Special Feature
国内x86サーバー市場で首位奪取 シェア堅守へデル・テクノロジーズが描く青写真
2022/08/22 09:00
週刊BCN 2022年08月22日vol.1935掲載

2021年における国内のx86サーバー市場で、「PowerEdge」シリーズを展開するデル・テクノロジーズ(デル)が、台数、金額ともにシェア1位を獲得した。クラウドの普及や新型コロナ禍での半導体不足など、サーバー市場の動向としてはネガティブな要素も多い中、なぜデルはシェアを伸ばせたのか。そして、念願の首位に立ったとはいえ、今後大きな市場拡大が見込めないx86サーバー市場において、ビジネスを拡大し、ナンバーワンを維持するために、デルは今後どのような戦略を打ち立てていくのか。上原宏・執行役員製品本部長・データセンターソリューションズ事業統括に聞いた(本文中の発言はすべて上原執行役員)。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)
複数の取り組みが相乗効果
22年3月のIDCの発表によると、デルは出荷台数で18.0%、出荷金額で18.1%のシェアを確保し、ともに年間1位となった。要因の一つとしては、それまで続けてきたマーケティング、広報活動が功を奏し、製品の優れた点や、サーバーを顧客に安心して使ってもらうための流通・保守体制に関する情報が、着実に顧客へと広まったことが大きいようだ。
さらに価格戦略、AI、エッジ向けをはじめとするポートフォリオの拡充などにも積極的に取り組んできた。「他社がどちらかと言えば製品の幅を絞る中で、デルはむしろ逆に張っているところがある」と強調する。
例えば、機械学習用にGPUを最大四つまで搭載できる、AIに特化したサーバーが挙げられる。データセンターで最も売れている汎用性の高い1Uサイズ、2ソケットCPUのラックマウント型サーバーも、エントリーから高性能なものまで、また米Intel(インテル)と米AMDのCPUを搭載するものも併せ、多くのモデルをきめ細かくそろえている。このような幅広い展開により、「顧客に無理強いをしない選択肢を提供し、価格性能比も高く顧客が導入しやすくなった」と分析する。
デルのサーバーのよさが、顧客だけでなくパートナーにも理解されてきたことも成功につながっているようだ。数年前は、パートナー経由でのPowerEdgeサーバーの販売は全体の40%ほどだった。それが22年度(21年2月~22年1月)には55%ほどまで増え、22年5月には60%に近づいている。
国産のサーバーベンダーには系列の販売パートナーがあり、確実に自社製品を再販してくれる体制がある。一方でデルのパートナーは、さまざまなベンダーの製品を扱う独立系だ。その独立系パートナーの取り扱いが増えていることから「顧客による選択を含め、パートナーが顧客に最適なものを見極める際にデル製品が選ばれるケースが増えている」との見方を示す。
デル製品はデスクトップPCを安価に提供するビジネスから始まったため、企業向けサーバーブランドとしてのイメージがなかなか得られなかった過去がある。しかし、16年にエンタープライズ・ストレージベンダーのEMCを買収し、サーバーとともにハイエンドストレージ製品なども提案できるようになって以降、エンタープライズのブランドイメージもかなり確立してきた。これらの複数の取り組みが相乗効果を発揮し、結果につながったとデルは分析している。
オンプレミス回帰の動きも
市場を見渡せば、あらゆるシーンでデジタル化が進み、企業のDXへの取り組みも加速しており、コンピューティングリソースへのニーズは今後も高水準で推移するだろう。とはいえ「その大きな部分は、導入の容易さからもパブリッククラウドが占める」。スタートアップ企業などでは、最初からパブリッククラウドだけを利用する企業があることもデルは理解している。一方で、オンプレミスへ回帰する動きもある。デルが実施した顧客ヒアリングの結果からも、パブリッククラウドに移行した企業の一定層が、オンプレミスに戻る傾向が明らかになっている。その理由は、業界特有の規制やルールなどでクラウド化が難しいこと、障害時には復旧を待つだけで主体的に関与できない点などがある。レスポンスの低下や、想定以上にコストがかかることも挙げられている。
例えば、機械学習用途でGPUを利用する場合、パブリッククラウドでは物理的なGPU単位での課金となるケースが多い。オンプレミスのサーバーならばvGPU機能で仮想化し、GPUリソースを分割して利用することでコストの最適化も図りやすい。その上で手元にGPUサーバーがあれば「極めて低レイテンシー、高レスポンスで利用でき、わざわざクラウドに行く必要がないとの判断もある」。エッジでのコンピューティングリソースの利用という、新たなニーズも増えている。そのためx86サーバーの需要は思ったほど減らず、横ばいから微増で推移するとデルはにらむ。
日本以外の地域では、デルは既にx86サーバーのシェアでナンバーワンとなっていた。グローバルと違い日本市場には力のある国産ベンダーがいる事情があり、なかなか首位に立てなかった。加えて、日本市場特有の違いがある。例えば、北米などではタワー型サーバーは全体の4%ほどだが、日本では十数%の割合となっている。これはデータセンターに集約せず、店舗や支店など各地の拠点にタワー型サーバーを1、2台置いて利用するシーンが多いことが要因とみられる。
また日本は、ITエンジニアなどが顧客企業にいる割合が極めて低い。そのため顧客が自分で製品を選ぶのではなく、多くの場合パートナーが提案する。グローバルではマーケティング施策やメッセージは顧客向けのものが多いが、日本ではそれをそのまま適用できずカスタマイズした上で、パートナーへ届くようにしなければならない。
日本でのシェア1位を維持し続けるには、高性能でコスト効率の良い製品を幅広く出すだけでなく、このような日本特有のニーズにきめ細かく対応する必要がある。既存国産ベンダーのシェアを奪うだけでなく、新たな顧客ニーズをつかんでいくことが求められるのである。
新領域のパートナーと協業
そのための施策の一つがハイブリッドクラウドへの対応であり、この部分では米Microsoft(マイクロソフト)との協業を強化している。「Microsoft Azure」のハイパーコンバージドインフラストラクチャーソリューションである「Azure Stack HCI」がその主軸となる。「Azureとシームレスにつながり、ユーザーにとって、今扱っているのが手元のHCIかクラウドか、分からないような操作性」を実現したという。これによりクラウド本来のメリットをオンプレミスに取り入れることができ、マイクロソフト、デル、そして顧客がWin-Win-Winになる取り組みだとする。東京・品川の日本マイクロソフト本社内にデルのHCIを設置した「DEJIMA」(出島)と呼ぶデモ環境を用意するほか、デル社内にも同様な設備を置き、すぐにPoCができる体制を整えている。
もう一つの施策がAI、機械学習ニーズへの対応だ。「AIや機械学習はクラウドに持って行きにくい領域」だからだ。ここでは米NVIDIA(エヌビディア)と協力し大手町にAIエクスペリエンスゾーンを用意した。AI、機械学習では大量にデータを使うため、ここでもEMCのソリューションと一緒の提案ができるのはメリットとなる。
加えて、AIを使いたい企業とAIに強みを持つパートナーをデルがマッチングするサービスも推進する。AIや機械学習を活用するには、極めて低いレイテンシーが求められるほか、重要なデータを容易にクラウドへリフトできないため、全社規模で統制し継続的に管理運用する必要性も生まれる。オンプレミスであれば、低レイテンシーを確保し、安全なAI、機械学習環境の運用もしやすい面がある。デルはその利点を顧客に確実に伝える必要があり、ここでも従来のパートナーだけでなくAIや業界・業種に特化した新たなパートナーとの連携に注力することになる。一方、ユーザー企業でAIや機械学習を主に活用するビジネス部門とのつながり関しては、デルは十分に関係を構築できていない面があり、浸透には時間がかかるともみている。
エッジに関しては、ローカル5G通信を利用しリアルタイムに自動化を実現するなどが注目されているが、それらは最先端な取り組みで「中堅、中小の製造業などには、それとは異なるファクトリーエッジと呼ばれるニーズがある」と見込む。工場のラインのすぐ近くで機械学習の知見を活用する際には、過酷な環境下でも堅牢性が高く安心して利用できるサーバーが求められる。
この領域は現場のOT(Operational Technology)エンジニアが主に担うが、こちらについてもデルはつながりが薄い。そこで、OT領域に強みを持つシュナイダーエレクトリックと連携し、OTの制御監視ソリューションで必要となるサーバーやOS、ネットワークなどをデルがサポートする取り組みを始める。ほかにも製造現場のベテランの知見を継承するソリューションなどでもサーバーの出番があり、ここでも協業する。デルのサーバーが安心して使えることをOT担当者に提案できるよう、新たなパートナーと協業して取り組む考えだ
x86サーバーの市場が大きく増えない中では、既存ユーザーを維持するだけでなく、積極的に顧客と会話し、新たなニーズを発掘する必要があるだろう。新しいニーズにデルが柔軟に対応できることを、確実に顧客へ伝える必要もある。「まだまだデルはPCの会社だと思っている人も多い。とにかくデルのよさをもっと顧客にも、パートナーにも知ってもらうための施策を、きっちり行っていく」と力を込めた。

2021年における国内のx86サーバー市場で、「PowerEdge」シリーズを展開するデル・テクノロジーズ(デル)が、台数、金額ともにシェア1位を獲得した。クラウドの普及や新型コロナ禍での半導体不足など、サーバー市場の動向としてはネガティブな要素も多い中、なぜデルはシェアを伸ばせたのか。そして、念願の首位に立ったとはいえ、今後大きな市場拡大が見込めないx86サーバー市場において、ビジネスを拡大し、ナンバーワンを維持するために、デルは今後どのような戦略を打ち立てていくのか。上原宏・執行役員製品本部長・データセンターソリューションズ事業統括に聞いた(本文中の発言はすべて上原執行役員)。
(取材・文/谷川耕一 編集/藤岡 堯)
複数の取り組みが相乗効果
22年3月のIDCの発表によると、デルは出荷台数で18.0%、出荷金額で18.1%のシェアを確保し、ともに年間1位となった。要因の一つとしては、それまで続けてきたマーケティング、広報活動が功を奏し、製品の優れた点や、サーバーを顧客に安心して使ってもらうための流通・保守体制に関する情報が、着実に顧客へと広まったことが大きいようだ。
さらに価格戦略、AI、エッジ向けをはじめとするポートフォリオの拡充などにも積極的に取り組んできた。「他社がどちらかと言えば製品の幅を絞る中で、デルはむしろ逆に張っているところがある」と強調する。
例えば、機械学習用にGPUを最大四つまで搭載できる、AIに特化したサーバーが挙げられる。データセンターで最も売れている汎用性の高い1Uサイズ、2ソケットCPUのラックマウント型サーバーも、エントリーから高性能なものまで、また米Intel(インテル)と米AMDのCPUを搭載するものも併せ、多くのモデルをきめ細かくそろえている。このような幅広い展開により、「顧客に無理強いをしない選択肢を提供し、価格性能比も高く顧客が導入しやすくなった」と分析する。
デルのサーバーのよさが、顧客だけでなくパートナーにも理解されてきたことも成功につながっているようだ。数年前は、パートナー経由でのPowerEdgeサーバーの販売は全体の40%ほどだった。それが22年度(21年2月~22年1月)には55%ほどまで増え、22年5月には60%に近づいている。
国産のサーバーベンダーには系列の販売パートナーがあり、確実に自社製品を再販してくれる体制がある。一方でデルのパートナーは、さまざまなベンダーの製品を扱う独立系だ。その独立系パートナーの取り扱いが増えていることから「顧客による選択を含め、パートナーが顧客に最適なものを見極める際にデル製品が選ばれるケースが増えている」との見方を示す。
デル製品はデスクトップPCを安価に提供するビジネスから始まったため、企業向けサーバーブランドとしてのイメージがなかなか得られなかった過去がある。しかし、16年にエンタープライズ・ストレージベンダーのEMCを買収し、サーバーとともにハイエンドストレージ製品なども提案できるようになって以降、エンタープライズのブランドイメージもかなり確立してきた。これらの複数の取り組みが相乗効果を発揮し、結果につながったとデルは分析している。
この記事の続き >>
- オンプレミス回帰の動きも その理由は
- 新領域のパートナーと協業
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