NECのデータセンター(DC)事業が新たな局面を迎えている。コロケーションをはじめとした既存領域での機能拡張はもちろん、高まりを見せるハイブリッドクラウド、マルチクラウド時代に対応した体制を構築するなど、多様な観点から事業を推進。規模への対応、地域密着性の確保、クラウドとのコネクティビティの追求といった戦略を打ち出し、複雑化するニーズに合わせてDCの役割を変化させている。
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
SIer系の役割にとどまらない
一般的にDC事業者は、SIやアウトソーシングを含めた事業を行うSIer系、ネットワークを含めたサービスを提供するキャリア系、クラウドやIX(相互接続点)との接続を特徴としたり、ハイパースケーラー向けに特化したビジネスを行ったりする専業系に大別される。
NECのDC事業は、SIer系に分類されるが、2022年度からはDC事業の枠を拡大し、クラウド事業者などとのコネクティビティ機能などを強化しているのが特徴だ。
マネージドサービス部門サービスプラットフォーム統括部の伊藤誠啓・DC共通基盤グループディレクターは、「SIer系事業者に共通しているのは、ビジネス規模が大きいものの、成長率が低いという課題がある点だ。その一方で、コネクティビティを強化した専業系事業者は、高い成長率を維持している。当社はクラウド事業者などとのコネクティビティを強化することにより、成長率を高め、事業を拡大していく方針を打ち出している」と語る。
従来のSIer系DCの役割にとどまらず、接続性を強化することで、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドに適した機能を提供し、事業拡大に取り組むことを基本戦略としているようだ。
NECは国内に12拠点のDCを展開しており、それらを機能別に「コアDC」「地域DC」「クラウドHubDC」の3形態に分けている(図1参照)。
コアDCは、NEC神奈川DCと、NEC神戸DCで構成。神奈川の第1期棟は約3000ラックで運用。23年下期には、第2期棟が約1500ラックの規模で稼働する予定だ。神戸は、第1期棟、第2期棟とともに、それぞれ約1500ラックで運用。24年上期には、第3期棟が稼働することになる。コアDCでは国内の小売り大手向けにサービスを提供しているほか、外資系クラウド事業者やECサイトといった大規模ユーザーにもサービスを提供している。
(左上から時計回りに)印西、神奈川、神戸、名古屋各DCの外観パース。
NECはそれぞれのDCに多様な役割を持たせ、ニーズに応えている
また、クラウド基盤の「NEC Cloud IaaS」を運用する拠点に位置づけており、各種クラウドサービスとの接続により、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境の構築、これらの運用管理を行うマネージドサービス、クラウド間のデータ連携サービスなども提供している。
地域DCは、国内9拠点に展開しており、地方公共団体や地場企業向けにサービスを提供する地域密着型DCと位置づけている。それぞれに数百ラックの規模を持ち、コアDCとのDC間ネットワークを介して、地域DCからもクラウドサービスへの閉域接続を可能としている。今後は、政府が打ち出す「デジタル田園都市国家構想」に対応した活用を加速する考えだ。
成長領域は「クラウドHub」
そしてクラウドHubDCは、NECのDC事業における成長領域となる。クラウドHubDCでは、メガクラウド事業者との接続性を重視したデータセンターとして展開。クラウド基盤とのハブ機能を提供し、同社が推進するインターコネクテッドエコシステムの形成や、エコシステムパートナーとの接続をシームレスに実現する(図2参照)。
この役割を担っているのが、千葉県印西市のNEC印西DCである。印西DCはSCSK印西キャンパス内にある。SCSKとNECの合弁会社であるSCSK NECデータセンターマネジメント(SNDCM)が保有、運営する第3期棟を中心に運用するほか、第1期棟の一部も使用している。
マネージドサービス部門サービスプラットフォーム統括部の仲川賢次・上席プロフェッショナルは「メガクラウド事業者とのコネクティビティが重要なクラウドHubDCを運用するという点では、クラウド事業者が集中する印西エリアにDCを持つことは有効だが、NECグループは印西エリアに土地や建物を所有していなかった。このエリアに自らDCを建設するとしても5年以上の年月が必要となり、ビジネスチャンスを失うことになると判断した。そこで、長年にわたって協力関係があったSCSKとの協業が最適だと考え、合弁会社を設立し、DCを稼働させた」とする。
印西DCの特徴の一つが「インターコネクテッドエコシステム」の提供だ。印西DC内の相互接続サービスであるNEC DXネットワークサービスを通じてNEC Cloud Stackやハウジングサービスと接続し、NECの顧客が所有するシステムと、顔認証サービスや大規模言語モデルをはじめとしたNECが提供する各種サービスと連携。SCSKが提供する金融サービスや、IX事業者やサービスプロバイダー、通信事業者などのエコシステムパートナーが提供する各種サービスとも、データセンター構内で接続し、多様なサービスを提供している。
また、印西DCでは、22年6月に「Microsoft Azure ExpressRoute」の接続拠点を開設。Azureとの低遅延で、セキュアなダイレクト接続を可能にする「NEC DXネットワークサービス」を提供している。23年5月からは、「AWS Direct Connect」の接続拠点として、AWSリージョンへの専用ネットワークを介した接続サービスを提供し、AWSの200以上のクラウドサービスを活用したハイブリッドクラウド環境を実現できる。さらに23年7月には、「Oracle Cloud Infrastructure (OCI)Fast Connect」の接続拠点を設置し、OCIへの専用プライベートネットワークによるファイバー接続を実現した。
これにより、クラウド接続拠点ロケーションへの迂回通信が不可欠であった従来の仕組みから、三つの接続拠点の構内ダイレクト接続によって、低遅延、高品質、低コストを実現。より高度なクラウド活用を支援できるようにした。
印西DCは、Azure、AWS、OCIの三つの主要パブリッククラウドの接続拠点を備えた国内唯一のデータセンターともいえ、今後、需要動向を見ながら、Google Cloudなどへの対応も検討していくことを明らかにしている。
23年6月からは、マルチクラウド接続ストレージサービス「NEC Cloud Storage」の提供も開始。同データセンターに格納したデータを、マルチクラウド環境で容易に活用できるようにした。これにより、データレイクの構築やバックアップデータの保存などにも適した利用が可能だ。
生成AIの運用拠点にも
NECでは、クラウドHubDCにおいて、三つのユースケースを提案する。
一つめは、業務システムのマルチクラウドおよびハイブリッドクラウドへの対応だ。データベースはOCIで活用し、アプリケーションはAWSやAzureを利用している場合にも、データセンター内でクラウド間接続を行い、シームレスな利用を可能にする。
二つめはマルチクラウドおよびマルチデータソースを対象とするデータ活用基盤の実現である。マルチクラウド環境で、異なるデータを統合し、データの収集、蓄積、加工、活用が可能になる。
最後はランサムウェアをはじめとするデータ喪失を伴うセキュリティリスクへの対策である。具体的には、NEC Cloud Storageにより、バックアップデータなどの大量データを安全に保管。ランサムウェアの被害にあった場合にも、データを迅速に復旧することができる。
NECは西日本エリアにおいても、クラウドHubDCの新設に向けた検討を開始しており、成長領域に対する投資を推進する考えだ。