Special Feature
オフィスの再定義が本格化 「働く」の最適化はデータドリブンで
2021/12/13 09:00
週刊BCN 2021年12月13日vol.1903掲載

リモートワークが定着した企業で、場所としてのオフィスを見直す動きが活発になっている。とりわけ、コアのオフィスを小さくつくり直し、その周辺にサテライトオフィスを設ける企業が増えているという。こうしたトレンドはどのように社会に定着し、ITやその周辺のビジネスに影響するのか。IT製品・サービス、オフィス家具・器具の両面をカバーする大手ベンダーである内田洋行の戦略を通して、近未来の「働く」を展望する。
(取材・文/指田昌夫 編集/本多和幸)
オフィス事業の売上減を補って余りあるICT需要
2021年も最終盤を迎え、新型コロナの国内感染者数は低水準が続いている。変異株などのリスクはあるものの、国内の経済活動は段階的に平時に戻りつつある状況だ。オフィスワーカーの仕事場も、リモート中心からオフィスへの回帰が始まっているようだ。会議や研修、展示会などのリアル開催も増えている。一方で、リモートワークを生産性向上につなげ、今後もリモート/在宅ワークを中心として業務を進めることを明言している企業も少なくない。
ICT事業と、オフィス家具・器具をはじめとした環境構築事業を両輪とする内田洋行は、コロナ禍によって大きな事業環境の変化に見舞われたが、業績を伸ばしている。同社の21年7月期決算は、コロナ禍の影響でオフィス環境構築関連事業の売上高が前期比3%減と低迷したものの、ICT関連ビジネスが65%増と大幅な増収となり、トータルで45%増という過去最高の売上高を記録した。
GIGAスクール関連事業が大きく寄与したが、民需も高い伸びを示した。ネットワークビジネス推進事業部長とネットワークビジネス推進事業部スマートビル事業推進部長を兼務する村田義篤・執行役員は「20年はコロナによる働き方の変革期ということで、ノートPCの調達やクラウドアプリケーションの導入など、リモートワーク用の環境づくりが成長を強く後押しした」と話す。
サテライトオフィスのニーズが急増
コロナ禍が発生して2年が経とうとしている現在、議論は次の段階に移りつつある。リモートワークに必要な環境を全ての社員に提供できない場合もあるし、オフィスで働いたほうが効率がいい仕事も存在することが再認識された。コロナの状況が落ち着きつつある中で「社員がオフィスに戻ってくる」、逆に「オフィスはどんどん縮退する」など、意見が分かれている。村田執行役員は「現在リモート中心の企業では、今後も全員が自宅で働くのか、働けるのかという議論が始まっている。カフェでは毎日働くことも難しく、Web会議もやりづらい。やはりしっかりと働ける場所が必要だということで、サテライトオフィスの需要が急増している」と指摘する。
首都圏では、都内の主要駅周辺をはじめ、近郊の川崎、横浜、さいたま、幕張や千葉などにサテライトオフィスを構える企業が増えている。中核のオフィスを小さくして、職住近接の場所にサテライトを設け、そのどちらもフリーアドレスとする。社員に「定位置」を与えず、その日の仕事の状況に合わせて好きな場所で働けるようにするという企業の動きが目立ってきた。
その結果、同社にはフリーアドレス対応のオフィス運用管理システムの引き合いが急増しているという。「そもそも、リモートで働くというのは手段でしかなく、感染防止であったり、介護や育児との両立など、社員が無理なく仕事ができる環境をつくることが目的。その意味で、コロナによって大きくリモートへの取り組みは進んだし、これをどう定着させながら働く環境を整備していくのかが、これからの課題だ」と村田執行役員は語る。
「定位置のないオフィス」は利用のハードルを下げる仕組みが必要
サテライトオフィスができても、そこに出向いて働くのに必要な手続きが面倒だったり、ワークスペースが確保できないようでは、無駄になってしまう。予約や利用がいかにスムーズにできるかが浸透の鍵を握る。内田洋行が企業に提案するサテライトオフィスソリューションは、クラウドアプリケーションとさまざまなセンサーとの連携に加え、空調や照明などビル設備とも連動させることで、拠点を渡り歩く社員の働く環境をサポートする。
「SmartOfficeNavigator」と名付けられたシステムの利用は、専用のスマートフォンアプリによって、サテライトオフィスの予約を入れるところから始まる。各オフィスに取り付けたカメラやセンサーによって可視化された混雑状況が表示されるので、空いているオフィスを探すこともできる。
オフィスに着いて、入り口に設けられたセンサーにスマホをかざせば、その時点で社員IDの認証を行ってAzure ADにログインが完了する。予約した席にもセンサーがあり、本人がチェックインすれば、自分の所属する部署のアクセス権がすでに与えられているため、すぐに仕事に取りかかることができる。
村田執行役員は「ある大手企業の事例では、本社を小さくしてサテライトオフィスを増やしたが、サテライトが常に満員で、(管理や運用のための)システムを入れていなかったため予約を取るのも大変になっている。そうした企業が当社のシステムを検討するケースが出てきた」と話す。
会議室の予約と利用も、同じようにシステムで全て完了する。室内の温度はセンサーで監視されており、たとえば真夏の暑い時期には、開始15分前から空調が作動し、快適な温度で会議を始めることができる。慣れない場所の会議室を借りて、空調パネルを探すために時間を費やす必要はない。当然、会議終了の時間で空調は自動的に切れる。
ICTとファシリティを連携させ オフィスをデータドリブンで変える
また、コロナの感染対策として、会議室内にCO2センサーを設置し、密室状態が続いてCO2濃度が高くなったときに、室内の照明の一部を赤く点灯させて換気を促す機能も追加できる。安全、安心にも配慮した形だ。村田執行役員は「当社にはビル設備の部門もあり、オフィスITとの連携を進めるために組織をまたいだ取り組みを強化している。壁の中のもの(空調や電源などの設備)まで含めてシステム連携ができることが、これからのオフィスには求められている」と強調する。こうしたシステムをオフィスに導入することで、利用する社員の生産性が上がるだけでなく、総務部門や人事部門が利用データを基に最適なオフィスの構築や働き方の管理を実現できる可能性がある。実際に、内田洋行では本社ビルに定員8人の会議室が三つ並んでいるフロアが存在したが、利用状況を確認すると、ほとんどが1人でオンライン会議に使っていたという。そこでその三つの会議室を全て2人用に改修し、空いた場所は共有スペースとした。なんとなく無駄と分かっていたことでも、はっきりしたデータで示すことができれば、決断も下しやすくなる。
「ただし、ハイブリッドワーク時代の『会議の参加者』は、リアルの人数+オンライン参加者の合計人数で議論すべき。それを踏まえてリアルの環境をどう見るべきかがこれからの課題だ」と村田執行役員は言う。今後オフィスから会議に参加する人が増えてくれば、大きな会議室が再び必要になるかもしれない。状況が変われば、それに合わせてオフィスの形も、また変わっていくということだろう。そうした需要に対して「ビルの設備をまるごと変えなくても対応できるように、後付けのセンサーや周辺機器も幅広く揃えている」(村田執行役員)のも同社の強みであり、変化に対応できるオフィスの提案を重視しているという。
“職場”が持っていたよさをどう引き出すか
リモート環境の定着によって、オフィスへの出社が「特別なイベント」のように感じられるようになった側面もある。以前から議論にはなっていたことだが、出社することが目的ではなく、目的を果たすために出社するという意識が高まりを見せている。村田執行役員は「自宅で集中できる環境をつくることが難しい社員は、オフィスに出社する日はとにかく仕事に専念したいと考えている。企業もそれに応え、面積は削りながら、安全で集中できる環境を用意するところが増えている」と語る。
ある企業の総務担当者からは「(リモートワークが定着して以降)オフィスに出社する社員は“カミソリ”のように働く」との声も聞かれるが、そういう社員も1日中隙間なく集中を持続させて働けるわけではない。休憩も取ればランチにも行くだろう。そのときに、同じく出社している同僚がいれば、久しぶりに顔を合わせるチャンスである。出社している社員の位置情報を利用することで、出社の機会を生かしたコミュニケーションを促すことができる。
ここから発展したニーズとして、同社のシステムを導入した企業から、自分がサテライトオフィスに出社した日に、同じエリアの拠点に出社している他の社員の一覧表を見られるようにしてほしいとの要望があったという。内田洋行側も、すぐにリスト機能を追加した。事前に計画されたコミュニケーションだけでなく、偶然かつ直接会うことで発生するやり取りが新たな仕事のアイデアを生んだり、課題解決につながったりすることもある。
こうした機能は技術的にはコロナ前から各社から提案されていたが、プライバシーの問題などから浸透しなかった。しかし、出社することがイレギュラーになったことで、積極的に居場所を共有しようというパラダイムシフトが起きつつある。
非常時でも社員の安全を守りながら業務を進めるには、オフィスという場所に縛られた考え方は成り立たない。また、自宅でもオフィスと同等に働けることで、介護や育児との両立にも道が開ける。毎日通勤しなくてよくなれば、時間やエネルギーの節約にもつながる。働き方の柔軟性は、社会的にもよい効果をもたらすことが注目されている。
一方で、リモート中心の働き方が新たな課題も生む。チームワークをどう育てるか、組織や企業で働く意識が薄れないようにするには何をすればいいのかなど、企業は対策を模索している。100%リモートと覚悟を決めた企業も出てきているが、多くはリモートとリアルのよいところを生かしたハイブリッドな働き方に落ち着くのではないか。そうなれば、働く場所は新しい形に変わるだろう。
企業によって求める環境はさまざまであり、一つの決まった形はない。ファシリティとソフトウェアを連動させ、データを集めながら改善を繰り返すことが、働き方を進化させ、企業を持続的に成長させる正攻法だ。

リモートワークが定着した企業で、場所としてのオフィスを見直す動きが活発になっている。とりわけ、コアのオフィスを小さくつくり直し、その周辺にサテライトオフィスを設ける企業が増えているという。こうしたトレンドはどのように社会に定着し、ITやその周辺のビジネスに影響するのか。IT製品・サービス、オフィス家具・器具の両面をカバーする大手ベンダーである内田洋行の戦略を通して、近未来の「働く」を展望する。
(取材・文/指田昌夫 編集/本多和幸)
オフィス事業の売上減を補って余りあるICT需要
2021年も最終盤を迎え、新型コロナの国内感染者数は低水準が続いている。変異株などのリスクはあるものの、国内の経済活動は段階的に平時に戻りつつある状況だ。オフィスワーカーの仕事場も、リモート中心からオフィスへの回帰が始まっているようだ。会議や研修、展示会などのリアル開催も増えている。一方で、リモートワークを生産性向上につなげ、今後もリモート/在宅ワークを中心として業務を進めることを明言している企業も少なくない。
ICT事業と、オフィス家具・器具をはじめとした環境構築事業を両輪とする内田洋行は、コロナ禍によって大きな事業環境の変化に見舞われたが、業績を伸ばしている。同社の21年7月期決算は、コロナ禍の影響でオフィス環境構築関連事業の売上高が前期比3%減と低迷したものの、ICT関連ビジネスが65%増と大幅な増収となり、トータルで45%増という過去最高の売上高を記録した。
GIGAスクール関連事業が大きく寄与したが、民需も高い伸びを示した。ネットワークビジネス推進事業部長とネットワークビジネス推進事業部スマートビル事業推進部長を兼務する村田義篤・執行役員は「20年はコロナによる働き方の変革期ということで、ノートPCの調達やクラウドアプリケーションの導入など、リモートワーク用の環境づくりが成長を強く後押しした」と話す。
サテライトオフィスのニーズが急増
コロナ禍が発生して2年が経とうとしている現在、議論は次の段階に移りつつある。リモートワークに必要な環境を全ての社員に提供できない場合もあるし、オフィスで働いたほうが効率がいい仕事も存在することが再認識された。コロナの状況が落ち着きつつある中で「社員がオフィスに戻ってくる」、逆に「オフィスはどんどん縮退する」など、意見が分かれている。村田執行役員は「現在リモート中心の企業では、今後も全員が自宅で働くのか、働けるのかという議論が始まっている。カフェでは毎日働くことも難しく、Web会議もやりづらい。やはりしっかりと働ける場所が必要だということで、サテライトオフィスの需要が急増している」と指摘する。
首都圏では、都内の主要駅周辺をはじめ、近郊の川崎、横浜、さいたま、幕張や千葉などにサテライトオフィスを構える企業が増えている。中核のオフィスを小さくして、職住近接の場所にサテライトを設け、そのどちらもフリーアドレスとする。社員に「定位置」を与えず、その日の仕事の状況に合わせて好きな場所で働けるようにするという企業の動きが目立ってきた。
その結果、同社にはフリーアドレス対応のオフィス運用管理システムの引き合いが急増しているという。「そもそも、リモートで働くというのは手段でしかなく、感染防止であったり、介護や育児との両立など、社員が無理なく仕事ができる環境をつくることが目的。その意味で、コロナによって大きくリモートへの取り組みは進んだし、これをどう定着させながら働く環境を整備していくのかが、これからの課題だ」と村田執行役員は語る。
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- 「定位置のないオフィス」は利用のハードルを下げる仕組みが必要 内田洋行が提案するサテライトオフィスソリューション
- ICTとファシリティを連携させ オフィスをデータドリブンで変える
- “職場”が持っていたよさをどう引き出すか 出社の機会を生かしたコミュニケーションを促進
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