Special Feature
ITインフラ事業成長のかぎは「AI」が握る 米VMwareがラスベガスで年次イベントを開催
2023/09/14 09:00
週刊BCN 2023年09月11日vol.1984掲載
【米ラスベガス発】米VMware(ヴイエムウェア)は8月21日から24日までの4日間(米国時間)、米ラスベガスで年次イベント「VMware Explore 2023 Las Vegas」を開催した。企業が生成AIを活用してビジネスを加速するには、AIの開発・運用に用いるプライベートなITインフラが必要として「VMware Private AI」を発表したほか、複雑化するマルチクラウド環境の運用もAIによって最適化できるとし、事業戦略の中核にAIを据える方針を強調した。
(取材・文/大向琴音 編集/日高 彰)
ラグー・ラグラム CEO
近年ヴイエムウェアは、オンプレミスの仮想化環境、パブリッククラウド、そして工場や店舗などのエッジ環境といったあらゆるITインフラの上で、開発したアプリケーションを継続的に運用していくための基盤となるソフトウェアの提供に力を入れている。従来の仮想マシンに加えて、コンテナ化されたクラウドネイティブなアプリケーションの実行・管理をサポートする製品群「Tanzu」はその代表だ。この点では、今回のテーマの一つであるマルチクラウドは、同社が取り組んできた戦略を継続・強化するものと言える。
一方で、昨年の「ChatGPT」の登場以来、IT市場で最大の“バズワード”となっているのが、もう一つのテーマである生成AIだ。ITインフラの領域でビジネスを展開するヴイエムウェアと生成AIは、どのように関係するのか。
生成AIがIT市場にもたらすインパクトについてラグラムCEOは、「従来のAIは、ユースケースごとに異なるモデルが必要であった。しかし、生成AIは汎用性がある。情報のやり取りについても、プログラミング言語ではなく、自然言語を使ってやり取りができるので、エンタープライズの誰もが活用可能になる」と語った。AIのワークロードはGPUも含め、大きなITリソースを消費するとされる。それに加えて生成AIが登場したことで、今後はAI活用が進んでいなかった企業の間でもAIの導入が進むとラグラムCEOはみているようだった。
企業が生成AIを活用する際に大きな課題となるのが、データプライバシーだ。現在はChatGPTのようなサービスをそのまま試験的に導入している企業も見られるが、業務の効率化や競争力の向上といった効果を高めるためには、顧客との過去の対応履歴や、特定の業務で頻出する用語など、その企業だけが持つデータを利用してAIモデルをカスタマイズする必要がある。個人情報や企業秘密を用いるAIアプリケーションを安全に開発するためには、プライバシーやコンプライアンスの要件を企業が自ら制御できるプライベートな環境が必要となる。
また、AIアプリケーションは一度開発して終わりではなく、継続的にチューニングして精度を高めていくことや、新しく登場するAI技術との連携など、開発、運用、最適化をサイクルとして回していくことが求められる。オンプレミスで開発したAIを、パブリッククラウドやエッジなどの異なる環境で実行するといったニーズも必然的に発生する。
このため、ヴイエムウェアはAI開発で既に大きなエコシステムを築いている米NVIDIA(エヌビディア)との協業を強化する戦略をとる。今回のイベントでの最も大きな発表となったのが、ヴイエムウェアのクラウド基盤と、AIモデルの構築や運用を支援するエヌビディアのソフトウェア製品「NVIDIA AI Enterprise」を統合した「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」だった。AIアプリケーションを実行する基盤だけでなく、エヌビディアと組んでAI開発から改善に至るまでの一連のライフサイクルを提供することで、生成AIで急騰するITインフラ需要を自社の成長につなげようとするのが、今回のヴイエムウェアの狙いだ。
VMware Private AI Foundation with NVIDIA向けのハードウェアとしては、米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)、米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレットパッカードエンタープライズ、HPE)、中国Lenovo(レノボ)から対応製品が提供されることがアナウンスされている。また、エヌビディアとの協業に加えて、オープンソースの技術を利用してAIを開発・利用するためのアーキテクチャーとして、「VMware Private AI Reference Architecture for Open Source」も発表している。ヴイエムウェアは、ユーザー企業やパートナーが自社のクラウド基盤を構築するための製品として「VMware Cloud Foundation(VCF)」を用意しているが、VCFとオープンソースの技術、そしてパートナーの製品やサービスを組み合わせたAIソリューションを提供できる環境を整えようとしている。
Tanzuの新機能としては、マルチクラウド環境の管理や最適化を行う「Tanzu Intelligence Services」がある。別製品としてこれまで提供してきた「Aria」の一部と共通のデータプラットフォームが組み込まれており、システムの管理を一元化し、ITインフラの運用で必要となるデータの共有を推進するとした。アプリケーションを実行するそれぞれ個別の環境の運用を効率化するだけでなく、マルチクラウド環境全体を可視化し、コストの最適化や一貫したガバナンスの強化を図ることにより力を入れた格好だ。
さらに、Tanzu Intelligence Servicesの機能としてアピールされていたのが「Tanzu with Intelligent Assist」だ。これは、インフラを運用するエンジニアに対し自然言語による対話型チャットボットを提供する。ボットには、エンジニアがそのとき行うべき作業をAIがレコメンデーションする機能も搭載しており、ユーザーはレコメンデーションの実行を指示するだけで、Intelligent Assistが自動的に作業を行ってくれる。これにより、運用を大幅に効率化できるとした。AIを構築・運用するための基盤を提供するという大きな戦略に加えて、ITインフラの運用自体にもAIを積極的に活用するという方針も、今回のイベントで同社が強調していた部分だ。
エッジについては、「VMware Edge Cloud Orchestrator(VECO)」が発表された。VECOは、大規模なシステムでデータを生成、利用するため、複数の拠点のエッジサービスをオーケストレーションする機能。独自のSASEソリューション「VMware SASE」と、エッジにおいてエッジネイティブなアプリケーションを構築、実行、管理、接続、保護するためのプラットフォーム「VMware Edge Compute Stack」を統合管理し、エッジにおけるネットワークとコンピューティングのギャップを解消する製品だと説明した。
スミット・ダーワン 社長
スミット・ダーワン社長は「エッジは、今後、巨大なイノベーションが起きる領域だ。リテールから政府のサービス、ヘルスケアまで、エッジがイノベーションをけん引していくことになるだろう」と今後を展望した。
イベントの展示会場では、ヴイエムウェアのエッジ向け技術で運用されている警察車両が展示されていた。車両には同社のコンピュートスタックを搭載した小型のボックス型エッジサーバーが備え付けられている。エッジサーバーはカメラや通信機器など警察官が所持するさまざまなデバイスと連携し、走行中の車のナンバープレートなどの画像の取り込みや、データの照会など多くのアプリケーションが動作している。また、「VMware SD-WAN」のテクノロジーを使うことで、エッジでも遅延が起こりにくいネットワークを実現しているという。さらに、エッジの機器は同社のデバイス/アプリケーション一元管理ソリューションである「Workspace ONE」を使って管理する仕組みになっている。
会場で展示された小型のエッジ向けサーバーを搭載した警察車両。
ヴイエムウェアのSD-WAN技術で接続され、
ナンバープレートの認識などで捜査に用いられている
Ransomware RecoveryはVMware Cloudのサービスとして利用でき、仮想マシンの振る舞いを分析することで、ファイルレス攻撃を受けた際にリカバリできるよう設計されたソリューション。今回、同時に複数の仮想マシンをリカバリできる機能が追加された。
ダーワン社長は「オラクルやIBM、エクイニクスなどのパートナーが一緒になることで、VMware Cloudを簡単に使うことができるようになる」と、同社の基盤技術を用いてクラウドサービスを提供するパートナーが拡大していることをアピールしたほか、基本的な仮想化基盤の提供から、ネットワークやストレージの管理やセキュリティを含むエンタープライズクラスのプライベートクラウド構築まで、同社のクラウド基盤製品ではユーザーが必要とする規模や機能に応じた複数のエディションを用意していることを紹介。「ジャーニーのどの段階であっても、皆さんに適したものを選んでもらうことができる」とし、ニーズに合わせた柔軟さをメリットとして説明した。
リッキー・クーパー ワールドワイドパートナーおよびコマーシャル 担当責任者
VMware Exploreでは、ヴイエムウェアパートナーだけが参加できるパートナー向けセッションも開催された。リッキー・クーパー・ワールドワイドパートナーおよびコマーシャル担当責任者は、22年度にアジア太平洋および日本地域での特定業種向け導入で大きな実績を上げたとして、「VMware APJ 2022 Partner Industry Award」を受賞したNECを紹介したほか、「特に、エンドユーザーコンピューティングとVDIソリューションについては、日本のパートナーが主導で進めてきた。この領域では、富士通がリーダーとなっている」と述べた。また、日立製作所についても言及し、ヴイエムウェアが注力するビジネス戦略の推進に向け、日本の大手SIer各社が専門性を発揮することに期待を示した。
(取材・文/大向琴音 編集/日高 彰)

なぜ生成AIが大きなチャンスを生むのか
米国時間8月22日の基調講演に登壇したラグー・ラグラムCEOは、VMware Explore 2023の大きなテーマは、「生成AI」と「マルチクラウド」の二つであるとした。
近年ヴイエムウェアは、オンプレミスの仮想化環境、パブリッククラウド、そして工場や店舗などのエッジ環境といったあらゆるITインフラの上で、開発したアプリケーションを継続的に運用していくための基盤となるソフトウェアの提供に力を入れている。従来の仮想マシンに加えて、コンテナ化されたクラウドネイティブなアプリケーションの実行・管理をサポートする製品群「Tanzu」はその代表だ。この点では、今回のテーマの一つであるマルチクラウドは、同社が取り組んできた戦略を継続・強化するものと言える。
一方で、昨年の「ChatGPT」の登場以来、IT市場で最大の“バズワード”となっているのが、もう一つのテーマである生成AIだ。ITインフラの領域でビジネスを展開するヴイエムウェアと生成AIは、どのように関係するのか。
生成AIがIT市場にもたらすインパクトについてラグラムCEOは、「従来のAIは、ユースケースごとに異なるモデルが必要であった。しかし、生成AIは汎用性がある。情報のやり取りについても、プログラミング言語ではなく、自然言語を使ってやり取りができるので、エンタープライズの誰もが活用可能になる」と語った。AIのワークロードはGPUも含め、大きなITリソースを消費するとされる。それに加えて生成AIが登場したことで、今後はAI活用が進んでいなかった企業の間でもAIの導入が進むとラグラムCEOはみているようだった。
企業が生成AIを活用する際に大きな課題となるのが、データプライバシーだ。現在はChatGPTのようなサービスをそのまま試験的に導入している企業も見られるが、業務の効率化や競争力の向上といった効果を高めるためには、顧客との過去の対応履歴や、特定の業務で頻出する用語など、その企業だけが持つデータを利用してAIモデルをカスタマイズする必要がある。個人情報や企業秘密を用いるAIアプリケーションを安全に開発するためには、プライバシーやコンプライアンスの要件を企業が自ら制御できるプライベートな環境が必要となる。
また、AIアプリケーションは一度開発して終わりではなく、継続的にチューニングして精度を高めていくことや、新しく登場するAI技術との連携など、開発、運用、最適化をサイクルとして回していくことが求められる。オンプレミスで開発したAIを、パブリッククラウドやエッジなどの異なる環境で実行するといったニーズも必然的に発生する。
このため、ヴイエムウェアはAI開発で既に大きなエコシステムを築いている米NVIDIA(エヌビディア)との協業を強化する戦略をとる。今回のイベントでの最も大きな発表となったのが、ヴイエムウェアのクラウド基盤と、AIモデルの構築や運用を支援するエヌビディアのソフトウェア製品「NVIDIA AI Enterprise」を統合した「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」だった。AIアプリケーションを実行する基盤だけでなく、エヌビディアと組んでAI開発から改善に至るまでの一連のライフサイクルを提供することで、生成AIで急騰するITインフラ需要を自社の成長につなげようとするのが、今回のヴイエムウェアの狙いだ。
VMware Private AI Foundation with NVIDIA向けのハードウェアとしては、米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)、米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレットパッカードエンタープライズ、HPE)、中国Lenovo(レノボ)から対応製品が提供されることがアナウンスされている。また、エヌビディアとの協業に加えて、オープンソースの技術を利用してAIを開発・利用するためのアーキテクチャーとして、「VMware Private AI Reference Architecture for Open Source」も発表している。ヴイエムウェアは、ユーザー企業やパートナーが自社のクラウド基盤を構築するための製品として「VMware Cloud Foundation(VCF)」を用意しているが、VCFとオープンソースの技術、そしてパートナーの製品やサービスを組み合わせたAIソリューションを提供できる環境を整えようとしている。
インフラ全体の最適化やエッジ管理を強化
マルチクラウドについては主力製品のTanzuのほか、VCFやエッジなどそれぞれの領域で新製品や新機能が発表された。Tanzuの新機能としては、マルチクラウド環境の管理や最適化を行う「Tanzu Intelligence Services」がある。別製品としてこれまで提供してきた「Aria」の一部と共通のデータプラットフォームが組み込まれており、システムの管理を一元化し、ITインフラの運用で必要となるデータの共有を推進するとした。アプリケーションを実行するそれぞれ個別の環境の運用を効率化するだけでなく、マルチクラウド環境全体を可視化し、コストの最適化や一貫したガバナンスの強化を図ることにより力を入れた格好だ。
さらに、Tanzu Intelligence Servicesの機能としてアピールされていたのが「Tanzu with Intelligent Assist」だ。これは、インフラを運用するエンジニアに対し自然言語による対話型チャットボットを提供する。ボットには、エンジニアがそのとき行うべき作業をAIがレコメンデーションする機能も搭載しており、ユーザーはレコメンデーションの実行を指示するだけで、Intelligent Assistが自動的に作業を行ってくれる。これにより、運用を大幅に効率化できるとした。AIを構築・運用するための基盤を提供するという大きな戦略に加えて、ITインフラの運用自体にもAIを積極的に活用するという方針も、今回のイベントで同社が強調していた部分だ。
エッジについては、「VMware Edge Cloud Orchestrator(VECO)」が発表された。VECOは、大規模なシステムでデータを生成、利用するため、複数の拠点のエッジサービスをオーケストレーションする機能。独自のSASEソリューション「VMware SASE」と、エッジにおいてエッジネイティブなアプリケーションを構築、実行、管理、接続、保護するためのプラットフォーム「VMware Edge Compute Stack」を統合管理し、エッジにおけるネットワークとコンピューティングのギャップを解消する製品だと説明した。
スミット・ダーワン社長は「エッジは、今後、巨大なイノベーションが起きる領域だ。リテールから政府のサービス、ヘルスケアまで、エッジがイノベーションをけん引していくことになるだろう」と今後を展望した。
イベントの展示会場では、ヴイエムウェアのエッジ向け技術で運用されている警察車両が展示されていた。車両には同社のコンピュートスタックを搭載した小型のボックス型エッジサーバーが備え付けられている。エッジサーバーはカメラや通信機器など警察官が所持するさまざまなデバイスと連携し、走行中の車のナンバープレートなどの画像の取り込みや、データの照会など多くのアプリケーションが動作している。また、「VMware SD-WAN」のテクノロジーを使うことで、エッジでも遅延が起こりにくいネットワークを実現しているという。さらに、エッジの機器は同社のデバイス/アプリケーション一元管理ソリューションである「Workspace ONE」を使って管理する仕組みになっている。
ヴイエムウェアのSD-WAN技術で接続され、
ナンバープレートの認識などで捜査に用いられている
パートナーエコシステムを強調
クラウド基盤関連では、ネットワーク仮想化の新製品「NSX+」や、ランサムウェア対策機能の「Ransomware Recovery」などが発表された。NSX+は、従来のNSXを強化したかたちで、一貫したポリシーマネージメントや、ネットワークとアプリケーションの可視化、NDR(Network Detection and Response)による多層防御を可能にするとしている。Ransomware RecoveryはVMware Cloudのサービスとして利用でき、仮想マシンの振る舞いを分析することで、ファイルレス攻撃を受けた際にリカバリできるよう設計されたソリューション。今回、同時に複数の仮想マシンをリカバリできる機能が追加された。
ダーワン社長は「オラクルやIBM、エクイニクスなどのパートナーが一緒になることで、VMware Cloudを簡単に使うことができるようになる」と、同社の基盤技術を用いてクラウドサービスを提供するパートナーが拡大していることをアピールしたほか、基本的な仮想化基盤の提供から、ネットワークやストレージの管理やセキュリティを含むエンタープライズクラスのプライベートクラウド構築まで、同社のクラウド基盤製品ではユーザーが必要とする規模や機能に応じた複数のエディションを用意していることを紹介。「ジャーニーのどの段階であっても、皆さんに適したものを選んでもらうことができる」とし、ニーズに合わせた柔軟さをメリットとして説明した。
VMware Exploreでは、ヴイエムウェアパートナーだけが参加できるパートナー向けセッションも開催された。リッキー・クーパー・ワールドワイドパートナーおよびコマーシャル担当責任者は、22年度にアジア太平洋および日本地域での特定業種向け導入で大きな実績を上げたとして、「VMware APJ 2022 Partner Industry Award」を受賞したNECを紹介したほか、「特に、エンドユーザーコンピューティングとVDIソリューションについては、日本のパートナーが主導で進めてきた。この領域では、富士通がリーダーとなっている」と述べた。また、日立製作所についても言及し、ヴイエムウェアが注力するビジネス戦略の推進に向け、日本の大手SIer各社が専門性を発揮することに期待を示した。
【米ラスベガス発】米VMware(ヴイエムウェア)は8月21日から24日までの4日間(米国時間)、米ラスベガスで年次イベント「VMware Explore 2023 Las Vegas」を開催した。企業が生成AIを活用してビジネスを加速するには、AIの開発・運用に用いるプライベートなITインフラが必要として「VMware Private AI」を発表したほか、複雑化するマルチクラウド環境の運用もAIによって最適化できるとし、事業戦略の中核にAIを据える方針を強調した。
(取材・文/大向琴音 編集/日高 彰)
ラグー・ラグラム CEO
近年ヴイエムウェアは、オンプレミスの仮想化環境、パブリッククラウド、そして工場や店舗などのエッジ環境といったあらゆるITインフラの上で、開発したアプリケーションを継続的に運用していくための基盤となるソフトウェアの提供に力を入れている。従来の仮想マシンに加えて、コンテナ化されたクラウドネイティブなアプリケーションの実行・管理をサポートする製品群「Tanzu」はその代表だ。この点では、今回のテーマの一つであるマルチクラウドは、同社が取り組んできた戦略を継続・強化するものと言える。
一方で、昨年の「ChatGPT」の登場以来、IT市場で最大の“バズワード”となっているのが、もう一つのテーマである生成AIだ。ITインフラの領域でビジネスを展開するヴイエムウェアと生成AIは、どのように関係するのか。
生成AIがIT市場にもたらすインパクトについてラグラムCEOは、「従来のAIは、ユースケースごとに異なるモデルが必要であった。しかし、生成AIは汎用性がある。情報のやり取りについても、プログラミング言語ではなく、自然言語を使ってやり取りができるので、エンタープライズの誰もが活用可能になる」と語った。AIのワークロードはGPUも含め、大きなITリソースを消費するとされる。それに加えて生成AIが登場したことで、今後はAI活用が進んでいなかった企業の間でもAIの導入が進むとラグラムCEOはみているようだった。
企業が生成AIを活用する際に大きな課題となるのが、データプライバシーだ。現在はChatGPTのようなサービスをそのまま試験的に導入している企業も見られるが、業務の効率化や競争力の向上といった効果を高めるためには、顧客との過去の対応履歴や、特定の業務で頻出する用語など、その企業だけが持つデータを利用してAIモデルをカスタマイズする必要がある。個人情報や企業秘密を用いるAIアプリケーションを安全に開発するためには、プライバシーやコンプライアンスの要件を企業が自ら制御できるプライベートな環境が必要となる。
また、AIアプリケーションは一度開発して終わりではなく、継続的にチューニングして精度を高めていくことや、新しく登場するAI技術との連携など、開発、運用、最適化をサイクルとして回していくことが求められる。オンプレミスで開発したAIを、パブリッククラウドやエッジなどの異なる環境で実行するといったニーズも必然的に発生する。
このため、ヴイエムウェアはAI開発で既に大きなエコシステムを築いている米NVIDIA(エヌビディア)との協業を強化する戦略をとる。今回のイベントでの最も大きな発表となったのが、ヴイエムウェアのクラウド基盤と、AIモデルの構築や運用を支援するエヌビディアのソフトウェア製品「NVIDIA AI Enterprise」を統合した「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」だった。AIアプリケーションを実行する基盤だけでなく、エヌビディアと組んでAI開発から改善に至るまでの一連のライフサイクルを提供することで、生成AIで急騰するITインフラ需要を自社の成長につなげようとするのが、今回のヴイエムウェアの狙いだ。
VMware Private AI Foundation with NVIDIA向けのハードウェアとしては、米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)、米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレットパッカードエンタープライズ、HPE)、中国Lenovo(レノボ)から対応製品が提供されることがアナウンスされている。また、エヌビディアとの協業に加えて、オープンソースの技術を利用してAIを開発・利用するためのアーキテクチャーとして、「VMware Private AI Reference Architecture for Open Source」も発表している。ヴイエムウェアは、ユーザー企業やパートナーが自社のクラウド基盤を構築するための製品として「VMware Cloud Foundation(VCF)」を用意しているが、VCFとオープンソースの技術、そしてパートナーの製品やサービスを組み合わせたAIソリューションを提供できる環境を整えようとしている。
(取材・文/大向琴音 編集/日高 彰)

なぜ生成AIが大きなチャンスを生むのか
米国時間8月22日の基調講演に登壇したラグー・ラグラムCEOは、VMware Explore 2023の大きなテーマは、「生成AI」と「マルチクラウド」の二つであるとした。
近年ヴイエムウェアは、オンプレミスの仮想化環境、パブリッククラウド、そして工場や店舗などのエッジ環境といったあらゆるITインフラの上で、開発したアプリケーションを継続的に運用していくための基盤となるソフトウェアの提供に力を入れている。従来の仮想マシンに加えて、コンテナ化されたクラウドネイティブなアプリケーションの実行・管理をサポートする製品群「Tanzu」はその代表だ。この点では、今回のテーマの一つであるマルチクラウドは、同社が取り組んできた戦略を継続・強化するものと言える。
一方で、昨年の「ChatGPT」の登場以来、IT市場で最大の“バズワード”となっているのが、もう一つのテーマである生成AIだ。ITインフラの領域でビジネスを展開するヴイエムウェアと生成AIは、どのように関係するのか。
生成AIがIT市場にもたらすインパクトについてラグラムCEOは、「従来のAIは、ユースケースごとに異なるモデルが必要であった。しかし、生成AIは汎用性がある。情報のやり取りについても、プログラミング言語ではなく、自然言語を使ってやり取りができるので、エンタープライズの誰もが活用可能になる」と語った。AIのワークロードはGPUも含め、大きなITリソースを消費するとされる。それに加えて生成AIが登場したことで、今後はAI活用が進んでいなかった企業の間でもAIの導入が進むとラグラムCEOはみているようだった。
企業が生成AIを活用する際に大きな課題となるのが、データプライバシーだ。現在はChatGPTのようなサービスをそのまま試験的に導入している企業も見られるが、業務の効率化や競争力の向上といった効果を高めるためには、顧客との過去の対応履歴や、特定の業務で頻出する用語など、その企業だけが持つデータを利用してAIモデルをカスタマイズする必要がある。個人情報や企業秘密を用いるAIアプリケーションを安全に開発するためには、プライバシーやコンプライアンスの要件を企業が自ら制御できるプライベートな環境が必要となる。
また、AIアプリケーションは一度開発して終わりではなく、継続的にチューニングして精度を高めていくことや、新しく登場するAI技術との連携など、開発、運用、最適化をサイクルとして回していくことが求められる。オンプレミスで開発したAIを、パブリッククラウドやエッジなどの異なる環境で実行するといったニーズも必然的に発生する。
このため、ヴイエムウェアはAI開発で既に大きなエコシステムを築いている米NVIDIA(エヌビディア)との協業を強化する戦略をとる。今回のイベントでの最も大きな発表となったのが、ヴイエムウェアのクラウド基盤と、AIモデルの構築や運用を支援するエヌビディアのソフトウェア製品「NVIDIA AI Enterprise」を統合した「VMware Private AI Foundation with NVIDIA」だった。AIアプリケーションを実行する基盤だけでなく、エヌビディアと組んでAI開発から改善に至るまでの一連のライフサイクルを提供することで、生成AIで急騰するITインフラ需要を自社の成長につなげようとするのが、今回のヴイエムウェアの狙いだ。
VMware Private AI Foundation with NVIDIA向けのハードウェアとしては、米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)、米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレットパッカードエンタープライズ、HPE)、中国Lenovo(レノボ)から対応製品が提供されることがアナウンスされている。また、エヌビディアとの協業に加えて、オープンソースの技術を利用してAIを開発・利用するためのアーキテクチャーとして、「VMware Private AI Reference Architecture for Open Source」も発表している。ヴイエムウェアは、ユーザー企業やパートナーが自社のクラウド基盤を構築するための製品として「VMware Cloud Foundation(VCF)」を用意しているが、VCFとオープンソースの技術、そしてパートナーの製品やサービスを組み合わせたAIソリューションを提供できる環境を整えようとしている。
この記事の続き >>
- インフラ全体の最適化やエッジ管理を強化
- パートナーエコシステムを強調
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