Special Feature
人の業務を自動化し、助ける存在 コロナ禍でRPAは原点回帰する
2021/04/22 09:00
週刊BCN 2021年04月19日vol.1871掲載
複数のRPAを使い分ける時代
中堅・中小企業を中心にデスクトップ型RPA「ロボパットDX」を提供するFCEプロセス&テクノロジーの永田純一郎代表取締役も、RPAへのニーズの変化を感じている。「情報システムの機能の一部という発想で導入されるRPAと、オペレーション側を自動化するRPAに二極化し、棲み分けがはっきりしてきたと思う」
永田代表は、RPAへのニーズが多様化している背景には、コロナなどの環境の急変によって、企業が進めてきたアウトソーシング化からの方向転換があるとみている。
「従来、企業がシステム開発や運用を社内で行わない場合は、アウトソーシングしていた。外部リソースを使った『持たざる経営』がよしとされてきたからだ。だがコロナのような事態が起きて、あまりに外部に頼りすぎると、環境変化に対応するにも自社でコントロールできない範囲が大きすぎ、迅速に動けない問題が出てきた。そこで、主導権を自社に戻しつつ、最小限の人員でコントロールできる状態にするために、RPAを検討する企業が増えてきている」
ロボパットDXは、従業員数300人以下の中小企業が主要顧客層だ。だが最近は、サーバー型のRPAを大規模に導入している企業でも、現場の小さな業務を自動化するために利用するケースが増えているという。「もともと情シスが全社共通仕様で導入を進めたシステムがあり、そこからこぼれた現場の手作業に対するRPA化のニーズが目立ってきた。そこは、情シスのエンジニアにはカバーしきれない領域だ」
同社は、20年に自社の役割を「日本型DXの推進企業」と再定義した。「日本型DX」とは何か。永田代表は「IT黎明期からエンジニアとして企業の情報システムを支えてきた人が、次々と引退する時期を迎えている。システムの開発需要の半分程度しか開発できる人材がいないという調査結果もある。日本特有のこの問題を解決することが、なにより必要だ。そのためには、エンジニアに頼らずに、デジタルを活用して生産性を高める人材を育成すること。これが日本型のDXだと考えている」と話す。
各部署で業務現場の自動化のためにロボットを作ると、統制が取れなくなり、管理されなくなった「野良ロボット」を生んでしまうという指摘もある。だが永田代表は、その心配はないと断言する。「全社員の業務管理を、一つの部署が行ってきたという企業は、これまで存在しない。そんな監視体制はとれないので、それぞれの部署で、適切な管理がなされてきたからだ。それと同じように、各部署のRPAを、情シスという一部門が管理するという考え方には無理がある。情シスは各部署の業務の詳細を知っているわけではないからだ。RPAを正しく利用するには、各部門で適切に管理することが必要で、全社一括の管理ができなければ『野良化』するという考え方は間違いだ」
現場のためのRPAは、現場が管理できる体制を作っていかなければいけないということである。FCEプロセス&テクノロジーの母体は教育・研修・コンサルティングを主業とする企業であり、IT業界とは違う立ち位置から、現場業務の改善に取り組む。
コロナにより「業務の自動化」
という原点に戻る
「WinActor」を提供するNTTデータでも、ここ数年のRPAの導入に見られる変化を認めている。同社デジタルソリューション統括部でRPAソリューションを担当する中川拓也部長は、次のように語る。「RPAが大規模導入主流の時代に、我々が現場の業務改善や“市民開発”のようなことを言っても、RPA業界では相手にされなかった。情シス部門では巻き取れない仕事はたくさんあると話しても、現場が勝手にロボットを作るなんてとんでもない、という風潮があったのは事実だ。しかし、今では多くのベンダーが、現場目線になってきたようで、細かい業務を拾うことが重要だと気づいたのだと思っている」
すでに同社のユーザー企業の7割は、RPAを現場ツールとして導入しており、情報システム部門は管理していない。未導入の企業が、情報システム部門による管理負担を理由にしている場合は、このデータを示して説明しているという。
コロナ対応に必要なものとして、まずリモートワーク環境、次にオンライン会議、そしてその次にロボットだという企業が増えており、顧客のトーンが変わったと中川部長は感じている。「これまでRPAは業務を自動化する『便利グッズ』的に捉えている企業は多かったが、今では業務の自動化は『すべきこと』だという認識が根付きつつある。リモートワーク対応で、紙のデジタル化のためのRPAとOCRとの組み合わせ利用も含め、当社にとっては商機が広がっている」
コロナがきっかけとなった気づきもある。「例えば出社率を50%に抑えようとした際、社員のAさんとBさんが業務を調整しようとしても、互いの業務を知らないため、調整するのが難しい。しかし、各人の業務をロボットと人で分け合うことができれば、50%をロボットに任せることで出社を半分に抑えることができる」。出社した人は、その日在宅の人のロボットが動いているのを確認すればいい。ロボットによって働き方の柔軟性が上がり、リモート化しやすかったという声も届いているという。
RPAツールが増える中、中川部長は自社のWinActorを含めて、製品間の機能差はそれほどないと話す。「RPAの利用が拡大していた時期は、顧客がツールの機能を熱心に調べて検討していた。今では機能の差を重点に置いて選定しているケースは多くない。それよりも、どうやって導入するかに関心が向かっており、より実際の業務改善に近づいたと思っている」。中川部長は、RPA市場の成熟を感じている。
機能面に大きな差がない中で、同社では原点回帰をキーワードに、現場での使いやすさをさらに強化したいと考えている。直近では「変数」を用いずにシナリオが作成できる機能を追加した。またMicrosoft Teamsとの連携をはじめ、AI-OCRなど周辺のサービスとの連携を強化している。
「WinActorは、NTT研究所で行われていた、PCを操作する人の負担を減らす研究から生まれたツール。PC操作者の画面の見やすさ、操作に関係ないボタンはぼかすなどの技術の延長で、自動的にボタンを押すことからスタートしたRPAだ。一番大事にしてきたインターフェースの部分が、成熟期を迎えたRPA市場で評価されていると感じている」(中川部長)
現場がラクすることを
「よいこと」に
現場業務の自動化を進めるためのRPA普及に対して、壁として立ちはだかるのが、定型業務についての認識だ。アイ・ティ・アールの舘野シニア・アナリストは、日本企業に限らず、「労働の美徳」の考え方は社会に根強く残っていると指摘する。「組織全体が『楽をすることはいけないこと』という感覚を持っていると、業務自動化は進まない。海外の企業では、自動化を提案して実現すると、社内で表彰されることもある。逆にムダな業務を残業してやっていると、非難される。そういう意思を経営者が自ら示すことで、業務自動化をよしとする文化を作ろうとしている。RPAに限らず、仕組みを作って回すことが必要だという発信を、全社に対してすることが重要だ。ここが日本企業は特に足りていない」
一生懸命働くということの定義を変えることが、ますます人手不足が進む日本社会では、まず必要だという。「台風がきても会社に出勤することが正しいのではなく、台風で誰も会社に行かなくても仕事が回るように自動化できていることが正しいということに、気づかなければいけない」
もちろん、経営者だけでなく、現場にも抵抗勢力が存在する。特にベテランの社員は、「自分が本気を出せば、機械にはまだ負けない」とRPAのあら探しに意識が向いてしまう。
舘野アナリストは、そうしたベテランこそ、RPAの浸透にうまく活用すべきだと語る。「エクセル仕事が速い人は、業務をロジカルに見る能力が高い。社内の別の業務を見てもらえば、自分の効率化の知見からアドバイスすることができる。そういう人こそRPAプロジェクトに引き込んで、仕事を見直すエキスパートとして活躍させるべきだ」
RPAは、人の業務を置き換えるだけでなく、現場の潜在能力を引き出すツールでもあることを認識すべきというのが、舘野アナリストの考えだ。
また、NTTデータの中川部長は、RPAに最初から過度な期待を持つのはよくないと話す。「例えば、OCRの認識率が上がったといっても、100%ではない。それをみて『これはだめ』と言ってしまうと利用が萎んでいく。RPAについても同様だ。ユーザーフォーラムでも、成功している企業からは、システムで不足する部分を人が補い、共存していくことが重要だという意見がよく出ている」
RPAテクノロジーズの大角社長は、RPAをスケールするためには、現場がデジタル労働者の効能をしっかり理解することが重要だと話す。「実際に動いているものを見れば、誰でもその効果に驚き、使いたいと思うはずだ。その時に、導入は難しくないと説明ができること、運用をサポートする体制を用意することが必要だ。そこが揃えば、どんどん広がっていくはず」
RPAの先進企業では、現場が楽をすることを推奨し、RPAの効果と限界を理解しながら利用を拡大している。小さな業務からでも自動化してみれば、得られる価値はきっと大きい。
RPAベンダーは定着と利用拡大を重視
成熟してきたRPA市場で、利用拡大を進めるには、導入済みのツールを定着させ、より多くの業務に適用させていく必要がある。各ベンダーは、この定着化サービスに力を入れている。一つの方向性が、ユーザー間の情報共有による利用促進だ。NTTデータでは、ユーザーコミュニティー「WinActorユーザーフォーラム」を運営しているが、最近特に活動が活発化している。これはオンライン上の掲示板で、「WinActor版のYahoo知恵袋」のようなサイトだという。ユーザーが質問すると、有志のボランティアが回答し、関連するリンクも教えてくれる。
「約2年前に始めたが、会員は2万2000人を超え、日本最大級のB2Bコミュニティーになったと考えている。事例やQ&Aの宝庫であり、活用が拡大している。中小企業の“一人情シス”さんが悩んでも、ユーザーフォーラムに問い合わせて解決できるケースが増えている」(中川部長)
基本的にNTTデータは場を提供しているだけで、やりとりはほとんどがユーザー同士で進められている。中には相当なスキルを持った名回答者もいるという。
「ユーザーの中には、企業で使えるスキルとしてRPAの知識や操作法を身につけ、コンサルタントになったり、自身でブログや書籍を書く人も出てきています。そういう意味でも、市場の広がりを感じている」(中川部長)
FCEプロセス&テクノロジーでは、RPAユーザーに「Web家庭教師」というサービスを始めた。同社のエンジニアと顧客企業のユーザーがWeb会議でつながり、顧客の画面を共有しながら個別の質問に答えるサービスだ。期間、回数の制限なく無料で提供している。「顧客はオンライン家庭教師のようにWebから予約を入れて、マンツーマンでエンジニアと会話ができる」(永田代表)
また、同社では、RPAを先行導入した部署が、社内で「お披露目会」を実施する際の運営サポートも実施している。「そんなことまで、と思うかもしれないが、社内で認知を広げることは、利用拡大の足場固めとして不可欠だ。当社にとっても、その支援は非常に重要な仕事だと位置づけている。企業の現場では、いまだに数十年前のシステムを使っている場合もある。それを頭ごなしに否定しても何も改善しない。企業ごとに違う業務や組織の形に寄り添いながら、粘り強く支援することが必要だ」(永田代表)
一方、RPAテクノロジーズが注力するのは、地方だ。「深刻化する地方の労働問題を解決するため、少人数ながら北海道から九州まで、全国に地域担当を配備した。各地域のパートナー企業といっしょに、ユーザー企業のサポートに動いている」
20年4月の組織発足時から、コロナによって実際に出向いて支援することができなかったが、同社では、逆にそれを活用することにした。「今までは地方に行って支援することが必要だったが、コロナによってリモートが一般化した。そのおかげで、スムーズなダイレクトサポートができた」(大角社長)
ダイレクトサポートの部隊は20人ほどで、全国を分担して導入後の定着と活用を支援する。「当社がRPAの定着化を支援した後に、当社のパートナーになっていただき、業務改善のノウハウとシステムを外販することもできる。これを地域で起こすビジネス変革、『地産地消DX』と呼んでいる」
実際にその例も出ている。20年9月に、愛媛県松山市の伊予鉄総合企画と共同事業として、ロボットによるシェアードサービスセンターの稼働準備を開始した。近く事業を開始する予定である。単にシステム導入と定着を支援するだけでなく、自ら資本を投入して事業化にコミットしていることに、本気度がうかがえる。

2017年から19年にかけて、RPAは日本企業に広く知られるようになった。大規模な導入を含めて、多くの企業で採用が進んだ。20年の新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワーク対応が求められる中、RPAの利用は新たな局面に入ったとも言われる。リモートワーク時代のRPA活用法を改めて考えてみる。
(取材・文/指田昌夫 編集/日高 彰)
「デジタル労働者」と働く
ある銀行では、一人の行員が毎週水曜日の朝9時30分までにレポートをまとめる業務を命じられていた。そのレポートの元データは、当日の朝まで揃わないため、水曜日は朝7時台に出勤して作業に取りかからなければいけなかった。この作業をなんとかしたいと思った行員は上司に相談し、上司はシステム化を情シス部に持ちかけた。だが工数にして2時間弱の作業で、費用対効果的にシステム化は取り合ってもらえない。
そこでその行員はRPAツールを使い、自らシナリオを設定して業務を自動化した。その結果、水曜日の朝も、他の曜日と同じ時間に出勤すればよくなった。その行員は早朝出社をしなくてよくなっただけでなく、「いやな仕事をせずに済む」ことで精神的にも楽になったという。
周知の通りRPAは、大量のバックオフィス業務を自動処理する「サーバー型」と、オフィスで従業員が行ってきたPC作業を自動化する「デスクトップ型」に大別される。これまでは、いかに多くの時間を削減するか、またコストはどれだけ減るかという定量化できる効果に注目が集まり、大きな効果が見込める大企業を中心に、サーバー型RPAの導入が進んできた。
一方、デスクトップ型RPAは中堅・中小企業にも導入が広がり、より手元の細かい業務に対する効果が期待されている。労働力不足やコロナ禍のリモートワークに対応するためのツールとしても、注目されているのである。
冒頭の事例を紹介してくれた、RPAテクノロジーズの大角暢之代表取締役社長は、同社が提供するRPAの「BizRobo!」は、ITツールでなく、「デジタル労働者」だと言い切る。
「特に地方を中心に労働者が枯渇していく中で、単純労働を貴重な人材にさせていた『つけ』が回ってきていた。特に、女性の就労が大きな課題だが、優れたスキルを持っていても、出産、育児などでフルタイム勤務は難しい場合も多い。そこをデジタル労働者で補間し、企業の力になってもらうというのが、当社の大きな目標だ」
RPAをITツールでなく労働者の派遣と同じように考えると、人間の上司が指示命令を正しく出さなければ、狙ったとおりの成果を出すことができない。そのため、上司としての管理者は、あくまで業務の現場と位置づけている。
「RPAをITでなく人事の問題として考えている企業では、現場の業務を次々と自動化することに成功している。冒頭の例のように現場でいやな業務、面倒な定型作業を自動化することが重要。費用対効果を気にしていると失敗する」(大角社長)
大角社長は、RPAの利用が拡大しない企業は、費用対効果の呪縛から抜け出せていないと語る。「費用対効果に縛られると、最初は当然最大のインパクトが出る全社的な業務プロセスをターゲットにする。だがそこから対象業務を広げていくと、必然的に量的な効果は尻つぼみになっていく。それだけでなく、現場の小さな課題は置き去りにされてしまう」
この考え方を改め、現場主導、業務本位のRPA化を一から検討し直すべきだというのが、大角社長の主張だ。
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