Special Feature
始まる固定電話の改革 通信キャリア系ベンダーが強い意欲 クラウドPBXでSaaS連携が加速
2021/11/04 09:00
週刊BCN 2021年11月01日vol.1897掲載

「クラウドPBX」による固定電話の改革が本格化しつつある。クラウド化することで場所の制約がなくなるとともに、安価で使い勝手のよいSaaSアプリとの連携が容易になるなど業務効率の向上が見込める。需要増を見越して通信キャリア系ベンダーはクラウドPBX事業の拡大に強い意欲を示している。折しもコロナ禍のリモートワークで浮き彫りになった課題の一つが、代表電話やコンタクトセンターなどで使う固定電話の存在だ。リモートワークをきっかけにPBXのクラウド化に踏み切った企業も多く、この領域のビジネスの勢いが増している。
(取材・文/安藤章司)
“緊急避難”的にクラウドPBXを採用
リモートワークの推進を妨げる要因として、紙書類に押印するために出社する「ハンコ出社」、ファックスを送受信するための「ファックス出社」、そして大代表や部門代表の電話番をするための「電話出社」などが挙げられる。コロナ禍で多くの企業が電子契約の仕組みを導入したり、手元のパソコンやスマートフォンでファックスを送受信できる環境を整備したりした。電話についても、クラウドPBXを導入して在宅でも会社の固定電話にかかってきた電話を取れるようにした企業は多い。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は、オフィス向けからコンタクトセンター向けまで幅広い商品ラインナップでクラウドPBXを揃えている。コロナ禍に見舞われた2020年度(21年3月期)を振り返ると、「明らかに市場の温度感が変わった」(高橋聡子・第一サービスクリエーション部門長)といい、顧客からの引き合いが増えた。20年度のユーザー数は前年度比3割増となるなど、クラウドPBXサービスのユーザー数や利用頻度は増加傾向にある。
内訳を見ると、オフィス向けの比較的シンプルなクラウドPBXサービスや、マイクロソフトのTeamsと連携して使うPBXサービスがよく売れた。現在は、より多機能なクラウドPBXサービスや、大規模コールセンターの刷新に向けた商談が活性化する兆しが見え始めている段階だという。コロナ禍が始まって、まずは“緊急避難”的に社内に設置してあるオンプレミス型のPBXをクラウド化したり、Teamsを導入する一環としてPBX機能を付加する動きがあったことが、同社の売れ筋の動向を通じてうかがい知れる。
NTTコムでは、20年7月からTeamsを使った音声通話においても、地域を示す「03」「06」といった局番で始まる電話番号を相手先に表示するサービスを追加。本社オフィスの大代表や部門代表の電話を在宅でも受けられるのはもちろん、在宅から発信した電話でも、会社の代表電話の番号を相手先に表示することが可能になった。ここで重要なのは、自宅でパソコンにつないだヘッドセットや、スマホといった「ビジネスフォン以外のデバイスで取引先と通話する体験を実際にしたこと」だと、藤平武巳・第一サービスクリエーション部門第三グループ担当課長は話す。
ビジネスフォンの固定観念が崩れる
会社にかかってきた電話は卓上の大きなビジネスフォンで取るという固定観念が崩れ、TeamsやZoomと同じ感覚で取引先と電話する行動様式の変化が、「今後のクラウドPBX関連ビジネスに大きなプラスインパクトを与える」(藤平担当課長)というのだ。つまり、会社にかかってきた電話はビジネスフォンという特別なデバイスでしか受けられないものではなく、パソコンやスマホを使って、どこにいても使えるように変わったことを意味している。また、Teamsをはじめビデオやチャット、メールなどさまざまなSaaSアプリケーションと連携させる、いわゆる「ユニファイドコミュニケーション(UC)」化することで、仕事上のコミュニケーションの在り方も変化する可能性が高い。UCは音声をコンテンツの一つに位置づけ、チャットやメール、ビデオといったメディアを統合するもので、TeamsやZoomもUCのコンセプトの一部を具現化しているツールだと言える。コロナ禍以前は、UCソリューションに触れるのはコンタクトセンターやヘルプデスクといったセンター業務の担当者に限られていたが、今やセンター業務以外の一般社員もUCの利用を経験することになった。
NTTコムでは、チャットやビデオツールとの一層の連携や、各社のSaaS系業務アプリとの連携を加速させていくことで、今年度も昨年度同様のユーザー数の伸びを見込むとともに、より多機能で高度なコミュニケーション手段の統合を進めていくことがクラウドPBX関連ビジネスを伸ばすことにつながると見ている。
SaaSアプリと一体化して売り込む
ソフトバンクが一部出資し、同社が国内独占販売権を持つ米ダイアルパッド(Dialpad)の直近の国内ユーザー数は約1400社、人数ベースで約6万5000人に増えた。国内でコロナ禍が深刻化する直前の20年1月に比べて2倍余りの伸びである。大きく伸びた要因は、Microsoft 365やGoogle WorkspaceなどのSaaS型オフィスアプリケーションとの相性の良さに加え、SalesforceやZoho CRMなどの営業支援、顧客管理ツールと簡単に連携できる点が挙げられる。実際、販売チャネルをみると「ユーザー企業の情報システム部門がオフィスソフトやSaaS系業務アプリと連携させる設定をして、自力で導入するケースが9割を占める」と、米ダイアルパッドのアジア太平洋地域ゼネラルマネージャー兼日本法人社長の安達天資氏は話す。ライセンスの販売はソフトバンクが行い、自社内への導入に際しては顧客自身が簡単な設定作業を行うだけで、SaaSアプリ同士の連携ができてしまう手軽さが国内ユーザー企業から高く評価された。
コロナ禍の緊急避難的なリモートワークが、「期せずして電話とその他のコミュニケーションツール、業務アプリの融合を後押しした」と、安達社長は見ている。これまでは、電話とチャット、ビデオなどを統合するUC、電話と業務アプリを連携させるCTI(コンピューターと電話の融合)は、コンタクトセンター業務などごく限られた用途で使われていたが、コロナ禍をきっかけに会社全体の情報インフラとして浸透した。
ダイアルパッドやオフィスソフト、営業支援、顧客管理、情報共有など使い勝手のよいSaaSアプリがかつてない勢いで増えて、誰でも簡単に組み合わせて使えるようになった今、UCやCTIの仕組みを会社の情報インフラとして定着化させることは、もはや必然的な流れ。「会社のインフラが整備され、情報受け渡しの選択肢の自由度が高い企業と、そうでない企業とでは生産性に大きな差が生まれる」と、安達社長は予測している。
同社では国内市場向けに22年の早い段階で、ビデオ通話や自然言語処理AIによる音声分析機能などを実装する予定であり、新機能の拡充を急ピッチで進めていく。音声のみの場合はユーザー企業自身で容易に導入できるが、AIを活用した会話分析まで踏み込んでいくとより高度なシステム構築(SI)能力が求められる。ソフトバンクを国内総代理店としつつも、クラウドPBX回りのSIに長け、なおかつ音声やチャット、メールのデータの統合的な分析ノウハウを持つSIパートナーとの連携を深め、販売チャネルの多様化、高度化に力を入れる。こうした取り組みによって、向こう数年はユーザー数を毎年2倍に増やしていくペースを維持していく構えだ。
人々は電話番号を意識しなくなる
KDDIウェブコミュニケーションズ(KDDIウェブ)の山崎雅人社長は、「電話番号やURLを人々はあまり意識しなくなっていく」と見ている。電話が物理的なビジネスフォンとして事務机の上に鎮座する時代から、業務アプリケーションに埋め込まれる時代になると、電話番号がそれほど大きな意味を持たなくなると指摘。ちょうど、スマートフォン時代になり、以前のパソコン全盛の時代に比べて「https://www.……」といったURLを強く意識しなくなったのと同じで、検索やSNSなどのアプリケーションのリンクから移動するのと同じ感覚で電話が使われるようになるというのだ。すでに社内のやりとりでは、スマホの住所録からタップ一つで電話をかけ、ビデオやチャットも電話番号やURLを意識することはほとんどなくなっている。取引先や顧客など社外とのやりとりについても、音声やビデオ、チャットの融合が進んでいくのは「もはや時間の問題」だと山崎社長は見ている。
KDDIウェブは、米トゥイリオ(Twilio)が開発している、電話とWebを融合させるサービスを13年、国内市場に初めて持ち込んだ。以来Twilioの国内トップセラーとして6万ライセンス余りを販売してきた実績を誇る。当時は、ネット通販で気に入った商品の横に「電話をかける」ボタンを用意し、購入希望者がそのボタンを押すと通販運営会社のコンタクトセンターに電話がつながる用途を主に想定していた。純粋なクラウドPBX向け商材というよりは、山崎社長が予測するように将来の音声通話の在り方の変化を見越し、電話番号を意識せずネットからスムーズに電話をかけるという発想からスタートした商材である。
青木宏憲・Twilio本部本部長は、「アイデア次第で音声通話というコミュニケーション手段はより使い勝手のよいものに生まれ変わる」とし、クラウドやSaaSアプリと融合させることでビジネスを伸ばしていく。実際、Twilioを導入した顧客を見ると、最初の1年は既存の電話を置き換えるクラウドPBX的な使い方が多いが、2年目以降は電話の概念から徐々に離れ、「他の多様なコミュニケーション手段と融合し、応用的な使い方へと発展するケースが多い」(青木本部長)という。Twilio経由の通信トラフィックが増えれば、それだけKDDIウェブのビジネス拡大にもつながる。
コロナ禍がきっかけでクラウドPBXへの移行に弾みがついたが、電話がクラウドへ移行することで、SaaSアプリとの連携が加速度的に進む可能性が高まっている。折しも24年1月からは、NTT東西地域会社が電話交換機の運用を順次終了し、IP網への移行を開始する。NTTやソフトバンク、KDDIなど主要な通信キャリアもこうした変化を見越して、将来の音声通話を巡るビジネスに先手を打つ姿勢を強めている。

「クラウドPBX」による固定電話の改革が本格化しつつある。クラウド化することで場所の制約がなくなるとともに、安価で使い勝手のよいSaaSアプリとの連携が容易になるなど業務効率の向上が見込める。需要増を見越して通信キャリア系ベンダーはクラウドPBX事業の拡大に強い意欲を示している。折しもコロナ禍のリモートワークで浮き彫りになった課題の一つが、代表電話やコンタクトセンターなどで使う固定電話の存在だ。リモートワークをきっかけにPBXのクラウド化に踏み切った企業も多く、この領域のビジネスの勢いが増している。
(取材・文/安藤章司)
“緊急避難”的にクラウドPBXを採用
リモートワークの推進を妨げる要因として、紙書類に押印するために出社する「ハンコ出社」、ファックスを送受信するための「ファックス出社」、そして大代表や部門代表の電話番をするための「電話出社」などが挙げられる。コロナ禍で多くの企業が電子契約の仕組みを導入したり、手元のパソコンやスマートフォンでファックスを送受信できる環境を整備したりした。電話についても、クラウドPBXを導入して在宅でも会社の固定電話にかかってきた電話を取れるようにした企業は多い。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は、オフィス向けからコンタクトセンター向けまで幅広い商品ラインナップでクラウドPBXを揃えている。コロナ禍に見舞われた2020年度(21年3月期)を振り返ると、「明らかに市場の温度感が変わった」(高橋聡子・第一サービスクリエーション部門長)といい、顧客からの引き合いが増えた。20年度のユーザー数は前年度比3割増となるなど、クラウドPBXサービスのユーザー数や利用頻度は増加傾向にある。
内訳を見ると、オフィス向けの比較的シンプルなクラウドPBXサービスや、マイクロソフトのTeamsと連携して使うPBXサービスがよく売れた。現在は、より多機能なクラウドPBXサービスや、大規模コールセンターの刷新に向けた商談が活性化する兆しが見え始めている段階だという。コロナ禍が始まって、まずは“緊急避難”的に社内に設置してあるオンプレミス型のPBXをクラウド化したり、Teamsを導入する一環としてPBX機能を付加する動きがあったことが、同社の売れ筋の動向を通じてうかがい知れる。
NTTコムでは、20年7月からTeamsを使った音声通話においても、地域を示す「03」「06」といった局番で始まる電話番号を相手先に表示するサービスを追加。本社オフィスの大代表や部門代表の電話を在宅でも受けられるのはもちろん、在宅から発信した電話でも、会社の代表電話の番号を相手先に表示することが可能になった。ここで重要なのは、自宅でパソコンにつないだヘッドセットや、スマホといった「ビジネスフォン以外のデバイスで取引先と通話する体験を実際にしたこと」だと、藤平武巳・第一サービスクリエーション部門第三グループ担当課長は話す。
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- ビジネスフォンの固定観念が崩れる 行動様式の変化がクラウドPBX関連ビジネスに大きなプラスインパクト
- ソフトバンクが国内独占販売権を持つ米ダイアルパッド SaaSアプリと一体化して売り込む
- KDDIウェブコミュニケーションズが国内トップセラーの米トゥイリオ(Twilio) クラウドやSaaSアプリとの融合でビジネスを伸ばす
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