Special Feature
新型コロナ禍を経て進化 多様化するICTベンダーの共創環境
2022/06/02 09:00
週刊BCN 2022年05月30日vol.1924掲載

昨今、新型コロナ禍が徐々に落ち着きを見せる中で、ICTビジネスの現場では対面を活用した事業共創の動きが再び活発化しつつある。コロナ禍での行動変容を経て、ICTベンダーの共創の場はどのように変化したのか。最新動向を追うと、リアルの価値をあらためて追求する一方で、オンラインも有効に活用し、より多様な方向に進化を遂げる共創のあり方が見えてきた。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
元々前提であったICT業界の「共創」
2010年代中盤から、ビジネスシーンではオープンイノベーションによる共創がブームとなった。実業×デジタルのxTechの流れが生まれ、デベロッパーは一等地にオープンイノベーション施設やコワーキングスペースを作って企業を呼び込み、各地でスタートアップを発掘するためのピッチコンテストも開催された。従来“デジタル”領域を主戦場としているICTベンダーも、自社のビジネスを語る際に「共創」を掲げるようになり、パートナーやユーザー、スタートアップとの共創プログラムを開始。体力のある組織は、社内に共創や技術アピールの場を用意して活動を広げていった。
元々テクノロジーを売るICTビジネスでは、ユーザーやパートナーと“共に創る”作業を行ってきた。予測困難な時代を迎え、社会課題が複雑化する中で、1社での問題解決が難しくなり、テクノロジーの進化も速まってビジネスにもたらすインパクトも大きくなった。結果、ICTベンダー自身にも広範囲の知識やスキルが求められ、ユーザーやパートナーとの関係性のあり方として共創がより重要性を増したのである。
ところがコロナ禍で状況は一変し、ICTベンダーの共創戦略は見直しを迫られた。対面活動が制限されてリモートでの活動が主になり、この2年間は新しい共創の形を模索しつつ、共創のあり方自体を見つめ直す契機にもなった。
国内最大級の共創施設を開設
NTT西日本
各プレイヤーはやはり共創の過程で対面は重要な要素だと声を揃える。遠隔地とのやり取りや効率を考えるとリモートは秀でているが、関係性の構築やユーザーにアプローチする際に効果的なのは、やはりリアル――。そんな声が高まる中、NTT西日本が3月24日に国内最大規模のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」を大阪・京橋の本社施設内に開設した。QUINTBRIDGEは3階建てで、1階はイベントやワークショップ、業務など多目的に使えるスペース、2階は具体的なプロジェクトを進めるスペースを中心とし、3階は会員企業が入居するテナントなどで構成されている。施設名は、「Quintillion(百京)」と「Bridge(橋)」を組み合わせた造語で、京橋の地から100以上の新規事業を創出するという意図が込められている。
QUINTBRIDGEには、企業、スタートアップ、自治体、大学に加えて、NTT西日本の社員や一般個人でも参加できる。リアルの場に集い、NTTグループの最新技術・要素技術と、参加組織・個人のアイデア・技術などを組み合わせて事業共創と人材育成を目指す。
QUINTBRIDGEでは、(1)「学ぶ」→(2)「繋がる」→(3)「集う(コミュニティ化)」という流れを演出。まず(1)で、定期的にイベントやセミナーを実施して会員を集める。(2)で、施設内のコミュニケーターがマッチアップを支援し、リアルな場でゆるい繋がりを作る。(3)で、ゼミや教育メニューを用意して密な繋がりを作り、最終的に共創に繋げる。
NTT西日本が同所での活動を通じて目指すのは、社会課題の解決である。「地域に根差した活動をする中で拠点を置く30府県の自治体から課題がトスアップされ、事業アイデアを試すこともできる。QUINTBRIDGEでは、『ビジネスアイデアの構想』『技術検証・サービス開発』『PoC・導入(社会実装)』のトライアングルを回し、社会課題の解決とビジネス創出の両立を目指していく」(技術革新部イノベーション戦略室の市橋直樹・室長)。
運用の本格開始から1カ月にも満たない段階で、企業会員は関西圏の大企業やベンチャー企業を中心に155法人、個人会員は1930人が参加。平日の来場者数は1日150人、延べ来場者数1400人と高く推移しており、「みなリアルの繋がりに飢えていた」と市橋室長は分析。「われわれの想いに共感するSIerやNIerにぜひ参加していただきたい」と呼びかける。
五つの共創プログラムを展開
日本IBM
QUINTBRIDGEの誕生は、共創におけるリアルの大事さを象徴するものであるが、本質的には産官学のオープンイノベーションでゼロから課題解決を目指すという、従来型共創の理念を踏襲するものである。一方でエンタープライズ領域では、成果をより意識し、課題やテーマを絞る形に共創のあり方が進化している。
DXでICTは身近なものとなり、ベンダー・ユーザーのICTに対する意識が調達から共創するものへと変わりつつある中で、日本IBMはユーザー・パートナー向けに五つの共創プログラムを立て続けにリリースし、リアルとバーチャルの場を併用して共創活動を強化している。
その背景にあるのが、事業ポートフォリオとビジネスモデルの変化である。レッドハットという横串のオープンテクノロジースタックを得たことで、同社はパートナーと共に価値を提供する戦略にかじを切った。昨年発足した「コンテナ共創センター」では、OpenShiftを活用したコンテナ技術の習得および自社メニューのコンテナ化を支援するプログラムを用意し、「発足1年で62社が参画し、今期はユーザー企業も含め100社の参画を見込んでいる」と、テクノロジー事業本部クラウドプラットフォーム・テクニカルセールスの佐々木敦守・部長/シニア・アーキテクトは話す。
メインフレーム領域でも共創を推進し、最新製品発表に合わせて4月に「IBM Z and Cloud モダナイゼーション共創センター」を始動。グローバルで展開するメニューを日本のユーザー向けに提供すると共に、今後はパートナーのSIerやISVのモダナイズソリューションを紹介するショーケースも提供する予定となっている。
「日本では国内他社のユースケースが重視され、最新のテクノロジーを使い切れていないところがある。パートナーと連携し、メインフレームのモダナイゼーションを支援したい」と、同事業本部Z事業部クライアント・テクニカルセールスの中川雅也・部長は話す。
これらはバーチャルを中心に活動しているが、リアルでもIBMのテクノロジーを体験する場として、東京・箱崎の本社内に「IBM Technology Showcase」を設置している。同所ではソリューションカットのデモシナリオ展示を行っており、技術者が同行してユーザーとの共創に繋げている。今後は、各プログラムで生まれたパートナーソリューションも展示する予定だ。
成果を出しやすい仕組みを提供
NEC
従来型共創における問題点として、共創に対するハードルの高さが挙げられる。オープンイノベーション起点の共創は難しく、最近では小さい成功を早く作るという考え方も強まっている。そこで、テクノロジーや事業テーマを絞ってプログラムを実施しているのがNECである。
同社は、自社の技術アセットを使ったパートナー向けの共創プログラム「NEC共創コミュニティ for Partner」を運用する。技術や業種向けでカテゴリー分けされており、現在10ジャンルのコミュニティに581社が参加。昨年度は18件の共創ソリューションを生み出している。
同プログラムでは、パートナーの新規事業開発から販売連携までを支援。事業開発では、NECが保有する新規事業創出プロセスを活用してゼロイチから始めるケースもあるが、「あらかじめジャンル分けしているためパートナーの既存製品・サービスとNECの技術を組み合わせた事業開発が多い。技術や支援内容を公開することで共創に参加しやすくしている」と、システムプラットフォームBUプラットフォーム販売部門パートナ戦略統括部の岡田修平・シニアディレクターは説明する。
活動にあたり、当初は社内外の共創ルームや技術展示スペース、コワーキングスペースを有効活用しつつ共創を進めてきたが、コロナ禍で対面がストップ。そこで20年4月から、Slackを使ったコミュニケーションスペースを導入し、プログラムを横断したコミュニケーションの場を用意した。「今まではNECと担当者の1対1の関係性だったが、様々なチャンネルが用意されて横の繋がりができ、コミュニケーションが活発化した」と同統括部の姫野裕貴氏は語る。
結果としてリモートの共創活動にも慣れたが、今後は適切なタイミングでリアルの場を使う頻度を増やし、ハイブリッドで取り組みを進めていく予定だ。「事業のスピードを高め、幅を広げていくためにNECをうまく活用してほしい。当社もパートナーの力を借りて事業の幅や市場を広げていきたい」(岡田シニアディレクター)。
共創ムーブメントは第2ステージへ突入
コロナ禍を経て、共創のムーブメントは第2ステージに突入したといえる。ICTベンダーの共創の場も、共創のあり方自体も、ステレオタイプからの呪縛から逃れて現実的なものに昇華しつつある。革新的な技術を持っているのは、スタートアップだけではない。従来型のビジネスに閉塞感を感じているICTベンダーはなおさら、これらの施設・プログラムを有効活用して、働き方と共にビジネスのアップデートを図るべきであろう。

昨今、新型コロナ禍が徐々に落ち着きを見せる中で、ICTビジネスの現場では対面を活用した事業共創の動きが再び活発化しつつある。コロナ禍での行動変容を経て、ICTベンダーの共創の場はどのように変化したのか。最新動向を追うと、リアルの価値をあらためて追求する一方で、オンラインも有効に活用し、より多様な方向に進化を遂げる共創のあり方が見えてきた。
(取材・文/石田仁志 編集/藤岡 堯)
元々前提であったICT業界の「共創」
2010年代中盤から、ビジネスシーンではオープンイノベーションによる共創がブームとなった。実業×デジタルのxTechの流れが生まれ、デベロッパーは一等地にオープンイノベーション施設やコワーキングスペースを作って企業を呼び込み、各地でスタートアップを発掘するためのピッチコンテストも開催された。従来“デジタル”領域を主戦場としているICTベンダーも、自社のビジネスを語る際に「共創」を掲げるようになり、パートナーやユーザー、スタートアップとの共創プログラムを開始。体力のある組織は、社内に共創や技術アピールの場を用意して活動を広げていった。
元々テクノロジーを売るICTビジネスでは、ユーザーやパートナーと“共に創る”作業を行ってきた。予測困難な時代を迎え、社会課題が複雑化する中で、1社での問題解決が難しくなり、テクノロジーの進化も速まってビジネスにもたらすインパクトも大きくなった。結果、ICTベンダー自身にも広範囲の知識やスキルが求められ、ユーザーやパートナーとの関係性のあり方として共創がより重要性を増したのである。
ところがコロナ禍で状況は一変し、ICTベンダーの共創戦略は見直しを迫られた。対面活動が制限されてリモートでの活動が主になり、この2年間は新しい共創の形を模索しつつ、共創のあり方自体を見つめ直す契機にもなった。
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- 成果を出しやすい仕組みを提供 NEC
- 共創ムーブメントは第2ステージへ突入
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