Special Feature
盛り上がる中堅中小企業のクラウド活用 IaaSビジネスの最前線
2021/05/06 09:00
週刊BCN 2021年05月03日vol.1873掲載

“ニューノーマル”な社会を見据えたIT投資が進む中、中堅中小企業のクラウド活用が加速している。特にIaaSの市場では、情報システム基盤の選択肢としてクラウドを検討する動きが増えているという。各クラウドベンダーは、ユーザーから選ばれるためにどのようなビジネスを展開しているのか。IaaSビジネスの最前線を追った。
(取材・文/齋藤秀平)
アマゾンウェブサービスジャパン APNの全都道府県への展開は目前
アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は現在、同社の特設ページで「中堅中小企業こそクラウドを活用すべき」とのメッセージを発信している。理由としては「忙しい中堅中小企業のIT管理の業務効率の向上」「大企業が使っているサービスを従量課金で手軽に利用」「必要な時に必要なだけ柔軟で無駄のないIT環境」「最小限のリスクで新しいチャレンジが可能」の四つがあるとしている。
AWSジャパンが中堅中小企業の導入拡大に向けた施策を展開する中、新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年は、同社の営業活動を上回るような勢いで活用が広がったという。
AWSジャパンの渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長は「クラウド移行はコロナ禍の前から進んでいた。それがコロナ禍で一瞬ストップしたが、今は再び動き始めている」とし、「この1年で、クラウドがもつ俊敏性や伸縮性にメリットを感じるお客様がたくさんいた。さらに、物品調達のリスクがないことに加え、人工知能(AI)やマシンラーニング、IoTといった新しいことに費用を抑えながら取り組める便利さにも気づいていただけている」と語る。
AWSジャパンは、既存システムのクラウド移行をどのように進めているのか。渡邉統括本部長は「お客様のクラウド移行は、パートナーと一緒に進めていくことを大きな戦略にしている」とし、パートナー向けの施策では、移行ツールの作成やマーケティングを支援したり、定期的なトレーニングを実施したりしていると説明する。
AWSのパートナープログラム「AWSパートナーネットワーク」(APN)は順調に拡大し、今は岩手県を除く各都道府県に展開している。AWSジャパンによると、各地にユーザーの相談相手となるパートナーがいることは、AWSがユーザーから選ばれる要因の一つになっているという。また、2010年からスタートしているユーザー会「JAWS-UG」を通じて成功体験を共有していることも、導入の拡大につながっているようだ。
とはいえ、APNだけでは、全国津々浦々にサービスを届けるのは難しい。そこで昨年、新しい試みとして、ダイワボウ情報システムと国内初のディストリビューター契約を結び、販路の強化を実現した。
今後の市場の見通しについて、渡邉統括本部長は「業務アプリケーションのオンクラウドの流れはどんどん進んでおり、システム更改のタイミングでクラウドを検討する中堅中小企業は増える一方だとみている」と予想し、パートナーネットワークの強化やエンジニアの育成を引き続き進める考えだ。
一方で「地域のビジネスは、地域に根付いたパートナーが担っており、そのビジネスを壊してはいけないと思っている」とし、「現状の各地域のビジネスとクラウドのビジネスを融合しながら、いい方向に進めることをパートナーと一緒に目指していく」と話す。
5年ごとの費用と業務上の負担を解消
AWSの活用がユーザー企業の課題解決に役立った事例も増えているという。鋼板の切断・加工や販売を手掛ける髙砂金属工業(大阪府高石市)は13年9月から18年5月までの間で、所有していた10台の物理サーバーをAWSに移行した。
1人でシステムの管理を担当していた同社の楠瀬博之・総務経理部業務課課長は「サーバーは5年ごとのリプレースが必ずあり、ソフトやハードの更新費用が発生する。保守費用も含めると、5年間で約1000万円の費用が必要だった」とし、サーバーの稼働状況を気にしながら業務に当たることも大きな負担になっていたと振り返る。
ターン・アンド・フロンティアの大久保哲也社長
同社がAWSの導入を考え始めたのは12年のこと。同社の副社長が経営者向けのセミナーに参加した際、APNアドバンスドコンサルティングパートナーであるターン・アンド・フロンティア(大阪市)の大久保哲也社長と知り合ったことがきっかけになった。
高砂金属工業は、国内外のクラウドサービスを検討した結果、世界標準のサービスが活用できることを高く評価し、AWSの導入を決定。生産管理システムや建材管理システムを順次クラウドへ移行した。現在、Amazon EC2のインスタンス数は、物理サーバーの半分以下となり、5年間の累計運用費用は約10%、作業日報ベースの管理工数は約45%削減。ほかに、サーバールームの開放や、サーバーの運用業務に時間を取られないようになったという効果もある。また、BCP(事業継続計画)対策でも役立っているという。
同社は、システムの安定稼働のほか、従来の費用を上回らないこともポイントとして設定した。大久保社長は「長期利用契約など、AWSの利用料金を抑える方法はたくさんある。高砂金属工業に合うプランをさまざまな角度から見積もりし、時間を制限することことで費用を最も抑えられることをお示しした」と話す。
AWS導入後、同社のシステムにトラブルは発生していないという。楠瀬業務課長は「サーバーを移行しただけで終わりという話ではなく、まだ次のステップに移るスタートを切った段階。この先、いろいろなサービスの利用を進めていくつもりだ」と意気込む。
パッケージソフトの限界を突破
プラスサムジャパン(福岡市)は、賃貸物件の入居者用のコールセンターを運営している。4月末現在、管理会社10社約12万戸の入居者から電話を受け付けており、月間で約1万3000コールに対応している。
以前はパッケージソフトを活用していたが、同社の湯村輝昭社長は「管理会社ごとに異なる複雑な運用への対応が難しく、パッケージソフトでは限界を感じていた」と振り返る。
AWSのコールセンターソリューション「Amazon Connect」や他社の製品やサービスを含めて課題の解決策を模索していたところ、同社の株主企業を通じてAWSジャパンの担当者と知り合い、その後、AWSセレクトテクノロジーパートナーのシフトセブンコンサルティング(同市)とつながった。湯村社長は「Amazon Connectはフレキシブルに開発ができるが、素人向きではないと思うのが正直なところ。中小企業にとっては、ややハードルが高いので、しっかりしたベンダーが間に入ることが重要だった」と語る。
プラスサムジャパンは、受け付けた電話の文字起こしなど、システムの将来像について明確な構想を練っていた。それを実現する場合、Amazon Connect以外の製品やサービスを活用して開発をすると、費用が膨大になると判断。AWSを選択する上で、価格面は決め手の一つになったという。
ただ、順風満帆に進んだわけではない。19年10月に導入した後、入居者からの電話が途中で切れる事態が発生。シフトセブンコンサルティングも一緒に原因を探り、プラスサムジャパンのネットワーク構成がネックになっていることを突き止めた。問題を解決した後は、同様の事態は起こっていないという。
湯村社長は「ほかのAmazon Connectを導入している企業では、こうしたことは起こっておらず、最初からわれわれのシステムに問題があるのではと推測していた。本来、シフトセブンコンサルティングの責任にはならないが、彼らからは『お客様の電話がしっかりつながっていないのはわれわれの責任だ』と言ってもらい、一緒に対応した。これは非常に心強かった」と話す。
シフトセブンコンサルティングTechチームの黒木健嗣氏は「湯村社長が、やりたいことを明確にしていたことが大きかった。いただいたアイデアを基に、実現に向けてしっかりと詰めていく形でコミュニケーションを取った。アイデアとわれわれの知見、技術で可能性は無限大になるので、これからも継続的な関係を築きながらシステムの発展を支援していきたい」と話す。
プラスサムジャパンは現在、入居者からの電話分析機能を追加しており、今後も継続的にシステムを進化させる方針。将来的に「最新技術のクラウドで活用を活用し、“ネオコンタクトセンター”を目指す」(湯村社長)としている。

“ニューノーマル”な社会を見据えたIT投資が進む中、中堅中小企業のクラウド活用が加速している。特にIaaSの市場では、情報システム基盤の選択肢としてクラウドを検討する動きが増えているという。各クラウドベンダーは、ユーザーから選ばれるためにどのようなビジネスを展開しているのか。IaaSビジネスの最前線を追った。
(取材・文/齋藤秀平)
アマゾンウェブサービスジャパン APNの全都道府県への展開は目前
アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は現在、同社の特設ページで「中堅中小企業こそクラウドを活用すべき」とのメッセージを発信している。理由としては「忙しい中堅中小企業のIT管理の業務効率の向上」「大企業が使っているサービスを従量課金で手軽に利用」「必要な時に必要なだけ柔軟で無駄のないIT環境」「最小限のリスクで新しいチャレンジが可能」の四つがあるとしている。
AWSジャパンが中堅中小企業の導入拡大に向けた施策を展開する中、新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年は、同社の営業活動を上回るような勢いで活用が広がったという。
AWSジャパンの渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長は「クラウド移行はコロナ禍の前から進んでいた。それがコロナ禍で一瞬ストップしたが、今は再び動き始めている」とし、「この1年で、クラウドがもつ俊敏性や伸縮性にメリットを感じるお客様がたくさんいた。さらに、物品調達のリスクがないことに加え、人工知能(AI)やマシンラーニング、IoTといった新しいことに費用を抑えながら取り組める便利さにも気づいていただけている」と語る。
AWSジャパンは、既存システムのクラウド移行をどのように進めているのか。渡邉統括本部長は「お客様のクラウド移行は、パートナーと一緒に進めていくことを大きな戦略にしている」とし、パートナー向けの施策では、移行ツールの作成やマーケティングを支援したり、定期的なトレーニングを実施したりしていると説明する。
AWSのパートナープログラム「AWSパートナーネットワーク」(APN)は順調に拡大し、今は岩手県を除く各都道府県に展開している。AWSジャパンによると、各地にユーザーの相談相手となるパートナーがいることは、AWSがユーザーから選ばれる要因の一つになっているという。また、2010年からスタートしているユーザー会「JAWS-UG」を通じて成功体験を共有していることも、導入の拡大につながっているようだ。
とはいえ、APNだけでは、全国津々浦々にサービスを届けるのは難しい。そこで昨年、新しい試みとして、ダイワボウ情報システムと国内初のディストリビューター契約を結び、販路の強化を実現した。
今後の市場の見通しについて、渡邉統括本部長は「業務アプリケーションのオンクラウドの流れはどんどん進んでおり、システム更改のタイミングでクラウドを検討する中堅中小企業は増える一方だとみている」と予想し、パートナーネットワークの強化やエンジニアの育成を引き続き進める考えだ。
一方で「地域のビジネスは、地域に根付いたパートナーが担っており、そのビジネスを壊してはいけないと思っている」とし、「現状の各地域のビジネスとクラウドのビジネスを融合しながら、いい方向に進めることをパートナーと一緒に目指していく」と話す。
5年ごとの費用と業務上の負担を解消
AWSの活用がユーザー企業の課題解決に役立った事例も増えているという。鋼板の切断・加工や販売を手掛ける髙砂金属工業(大阪府高石市)は13年9月から18年5月までの間で、所有していた10台の物理サーバーをAWSに移行した。
1人でシステムの管理を担当していた同社の楠瀬博之・総務経理部業務課課長は「サーバーは5年ごとのリプレースが必ずあり、ソフトやハードの更新費用が発生する。保守費用も含めると、5年間で約1000万円の費用が必要だった」とし、サーバーの稼働状況を気にしながら業務に当たることも大きな負担になっていたと振り返る。
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