Special Feature
「草刈り場」とは言わせない! DX時代でこそ輝くNotesの設計思想
2021/12/09 09:00
週刊BCN 2021年12月06日vol.1902掲載

DXの概念が徐々に社会に広がり、企業では新しいデジタルツールを導入し、ローコード/ノーコードツールを使って自社業務に最適なアプリケーションを内製する動きが活発になっている。そこで改めて見直したい存在が、業務ITツールの先駆け的存在の「Notes」である。Notesアプリは今もなお多くの企業で稼働しており、DXの文脈では”負の遺産”との見方も根強い。実際、他のグループウェアへリプレースされる例も多く、まるで「草刈り場」の雰囲気も漂う。しかし、Notesの設計思想を紐解くと、決して古くはなく、むしろ今の時代でこそ輝くようにも見えてくる。実はNotesも大きな進化を遂げている。DXの基盤として活用することも夢物語ではないのである。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
グループウェアのデファクトから一転して企業ITの負の遺産へ
Notesは1989年にロータス・デベロップメントによって開発され、日本では91年に販売が開始された。95年にはIBMがロータスを買収、その後、2019年にインドのHCLテクノロジーズに事業譲渡されている。製品は一括りに“Notes”と称されがちだが、正確にはサーバー上の開発環境として「Domino」、クライアント側の実行環境として「Notes」があり、現在、製品群の正式名称は「HCL Notes/Domino」となっている。Notesは、90年代のIT化の流れに乗り、瞬く間にサーバー/クライアント型グループウェアのデファクト製品となった。IBMブランドの後押しもあり、国内では当時全ての都市銀行が導入するほどの隆盛を極めた。
しかし、栄枯盛衰は世の理。企業システムのWeb化が始まるとアーキテクチャー面で徐々に時代と合わなくなり始めた。クラウド化が加速しても状況は変わらず、市場からはIBMが諦めたプロダクトという視線が注がれていく。それでも、Notesは企業が業務プロセスのIT化を目的に導入したテクノロジーであったため、日々の業務と蜜結合しており、置き換えることも容易ではなく、長期にわたり負の遺産とみなされていた。
もうWebでもクラウドでも動くVolt/Nomadで最新の環境に適応
そのような状況が長らく続いていたが、HCLはNotesを今のニーズを満たす製品にアップデートする試みを続けてきた。ネックだったサーバー/クライアントの縛りから脱却し、既存のNotesアプリもクラウドやモバイルで動く。最新版のV12で、ノーコード/ローコードツールの「HCL Domino Volt」と、Web・モバイル実行環境の「HCL Nomad Web」が加わり、ブラウザーやモバイルベースでのノーコード/ローコード開発および実行を可能としたスイート製品に進化を果たしたのだ。そもそもNotes/Dominoは、当初から現場の要求に合わせて柔軟に業務アプリを開発できるという設計思想を持っている。グループウェアとしての存在感が際立っていたので、その部分があまり理解されてこなかった面もあるが、実はDXの基盤として求められる考え方を備えた、今の時代にこそ生きるツールと言えよう。
Notesの最大の強みとなるのが、既存資産との連携性である。HCLの発表によると、現在もグローバルでユーザーは1万5000社、1000万以上のアプリが稼働しており、それらは長期にわたって利用されてきたワークフローとして企業活動に染みついている。そこをスクラップ&ビルドで他の仕組みに置き換えるとなれば、大出血も覚悟しなければならないだろう。それならば、後継のアーキテクチャーを活用し、既存の環境をすっきりと進化させていくほうが自然ではないか。
仮にNotesをバージョンアップすれば、塩漬けになっているアプリも蘇る。「Microsoft 365」や「Slack」「Salesforce」など各種SaaSとも併用できるため、SIerもソリューション提供やアプリ開発でビジネスに繋げることができる。結果として、あまり費用をかけないDX基盤の整備というシナリオが描きやすくなる。
“情報がない”問題の解消へ負のイメージを払しょく
HCL
このように、Notesが抱えてきた“古い”“重い”“進化が見えない”という負の課題には手当てがなされてきた。しかしもう一つ、“情報が少ない”という問題が残る。これまで息を潜めていた分、その影響は甚大だ。ただしプロダクトが整い、HCL側は反転攻勢に打って出る構えだ。HCLテクノロジーズはNotes/Dominoを引き継いだタイミングで、エンタープライズ向けソフトウェア事業を「HCLソフトウェア」の名称で展開している。しかし、HCLは譲渡以前からIBMのソフトウェア製品の開発とサポートを担当しており、Notes/Dominoとの付き合いは長い。その基礎があるからこそ、譲渡後から短期間で大きく進化を遂げることができた。
エイチシーエル・ジャパンの出羽啓祐・カントリーマネージャーは、「IBM時代にはロードマップが描けず、結果としてユーザーにNotesは古いというイメージを定着させてしまった。しかし今は従来の思想を踏襲しつつ継続投資をしていて、長期のスパンでNotes/Dominoを発展させていく計画を持っている」と話す。
すでにNotesは従来のようなオールインワンの閉じたパッケージ製品という作りではなく、APIベースでの他のデジタルツールと積極的に連携していく設計となっている。SaaSツールを活用しつつ、足りない部分を従来のNotesアプリ同様にVoltで迅速に自社開発できる。
「多くの企業でSaaSのチャットやグループウェアを取り入れているが、SaaSだけでは日報や見積もりなどの汎用的な業務に対応できないという声を聞く。そこをNotesは簡単にカバーできる」(出羽カントリーマネージャー)。こうしたノーコード/ローコードツール特有の機能に加えて、設計思想の踏襲による従来のNotes資産との連携、つまり既存のワークフローやデータベースとの連携が容易であることが大きな強みとなる。
パートナー戦略については、従来のパッケージ販売ビジネスから抜け出し、クラウドを含め、顧客のIT環境に応じた柔軟な提案が行えるよう、パートナープログラムや教育体制の拡充を図っていく方針だ。
同社ビジネスパートナーセールスの鴨志田喜弘・シニアビジネスパートナーエグゼクティブは「Notes/Dominoを利用するエンドユーザー企業や販売・開発をサポートするパートナーでつくる『Notesコンソーシアム』は25年間にわたって活動し、アプリの開発方法やユーザー事例などに関する情報交換を行っている。パートナー向けの勉強会も毎月開催している」と話し、運用ノウハウは得られやすい環境にあることを訴える。
パートナーのSIer、販売店向けに販売シナリオを用意
SB C&S
ようやくメーカーがアピールを開始したとはいえ、現状、HCLの国内での知名度は決して高くはない。そこで重要なのが、メーカーの方針をかみ砕いてユーザーに伝えることができるパートナーの存在である。Notesの進化はビジネスパートナーにはどう映っているのか。Notes/DominoのDX基盤としてのポテンシャルに注目しているのが、ディストリビューターとしてNotesビジネスを展開してきたSB C&Sである。ICT事業本部クラウド・ソフトウェア推進本部ビジネスソフトウェア推進統括部の山口健二・統括部長は、「これまで散々、競合製品にリプレースされてきたが、それでもユーザーは何十万と存在している。そのユーザーに対し、Notesをそのまま使ってもらいつつ、V12へのバージョンアップでWebやモバイル対応基盤を実装し、モダンアプリケーションとの接続をクロスセルしてDXにつながる提案をしていく」とシナリオを描く。
山口統括部長が注目するのは、過去にNotesで開発されたワークフロー部分である。それらの塩漬けされたアプリを、AI-OCR、RPA、SaaSなどの外部ソリューションと連携させてモダナイゼーションしていくのが効果的という考えの下、ソリューションパッケージメニューやワークフローのストーリーを揃えていく。
また、今まではNotesクライアントが入ったPCでないとアプリが動かなかったため、Notesユーザーはテレワークが難しかったが、NomadでWebやモバイルのアプリとして動くようになり、場所を選ばない働き方が可能になった。ビジネスソフトウェアマーケティング部3課の小野口祥弘・課長は「Web、スマートフォンへとカバー範囲が広がった」と歓迎する。
ユーザーに製品を提案するSIerに対しては、単に“新しいNotes”というアプローチでは「過去の製品」という先入観が邪魔するため、あえて前面には出さず、改正電子帳簿保存法に対応するためのソリューション、ローコードやAPI連携でアジャイル開発をおこなうためのDevOpsツール、伴走型SIの基盤などと具体的な課題を解決するための技術手法の一つとしてPRする。
SB C&SはHCLと連携し、既存のNotesユーザーに対するDX支援ビジネスを強化していく計画だ。「これからセミナーやイベントへの露出、パートナーに対する投資もおこなう。安心してNotesビジネスに飛び込んできて欲しい」(山口統括部長)とSIerに呼びかける。
Notesを進化させる“脱Notes”というサスティナブルなアプローチ
現在のNotesは、ほとんどのユーザーやSIerから「過去の遺物」とみなされている。脱Notesというと提案が通りやすくなり、案件化すれば大きな利益が見込める。しかし一方では、ワークフローに深く入り組んだNotesのマイグレーションが終わらない事案も散見される。そのリスクも鑑み、使い慣れたものを生かしてモダナイズしていくというアプローチも検討すべきだろう。SIerや販売店は、変化への即応や課題解決が求められる時代に、ただ新しいからという理由で製品を提案したり、安易にシステム開発を提案するスタイルでは、ユーザーからの信頼は得られない。Notesを生かすアプローチは、「人・モノ・金」のシステム開発を再考し、開発にも持続可能性という要素を取り入れるためのよい機会になるはずである。

DXの概念が徐々に社会に広がり、企業では新しいデジタルツールを導入し、ローコード/ノーコードツールを使って自社業務に最適なアプリケーションを内製する動きが活発になっている。そこで改めて見直したい存在が、業務ITツールの先駆け的存在の「Notes」である。Notesアプリは今もなお多くの企業で稼働しており、DXの文脈では”負の遺産”との見方も根強い。実際、他のグループウェアへリプレースされる例も多く、まるで「草刈り場」の雰囲気も漂う。しかし、Notesの設計思想を紐解くと、決して古くはなく、むしろ今の時代でこそ輝くようにも見えてくる。実はNotesも大きな進化を遂げている。DXの基盤として活用することも夢物語ではないのである。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
グループウェアのデファクトから一転して企業ITの負の遺産へ
Notesは1989年にロータス・デベロップメントによって開発され、日本では91年に販売が開始された。95年にはIBMがロータスを買収、その後、2019年にインドのHCLテクノロジーズに事業譲渡されている。製品は一括りに“Notes”と称されがちだが、正確にはサーバー上の開発環境として「Domino」、クライアント側の実行環境として「Notes」があり、現在、製品群の正式名称は「HCL Notes/Domino」となっている。Notesは、90年代のIT化の流れに乗り、瞬く間にサーバー/クライアント型グループウェアのデファクト製品となった。IBMブランドの後押しもあり、国内では当時全ての都市銀行が導入するほどの隆盛を極めた。
しかし、栄枯盛衰は世の理。企業システムのWeb化が始まるとアーキテクチャー面で徐々に時代と合わなくなり始めた。クラウド化が加速しても状況は変わらず、市場からはIBMが諦めたプロダクトという視線が注がれていく。それでも、Notesは企業が業務プロセスのIT化を目的に導入したテクノロジーであったため、日々の業務と蜜結合しており、置き換えることも容易ではなく、長期にわたり負の遺産とみなされていた。
もうWebでもクラウドでも動くVolt/Nomadで最新の環境に適応
そのような状況が長らく続いていたが、HCLはNotesを今のニーズを満たす製品にアップデートする試みを続けてきた。ネックだったサーバー/クライアントの縛りから脱却し、既存のNotesアプリもクラウドやモバイルで動く。最新版のV12で、ノーコード/ローコードツールの「HCL Domino Volt」と、Web・モバイル実行環境の「HCL Nomad Web」が加わり、ブラウザーやモバイルベースでのノーコード/ローコード開発および実行を可能としたスイート製品に進化を果たしたのだ。そもそもNotes/Dominoは、当初から現場の要求に合わせて柔軟に業務アプリを開発できるという設計思想を持っている。グループウェアとしての存在感が際立っていたので、その部分があまり理解されてこなかった面もあるが、実はDXの基盤として求められる考え方を備えた、今の時代にこそ生きるツールと言えよう。
Notesの最大の強みとなるのが、既存資産との連携性である。HCLの発表によると、現在もグローバルでユーザーは1万5000社、1000万以上のアプリが稼働しており、それらは長期にわたって利用されてきたワークフローとして企業活動に染みついている。そこをスクラップ&ビルドで他の仕組みに置き換えるとなれば、大出血も覚悟しなければならないだろう。それならば、後継のアーキテクチャーを活用し、既存の環境をすっきりと進化させていくほうが自然ではないか。
仮にNotesをバージョンアップすれば、塩漬けになっているアプリも蘇る。「Microsoft 365」や「Slack」「Salesforce」など各種SaaSとも併用できるため、SIerもソリューション提供やアプリ開発でビジネスに繋げることができる。結果として、あまり費用をかけないDX基盤の整備というシナリオが描きやすくなる。
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- HCL “情報がない”問題の解消へ負のイメージを払しょく
- Notesの進化はビジネスパートナーにはどう映っているのか?SB C&S パートナーのSIer、販売店向けに販売シナリオを用意
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