世界中で支持を伸ばしているコラボレーションツール「Notion(ノーション)」。日本でも数年前からスタートアップ企業やクリエイターを中心に評判を集めていたが、2021年10月の日本語ベータ版リリースを機にユーザーが急増。22年6月には日本法人も立ち上がり、エンタープライズ市場の需要の取り込みを加速させている。ワークスペースツールとしては後発となるNotionは、なぜ存在感を高めているのか。サービスの特徴、変遷を掘り下げるとともに、今後の国内戦略に迫る。
(取材・文/大蔵大輔)
Notionはメモ、ドキュメント、プロジェクト管理、wikiをカスタマイズ可能な形で組み合わせたオールインワンのワークスペースだ。料金プランは4種類。Web版、デスクトップ版、モバイル版(iOS、Android)を用意している。
もっとも評価されているのは「オールインワン」という部分だ。米Okta(オクタ)が発表した「Businesses at Work」というレポートによると、北米企業は平均で88のツールを使っており、その数は増え続けている。個人ではいくつものウィンドウが画面に散らばり、チームではそれぞれが使用しているツールが異なっていて業務効率が落ちるといった状況が発生している。それがNotionを使えば、全ての情報を1カ所に集約でき、問題の解決につなげられるというわけだ。
カスタマイズ性の高さも人気のポイントだ。Notionが「レゴブロックを組み立てるように」と表現しているように、プログラミングの知識がなくても直感的にやりたいことをツールに落とし込むことができ、ユーザー数の急拡大につながっている。また、ToDoを管理するときなどにリストにするか、カード形式で閲覧性が高まる「Kanbanビュー」にするかなどを容易に設定することができるのも強みだ。
最初は情報感度が高い個人やスタートアップ企業(職種でいえばエンジニア、プロダクトマネージャー、デザイナー)が使い始め、そこから法人に浸透していった。こちらは先述した個人の業務効率向上に加えて、「情報が集約されることで社内に情報がたまりやすくなる」という副次的効果、SaaS利用料や運用負荷を軽減できるといったコストメリットも評価されている。
提供元の米Notion Labsは、アイバン・ザオ氏とサイモン・ラスト氏が13年に創業。今とは異なるプロダクトを開発していたが、15年に方向転換。16年に原型となるサービスをリリースした。現在ユーザー数は世界中で2000万人を超え、企業評価額は100億ドル(約1兆3000億円)に達している。日本では22年6月に日本法人を設立、同年11月に日本語版を正式にリリース。組織体制を整え、国内市場での展開も本格化してきている。
左からNotion Labsのサイモン・ラスト共同創業者兼CTO、
Notion Labs Japanの西勝清ゼネラルマネージャー、
Notion Labsのアイバン・ザオ共同創業者兼CEO
日本法人ゼネラルマネージャー
「パートナー戦略をさらに強化」
日本1号社員の西勝清氏は、現在、日本法人のNotion Labs Japanでゼネラルマネージャーを務め、営業・マーケティング・ビジネスオペレーション全般を統括している。これまでシスコシステムズ、LinkedIn Japan、WeWork Japanを渡り歩いてきた。パーソナルミッションとして課しているのは「日本の会社や人の生産性向上に貢献し、グローバルでの競争優位性を保てるようにすること」。ミッション達成のために考えている日本市場での成長戦略を聞いた。
Notion Labs Japan 西 勝清 ゼネラルマネージャー
グローバルでも日本市場を重視
――西ゼネラルマネージャーは日本1号社員。入社の経緯は。
20年夏にLinkedIn時代の同僚でもあったNotion Labsのアクシェイ・コターリーCOOから「日本進出を考えているから、するべきことを教えてほしい」と相談を受けたことがきっかけだった。そのときは「プロダクトだけでなくサポートも含めてしっかりローカリゼーションするべきだ」といったアドバイスをした。話を聞いているうちに、Notionは自分が仕事をする上で軸としている「ネットワーク」「コミュニティ」「コラボレーション」のど真ん中にいると思い、入社を決めた。
――日本に現地法人を設立したのはなぜか。
実は私は日本1号社員であると同時に、インターナショナル社員1号でもある。英語圏では広く使われていたが、現地で人を雇ったのは日本が最初だった。最近では珍しいかもしれない。アクシェイCOOが経験則から「日本は早い段階からマーケットをしっかり理解した担当者を置いたほうがいい。そうでなければうまくいかない」と感じていたことも大きい。
――21年10月の日本語ベータ版リリースは大きな転機になった。言語以外の部分ではどのようなアップデートを行ったのか。
ベータ版リリースのタイミングで、Notionの頻出操作である「スラッシュコマンド」をアップデートした。これは使えるブロックを呼び出すアクションで従来は「/」は半角のみ対応していたが、かな入力の日本のユーザーは「/」を入力するためにいちいち全角から半角に切り替えなければならなかった。そこで、かな入力の「;(全角セミコロン)」にも「/」と同じ機能を持たせ、操作性を改善した。22年11月に正式リリースとなり、サポートやコミュニティの日本語化という部分にも対応した。
ワークスペースを可視化する
――新機能である「Notion AI」も注目を集めている。
Notion AIは文章作成、ブレインストーミング、編集、文章の要約などのライティングアシスタント機能で、Notion上で利用できるものとして開発している。現在はアルファ版をリリースしており、ユーザーがどのように活用しているのか分析している。私自身も思いつくままに書き出した文章のサマリー作成などを試しているが、かなり精度はいい。日本のユーザーであれば翻訳機能への期待も大きいようだ。これから発表するトピックも多くあるが、幅広い業務の効率化に貢献できると考えている。
――その他にどのようなアップデートを予定しているのか。
オールインワンとカスタマイズという二つの特徴をさらに強化しつつ、ワークスペースをより可視化していくという方向で開発を進めている。まず、それぞれのユーザーに向けたアップデートとして、タスク管理とプロジェクト管理、ドキュメント管理をより深める機能の実装を検討している。例えば、タスクの依存関係をNotion上で表現するといったことができるようになる。
次にエンタープライズに向けた大規模に使える機能のアップデートだ。特に要望が多いのは「アナリティクス機能」。どのページがどれだけ見られているのか、どのユーザーが活発に使用しているのかといったワークスペースの中の状況を把握したいというニーズが強い。
アジア展開のモデルケースに
――販売体制は。
22年春からリセラーとしてクラウドネイティブ、ネクストモード、ノースサンドとパートナーシップ契約を締結し、間接販売にも注力している。3社とも自社でNotionを使っており、サービスに対する理解度を深めながら販売体制を強化していただいている。日本のマーケットにおいてはSIerやディストリビューターが提供する価値が非常に大きい。Notionは8割以上が米国外のユーザーということもあって各国のビジネス環境を熟知しているし、私自身もシスコシステムズ時代の経験から理解している。日本は世界で最初にリセラーを採用した市場で、マーケット環境の近いアジアの他の国でビジネスを本格展開していく際にもモデルケースになるはずだ。今後は現在のパートナーと連携を強化するとともに、選択肢としてパートナーの拡大も考えていきたい。
――23年はどのような戦略を考えているか。
ベータ版のリリース以降、ワークスペースの新規開設数はチーム利用で前年比2.7倍、エンタープライズで2.3倍の伸びを示している。個人だけでなく企業への導入も順調で、今後はエンタープライズ市場にフォーカスしていく方針だ。現在のユーザーを手厚くサポートしていく一方で、大企業にどのようにアプローチしていくかを軸に、社内の体制やパートナーとの連携のあり方や、機能強化を行っていきたい。