ITをフル活用した成長モデルを自ら実践
奥田 大戦略を主導されて、01年には社長に就かれました。
大塚 社長になってからは、基本的には仕事をしていないですね(笑)。
奥田 しかし会社としては非常に順調に成長しています。
大塚 骨格は既に出来上がっていましたからね。基幹系の後に、「SPR(Sales Process Re-engineering)」という顧客管理と営業支援のシステムも整備しました。お客様情報、取引履歴、コンタクト情報などを蓄積・分析した上で、お客様ごとに最適なタイミングで最適な提案をするというもので、申し上げたように基幹系ともつながっています。お客様へのコンタクト数あたりの案件獲得率は約4%だったのが、導入後、14~15%まで上がりました。これは営業パーソンが3~4倍に増えたのと同じ効果ですよね。近年も人を増やさずに売り上げを伸ばしてきましたが、そのバックボーンがSPRなんです。
奥田 まさに自社が率先して新しいデジタルテクノロジーを活用し、それを前提とした組織づくりや企業文化につくりかえてきたわけですよね。先ほどおっしゃったように、本来のDXの定義に非常に近い取り組みだと感じます。社長ご就任前にそのコンセプトづくりや基盤整備を主導し、ご就任後は計画を粛々と実行に移してこられたということでしょうか。
大塚 PC-LANの時代になったころからが顕著なんですが、自社が売っているものを自社でしっかり使えているというのは、お客様に自信を持って提案できる土台になりましたね。それは今も変わりません。
最近でも、例えば東日本大震災の2カ月前に、大塚商会は全社的に電話をVoIPに変えていたんです。おかげで仙台の拠点との連絡も全然支障が出なかったですし、音声通信にIPネットワークを使うメリットを説得力を持って説明できるようになりました。
20年の初頭にはコンタクトセンターのシステムを刷新し、オペレーターが完全に在宅で業務できる環境を整えました。当社のお客様の8割は中小企業ですが、中小企業こそコンタクトセンターのニーズは高く、効率よく適切なサポートを提供するには欠かせない機能です。結果的にこの投資が、新型コロナ禍でもコンタクトセンターの規模を縮小せずに済んだ要因になりました。
ブームに流されず本質を捉えた報道を
奥田 経営の基本的な考え方は変わらずとも、新しい技術がどんどん出てくる中で、それをどう活用するかを考えて方針をアップデートしていくことは必要だと思います。現在取り組まれていることについてもぜひお聞かせください。
大塚 「大戦略II」は07年から継続して議論しており、めどが立ったものから具体的な取り組みに落としているところです。(オフィス用品の通販サービスである)「たのめーる」も非常に多くのお客様にご利用いただくようになりましたから、当社の営業パーソンが直接リーチできていないお客様も含め、お客様ごとのポータルサイトを用意して関係の再構築を図っているのが、目下、最も主要な取り組みと言えます。
奥田 デジタルマーケティングの手法もフル活用して、より多くの顧客とワン・トゥ・ワンでエンゲージメント強化を図っているということですね。
大塚 新しい商材としては、AIを活用したIoTソリューションのニーズが高まり始めたりといった状況がありますが、非常に好調なのは、昨年の緊急措置的なテレワーク対応で課題が鮮明になったネットワーク関連の最新ソリューションです。
クラウドの需要も従来以上に伸びましたが、当社はインターネットを活用したサービスも、25年前からやっているんです。あまりそういう印象はないかもしれませんが(笑)。インターネット接続サービスはYahoo! JAPANができる1年前に始めましたし、昨年度のクラウド関連商材の売り上げは260億円くらいの規模になっています。これは、例えば国内の有力SaaS企業などと比べてもかなり大きな規模と言えます。
こうした点も含めて、幅広い商材とサービスを揃えて、お客様のお困りごとを解決できる独自の立ち位置にいるのは間違いない。お客様目線で全体の課題を見渡した提案ができるようなキャパシティをさらに増やしていきたいと思っています。ITは生産性を上げてコストを下げるツールです。お客様のビジョンを理解した上で、自分たちはITのプロとして何が提案できるかという姿勢を大事にしたい。そこは道半ばです。
奥田 DX云々以前に、新型コロナ禍を契機に中小企業や地方ではデジタル化も不十分であるという現実が浮き彫りになった感があります。
大塚 そこは本当にこれから解決しなければいけない課題ですよね。電子契約や改正電子帳簿保存法への対応、ペーパーレス化など、多くの中小企業が解決できていない基本的な課題はたくさんあります。全国の中小企業を顧客とする当社としても、そうした状況を変えていく責任があることを、強く意識しています。経営者がビジョンを持ってITを使いこなしていくことの重要性を啓発していくような取り組みも必要かもしれません。
奥田 最後に、業界専門メディアが果たすべき役割についても、コメントをいただけますでしょうか。
大塚 BCNができた頃はオフコンの黎明期で、メーカー以外でコンピューターの情報をしっかり発信してくれていたのは週刊BCNくらいでした。
その後、市場にもいろいろなトレンドの変遷があったわけですが、一過性のブームに惑わされず、本質的な報道を続けてほしいと思います。何事にも長所と短所があります。例えばクラウドをとっても、パブリッククラウドが全てなのかというと、そうではない場面も実際はあるでしょう。SaaS市場も成長が著しいですが、拡張性が十分ではない単機能のSaaSでは解決できない課題があることも否定できません。市場を長年追ってきたからこその洞察を、今後も紙面を通して伝えてほしいですね。
■PROFILE
大塚裕司
1954年2月、東京生まれ。76年3月、立教大学経済学部卒業。同年4月、横浜銀行入行。80年12月、リコー入社。81年11月、大塚商会入社。90年10月、バーズ情報科学研究所入社。92年3月、大塚商会取締役就任。2001年8月より現職。06年から19年半ばまで日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)会長を務めた。
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会社概要
大塚商会
コンピューター、複合機、通信機器、ソフトウェアの販売から受託開発、システムインテグレーション、保守サービス、オフィス用品の通販までカバーする総合ITソリューションベンダー。1961年、先代社長の大塚實氏が複写機事業を中心に手がける会社として東京・秋葉原で創業。現在は全国に拠点を持ち、顧客層もSMBから大企業まで幅広い。2020年度(20年12月期)売上高は8363億2300万円。21年度売上高は8810億円を見込む。