メインフレームのモダナイゼーションが、活発化している。変化の激しい市場環境に対応するためにシステムの柔軟性や俊敏性が求められ、刷新の必要性が高まる一方で、コストがかさむことや、移行作業が複雑化するなど、取り組む上で課題は多い。クラウドを含め、企業が選択できるアプローチが増える中、モダナイゼーション(最新化)を成功に導く要因は何か。各社の戦略から探る。
(取材・文/安藤章司、大畑直悠、大向琴音)
キンドリルジャパン
三つの刷新手法を組み合わせ
マルチベンダー保守サービスを手がけるキンドリルジャパンは、メインフレーム刷新に当たって、(1)最新機種に入れ替え、(2)データのみ抽出して活用、(3)脱ホストの三つの手法を提示している。キンドリルグループが世界のメインフレームユーザーに主な刷新手法をアンケートしたところ、三つの手法をバランスよく選択し、それぞれの利点/欠点を考慮しながら、「複数の手法を組み合わせてモダナイゼーションするケースが多くを占めた」と、斎藤竜之・メインフレームサービス事業部長は話す。
メインフレームは、所定の時間までに決められた処理を自動で終わらせるバッチ処理に長けており、主に金融機関や大手製造業のユーザーで稼働している。大量バッチ処理を行うのであれば、(1)の「老朽化したメインフレームを最新機種に置き換え、プログラムを最適化し、運用を自動化するなどして維持コストを抑制する手法」(斎藤事業部長)が、オープン系のシステムに移行して大規模バッチ処理を再設計するより手間がかからないとしている。
キンドリルジャパン 斎藤竜之 事業部長
また、近年のデジタル化の進展により、メインフレームで扱うデータ量は年々増える傾向にあり、データ分析を起点とした企業経営の実践や、技術革新が著しい生成AIの活用に当たっては、メインフレームに蓄積されたデータの活用も欠かせない。こうしたケースでは(2)のデータのみ抽出して、クラウド上で分析・活用する手法も有望視される。
メインフレームで担う基幹システムの処理は従来通り行うため、既存業務に影響を与えることなく、データ活用も同時に行える利点がある。バッチ処理を伴う基幹業務の処理はメインフレームに任せ、データ分析やAI学習用に活用する業務はクラウド上で行う“二刀流”でユーザー企業の競争力を高める手法とも言える。
「できるからやる」ではダメ
キンドリルジャパンは、日本IBMからの分社化以前から100社余りのメインフレームユーザーの保守運用や刷新プロジェクトを手がけてきた。(3)の脱ホストについては、オープン系システムが登場してからの数十年間、さまざまなユーザー企業が取り組んでいるが、各種の調査レポートやキンドリルジャパン自身の知見から「決められた予算内、期限内で脱ホストを成し遂げたプロジェクトは全体の2~3割」(同)と推測する。
メインフレームで使われているCOBOLを最新のJavaに変換したり、クラウド環境に移行するツールとして米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の「AWS Blu Age」や、韓国TmaxSoft(ティーマックスソフト)の「OpenFrame」を使うとしても、長年にわたって運用されてきたメインフレームは、アプリ制御層などのミドルウェアが個別につくり込まれているケースが多いため、「十分な下調べなしに新しいプラットフォームに移行しようとするのはリスクが高い」と、キンドリルジャパンの山下文彦・メインフレームサービス事業部プリンシパル・テクニカル・スペシャリストは指摘。脱ホストは「できるからやる」ではなく、業務要件や利点/欠点を見極めた上で判断するのが鉄則だとしている。
キンドリルジャパン 山下文彦 プリンシパル・テクニカル・スペシャリスト
国内には数百台のメインフレームが稼働しており、その上で動作するIBMの「z/OS」などのOS数ベースで数えると、数千件の環境が稼働中だとキンドリルジャパンはみている。業種別では金融業ユーザーが6割弱、製造業ユーザーが4割弱の割合で、メインフレームが得意とするバッチ処理の需要は今後も続く見通し。メインフレームの長所を生かしながら最新機種に更改したり、データを抽出してクラウドシステムと連携したりするプロジェクトが続くことから「メインフレームをモダナイゼーションするサービスは息の長いビジネスになる」(斎藤事業部長)と捉え、積極的に取り組んでいく方針だ。
富士通とAWS
リライトによるモダナイゼーションを推進
富士通とAWS、アマゾン・ウェブ・サービス・ジャパンは4月1日、グローバルパートナーシップを拡大し、レガシーシステムのモダナイゼーションを支援する「Modernization Acceleration Joint Initiative」を開始した。既存システムを全てつくり替える「リビルド」ではなく、AWS Blu Ageを活用してレガシー言語をJavaに書き換える「リライト」のモダナイゼーションを主眼とする協業で、富士通の執行役員の島津めぐみ・SEVPグローバルテクノロジーソリューションは「モダナイゼーションが進まない要因として、部署ごとに権限を持つため標準化システムへの移行が難しいという点があるが、まずはCOBOLなどで書かれた複雑な環境をJavaに置き換え(要望に応じて)、そこからリビルドに向かうという顧客も支援する」と説明する。
富士通 島津めぐみ 執行役員
Modernization Acceleration Joint Initiativeは、富士通がミッションクリティカルシステムの構築で培ったSI技術と、クラウド技術のビジネスへの適用を支援するAWSのプロフェッショナルサービスを組み合わせて、両社の専任部隊が共同で富士通のメインフレーム「GS21シリーズ」を利用する顧客のモダナイゼーションを支援する。レガシーシステムのアセスメントに加え、基幹システムのクラウド上での運用のサポートまでを一貫して提供する。
すでにAWS Blu Ageを活用して、富士通の社内システムとして運用する同社製のメインフレームをリライトし、移行前と同等に稼働できることを検証済みだという。また先行事例として、大手百貨店の高島屋のモダナイゼーションにも取り組んでいると明かし、島津執行役員は「富士通とAWSのノウハウやサービスを結集し、従来の手法に対して低コストで、短期間の移行を見込んでいる」と自信を見せる。
今後は順次、GS21シリーズだけでなく富士通のUNIXサーバーや、他社製のメインフレームを利用する顧客へ支援対象を広げる。29年までに国内外で40社の移行を目指す。専門組織であるモダナイゼーションナレッジセンターへのナレッジの集約とプロセスの効率化も進め、現在70人の専門人材を25年3月末までに150人に拡充する計画だ。
AWS ウウェム・ウクポン バイスプレジデント
AWSのウウェム・ウクポン・グローバルサービス担当バイスプレジデントは「富士通はメインフレーマーとしてトップベンダーであり、これから非常に忙しくなると感じている。この協業はモダナイゼーションのテンプレートとなるだろう」と期待を示す。既存システムのアセスメントにAIや生成AIを積極的に活用するなどして、モダナイゼーションの効率化にも取り組む方針だ。
明治
AWS移行で年間維持コスト約80%削減を見込む
明治は3月14日、AWSが提供するメインフレームからクラウドへの移行支援サービスおよびツール群「AWS Mainframe Modernization」を国内で初めて導入し、メインフレームのモダナイゼーションを推進していると発表した。システムの年間維持コストを約80%削減できると見込んでいる。
AWS Mainframe Modernizationは、企業のメインフレームの移行戦略の策定や移行ソリューションの選定、移行準備、システム移行までを総合的に支援するサービス。明治は、選定した理由として、コスト面での合理性に加え、他サービスと比較してモダナイゼーションの実行期間が短いことや、COBOLやPL/1、JCLといったレガシー言語の自動変換ができることなどを挙げる。
これまで明治は、▽COBOLなどのレガシー言語を扱える人材の確保が難しい▽長い間システム改修を繰り返したことで処理が複雑化している▽メインフレーム基盤とクラウド基盤のシームレスな連携が困難▽保守や更新コストが右肩上がりになっている▽メインフレーム基盤がベンダーロックの状態であり、ほかのサービスへの切り替えが難しい――などの点を問題視していた。
明治はモダナイゼーション戦略として、販売系基幹システムは新たなシステムとして再構築し、現時点でビジネスモデルに大きな変更がないシステムについてはAWS Mainframe Modernizationのサービスを用いて自動変換する方針を定めた。販売系基幹システムは2月に再構築が完了しており、データ活用の効率が向上したほか、システムの保守人員の最適化が実現できたという。
自動変換の対象となるシステムについては、順次、基盤をAWSに移行しており、6月には旧環境が停止し、移行が完了する予定だ。