DXの概念が徐々に社会に広がり、企業では新しいデジタルツールを導入し、ローコード/ノーコードツールを使って自社業務に最適なアプリケーションを内製する動きが活発になっている。そこで改めて見直したい存在が、業務ITツールの先駆け的存在の「Notes」である。Notesアプリは今もなお多くの企業で稼働しており、DXの文脈では”負の遺産”との見方も根強い。実際、他のグループウェアへリプレースされる例も多く、まるで「草刈り場」の雰囲気も漂う。しかし、Notesの設計思想を紐解くと、決して古くはなく、むしろ今の時代でこそ輝くようにも見えてくる。実はNotesも大きな進化を遂げている。DXの基盤として活用することも夢物語ではないのである。
(取材・文/石田仁志  編集/藤岡 堯)

グループウェアのデファクトから一転して企業ITの負の遺産へ

 Notesは1989年にロータス・デベロップメントによって開発され、日本では91年に販売が開始された。95年にはIBMがロータスを買収、その後、2019年にインドのHCLテクノロジーズに事業譲渡されている。製品は一括りに“Notes”と称されがちだが、正確にはサーバー上の開発環境として「Domino」、クライアント側の実行環境として「Notes」があり、現在、製品群の正式名称は「HCL Notes/Domino」となっている。

 Notesは、90年代のIT化の流れに乗り、瞬く間にサーバー/クライアント型グループウェアのデファクト製品となった。IBMブランドの後押しもあり、国内では当時全ての都市銀行が導入するほどの隆盛を極めた。

 しかし、栄枯盛衰は世の理。企業システムのWeb化が始まるとアーキテクチャー面で徐々に時代と合わなくなり始めた。クラウド化が加速しても状況は変わらず、市場からはIBMが諦めたプロダクトという視線が注がれていく。それでも、Notesは企業が業務プロセスのIT化を目的に導入したテクノロジーであったため、日々の業務と蜜結合しており、置き換えることも容易ではなく、長期にわたり負の遺産とみなされていた。

もうWebでもクラウドでも動くVolt/Nomadで最新の環境に適応

 そのような状況が長らく続いていたが、HCLはNotesを今のニーズを満たす製品にアップデートする試みを続けてきた。ネックだったサーバー/クライアントの縛りから脱却し、既存のNotesアプリもクラウドやモバイルで動く。最新版のV12で、ノーコード/ローコードツールの「HCL Domino Volt」と、Web・モバイル実行環境の「HCL Nomad Web」が加わり、ブラウザーやモバイルベースでのノーコード/ローコード開発および実行を可能としたスイート製品に進化を果たしたのだ。

 そもそもNotes/Dominoは、当初から現場の要求に合わせて柔軟に業務アプリを開発できるという設計思想を持っている。グループウェアとしての存在感が際立っていたので、その部分があまり理解されてこなかった面もあるが、実はDXの基盤として求められる考え方を備えた、今の時代にこそ生きるツールと言えよう。

 Notesの最大の強みとなるのが、既存資産との連携性である。HCLの発表によると、現在もグローバルでユーザーは1万5000社、1000万以上のアプリが稼働しており、それらは長期にわたって利用されてきたワークフローとして企業活動に染みついている。そこをスクラップ&ビルドで他の仕組みに置き換えるとなれば、大出血も覚悟しなければならないだろう。それならば、後継のアーキテクチャーを活用し、既存の環境をすっきりと進化させていくほうが自然ではないか。

 仮にNotesをバージョンアップすれば、塩漬けになっているアプリも蘇る。「Microsoft 365」や「Slack」「Salesforce」など各種SaaSとも併用できるため、SIerもソリューション提供やアプリ開発でビジネスに繋げることができる。結果として、あまり費用をかけないDX基盤の整備というシナリオが描きやすくなる。