Special Feature
劇的な進化を遂げる「Sansan」さらなる成長に向け挑むハードルとは
2023/09/07 09:00
週刊BCN 2023年09月04日vol.1983掲載
Sansanは、ミッションとして掲げる「出会いからイノベーションを生み出す」の実現に向けて、働き方を変えるさまざまなDXサービスを提供している。中核となるのが、従来のクラウド型名刺管理サービスから、2022年に営業DXサービスに進化した「Sansan」だ。プロダクト刷新の背景や、さらなる成長に向けた課題を探る。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)
小川泰正 執行役員
執行役員でSansan事業部の小川泰正・事業部長は「社会に対して価値を提供し続けていくために、プロダクトとビジネスの両方の観点で、変化を恐れずに挑戦するというスタンスが大きな強みだ。マーケットに風が吹くのを待つのではなく、自ら風を起こしていくという発想で取り組んでいる」と紹介する。
22年のプロダクトの刷新もその一環であったと捉えられる。小川執行役員は「背景には、20年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大がある。大きな社会変容が起きたことで、名刺を交換する機会が一気に減少し、当社もかなり厳しい状況に陥った。ただ、そうした中でも、われわれは変化させていくことを心掛けた」と説明する。オンライン名刺交換やメール署名の取り込みなど、コロナ禍だからこそ必要な新機能を実装。その結果、コロナ禍であってもSansanのストック売上高や契約件数は順調に拡大することができたという。
さらに「時代やニーズの急激な変化に対応する中で、多くの企業が売り上げを伸ばすことにかなり苦労していることを体感した。Sansanも名刺管理の領域を越え、営業活動を加速するためのサービスへと発想を切り替えていく必要があったため、単なる機能の追加でなく、営業DXへと進化させていくことを決めた」と語る。
打ち出した新たなコンセプトは「営業を強くするデータベース」。併せて2点を強化した。一つは接点情報の拡大。もう一つは100万件以上の企業情報の実装だ。これにより、あらゆる顧客に関する情報を営業やマーケティング活動に生かせるようになったという。
同社は、プロダクト刷新後も新機能を次々と実装してきた。その成果は着実に出ている。23年6月に取りこまれた接点数は過去最高の約980万、解約率は過去最低水準の0.44%、ARR(年間経常収益)は200億円を突破した。もちろん、一足飛びに実現できたと考えているわけではない。「営業DXサービスがPMF(プロダクトマーケットフィット)するよう、プロダクトからカスタマーサクセスまでを泥臭く回し続けているのがポイント。本当に薄皮を1枚1枚積み重ねた結果と言っていい」と小川執行役員は付け加える。
ただ、現状にはまだ満足していないようだ。営業の生産性向上をさらに後押ししていきたいと、8月に新規顧客開拓ソリューションの提供を発表した。小川執行役員は「従来のSansanは顧客と接点を持った後、特に既存顧客へのアプローチにおける利用が中心だった。しかし、お客様が営業を強化しようと思ったときには、新規顧客の開拓にニーズがある。その成否を決めるのは営業リストだが、悩みが多い。それらを解決し、営業リストの入手・作成からアプローチまでを一気通貫で支援できるよう機能を拡充した」と解説する。
具体的には三つの新機能がアップデートされる。一つめは拠点情報の追加。二つめは企業の最新動向に合わせて付与される企業動向タグ。三つめは営業リストの作成・共有機能だ。既にリリース済みの機能もあるが、順次開発が進められる予定だ。
小川執行役員は「今後はこの新規顧客開拓ソリューションを定着させることが重要になる。一番ヒットすることが見込める営業企画やマーケティング担当の方々は、これまで当社がアプローチしにくかった層。ここを掘り起こしていきたい」とし、「その先でデータ統合やガバナンス、コラボレーションなどのソリューションを揃えることができたら、相当強いプロダクトになる。最終的には、ビジネスインフラになるのが目標だ」と抱負を語る。
一方、Sansanがビジネスインフラとなるために乗り越えるべきハードルは何か。小川執行役員が注目しているのは、企業規模におけるカバー率の向上だ。現状、従業者数1000人以上の企業のカバー率は16.3%となっているが、1000人以上の企業で働く人を対象としたカバー率は4.5%。「このゾーンだけでも20倍ものマーケットの拡大余地がある」と力説する。
川元久海子 部長
同社はこれまで、パートナービジネスに一度もトライしなかったわけではない。何度も試行錯誤を繰り返しているものの、確かな成果を出せていないのが実態だ。実際、Sansan事業におけるパートナービジネスの課題がどこにあると見ているのか。
川元部長は「今までは、パートナーが売るためのシナリオやコンテンツ、工夫が足りていなかった。パートナー向けの勉強会などを開催していたが、そうした場を提供することがゴールになってしまい、パートナーにとっては、あまり意味がない状態だった」と明かし、「足元の数字をつくる活動を進める一方で、パートナーがモチベーション高く仕掛けてもらえるようストーリーを立てなければいけない。別にSansanを単独で売ってくれなくてもいい。提案したソリューションの中にSansanがあればいいと考えており、そのためにはパートナーとの関係性をしっかり築くことが重要だ」と強調する。
同社は、パートナー営業の強化に向けて22年にパートナープログラムをリニューアルし、新設の「Premier Sales Partner」にNECネッツエスアイとDXHUBの2社を認定した。川元部長は「少ないリソースなので、選択と集中を図った。これを機会にパートナーとの関係性を見直すとともに、カテゴリーも再編した」と話す。
同社が目指すビジネスインフラを実現するためには、直販に加え、パートナービジネスも重要になる。川元部長は▽しっかりと時間を掛けて超大手企業を対象に大きなビジネスにつなげていく▽小さいながら多くの案件を積み上げていく-の二つを今後の方向性として挙げ、「いずれも直販で手掛けているやり方とは違ってくる。そこを成功させることができれば、マーケットとしても拡大できる」と見通す。
中でも前者については「超大手企業は、(情報システムの構築・運用を)SIerに委託しているケースが多く、われわれとしてはリーチしづらい」としつつ、「SIerは2、3年先の顧客のビジネスに合わせていろいろなことを考えている。Sansanを接点データベースとして埋め込み、大きなビジネスにつなげていくことは、パートナーにしかできない」と分析する。
その上で「パートナービジネスには夢しかない。ネットワークを広げていくことができれば、Sansanがビジネスインフラとして当たり前になっていくだろう。そういう世界観、ゴールを明確に描いているため、それに向けてどのように進めていくかが、かぎになる。これについては、パートナーと一緒に向き合っていきたい」と力を込める。
西場正浩 執行役員
「研究開発は長期的な話となる。ビジネスが海外展開するよりも、先行して投資をスタートしておかないといけない。Sansanをグローバルプロダクトにしていくためにも、技術本部としては開発力の強化に取り組む必要がある。いかに早く進化させていくかが大事になるので、エンジニアの技術力や人数、組織としての開発体制の拡充が欠かせない」
西場執行役員が特に着目しているのは、名刺や企業情報をデータ化するプロセスにおける自社の強みだ。「SansanはOCRや名寄せの技術に関して、日本語においては国内トップクラスのクオリティーを誇る。だが、海外展開していくとなると簡単にはいかない。また、データも集めて終わりではない。営業DXという文脈で、いかにデータの付加価値を高めていくかを試行錯誤していく必要がある。研究して終わりではなく、ユーザーに対して、どのようなメリットを届けられるかを仮説検証しながら、短いスパンでPDCAを回していきたい」と述べる。
西場執行役員がVPoEに就任したのは22年2月。以来、技術本部の生産性向上を目指して、ボトムアップな組織づくりと情報のオープン化、エンジニアの確保・育成に注力してきた。それも同社を「グローバルテックカンパニーにしたい」との強い思いがあるからだ。「組織づくりに関しては、現状、どんどん改善が進んでいる。だが、このテーマに関してゴールはない。情報のオープン化も大きく前進している。とはいえ、オープン化を進めても、しっかりと伝わっているかは別な話。最近はそちらに注力している」と手応えを感じている。
Sansanの開発は今後、どう進んでいくのか。西場執行役員は「今あるデータで、いかに新規顧客開拓ソリューションの付加価値を高めていくか。そこにぜひ取り組んでいきたい。Sansanには企業データベースや人物情報、顧客との接点情報が蓄積されている。それが、一つのプラットフォーム上で組み合わせて活用できるのは新しい価値だ。さらには、当社のほかのサービスや他社のツールともつながる世界をいかに実現していくかを必死になって考えていく必要がある」と展望する。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)

マーケットに自ら風を起こす
Sansanのリリースは07年にさかのぼる。その後、多くの機能を追加。現在の利用企業数は8000社に上る。法人向け名刺管理サービスの市場では、Sansanは82%と圧倒的なシェアを誇っている(出典:営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2023/2022年12月シード・プランニング調査)。優位性の源泉はどこにあるのか。
執行役員でSansan事業部の小川泰正・事業部長は「社会に対して価値を提供し続けていくために、プロダクトとビジネスの両方の観点で、変化を恐れずに挑戦するというスタンスが大きな強みだ。マーケットに風が吹くのを待つのではなく、自ら風を起こしていくという発想で取り組んでいる」と紹介する。
22年のプロダクトの刷新もその一環であったと捉えられる。小川執行役員は「背景には、20年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大がある。大きな社会変容が起きたことで、名刺を交換する機会が一気に減少し、当社もかなり厳しい状況に陥った。ただ、そうした中でも、われわれは変化させていくことを心掛けた」と説明する。オンライン名刺交換やメール署名の取り込みなど、コロナ禍だからこそ必要な新機能を実装。その結果、コロナ禍であってもSansanのストック売上高や契約件数は順調に拡大することができたという。
さらに「時代やニーズの急激な変化に対応する中で、多くの企業が売り上げを伸ばすことにかなり苦労していることを体感した。Sansanも名刺管理の領域を越え、営業活動を加速するためのサービスへと発想を切り替えていく必要があったため、単なる機能の追加でなく、営業DXへと進化させていくことを決めた」と語る。
打ち出した新たなコンセプトは「営業を強くするデータベース」。併せて2点を強化した。一つは接点情報の拡大。もう一つは100万件以上の企業情報の実装だ。これにより、あらゆる顧客に関する情報を営業やマーケティング活動に生かせるようになったという。
同社は、プロダクト刷新後も新機能を次々と実装してきた。その成果は着実に出ている。23年6月に取りこまれた接点数は過去最高の約980万、解約率は過去最低水準の0.44%、ARR(年間経常収益)は200億円を突破した。もちろん、一足飛びに実現できたと考えているわけではない。「営業DXサービスがPMF(プロダクトマーケットフィット)するよう、プロダクトからカスタマーサクセスまでを泥臭く回し続けているのがポイント。本当に薄皮を1枚1枚積み重ねた結果と言っていい」と小川執行役員は付け加える。
ただ、現状にはまだ満足していないようだ。営業の生産性向上をさらに後押ししていきたいと、8月に新規顧客開拓ソリューションの提供を発表した。小川執行役員は「従来のSansanは顧客と接点を持った後、特に既存顧客へのアプローチにおける利用が中心だった。しかし、お客様が営業を強化しようと思ったときには、新規顧客の開拓にニーズがある。その成否を決めるのは営業リストだが、悩みが多い。それらを解決し、営業リストの入手・作成からアプローチまでを一気通貫で支援できるよう機能を拡充した」と解説する。
具体的には三つの新機能がアップデートされる。一つめは拠点情報の追加。二つめは企業の最新動向に合わせて付与される企業動向タグ。三つめは営業リストの作成・共有機能だ。既にリリース済みの機能もあるが、順次開発が進められる予定だ。
小川執行役員は「今後はこの新規顧客開拓ソリューションを定着させることが重要になる。一番ヒットすることが見込める営業企画やマーケティング担当の方々は、これまで当社がアプローチしにくかった層。ここを掘り起こしていきたい」とし、「その先でデータ統合やガバナンス、コラボレーションなどのソリューションを揃えることができたら、相当強いプロダクトになる。最終的には、ビジネスインフラになるのが目標だ」と抱負を語る。
一方、Sansanがビジネスインフラとなるために乗り越えるべきハードルは何か。小川執行役員が注目しているのは、企業規模におけるカバー率の向上だ。現状、従業者数1000人以上の企業のカバー率は16.3%となっているが、1000人以上の企業で働く人を対象としたカバー率は4.5%。「このゾーンだけでも20倍ものマーケットの拡大余地がある」と力説する。
パートナービジネスで突破口を模索
同社は、主に直販で導入の拡大を進めてきた。しかし、Sansan事業部パートナーアライアンス部の川元久海子・部長は「価値をそのまま自分たちの口で伝えられるのは直販のメリットだが、逆に限界もある。必ず人工の壁にぶち当たってしまう。SaaSの領域では、パートナービジネスは難しいと言われているものの、やり方次第では何か突破口があるのではないか。そう信じて今、模索を始めている」と話す。
同社はこれまで、パートナービジネスに一度もトライしなかったわけではない。何度も試行錯誤を繰り返しているものの、確かな成果を出せていないのが実態だ。実際、Sansan事業におけるパートナービジネスの課題がどこにあると見ているのか。
川元部長は「今までは、パートナーが売るためのシナリオやコンテンツ、工夫が足りていなかった。パートナー向けの勉強会などを開催していたが、そうした場を提供することがゴールになってしまい、パートナーにとっては、あまり意味がない状態だった」と明かし、「足元の数字をつくる活動を進める一方で、パートナーがモチベーション高く仕掛けてもらえるようストーリーを立てなければいけない。別にSansanを単独で売ってくれなくてもいい。提案したソリューションの中にSansanがあればいいと考えており、そのためにはパートナーとの関係性をしっかり築くことが重要だ」と強調する。
同社は、パートナー営業の強化に向けて22年にパートナープログラムをリニューアルし、新設の「Premier Sales Partner」にNECネッツエスアイとDXHUBの2社を認定した。川元部長は「少ないリソースなので、選択と集中を図った。これを機会にパートナーとの関係性を見直すとともに、カテゴリーも再編した」と話す。
同社が目指すビジネスインフラを実現するためには、直販に加え、パートナービジネスも重要になる。川元部長は▽しっかりと時間を掛けて超大手企業を対象に大きなビジネスにつなげていく▽小さいながら多くの案件を積み上げていく-の二つを今後の方向性として挙げ、「いずれも直販で手掛けているやり方とは違ってくる。そこを成功させることができれば、マーケットとしても拡大できる」と見通す。
中でも前者については「超大手企業は、(情報システムの構築・運用を)SIerに委託しているケースが多く、われわれとしてはリーチしづらい」としつつ、「SIerは2、3年先の顧客のビジネスに合わせていろいろなことを考えている。Sansanを接点データベースとして埋め込み、大きなビジネスにつなげていくことは、パートナーにしかできない」と分析する。
その上で「パートナービジネスには夢しかない。ネットワークを広げていくことができれば、Sansanがビジネスインフラとして当たり前になっていくだろう。そういう世界観、ゴールを明確に描いているため、それに向けてどのように進めていくかが、かぎになる。これについては、パートナーと一緒に向き合っていきたい」と力を込める。
グローバルプロダクトに
Sansanのさらなる成長に向け、研究開発の視点では何がクローズアップされるのか。執行役員の西場正浩・VPoE(Vice President of Engineering)/Sansan Engineering Unit部長はこう指摘する。
「研究開発は長期的な話となる。ビジネスが海外展開するよりも、先行して投資をスタートしておかないといけない。Sansanをグローバルプロダクトにしていくためにも、技術本部としては開発力の強化に取り組む必要がある。いかに早く進化させていくかが大事になるので、エンジニアの技術力や人数、組織としての開発体制の拡充が欠かせない」
西場執行役員が特に着目しているのは、名刺や企業情報をデータ化するプロセスにおける自社の強みだ。「SansanはOCRや名寄せの技術に関して、日本語においては国内トップクラスのクオリティーを誇る。だが、海外展開していくとなると簡単にはいかない。また、データも集めて終わりではない。営業DXという文脈で、いかにデータの付加価値を高めていくかを試行錯誤していく必要がある。研究して終わりではなく、ユーザーに対して、どのようなメリットを届けられるかを仮説検証しながら、短いスパンでPDCAを回していきたい」と述べる。
西場執行役員がVPoEに就任したのは22年2月。以来、技術本部の生産性向上を目指して、ボトムアップな組織づくりと情報のオープン化、エンジニアの確保・育成に注力してきた。それも同社を「グローバルテックカンパニーにしたい」との強い思いがあるからだ。「組織づくりに関しては、現状、どんどん改善が進んでいる。だが、このテーマに関してゴールはない。情報のオープン化も大きく前進している。とはいえ、オープン化を進めても、しっかりと伝わっているかは別な話。最近はそちらに注力している」と手応えを感じている。
Sansanの開発は今後、どう進んでいくのか。西場執行役員は「今あるデータで、いかに新規顧客開拓ソリューションの付加価値を高めていくか。そこにぜひ取り組んでいきたい。Sansanには企業データベースや人物情報、顧客との接点情報が蓄積されている。それが、一つのプラットフォーム上で組み合わせて活用できるのは新しい価値だ。さらには、当社のほかのサービスや他社のツールともつながる世界をいかに実現していくかを必死になって考えていく必要がある」と展望する。
Sansanは、ミッションとして掲げる「出会いからイノベーションを生み出す」の実現に向けて、働き方を変えるさまざまなDXサービスを提供している。中核となるのが、従来のクラウド型名刺管理サービスから、2022年に営業DXサービスに進化した「Sansan」だ。プロダクト刷新の背景や、さらなる成長に向けた課題を探る。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)
小川泰正 執行役員
執行役員でSansan事業部の小川泰正・事業部長は「社会に対して価値を提供し続けていくために、プロダクトとビジネスの両方の観点で、変化を恐れずに挑戦するというスタンスが大きな強みだ。マーケットに風が吹くのを待つのではなく、自ら風を起こしていくという発想で取り組んでいる」と紹介する。
22年のプロダクトの刷新もその一環であったと捉えられる。小川執行役員は「背景には、20年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大がある。大きな社会変容が起きたことで、名刺を交換する機会が一気に減少し、当社もかなり厳しい状況に陥った。ただ、そうした中でも、われわれは変化させていくことを心掛けた」と説明する。オンライン名刺交換やメール署名の取り込みなど、コロナ禍だからこそ必要な新機能を実装。その結果、コロナ禍であってもSansanのストック売上高や契約件数は順調に拡大することができたという。
さらに「時代やニーズの急激な変化に対応する中で、多くの企業が売り上げを伸ばすことにかなり苦労していることを体感した。Sansanも名刺管理の領域を越え、営業活動を加速するためのサービスへと発想を切り替えていく必要があったため、単なる機能の追加でなく、営業DXへと進化させていくことを決めた」と語る。
打ち出した新たなコンセプトは「営業を強くするデータベース」。併せて2点を強化した。一つは接点情報の拡大。もう一つは100万件以上の企業情報の実装だ。これにより、あらゆる顧客に関する情報を営業やマーケティング活動に生かせるようになったという。
同社は、プロダクト刷新後も新機能を次々と実装してきた。その成果は着実に出ている。23年6月に取りこまれた接点数は過去最高の約980万、解約率は過去最低水準の0.44%、ARR(年間経常収益)は200億円を突破した。もちろん、一足飛びに実現できたと考えているわけではない。「営業DXサービスがPMF(プロダクトマーケットフィット)するよう、プロダクトからカスタマーサクセスまでを泥臭く回し続けているのがポイント。本当に薄皮を1枚1枚積み重ねた結果と言っていい」と小川執行役員は付け加える。
ただ、現状にはまだ満足していないようだ。営業の生産性向上をさらに後押ししていきたいと、8月に新規顧客開拓ソリューションの提供を発表した。小川執行役員は「従来のSansanは顧客と接点を持った後、特に既存顧客へのアプローチにおける利用が中心だった。しかし、お客様が営業を強化しようと思ったときには、新規顧客の開拓にニーズがある。その成否を決めるのは営業リストだが、悩みが多い。それらを解決し、営業リストの入手・作成からアプローチまでを一気通貫で支援できるよう機能を拡充した」と解説する。
具体的には三つの新機能がアップデートされる。一つめは拠点情報の追加。二つめは企業の最新動向に合わせて付与される企業動向タグ。三つめは営業リストの作成・共有機能だ。既にリリース済みの機能もあるが、順次開発が進められる予定だ。
小川執行役員は「今後はこの新規顧客開拓ソリューションを定着させることが重要になる。一番ヒットすることが見込める営業企画やマーケティング担当の方々は、これまで当社がアプローチしにくかった層。ここを掘り起こしていきたい」とし、「その先でデータ統合やガバナンス、コラボレーションなどのソリューションを揃えることができたら、相当強いプロダクトになる。最終的には、ビジネスインフラになるのが目標だ」と抱負を語る。
一方、Sansanがビジネスインフラとなるために乗り越えるべきハードルは何か。小川執行役員が注目しているのは、企業規模におけるカバー率の向上だ。現状、従業者数1000人以上の企業のカバー率は16.3%となっているが、1000人以上の企業で働く人を対象としたカバー率は4.5%。「このゾーンだけでも20倍ものマーケットの拡大余地がある」と力説する。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)

マーケットに自ら風を起こす
Sansanのリリースは07年にさかのぼる。その後、多くの機能を追加。現在の利用企業数は8000社に上る。法人向け名刺管理サービスの市場では、Sansanは82%と圧倒的なシェアを誇っている(出典:営業支援DXにおける名刺管理サービスの最新動向2023/2022年12月シード・プランニング調査)。優位性の源泉はどこにあるのか。
執行役員でSansan事業部の小川泰正・事業部長は「社会に対して価値を提供し続けていくために、プロダクトとビジネスの両方の観点で、変化を恐れずに挑戦するというスタンスが大きな強みだ。マーケットに風が吹くのを待つのではなく、自ら風を起こしていくという発想で取り組んでいる」と紹介する。
22年のプロダクトの刷新もその一環であったと捉えられる。小川執行役員は「背景には、20年から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大がある。大きな社会変容が起きたことで、名刺を交換する機会が一気に減少し、当社もかなり厳しい状況に陥った。ただ、そうした中でも、われわれは変化させていくことを心掛けた」と説明する。オンライン名刺交換やメール署名の取り込みなど、コロナ禍だからこそ必要な新機能を実装。その結果、コロナ禍であってもSansanのストック売上高や契約件数は順調に拡大することができたという。
さらに「時代やニーズの急激な変化に対応する中で、多くの企業が売り上げを伸ばすことにかなり苦労していることを体感した。Sansanも名刺管理の領域を越え、営業活動を加速するためのサービスへと発想を切り替えていく必要があったため、単なる機能の追加でなく、営業DXへと進化させていくことを決めた」と語る。
打ち出した新たなコンセプトは「営業を強くするデータベース」。併せて2点を強化した。一つは接点情報の拡大。もう一つは100万件以上の企業情報の実装だ。これにより、あらゆる顧客に関する情報を営業やマーケティング活動に生かせるようになったという。
同社は、プロダクト刷新後も新機能を次々と実装してきた。その成果は着実に出ている。23年6月に取りこまれた接点数は過去最高の約980万、解約率は過去最低水準の0.44%、ARR(年間経常収益)は200億円を突破した。もちろん、一足飛びに実現できたと考えているわけではない。「営業DXサービスがPMF(プロダクトマーケットフィット)するよう、プロダクトからカスタマーサクセスまでを泥臭く回し続けているのがポイント。本当に薄皮を1枚1枚積み重ねた結果と言っていい」と小川執行役員は付け加える。
ただ、現状にはまだ満足していないようだ。営業の生産性向上をさらに後押ししていきたいと、8月に新規顧客開拓ソリューションの提供を発表した。小川執行役員は「従来のSansanは顧客と接点を持った後、特に既存顧客へのアプローチにおける利用が中心だった。しかし、お客様が営業を強化しようと思ったときには、新規顧客の開拓にニーズがある。その成否を決めるのは営業リストだが、悩みが多い。それらを解決し、営業リストの入手・作成からアプローチまでを一気通貫で支援できるよう機能を拡充した」と解説する。
具体的には三つの新機能がアップデートされる。一つめは拠点情報の追加。二つめは企業の最新動向に合わせて付与される企業動向タグ。三つめは営業リストの作成・共有機能だ。既にリリース済みの機能もあるが、順次開発が進められる予定だ。
小川執行役員は「今後はこの新規顧客開拓ソリューションを定着させることが重要になる。一番ヒットすることが見込める営業企画やマーケティング担当の方々は、これまで当社がアプローチしにくかった層。ここを掘り起こしていきたい」とし、「その先でデータ統合やガバナンス、コラボレーションなどのソリューションを揃えることができたら、相当強いプロダクトになる。最終的には、ビジネスインフラになるのが目標だ」と抱負を語る。
一方、Sansanがビジネスインフラとなるために乗り越えるべきハードルは何か。小川執行役員が注目しているのは、企業規模におけるカバー率の向上だ。現状、従業者数1000人以上の企業のカバー率は16.3%となっているが、1000人以上の企業で働く人を対象としたカバー率は4.5%。「このゾーンだけでも20倍ものマーケットの拡大余地がある」と力説する。
この記事の続き >>
- パートナービジネスで突破口を模索
- グローバルプロダクトに
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
