Special Feature
始動する「IOWN構想」、NTTが描くネットワークインフラの新たな未来
2023/02/06 09:00
週刊BCN 2023年02月06日vol.1956掲載
NTTは、「IOWN(アイオン)構想」のサービス第1弾として、3月にAPN(オールフォトニクスネットワーク)サービス「IOWN 1.0」の提供を開始する。これにより、いよいよNTTによる次世代コミュニケーション基盤が商用化の第一歩を踏み出すことになる。IOWN構想によって、日本、そして世界のネットワークインフラはどう変わるのだろうか。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想である。
IOWN構想は、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつなげて制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」の三つの柱で構成。既存の情報通信システムが持つ限界を突破し、データ処理の増大に伴って増加する消費電力を削減するなど、さまざまな社会課題の解決につなげ、スマートな社会の実現に貢献できるとする。NTTだけの取り組みではなく、IOWN構想の実現や普及を目指すIOWN Global Forumを通じて、研究開発をはじめとして、パートナー企業との共創も推進している。
「IOWN 1.0」は、IOWN構想の商用化第1弾として発表された。ユーザーはエンド・ツー・エンドで光波長を専有し、100Gbpsの専用線サービスとして利用できる。光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍の大容量化を実現している。とくに、低遅延化については、IOWN構想が掲げている2030年の目標性能をこの時点でクリアするほか、遅延揺らぎがなくなるため、遅延の予測が可能となり、細かい複雑な作業を遠隔操作で行うことも見込める。APN端末装置での遅延の可視化および調整が可能になる点も特徴で、遠隔地間での接続タイミングを合わせることで、新たな用途での活用にも期待が集まる。
すでにAPNによる低遅延を生かした実証実験が、22年11月に都内で行われている。東京・新宿の東京オペラシティで開催された「NTT東日本 N響コンサート」で、現地と10キロ離れた調布市のドルトン東京学園をつなぎ、アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏をリアルタイムで配信した。同曲では、調布にいるスネアドラム奏者の演奏を伝送、さらに調布側の観客による手拍子も合奏として加え、音楽として成立させた。一般的なインターネットでは、数100ミリ秒程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできないが、APNでは20ミリ秒以下の低遅延を実現し、同時演奏を可能にした。
光電融合とは、光回路と電気回路を融合させ、小型化、経済化、高速化、低消費電力化を実現する技術であり、光電融合デバイスを、APNサービスやサーバーにも適用することで、IOWNの高度化につながる。
ロードマップによると、23年度には400Gbpsの光電融合デバイスを開発することで、「IOWN 1.0」のサービスを100Gbpsから、さらに大容量化できる。25年には、「IOWN 2.0」の商用化の発表を計画。第3世代となる光電融合デバイスを採用して800Gbpsの大容量化を実現するとともに、デバイスの小型化によって、ネットワーク装置の小型化も実現する予定だ。
「IOWN 3.0」に進化するのは、29年度である。第4世代の光電融合デバイスを採用し、ボード内におけるチップ間を光電融合技術で接続。125倍の大容量化を達成し、電力効率はサーバーでは約20倍に向上することになる。
IOWNはサーバーの進化にも大きな影響を与える。光ネットワークは、距離減衰が極めて小さいため、従来よりも大規模な並列演算や、メモリの共有ができるようになるからだ。さらにボード内の導波路を光化することで、ボードの壁を撤廃し、強力なコンピューティングシステムを作ることができる。NTTはこれを「光ディスクアグリゲーテッドコンピューティング」と呼ぶ。従来のアーキテクチャーでは避けられなかった通信オーバーヘッドを大きく削減できるほか、より細かいリソース単位での電力制御や、ハードウェアの追加が行えるようになる。柔軟性が高いコンピューティング環境の提供が可能となるというわけだ。
30年度以降には、当面のゴールとして掲げている「IOWN 4.0」へと進化する。第5世代の光電融合デバイスを活用し、チップ内での光接続を可能にし、すでにIOWN1.0で達成している遅延で200分の1というゴールに加えて、電力効率で100倍、大容量化で125倍という長期目標も達成することになる(図参照)。
NTTの島田明社長は、「データドリブン社会が訪れると、膨大なデータを扱うようになる。また、膨大なデータを処理するためには、このままでは電力消費量が大幅に増加してしまう。データ量の増加、消費電力の増加、ネットワークの遅延などによって生まれる問題を、IOWNで解決することができる」と位置づける。
NTT 島田 明 社長
まずは動画の高精細化である。ハイビジョン動画をスムーズに視聴するには、1.5Gbps程度の容量が必要であるのに対し、16Kの映像視聴には、その約750倍となる1147Gbpsの大容量が必要になるという。16K映像の流通はまだ一般的ではないが、4Kや8Kの高精細映像は実用化されており、こうした動きはデータ量の増加に大きく影響する。
次がデータの3次元化である。今後の普及が注目されているメタバースの広がりによって、現在の2次元データが、3次元データになると、それだけで、データ量は約30倍に増加するという。
最後は、IoTの進展によって増え続けるネットワーク接続デバイスへの対応だ。17年には270億個だった接続デバイスは、30年には1250億個に増加し、これらのデバイスからデータが生まれ、より多くのデータがネットワークを通じてやりとりされることになる。IDC Japanによると、25年には、年間187ZBのデータが生成されることになるという。
データが増加すれば、それを処理するためのコンピューティングパワーが求められ、同時に消費電力も増加する。実際、日本のデータセンターの消費電力量は、18年には14TWhだったものが、30年には約6倍の90TWhになると予測されている。ちなみに、全世界では、18年の13倍となる2600TWhの消費電力量になるとみられている。
島田社長は「IOWNの最大の特徴は電力効率の向上であり、光電融合デバイスは低消費電力化に貢献するキーとなる。従来は複数のデバイスで構成していたものを同一のパッケージに組み込み、大幅に小型化することで、低電力化を図ることができる」と語る。IOWNはデータセンターの消費電力問題も解決することができるのである。
IOWNが実現する大容量、低遅延は、さまざまな可能性を提案できる。例えば、医療においては、離れた場所からでも遅延がない安定したロボット操作が可能になることから、遠隔手術の実現が可能になる。すでに、遠隔手術ロボット「Hinotori」で、共同実験を行っている段階にある。
ここでは、波長を変えられるという光の特徴も生かせる。1本のファイバーの中に別々のネットワークを作ることができ、従来型のインターネットプロトコルと、医療専用プロトコルといったように機能や役割別のネットワークを設けられる。大容量、低遅延とともに、セキュアなネットワークも構築できる。
ハイパースケーラーが持つ大規模データセンターと、中小規模の地域データセンターやユーザーが持つデータセンターがAPNによって接続されることで、データセンターの特性に合わせた機能分散を行ったり、相互連携による高可用性の実現につながったりする。
この取り組みは、データセンターの再生可能エネルギーの活用にも役立つ。日本では大規模データセンターを賄うだけの再生可能エネルギーの調達が難しいとの指摘があるが、各地域に分散した中小規模データセンターであれば、それぞれの地域で最適化した再エネ調達による運用が可能とみられている。
データセンターへの利用に関しては、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)が、IOWNの採用を検討していることを明らかにしている。AWSジャパンの長崎忠雄社長は「サービスのスピーディーな展開や、品質の向上に加え、低消費電力化により、カーボンニュートラルの課題解決にもつながると期待している。次世代サービスの構築という点でも大きな期待がある」と語る。
いよいよ商用サービス開始を直前に迎えたIOWN構想は、これからの日本のネットワークインフラだけでなく、次世代データセンターの実現や、IT利活用の提案を変える大きな一歩となりそうだ。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)

IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想である。
IOWN構想は、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつなげて制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」の三つの柱で構成。既存の情報通信システムが持つ限界を突破し、データ処理の増大に伴って増加する消費電力を削減するなど、さまざまな社会課題の解決につなげ、スマートな社会の実現に貢献できるとする。NTTだけの取り組みではなく、IOWN構想の実現や普及を目指すIOWN Global Forumを通じて、研究開発をはじめとして、パートナー企業との共創も推進している。
「IOWN 1.0」は、IOWN構想の商用化第1弾として発表された。ユーザーはエンド・ツー・エンドで光波長を専有し、100Gbpsの専用線サービスとして利用できる。光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍の大容量化を実現している。とくに、低遅延化については、IOWN構想が掲げている2030年の目標性能をこの時点でクリアするほか、遅延揺らぎがなくなるため、遅延の予測が可能となり、細かい複雑な作業を遠隔操作で行うことも見込める。APN端末装置での遅延の可視化および調整が可能になる点も特徴で、遠隔地間での接続タイミングを合わせることで、新たな用途での活用にも期待が集まる。
すでにAPNによる低遅延を生かした実証実験が、22年11月に都内で行われている。東京・新宿の東京オペラシティで開催された「NTT東日本 N響コンサート」で、現地と10キロ離れた調布市のドルトン東京学園をつなぎ、アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏をリアルタイムで配信した。同曲では、調布にいるスネアドラム奏者の演奏を伝送、さらに調布側の観客による手拍子も合奏として加え、音楽として成立させた。一般的なインターネットでは、数100ミリ秒程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできないが、APNでは20ミリ秒以下の低遅延を実現し、同時演奏を可能にした。
30年度以降に「4.0」へ
NTTは「IOWN 1.0」に続く、今後のロードマップを公表しており、30年度以降に、「IOWN4.0」まで進化させるとともに、その進化を支える光電融合デバイスのロードマップも明示している。光電融合とは、光回路と電気回路を融合させ、小型化、経済化、高速化、低消費電力化を実現する技術であり、光電融合デバイスを、APNサービスやサーバーにも適用することで、IOWNの高度化につながる。
ロードマップによると、23年度には400Gbpsの光電融合デバイスを開発することで、「IOWN 1.0」のサービスを100Gbpsから、さらに大容量化できる。25年には、「IOWN 2.0」の商用化の発表を計画。第3世代となる光電融合デバイスを採用して800Gbpsの大容量化を実現するとともに、デバイスの小型化によって、ネットワーク装置の小型化も実現する予定だ。
「IOWN 3.0」に進化するのは、29年度である。第4世代の光電融合デバイスを採用し、ボード内におけるチップ間を光電融合技術で接続。125倍の大容量化を達成し、電力効率はサーバーでは約20倍に向上することになる。
IOWNはサーバーの進化にも大きな影響を与える。光ネットワークは、距離減衰が極めて小さいため、従来よりも大規模な並列演算や、メモリの共有ができるようになるからだ。さらにボード内の導波路を光化することで、ボードの壁を撤廃し、強力なコンピューティングシステムを作ることができる。NTTはこれを「光ディスクアグリゲーテッドコンピューティング」と呼ぶ。従来のアーキテクチャーでは避けられなかった通信オーバーヘッドを大きく削減できるほか、より細かいリソース単位での電力制御や、ハードウェアの追加が行えるようになる。柔軟性が高いコンピューティング環境の提供が可能となるというわけだ。
30年度以降には、当面のゴールとして掲げている「IOWN 4.0」へと進化する。第5世代の光電融合デバイスを活用し、チップ内での光接続を可能にし、すでにIOWN1.0で達成している遅延で200分の1というゴールに加えて、電力効率で100倍、大容量化で125倍という長期目標も達成することになる(図参照)。

NTTの島田明社長は、「データドリブン社会が訪れると、膨大なデータを扱うようになる。また、膨大なデータを処理するためには、このままでは電力消費量が大幅に増加してしまう。データ量の増加、消費電力の増加、ネットワークの遅延などによって生まれる問題を、IOWNで解決することができる」と位置づける。
データ量増加による課題を解決
島田社長は、データ量の増加の要因として、三つのケースをあげる。まずは動画の高精細化である。ハイビジョン動画をスムーズに視聴するには、1.5Gbps程度の容量が必要であるのに対し、16Kの映像視聴には、その約750倍となる1147Gbpsの大容量が必要になるという。16K映像の流通はまだ一般的ではないが、4Kや8Kの高精細映像は実用化されており、こうした動きはデータ量の増加に大きく影響する。
次がデータの3次元化である。今後の普及が注目されているメタバースの広がりによって、現在の2次元データが、3次元データになると、それだけで、データ量は約30倍に増加するという。
最後は、IoTの進展によって増え続けるネットワーク接続デバイスへの対応だ。17年には270億個だった接続デバイスは、30年には1250億個に増加し、これらのデバイスからデータが生まれ、より多くのデータがネットワークを通じてやりとりされることになる。IDC Japanによると、25年には、年間187ZBのデータが生成されることになるという。
データが増加すれば、それを処理するためのコンピューティングパワーが求められ、同時に消費電力も増加する。実際、日本のデータセンターの消費電力量は、18年には14TWhだったものが、30年には約6倍の90TWhになると予測されている。ちなみに、全世界では、18年の13倍となる2600TWhの消費電力量になるとみられている。
島田社長は「IOWNの最大の特徴は電力効率の向上であり、光電融合デバイスは低消費電力化に貢献するキーとなる。従来は複数のデバイスで構成していたものを同一のパッケージに組み込み、大幅に小型化することで、低電力化を図ることができる」と語る。IOWNはデータセンターの消費電力問題も解決することができるのである。
IOWNが実現する大容量、低遅延は、さまざまな可能性を提案できる。例えば、医療においては、離れた場所からでも遅延がない安定したロボット操作が可能になることから、遠隔手術の実現が可能になる。すでに、遠隔手術ロボット「Hinotori」で、共同実験を行っている段階にある。
ここでは、波長を変えられるという光の特徴も生かせる。1本のファイバーの中に別々のネットワークを作ることができ、従来型のインターネットプロトコルと、医療専用プロトコルといったように機能や役割別のネットワークを設けられる。大容量、低遅延とともに、セキュアなネットワークも構築できる。
AWSジャパンが採用検討
IOWNは、次世代データセンターの実現にも大きく貢献することになる。先に触れたように、データセンターの消費電力問題の解決はもとより、データセンター同士をIOWNのAPNで接続することで、大容量、低遅延のメリットを生かして、それらが一つのデータセンターのようなかたちで活用できるようになる。ハイパースケーラーが持つ大規模データセンターと、中小規模の地域データセンターやユーザーが持つデータセンターがAPNによって接続されることで、データセンターの特性に合わせた機能分散を行ったり、相互連携による高可用性の実現につながったりする。
この取り組みは、データセンターの再生可能エネルギーの活用にも役立つ。日本では大規模データセンターを賄うだけの再生可能エネルギーの調達が難しいとの指摘があるが、各地域に分散した中小規模データセンターであれば、それぞれの地域で最適化した再エネ調達による運用が可能とみられている。
データセンターへの利用に関しては、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)が、IOWNの採用を検討していることを明らかにしている。AWSジャパンの長崎忠雄社長は「サービスのスピーディーな展開や、品質の向上に加え、低消費電力化により、カーボンニュートラルの課題解決にもつながると期待している。次世代サービスの構築という点でも大きな期待がある」と語る。
いよいよ商用サービス開始を直前に迎えたIOWN構想は、これからの日本のネットワークインフラだけでなく、次世代データセンターの実現や、IT利活用の提案を変える大きな一歩となりそうだ。
NTTは、「IOWN(アイオン)構想」のサービス第1弾として、3月にAPN(オールフォトニクスネットワーク)サービス「IOWN 1.0」の提供を開始する。これにより、いよいよNTTによる次世代コミュニケーション基盤が商用化の第一歩を踏み出すことになる。IOWN構想によって、日本、そして世界のネットワークインフラはどう変わるのだろうか。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想である。
IOWN構想は、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつなげて制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」の三つの柱で構成。既存の情報通信システムが持つ限界を突破し、データ処理の増大に伴って増加する消費電力を削減するなど、さまざまな社会課題の解決につなげ、スマートな社会の実現に貢献できるとする。NTTだけの取り組みではなく、IOWN構想の実現や普及を目指すIOWN Global Forumを通じて、研究開発をはじめとして、パートナー企業との共創も推進している。
「IOWN 1.0」は、IOWN構想の商用化第1弾として発表された。ユーザーはエンド・ツー・エンドで光波長を専有し、100Gbpsの専用線サービスとして利用できる。光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍の大容量化を実現している。とくに、低遅延化については、IOWN構想が掲げている2030年の目標性能をこの時点でクリアするほか、遅延揺らぎがなくなるため、遅延の予測が可能となり、細かい複雑な作業を遠隔操作で行うことも見込める。APN端末装置での遅延の可視化および調整が可能になる点も特徴で、遠隔地間での接続タイミングを合わせることで、新たな用途での活用にも期待が集まる。
すでにAPNによる低遅延を生かした実証実験が、22年11月に都内で行われている。東京・新宿の東京オペラシティで開催された「NTT東日本 N響コンサート」で、現地と10キロ離れた調布市のドルトン東京学園をつなぎ、アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏をリアルタイムで配信した。同曲では、調布にいるスネアドラム奏者の演奏を伝送、さらに調布側の観客による手拍子も合奏として加え、音楽として成立させた。一般的なインターネットでは、数100ミリ秒程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできないが、APNでは20ミリ秒以下の低遅延を実現し、同時演奏を可能にした。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)

IOWNは、Innovative Optical and Wireless Networkの略で、NTTグループが取り組んでいる次世代コミュニケーション基盤構想である。
IOWN構想は、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)、実世界とデジタル世界の掛け合わせによって未来予測などを実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつなげて制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」の三つの柱で構成。既存の情報通信システムが持つ限界を突破し、データ処理の増大に伴って増加する消費電力を削減するなど、さまざまな社会課題の解決につなげ、スマートな社会の実現に貢献できるとする。NTTだけの取り組みではなく、IOWN構想の実現や普及を目指すIOWN Global Forumを通じて、研究開発をはじめとして、パートナー企業との共創も推進している。
「IOWN 1.0」は、IOWN構想の商用化第1弾として発表された。ユーザーはエンド・ツー・エンドで光波長を専有し、100Gbpsの専用線サービスとして利用できる。光波長のまま伝送することで、既存サービスに比べて200分の1の低遅延化と、光ファイバーあたりの通信容量では1.2倍の大容量化を実現している。とくに、低遅延化については、IOWN構想が掲げている2030年の目標性能をこの時点でクリアするほか、遅延揺らぎがなくなるため、遅延の予測が可能となり、細かい複雑な作業を遠隔操作で行うことも見込める。APN端末装置での遅延の可視化および調整が可能になる点も特徴で、遠隔地間での接続タイミングを合わせることで、新たな用途での活用にも期待が集まる。
すでにAPNによる低遅延を生かした実証実験が、22年11月に都内で行われている。東京・新宿の東京オペラシティで開催された「NTT東日本 N響コンサート」で、現地と10キロ離れた調布市のドルトン東京学園をつなぎ、アンコール曲である「ラデツキー行進曲」の演奏をリアルタイムで配信した。同曲では、調布にいるスネアドラム奏者の演奏を伝送、さらに調布側の観客による手拍子も合奏として加え、音楽として成立させた。一般的なインターネットでは、数100ミリ秒程度の遅延が発生するため、離れた場所を結んだ演奏はできないが、APNでは20ミリ秒以下の低遅延を実現し、同時演奏を可能にした。
この記事の続き >>
- 30年度以降に「IOWN4.0」へ
- データ量増加による課題を解決
- AWSジャパンが採用検討
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