Special Feature
盛り上がる中堅中小企業のクラウド活用 IaaSビジネスの最前線
2021/05/06 09:00
週刊BCN 2021年05月03日vol.1873掲載
各ベンダーは強みをアピール 市場のニーズを掘り起こす
中堅中小企業向けのIaaSビジネスに注力しているのは、AWSジャパンだけではない。国内外の各クラウドベンダーは、自社サービスの強みをアピールし、需要の取り込みを進めている。市場の拡大とともに、各クラウドベンダーの競争は激化する見通しだ。日本マイクロソフト 顧客のIT戦略の受け皿に
日本マイクロソフトは、Microsoft Azureを中心にクラウドビジネスを展開している。中堅企業向けのビジネスを担当する同社の小杉靖・コーポレートソリューション事業本部第一インテリジェントクラウド営業本部本部長は「数年前は、クラウドの活用に二の足を踏む企業も少なくなかったが、この1、2年は、システム基盤の一つとしてクラウドが当たり前の選択肢になっている」と説明する。
中小企業向けのビジネスを担当する同社の高橋洋・コーポレートソリューション事業本部クラウド事業開発本部本部長も「以前はクラウドがいかに安心で安全かということを説明していたが、今は安心・安全が前提の上で、効率化やコストをどうするかという話が増えている」と解説する。
昨年のコロナ禍は同社のクラウドビジネスを後押しした。高橋本部長は「リモートワークを導入するために、最低限のセキュリティ確保や社内アプリのSaaS化がトレンドになったのが一段目の波となり、昨年末ごろからの二段目の波では、今後も見据えた上で端末やアクセスの管理に取り組む動きが多くなっており、最近はBCPの話も増えている。緊急時のリモートワーク対応から、ニューノーマル時代を見据えた動きに徐々に変わりつつある」と語る。
他社のサービスと比較した場合の強みについては、小杉本部長は「お客様はエッジ側とサーバー側をあえて分けなくなっており、トータルでどうするのかということを考えている。まずはエッジのMicrosoft 365、そしてサーバーはAzureでというように、お客様の会社のIT戦略について、われわれはほとんどの部分で受け皿になっている」という。
中小企業向けのビジネスでは「中小企業は、情報システムの担当者が1人しかいない場合もある。その方が(対象となるクラウドサービスを)知っているかどうかは重要で、われわれはMicrosoft 365などで他社よりも認知度は高い。さらに各地方に拠点を持つパートナーが多くいるため、お客様をきちんとサポートできることも強みだ」と、高橋本部長は紹介する。
一方、同社の佐藤壮一・Azureビジネス本部マーケットデベロップメント部プロダクトマネージャー/Azure SMEは「別々のベンダーのIaaSを活用すると、ID管理がバラバラになってリスクになることがある」と話し、今後の方向性としてゼロトラストを指向する場合、その点がハードルとなるパターンが多いと指摘する。Microsoft 365を使っていれば、ユーザー情報はAzure Active Directoryに格納されているので、オンプレミス側との連携や、ID管理をクラウドに横展開するということを考えると、IaaSも「ファーストチョイスはAzureが望ましいはずだ」と強調する。
同社は、パートナー向けの支援メニューとして、クラウド移行を促進するプログラムやオファリング、同社のエンジニアによるサポートなどを用意している。これまでは主に大企業向けのビジネスで活用されることが多かったが、パートナーからの求めに応じ、現在は中堅中小企業向けのビジネスで使いやすいカスタム版も提供している。
高橋本部長は「中小企業の領域では、数年がかりでパートナーと協業しており、パートナーにナレッジがたまっている。これまで苦労してきたが、コロナ禍で急速にニーズが立ち上がり、ビジネスが広がり始めている」とし、需要が増えたことで「お客様から求められることのレベルが上がり、パートナーの技術力を高めていくことが必要になっている」と実感している。
小杉本部長は「中堅企業向けのビジネスでも、パートナーとタッグを組んで提案を進めている。とくに日本においては、オンプレでVMwareを稼働させている企業が多いので、パートナーとはそのクラウド移行を重点的に進めている」と話す。
今後の展開について小杉本部長は「クラウドのビジネスが拡大していくのは間違いない。IaaSだけでなく、全体をカバーできるプラットフォームが選ばれていくだろう。われわれは製品群を幅広く展開しているので、しっかりと選ばれる存在になることを目指していく」とし、高橋本部長は「ISVやスタートアップ企業が、エンドユーザーにSaaS化などのサービスを提供する動きが広がっているので、われわれとしてはこれらの動きを支えて間接的にエンドユーザーの支援を進める。それに加え、紙ベースの電子化や業務アプリのクラウド化をはじめ、中長期的な取り組みへの支援にも注力していく」と力を込める。
富士通クラウドテクノロジーズ メガクラウドとは異なる良さがある
パブリッククラウドサービス「ニフクラ」を提供している富士通クラウドテクノロジーズ。昨年は富士通グループがクラウド戦略を再定義し、ニフクラは富士通によるVMwareベースのクラウドサービス「FJcloud-V」の基盤として採用された。従来のニフクラビジネスを継続しつつ、富士通との連携でサービスを展開している。
同社の上野貴也副社長は「ディーラーも含めて、富士通のさまざまな商流の中でわれわれのクラウドサービスが展開されるようになったのは大きな変化。加えてコロナ禍でビジネスは非常に伸長し、ID数も相当伸ばしている」と昨年を振り返る。
富士通との連携では「案件としては4倍に伸びている。われわれとしては、新たなチャネルが増え、ビジネスは活性化している」と説明。ただ「IT投資の中でクラウドが占める割合を考えると、中堅中小企業はそれほど多くない。オンプレの従来型の投資がほとんどで、クラウドの普及期はまだこれからだろう」とみる。
同社の顧客層は、中小企業が9割以上を占める。サービスを立ち上げた当時は、技術力のある企業の活用が多かったが、最近はそれ以外の企業の伸びも目立っているという。
同社のサービスが選ばれる理由について、上野副社長は「われわれのサービスは、メガクラウドとは少しスタンスが違う」とし、具体的には「クラウドの障壁をどこまで下げられるかをテーマにしている。オンプレの信頼性と同等以上の設計をしており、しっかりとしたアーキテクチャーで構成されている。ディスクは複数の系統があり、サーバーを排他で設定することも可能で、オンプレの延長のように扱えることが特徴だ」とし、メガクラウドのサービスとは異なる良さがあることが強みだと説明する。
パートナー戦略としては、自社パートナー経由と富士通経由の両方でビジネスを進めている。最近の状況については「サーバーコストという単純な話ではなく、IT戦略の再設計という文脈の中で、オンプレミスの限界を感じ、クラウドを選ぶ動きが増えている」とし、「オンプレのVMware環境を止めずにクラウドに移行できる機能も持っており、クラウド化の中でもハイブリッドクラウドを一つの切り口に商談をしている」と説明する。
今後の戦略については「クラウドというと、市場ではメガクラウドを想像されることが多い。われわれの良さや大事にしていることがまだ知られていないことが課題。これはパートナーにもエンドユーザーにも浸透させていかないといけない」とし、「引き続きメガクラウドとは違う価値を提供し、富士通グループでタッグを組んで正しい情報を市場に発信していくつもりだ」と力を込める。
さくらインターネット 顧客の近くに開発者がいる
さくらインターネットは、パブリッククラウドサービス「さくらのクラウド」を提供している。もともとレンタルサーバーや仮想専用サーバー「さくらのVPS」で個人や中小企業の間で一定の知名度を獲得していることから、クラウドでも同社のサービスを選ぶケースがあるという。
同社の横田真俊・執行役員クラウド事業本部長は「非常に分かりやすい料金体系になっていることが大きな特徴。ユーザーにとっては会計がやりやすく、稟議を通す場合の説明もしやすい」とし、「海外のクラウドベンダーのサービスの場合、例えばI/Oの発生のところで課金が発生したり、データ転送量で課金されたりするが、われわれのサービスはそれがなく、月額定額で提供している」と説明する。
さらに「さくらのクラウドは自社で開発しているため、お客様からお問い合わせ要望があった場合、非常に変化に対応しやすい体制になっている。海外のクラウドサービスに比べ、お客様の声がすぐに開発者まで届く」とし、顧客と開発者の近さも強みとの認識を示す。
また、さくらのクラウドのシンプルな構成も、ユーザーからは好評を得ているという。横田クラウド事業本部長は「さくらのクラウドは、独自ルールがなく、プレーンな基盤でサービスを提供している。他のクラウドサービスだと、特定の資格を取らないと扱うのが難しいという話もあるが、さくらのクラウドは、昔からのオンプレやサーバー環境に構成が非常に近く、サーバーを扱ってきた方にはなじみ深い。今はVPSから(の追加/移行で)さくらのクラウドの利用を始めるお客様もいるが、そういった方にとっても分かりやすくなっている」と語る。
顧客層は中堅中小企業が最も多く、大企業の一部門での活用もある。販売戦略としては、「さくらのクラウドを単品で売るというよりは、約45万の顧客基盤があるレンタルサーバーやさくらのVPSを合わせた形で提案を進めている」と説明。パートナー施策では、パートナーの持つ商材とさくらのクラウドを合わせて活用してもらうため、マーケットプレイスの強化に注力している。現在、マーケットプレイスには16社が参画し、セキュリティなどのアプリケーションを提供している。
今後の展開について、横田クラウド事業本部長は「クラウドの上に付加価値の高いサービスを作り、それを軸に売り上げを伸ばしていきたい。お客様がやりたいことをできるようにするために、最初の一歩としてわれわれのサービスを使っていただけるようにしていく」と話す。
デロイト トーマツ リスクサービス 中小企業のクラウド活用はキーマンの存在がカギ
デロイト トーマツ グループで、ITガバナンスのサービスを提供しているデロイト トーマツ リスクサービスの吉田悦万・シニアマネジャーは、IaaSをはじめとるする顧客のクラウド活用の状況について「大企業だとクラウドを導入する際、社内に抵抗勢力があり、なかなか進みづらいこともあるが、中小企業の場合、IT戦略を担うキーマンが方針を打ち出すことで、抵抗なく利用が進む」と解説する。
コロナ禍の変化については「コロナ禍だからといって、中堅中小企業で大規模にクラウド活用が進んでいる状況は見られない。小さな動きとしては、在宅勤務の実施に向けて急いで対応しているケースが多い」としつつ、「ITに力を入れている企業は、比較的積極的にクラウドを活用している」とし、活用の度合いが二極化しているとの見方を示す。
中堅中小企業のクラウド活用の特徴については、自社でクラウド活用の方針を決めて進めているケースと、開発ベンダーの提案を鵜呑みにして採用するケースの二つがあると説明し、特に後者の場合、「クラウドシステムの運用を始めた後、当初の目的にあったメリットを十分に得る事ができないと思っている企業は非常に多い。オンプレのシステムをそのままクラウドに移行してしまったことなどが原因」と解説する。
同社は、メガクラウドベンダーや技術力の高いベンチャー企業と組んで、オンプレミスのシステムのクラウド移行を支援している。現在はセキュリティアセスメントや社内の体制づくりなど上流工程のコンサル業務を主に手掛けており、ビジネスの割合はコンサルの案件が9割、開発の案件が1割になっているという。今後はクラウド活用のニーズがさらに高まるとみており、顧客との継続的な接点を確保するために、開発案件の割合を4割程度まで引き上げることを目指す方針だ。

“ニューノーマル”な社会を見据えたIT投資が進む中、中堅中小企業のクラウド活用が加速している。特にIaaSの市場では、情報システム基盤の選択肢としてクラウドを検討する動きが増えているという。各クラウドベンダーは、ユーザーから選ばれるためにどのようなビジネスを展開しているのか。IaaSビジネスの最前線を追った。
(取材・文/齋藤秀平)
アマゾンウェブサービスジャパン APNの全都道府県への展開は目前
アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は現在、同社の特設ページで「中堅中小企業こそクラウドを活用すべき」とのメッセージを発信している。理由としては「忙しい中堅中小企業のIT管理の業務効率の向上」「大企業が使っているサービスを従量課金で手軽に利用」「必要な時に必要なだけ柔軟で無駄のないIT環境」「最小限のリスクで新しいチャレンジが可能」の四つがあるとしている。
AWSジャパンが中堅中小企業の導入拡大に向けた施策を展開する中、新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年は、同社の営業活動を上回るような勢いで活用が広がったという。
AWSジャパンの渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長は「クラウド移行はコロナ禍の前から進んでいた。それがコロナ禍で一瞬ストップしたが、今は再び動き始めている」とし、「この1年で、クラウドがもつ俊敏性や伸縮性にメリットを感じるお客様がたくさんいた。さらに、物品調達のリスクがないことに加え、人工知能(AI)やマシンラーニング、IoTといった新しいことに費用を抑えながら取り組める便利さにも気づいていただけている」と語る。
AWSジャパンは、既存システムのクラウド移行をどのように進めているのか。渡邉統括本部長は「お客様のクラウド移行は、パートナーと一緒に進めていくことを大きな戦略にしている」とし、パートナー向けの施策では、移行ツールの作成やマーケティングを支援したり、定期的なトレーニングを実施したりしていると説明する。
AWSのパートナープログラム「AWSパートナーネットワーク」(APN)は順調に拡大し、今は岩手県を除く各都道府県に展開している。AWSジャパンによると、各地にユーザーの相談相手となるパートナーがいることは、AWSがユーザーから選ばれる要因の一つになっているという。また、2010年からスタートしているユーザー会「JAWS-UG」を通じて成功体験を共有していることも、導入の拡大につながっているようだ。
とはいえ、APNだけでは、全国津々浦々にサービスを届けるのは難しい。そこで昨年、新しい試みとして、ダイワボウ情報システムと国内初のディストリビューター契約を結び、販路の強化を実現した。
今後の市場の見通しについて、渡邉統括本部長は「業務アプリケーションのオンクラウドの流れはどんどん進んでおり、システム更改のタイミングでクラウドを検討する中堅中小企業は増える一方だとみている」と予想し、パートナーネットワークの強化やエンジニアの育成を引き続き進める考えだ。
一方で「地域のビジネスは、地域に根付いたパートナーが担っており、そのビジネスを壊してはいけないと思っている」とし、「現状の各地域のビジネスとクラウドのビジネスを融合しながら、いい方向に進めることをパートナーと一緒に目指していく」と話す。
5年ごとの費用と業務上の負担を解消
AWSの活用がユーザー企業の課題解決に役立った事例も増えているという。鋼板の切断・加工や販売を手掛ける髙砂金属工業(大阪府高石市)は13年9月から18年5月までの間で、所有していた10台の物理サーバーをAWSに移行した。
1人でシステムの管理を担当していた同社の楠瀬博之・総務経理部業務課課長は「サーバーは5年ごとのリプレースが必ずあり、ソフトやハードの更新費用が発生する。保守費用も含めると、5年間で約1000万円の費用が必要だった」とし、サーバーの稼働状況を気にしながら業務に当たることも大きな負担になっていたと振り返る。
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