Special Feature
イッポまえだのよろしくスタートアップ finale イノベーションの担い手を追い続けた5年間の軌跡
2021/06/03 09:00
週刊BCN 2021年05月31日vol.1876掲載
PV数でランキング
注目スタートアップ ベスト12をよろしく公開
週刊BCNで連載した「イッポまえだのよろしくスタートアップ」は、Webサイト『週刊BCN+』に会員限定記事(登録無料)として転載しています。過去の掲載記事を週刊BCN+のPV数でランキング。ベスト12を紹介します!
1位 Arithmer 1801(2019年11月18日発行)号掲載
AI研究の学術的成果を社会に還元
栄えある1位は東大発AIスタートアップのArithmerです。大学での研究成果を社会に還元すべく、同大大学院数理科学研究科で特任教授を務める大田氏が2016年に設立。最新の数学を応用したAI技術を強みとして、AI-OCRや画像・動画解析、自然言語処理、スマートロボットなどの技術を開発・提供しています。紳士服のコナカと構築した“AIオーダー”は特に有名です。性別や身長・体重を入力して普段着のまま写真を4枚撮るだけでオーダーメイドのワイシャツやスーツができるというサービスが注目を集めました。

2位 アガサ 1823(2020年04月27日発行)号掲載
治験の効率化に貢献
製薬に欠かせない重要なプロセスの「治験」。一つの薬の治験には複数の医療機関が関係し、製薬会社と医療機関の間でやりとりされる文書の量は膨大になります。アガサが提供する「Agatha」は、治験や臨床研究の文書をクラウド上で共有・管理できるサービスで、治験のスピードアップに貢献します。2020年11月には医療情報システムに強いNECネクサソリューションズと業務提携を開始しました。新型コロナ禍を経て、中長期的に需要の拡大が見込める事業領域と言えそうです。

3位 ベルフェイス 1822(2020年04月20日発行)号掲載
オンライン営業ツールの主役に
リモートワークを前提とした新しい働き方が“ニューノーマル”になっていく中で浮上したのが、いかに営業活動をオンライン化するかという課題です。オンライン商談システムを提供するベルフェイスは、そうした課題に対するソリューションとして従来以上に大きな注目を集め、2020年は飛躍の年になりました。新型コロナ対策支援で無償提供も行いましたが、数千社規模での導入があったそうです。音声コミュニケーションには電話を使うなど利用のハードルが低いことも評価を高めました。

4位 コグニティ 1712(2018年01月29日発行)号掲載
セールストークをITの力で改善
営業活動における顧客とのコミュニケーションの改善にもITを活用する事例が増えています。コグニティは文書や会話内容の解析・評価を行うサービスを提供しており、例えばセールストークの内容を解析して数値化し、営業成績のよい人のスコアを指標として比較することで、トーク内容の改善を図ることができるといいます。独自のルールとデータベースに基づいた分析に加え、「技術の力が追い付いていないところは人が変わりに行う仕組み」を備え、業界特化型のサービスもリリースしています。

5位 EventHub 1827(2020年06月01日発行)号掲載
バーチャルイベント需要に対応
さまざまなイベントのオンライン化が一気に進んだのも、新型コロナ禍によって起こった大きな変化の一つです。イベントを通してリード情報を獲得し、商談につなげるのは営業・マーケティング活動のオーソドックスな形ですが、それを実行する仕組みのデジタル化が進んだとも言えそうです。2016年設立のEventHubは、オンラインイベント上で企業と参加者のマッチングやリード獲得を支援し、コロナ禍におけるバーチャルイベント需要に応えています。オフラインとのハイブリッドにも対応。

6位 Cliffhanger 1821(2020年04月13日発行)号掲載
ヘルスケア領域にAIを導入
ディープラーニングを用いたIoTサービスに取り組んでいるCliffhanger。医学部出身のエンジニアが多く、医療や人間にフォーカスした研究開発を行っており、画像情報を利用した病院・介護施設での見守りサービスなどを開発中です。さらに、量子コンピューティングの領域にも研究の幅を広げており、量子アニーリングを用いたゲノム解析の最適化手法を開発。従来長い時間を要していた塩基配列のつなぎ合わせ作業を大幅に短縮でき、製薬や遺伝子検査で活用が期待されているということです。

7位 カミナシ 1830(2020年06月22日発行)号掲載
「現場」のペーパーレスを推進
社名からもわかるように、従来紙が中心だった業務をデジタル化するためのソリューションを提供していますが、オフィスよりも工場や店舗といった「現場」の業務にフォーカスしているのがカミナシの特徴です。作業に必要な手順やマニュアルを登録しておくことで、アプリの指示に従って作業を行うだけで誰でも正しい業務を行うことができ、同時に作業記録や報告書が作成されます。今後はバックオフィスのシステムとの連携も視野に入れ、基幹業務を含めたペーパーレス化も行いたい考えです。

8位 Cogent Labs 1843(2020年09月28日発行)号掲載
AIでナレッジに新たな価値を
ナレッジワーカーは一日の業務の中でたくさんの情報に触れていますが、Cogent Labsではそのような人々の仕事を効率化するためのAIソリューションを開発しています。代表製品が手書き文字をデータ化するAI-OCRの「Tegaki」。新型コロナ禍では定額給付金申請書の読み取りにも採用されたということです。そのほか、自然言語処理プラットフォームの「Kaidoku」や、市場の時系列データから将来を予測するAIエンジンの「TSF」などを提供しています。

9位 ACES 1799(2019年11月04日発行)号掲載
松尾研の知見をビジネスに
AI研究で著名な東京大学松尾豊研究室出身のメンバーが中心となって設立されたスタートアップ。「ヒトの知見を数式化する会社」を掲げており、画像や映像から人の行動や感情などの状態を認識・解析するAIアルゴリズムを用いて、人が働く環境の定量化・最適化を支援しています。スポーツ選手の動作解析や、製造業における生産ライン全体の最適化などで、大手企業との共同プロジェクトの実績があります。アカデミアの世界で生まれる新しいアルゴリズムをいち早く取り入れられるのが強みです。

10位 スタディスト 1702(2017年11月13日発行)号掲載
手順管理で経営課題を解決
クラウド型のマニュアル作成・共有ツール「Teachme Biz」を提供しています。スマートフォンやタブレット端末でも簡単にマニュアルを作成し、従業員に確実に作業手順を伝えることが可能です。紙のマニュアルを電子化するだけでなく、人材の育成・定着や業務プロセス改善など、経営課題の解決支援が特徴。また、小売業における本部と店舗のコミュニケーションを円滑化するPDCAツール「Hansoku Cloud」も提供。オペレーションをマネジメントするプラットフォームを指向しています。

11位 GAUSS 1689(2017年08月07日発行)号掲載
競馬予想から需要予測へ
2017年5月の設立直後に取材したAIスタートアップ。大量のデータを学習して傾向を分析し、将来を予測するエンジンを開発しており、取材当時は公営競技予測サービス「AI競馬 SIVA」を提供していました。現在はそれに加えて需要予測で多くの実績を重ねており、食品のデリバリー、電力、コールセンターなどで人員配置の計画に活用されています。また、専門人材がいなくてもAIを運用できる「GAUSS Foundation Platform」をリリースし、より幅広い企業へのAI導入を支援しています。

12位 言語理解研究所/Intelligent Machines Amaze You 1710(2018年01月15日発行)号掲載
感情を読み取り、表すAI
言語理解研究所は、徳島大学工学部・青江研究室の研究成果を事業化する目的で設立されました。Intelligent Machines Amaze Youはその製品の展開を担当。両社タッグを組んで、自然言語処理に強みを持つAIエンジンの普及に努めています。著名な事例としては、企業の適時開示情報を基に決算の要点をまとめて文書化する、日本経済新聞の「決算サマリー」があります。文章から感情を読み取ったり、感情があるかのようなテキストを作成できるのも強みです。

日本のDXをイッポ前へ!
さらに高まるスタートアップ企業への期待
イッポまえだのよろしくスタートアップで取り上げた企業を振り返ってみて、特に印象深かったのは「顧客のビジネスへのAI活用を支援する」ことを生業とするスタートアップが多かった点です。惜しくもベスト12入りを逃した「もうすぐベスト12」にも、AIスタートアップが多く名を連ねました。
2015年あたりから、AI(+IoT)、ブロックチェーン、量子コンピューターなど、エマージングテクノロジーと呼ばれる先進技術に対する期待がものすごい勢いで大きく膨らみました。“バズっている”状態は過ぎてしまったかもしれませんが、社会実装のフェーズに移行した側面もあり、法人向けのIT市場や社会の変化に間違いなく大きな影響を及ぼしています。このプロセスにおいて、スタートアップ企業が果たした役割はやはり大きかったのだと思えます。
近年、スタートアップの事業環境は良好で、資金調達もしやすくなっていると言われます。新型コロナ禍という大きなアクシデントにしても、向かい風としての効果は限定的だという見方があります。
タレントエージェンシーサービスなどスタートアップ企業を支援する各種サービスを手がけるfor Startupsは、成長産業に特化した情報プラットフォーム「STARTUP DB」を運営しています。このSTARTUP DBのデータによると、国産スタートアップ企業全体の資金調達額は、19年が7010億円だったのに対して、20年は6800億円。微減という結果になりました。一方で、資金調達実施社数は19年が2009社だったのに対して20年は1686社まで落ち込んでいます。視点を変えれば、1社あたりの調達額の平均は増加しており(グラフ参照)、有望なスタートアップには積極的に投資する流れ自体は変わっていないと見ることもできそうです。

スタートアップ企業のIPOも20年は19年比で増加しています。この連載にも登場していただいたプレイド(CXプラットフォーム「KARTE」を提供)は20年12月、東証マザーズに上場し、初値時価総額が1000億円を超えました。直近では、採用プラットフォームサービスに加えてHRソリューションにも注力しているビジョナル(旧ビズリーチ)が今年4月に東証マザーズに上場しましたが、初値時価総額は2500億円に届く勢いの大型上場でした。両社に共通しているのは、上場時に国内の投資家だけでなく海外の投資家に対しても募集・売り出しを同時に行うグローバルオファリングを実施した点です。そういえば、本紙ニュース記事でお馴染みのfreeeも19年12月に東証マザーズに上場し、初値時価総額は1200億円を超えましたが、彼らもグローバルオファリングを選びました。
法人向けIT市場で活躍するスタートアップ企業への注目や期待は、依然として大きいと言えます。新型コロナ禍は、不確実な未来に柔軟に対応できる準備をすることの大切さを多くの人が改めて認識するきっかけにもなりました。その文脈上でDXの重要性も浮き彫りになっているわけですが、DX支援の担い手として、まだ見ぬスタートアップが大活躍するかもしれません。彼らのイノベーションこそが社会を前進させる大きな力になります。この連載がその土壌づくりに少しだけでも役立ったと信じて、一旦、筆をおきます。それでは皆さん、またいつかお会いしましょう!

デジタルトランスフォーメーションがIT業界のセールストークのためのキーワードではなくなり、進化し続けるデジタルテクノロジーを継続的に活用するという前提で社会システムそのものの再構築すら考えなければならない時代になりました。週刊BCNでは連載企画「イッポまえだのよろしくスタートアップ」で、イノベーションを担う注目のスタートアップ企業を取り上げてきましたが、彼らが果たすべき役割はより大きくなっています。新型コロナ禍により、法人向けIT市場におけるスタートアップの主戦場とも言えるクラウドサービスの需要はさらに高まっています。市場が新たなフェーズに到達したこのタイミングで、一旦この連載を締めくくります。フィナーレとして、2016年7月にスタートしたファーストシーズン、中断期間や単発の特集を挟んで19年8月に再開したセカンドシーズンを含めて振り返る総集編をお届けします。これからも、日本のIT業界はスタートアップとともにイッポ前へ!
(取材・文/前田幸慧、週刊BCN編集部)
目利きに自信アリ!? あの有名スタートアップもいち早く紹介!!
取材時から大きく飛躍した企業3選
「イッポまえだのよろしくスタートアップ」では法人向けIT市場に軸足を置く126社のスタートアップ企業を取材してきましたが、実は記事掲載後、大きく飛躍した企業も少なくないのです。そんな中から3社を厳選して紹介します。今や法人向けIT市場のキープレイヤーに成長しているケースもありますよ!スマートキャンプ 1636(2016年07月11日発行)号掲載
SaaS市場の裾野拡大でさらなる急伸も
記念すべき連載第1回目の登場企業は法人向けクラウドサービスマッチング「BOXIL」を手がけるスマートキャンプでした。設立からちょうど2年が経ったものの、また社員数8人の少数精鋭だった頃の取材でした。現在も代表取締役会長を務める創業者の古橋智史さんにご登場いただきました。

自身の会社勤めの経験や、先進国の中でも日本のホワイトカラーの労働生産性が低いという課題を踏まえ、営業の効率化を支援したいという思いがBOXILの開発・提供につながったというエピソードが印象的。「ゆくゆくはパッケージソフトや研修サービスなど、BtoBのあらゆる商材をBOXIL上でマッチングできるようにしていく」と熱く語ってくれました。
今やBOXILは法人向けSaaSを無料で比較・検討し、資料請求できるサイトとして、ITユーザーがSaaSの導入を考える時にアクセスするサービスとして確固たる地位を築いている感があります。SaaSベンダーにも、自社でアプローチしきれていないリードを獲得できる有力なマーケティングプラットフォームとして評価される場面が増えています。17年にリードマネジメントサービス「BALES」、19年にインサイドセールス特化型CRM「Biscuet(現BALES CLOUD)」をリリースするなど、BOXILを補完するような商材・サービスにもビジネス領域を拡大しています。
19年にはマネーフォワードグループに参画。プラットフォームとしての中立性を保ちつつ、SaaSの普及拡大に向けてさらにアクセルを踏む意向を示しました。新型コロナ禍はSaaS市場の裾野を拡大した側面もあり、BOXILの利用もさらに急激に伸びる可能性がありそうです。
ABEJA 1640(2016年08月08日発行)号掲載
小売りから介護・ヘルスケアにAI活用を拡大
ディープラーニングを活用した画像認識技術に強みを持ち、2018年にはグーグルからも出資を受けた急成長AIスタートアップとして知られるABEJAを、本連載では16年に取材していました。

当時同社が主力としていたのは、カメラ画像やセンサーデータを基に行う店舗分析ソリューション。顧客が来店してから店を出るまでに店内でどのような動線で行動したか、来店客の属性(性別・年齢)はどのような分布か、リピーターの比率はどれほどかといった情報を可視化できます。これまで多くの小売店ではポイントカードがマーケティング施策として活用されてきましたが、ポイントカードは商品を購入した顧客の傾向しか分かりません。画像を分析することで、顧客が「なぜ買ったか」に加え「なぜ買わなかったか」まで分かるのがABEJAの特徴です。
そして同社は今年4月、SOMPOホールディングスと資本提携を結びました。SOMPOはABEJA株の2割強を取得。介護・ヘルスケア事業や損害保険事業で、機械学習を用いた予測モデルの構築に取り組むほか、SOMPOグループ全体のAI活用を加速していく役割を担います。
プログラミング不要でビジネスに合わせたAIモデルの作成・運用が簡単にできる仕組みを提供する「ABEJA Platform」や、ABEJA Platformを利用した店舗解析サービスである「ABEJA Insight for Retail」もユーザーを積み重ねています。小売りから製造業、ヘルスケアまで、幅広い領域でAI活用を進めています。
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