Special Feature
イベント運営業務を効率化・高度化する「イベントテック」 DX時代の営業・マーケティングを支える
2021/04/08 09:00
週刊BCN 2021年04月05日vol.1869掲載
Sansan
イベントテック事業を本格展開 全方位のポートフォリオを用意
名刺管理サービスを提供するSansanは、2020年10月から新規事業としてB2B向けのイベントテック事業を開始している。サービスの自社開発と、クリエイティブサーベイやEventHub、ログミーといったイベントテック関連企業への出資によって、イベント・セミナーを開催する前の集客や来場者の登録から、開催中のオンライン名刺を利用した交流促進、開催後のアンケートや情報発信、参加者情報の管理・活用、およびイベント・セミナー全体の運営効率化までトータルにカバーするソリューション群を用意。大規模な展示会イベントから自社で行う小規模なセミナーまで、全方位で支援する体制を整えている。
現時点で事業の柱となっているソリューションが、法人向けセミナー管理システム「Sansan Seminar Manager(SSM)」だ。SSMは、自社開発のクラウド名刺管理サービス「Sansan」やビジネスSNSアプリ「Eight」と比較してもビジネスの立ち上がりは早く、「すでに数十社にサービスが導入されている」(林佑樹・執行役員新規事業開発室室長)という。
SSMは、ウェビナーの募集ページ作成から来場者フォーム、受付、ウェビナーの開催、アンケート集計までをカバーしている。募集ページは、従来であれば作成に3日を要していたところを、必要事項を入力するだけで最短10分で作成できる。あるユーザーでは、新入社員が初見で30分後にセミナーを開催できる状態まで進めたという。Sansanでもこの機能を使うことで事前準備の作業工数が大幅に減り、セミナー開催数が倍増したとのことである。
また、独自の「AIフォーム」や、QRコードでオンライン名刺情報を取得する「Smart Entry」機能によって、来場者の名刺情報を正確に取得することが可能。これにより、申し込みデータとウェビナー時の視聴データ、アンケートデータの名寄せが高精度で行える。申し込んだのに不参加だった人のデータも把握できるようになり、「ユーザーのMAやCRM/SFAツールに対して、セミナーのデータをきれいな形で渡すことができる」(林室長)としている。
これらの仕組みが評価され、従来はマンパワーで何とか成立させていたセミナー運営を効率化して成果を最大化させたい大企業と、コロナ禍で商談獲得のためにオンラインセミナーの実施を迫られたノウハウを持たない地方の中小企業に多く採用されているという。

オフラインイベントも視野に
他社との協業で市場をけん引
同社のイベントテック事業全体としては今後、イベントがオフラインに戻ってくることを想定し、参加者が名刺をかざすだけで受付が完了する非接触の「無人受付システム」の提供を4月末に開始する予定となっている。
さらに、オンラインセミナー限定のポータルサイト「Eight ONAIR」を年内にリリースする。ONAIRではセミナー開催者が情報を登録し、その中から自分とのつながりや職業、属性にあわせてユーザーにおすすめイベントを表示する仕組みとなっている。オンラインセミナーが乱立する中で、「取捨選択できる場所を用意することでユーザーは興味を持っているイベントを見つけやすくなり、主催者もコンテンツに向き合うようになるため、開催されるイベントの質の向上につながる」(林室長)としている。
国内におけるイベントテック市場は黎明期にある中で、現時点では特に総合力という部分でSansanが先行している状況にある。他のイベントプラットフォームベンダーから、名刺交換機能の「オンライン名刺」などの製品を使いたいという引き合いも多く、協業も始まっているという。林室長は今後も、「日本のイベントテクノロジーの部分をけん引していく中で、他社とも協力し合いながら新たな市場をつくっていきたい」と話す。現在はオンライン向けサービスが先行しているが、オフラインも含めて「日本のイベント全体が底上げされていくようなテクノロジーをどんどん示していく」としている。
ブイキューブ
大規模イベント向け基盤を提供 従来型展示会を1プラットフォームで
Web会議/TV会議システムを提供するブイキューブは、2020年11月にオンラインイベントプラットフォーム「EventIn(イベントイン)」の提供を開始した。EventInは、参加者が数百人以上、出展社は数十社からという大きなイベントの主催者をターゲットとしたサービスであり、ユースケースとしてはB2Bの展示会や国や自治体が開催している商談会、ビジネスマン向け懇親会、採用系イベントでの利用を想定している。また同社では、それ以外の講演会や企業などが単独で開催するPRイベントについても「V-CUVEセミナー」サービスを提供。さらにイベントの運営支援サービスも実施し、コロナ禍でのオンラインイベント開催をツールから運用まで一括でサポートしている。
EventInは、従来行われていたイベントをオンライン上で再現できるように開発されたもので、出展企業のライブ配信による個別セミナーや、出展企業と参加者、または参加者同士がビデオ通話やチャットで自由に双方向コミュニケーションを取ることができる。「一つのイベント内には、講演のほかに商談や交流という複数の要素が含まれている。それに対して、会場内に複数フロアを用意して1対1の通話、商談やプレゼン、全体向けの講演を一つのプラットフォームの中でできるのがEventInの最大の特徴」と、ブイキューブ社長室事業開発担当の古関謙氏は説明する。
機能面では、リアルイベントのフローをオンライン上に実装しただけではなく、従来型イベントのように参加者が受け身でもすんなりと参画できる動線を用意し、出展社との交流につながるような仕組みを用意している。例えば会場づくりの際には、カテゴリーごとにフロアを分けたり、会場ごとにロゴや説明文を表示したりする仕組みによって、参加者が回遊しやすい雰囲気や場をつくることができる。
運営段階では、基調講演から個別のセッションや展示会場へといった具合に、主催者が設定した通りに参加者を誘導でき、セッション会場でのお試し視聴機能や、出展社がブースに呼び込みをする仕組みが備わっているため、マッチングを促すことができる。その結果、出展社や参加者は商談や面談、連絡先交換で深いリード情報や人脈の獲得につながる。
ストレスのない操作性で
商談までシームレスに移行
参加者に対するアプローチとして、「オンラインイベントにストレスなく参加できるようにしている」と古関氏は言う。「一般的なバーチャル展示会サービスはZoomなど複数のサービスを組み合わせてつくられているため、イベント内で別のアクションを取るためにさまざまな操作を要求される」のに対し、EventInではサービスを一つのプラットフォームで提供しているため、商談までシームレスに移行できる。参加する際もソフトをインストールすることなく、招待されたURLからブラウザーベースで利用できる仕組みで、デジタル環境の操作性に起因する機会損失を防げるように設計されている。
イベントテックとして見た場合の守備範囲は、イベントそのもののシステム的な基盤に加え、「イベント内での行動を促し、行動データを取るところまで」(古関氏)。そのため前後の部分で、例えば事前の名刺管理や集客、開催後に取得したデータを商談化するためのMAなど、他社のシステムとも積極的に連携する設計となっている。
EventInは、これまでに開催ベースで20社・団体に採用されていて、今後開催するイベントでも採用が決まっている。今後は、「EventInで蓄積したデータをもとに、主催者に対してイベントを効率化・活性化させる進行や運営の方法までを提案していく」(古関氏)という。
イノベーション
イベントプラットフォームを自社開発 テクノロジーがオンライン展示会の強み
IT製品の比較サイト「ITトレンド」を運営するイノベーションは、コロナ禍を受けた新たな取り組みとして、ITソリューションのオンライン展示会「ITトレンドEXPO」を開催している。第1回は2020年11月で、登録ベースで1万2000人が参加。参加者・出展社からの高評価を受けて第2回を21年3月に開催し、同1万6000人が来場した。7月には第3回の開催を予定している。
ITトレンドEXPOは、「セッションエリア」と「展示会エリア」で構成されるビジネス展示会だが、エンターテインメント性を強めに取り入れているのが特徴で、セッションエリアには出展社のほかに著名人や芸能人も多く登壇する。理由は、従来のオフラインイベントにみられた「偶然の出会い」をデジタル上で再現するためであるという。
「来場の動機は何でもいい。普通に活動していたら出会わなかった製品やサービスと出会えたらいいという考えなので、通常のビジネスイベントだとアサインしない人の講演、対談を積極的に組んでいる」と、展示会の開催運営を担ったInnovation & Co.(イノベーションのグループ会社)の齊藤和馬・オンラインメディアユニット統括GMは企画の意図を語る。
もう一つ意識している部分が、イベント会場内の回遊性である。著名人や芸能人を呼ぶのは、最終的にブースまで来てもらうためでもある。例えば第2回目の展示会では、東京大学出身の“クイズ王”伊沢拓司氏と、MAツールベンダーが複数社登壇したセッションを開催し、各社が伊沢氏にMAについてレクチャーする企画を実施。自ら会社を経営する伊沢氏がMAを学び、理解し使いこなしていく様を紹介することで、各社の展示内容に興味を持たせ、ブースへ誘導するという形だ。
4カ月で内製開発
迅速なシステム改善も
ITトレンドEXPOを開催するにあたり、同社は展示会システムを自社で開発した。齊藤統括GMは、「市場のイベントツールは柔軟性や自由度が少なく、100社以上が参加する大規模イベントへの対応力や独自性をアピールするためのデザインの自由度、双方でのリードを確保するためにセッションエリアと展示会エリアを行き来するための導線など、われわれが求める要件を満たしたプラットフォームはなかったため」と話す。
システムの企画と開発には全て自社のリソースを活用し、オンライン展示会用のプラットフォームを4カ月で開発した。これにより、イベントに参加した企業はセッションの視聴状況や展示物のダウンロード数などをダッシュボードで確認でき、イベント終了後にはすぐ個人情報付きのリード情報が提供され、「MAを導入している会社はすぐに来場者にフォローメールが送れる」(齊藤統括GM)仕組みとなっている。
自前のシステムを活用し、自社初の展示会を大きなトラブルもなく開催できたという。そこでの経験を踏まえ、第2回の開催時にはイベントプラットフォーム内での導線の強化を図るなど、スピード感をもってシステムを柔軟に進化させている。今後は、オフラインイベントで行っているような声掛け機能の実装を予定しているという。
「ユーザーはちょっと使い勝手が悪かったり意に沿わなかったりするとすぐ離脱してしまう。そのためにはすぐに対応できる体制が必要なので、リスクを承知で自分たちで開発をしている」と齊藤統括GMは話す。なお、開発した展示会システムは他のオンラインイベントとの差別化ツールとし位置づけ、「外販は検討していない」という。
イベント自体の在り方を変革するきっかけに
現在はコロナ禍で変化のさなかにあるものの、従来の展示会の在り方自体に行き詰まり感があったことは否めない。「大型展示会のスタイルは、基本的に20年前と変わらない。それがイベントテック事業を開始する契機となった」と、Sansanの林室長は話す。 他のIT領域と同様に、コロナは変革のチャンスでもある。現在は接触を伴わないオンラインイベントが注目されているが、今後は多くのイベントがオフラインに戻っていくと考えられる。その際にイベントテックを有効活用すれば、イベント自体の高度化、イベントのDXが見えてくる。他方で、このコロナ禍で普及したオンラインイベントも新たな市場として一定数定着していくと考えられる。「投資対効果を明確にしたい場合は、オンラインの方が明確であり、デジタルマーケティング環境も普及しているので有効になる」とInnovation & Co.の齊藤統括GMは話す。
そして今後は、オンラインとオフラインのハイブリッド型の開催も増えるだろう。ブイキューブでは、すでにEventInを活用して自治体主催の合同採用説明会をハイブリッドで開催しているという。ただその際に、主催者が参加者数をかさ増しするためにハイブリッドという形を使うのでは意味がない。「地方在住者など現場に来られない人がオンライン参加でイベントをできるといったように、双方の役割やメリットを明確にした上での補完関係であるべき」とブイキューブの古関氏は指摘する。
いずれにせよ、イベントテックを有効に活用することでオフライン・オンラインを問わずリードの質も高まり、本来の事業活動への貢献度が高まる。運営の手間やコストも抑えられ、余った人や予算でセミナー開催の回数や内容を濃くする方向に労力を使えるようになることで、営業・マーケティングを進化させることも可能だ。

新型コロナウイルス対策として、ビジネス(B2B)領域におけるオンラインでのイベント開催が活発化している。今まで対面が前提だった展示会やセミナーがオンライン化されるとともに、顧客との接点を持つために、ウェビナーが積極的に活用されるようになっている。そこで注目されているのが、イベント関連業務をデジタル化するテクノロジーの「イベントテック」だ。イベントテックを有効活用することで、単にリアルイベントをオンライン化するにとどまらない、新たなイベント活用の姿が見えてくる。
(取材・文/石田仁志 編集/前田幸慧)
オンラインイベントが活発化も
期待と現実の間にギャップ
約1年前に発生した新型コロナのパンデミックが、人々の働き方を変えた。企業は社員の安全対策として、テレワークやWeb会議ができるようにデジタル環境を整備。緊急事態宣言のもと外出や対面での活動の自粛が求められる中でも売り上げを上げるために、営業活動のデジタル対応を進めた。
その一環で、企業は自社の製品やサービスをアピールするための場として、オンラインのイベントやセミナー(ウェビナー)に活路を見いだした。オンラインイベントは、インターネットとWeb会議システムがあれば開催することができ、場所にとらわれず多くの顧客に対してアプローチできるため、複数の出展社が集まる展示会から自社開催のセミナーまで、規模の大小を問わず開催されることとなった。
他方で、それまでイベントに参加していた顧客側においても、リアルな会場で行う各種イベントが開催されなくなったことで、情報をインプットしたり人や製品を発見したりする出会いの場所を失っていた。そのような状況の中で、リモートツールによって参加できることに加え、オンライン会議の普及により、イヤホンを使ってPC画面を眺めるという働き方が日常となったことから、オンラインイベントに積極的に参加するようになった。
その結果、多くの企業やビジネスユーザーがコロナ禍で飛躍的に普及したWeb会議システムを利用して、イベントへの参加やウェビナーの配信、視聴を経験した。しかし、セミナーの内容をWebで配信することはできたものの、それだけでは期待していたような効果や従来のオフラインイベント開催時のような成果は得られないという課題が見えてきた。出展企業側は参加者への一方的な情報提供やコミュニケーションに陥りがちで、参加者は集まるものの開催側は営業に役立つ質の高いリード(見込み顧客)情報を取ることが難しく、一方の参加者側は、オンラインという無機質な雰囲気の中で、人脈形成どころか気軽に質問もしづらくなるケースも散見されるようになった。
活気づく新たな市場
オフラインも対象
そうした背景から、期待値と実際のギャップを埋めるため、イベント・セミナー領域でのデジタル活用が模索されるようになった。課題が明らかとなり、従来製品に注目が集まると同時に、課題を解決するための新しいソリューションが昨年秋ごろから登場し、「イベントテック」として市場が活気づき始めている。
イベントテックとは、同事業を展開するSansanの定義では、「イベントの主催者や運営者がイベント関連業務に用いるデジタルのソリューションサービス」を指す。イベント開催前の集客・登録管理や、開催中の会場受付・動画配信、参加者データの取得、開催後のアンケート管理などが対象になる。
具体的な製品としては、イベントやセミナーの運営を一括して管理するオンラインイベントプラットフォームをはじめ、名刺管理やWebページの作成、集客、動画配信、SNSなど幅広い。従来のリアルイベントでできたことを再現するだけでなく、イベント開催前、開催中、開催後にデータを取得・活用しやすいという、デジタルならではのメリットも期待できる。なお、イベントテックはオンラインイベントだけを対象としたものではなく、オフラインイベントの価値を高めるものも含まれている。
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