるような大規模な展示会、個々の企業が開く営業系のセミナー、自治体などが主催する商談会、集団面接会などが相当する。
イベントテックが特にはまるのが、後者である。前者にもイベントの運営や集客などで課題はあるが、どちらかというと発信内容が相手に伝わればいいという側面が強く、オンライン化してもそれほど不自然な形にはなっていない。しかし後者は、顧客との接点づくりやその後のつながりを維持することが重要であるため、対面からオンラインに置き換える際のハードルが高い。やってみてうまくいかなかったというのは主としてこちらの話である。
具体的な課題は、開催企業側では「イベントに参加する人数は多いが商談につながらない」「取得した参加者情報が不正確あるいは重複する」「(通話型サービスの場合)部屋ごとの講演や展示、資料や動画の表示ができない」「集客ページを作れない」などがある。参加者側は、「リアルイベントのように自由に立ち回れない」「人と交流できない」「ちょっとした質問で予約を求められる」などがよく聞かれる。
既存の業務フローと連携
獲得したリードをMAに
今回、コロナ禍をきっかけにイベントテックにスポットが当たった形だが、展示会やイベントの運営は、以前からデジタル化が遅れている領域でもあった。開催・出展の告知から運営まで人の力に依存する部分が多く、顧客データの管理も紙の名刺を集めて人力で集計してエクセルで管理するといった具合に、アナログで行われる場合が多かった。
一方で、大企業を中心に企業内ではマーケティングのデジタル化が進み、顧客管理(CRM)や営業支援(SFA)に加えて、マーケティングオートメーション(MA)ツールも普及している。これに対し、従来その一環に属するはずの展示会やイベント活動は、その流れとは別の場所に存在していることが多かった。
イベントテックは効率的にシステム化された既存のフローの中に、邪魔することなく入り込むことができる。実際にほとんどのイベントテック製品が他製品との連携を意識した設計思想で開発されており、従来の営業系・顧客接点系システムとの親和性が高い。イベントやセミナー活動に力を入れている企業は、ここに手を入れることでデータの流れがスムーズになり、営業活動の成果も変えていくことができるだろう。
以降、イベントテックに取り組む企業の動きを紹介する。
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