2024年上期は、IT業界のさらなる成長の時期となった。IT需要はグローバル、国内ともに順調に推移。テクノロジーの側面では引き続き生成AIが注目を集めており、各ベンダーからは生成AI製品や機能がリリースされ、企業での具体的な活用も始まりつつある。週刊BCN編集部が注目するニュースをピックアップし、主な出来事を紹介する。
Pick up1 デジタル庁
24年度後半に自治体向けSaaS調達サイトを開設へ
デジタル庁は、自治体向けのSaaS調達専用ウェブサイト「デジタルマーケットプレイス(DMP)」の開設準備を進めている。ソフトウェアとその導入支援が調達対象。1月末までに約180社のベンダーや販売会社が仮サイトに登録しており、24年度後半に正式に運用を開始する予定だ。DMPによって、自治体側ではスムーズなSaaSの調達が可能になり、ベンダー側は自治体への営業機会が拡大するなどのメリットがあるという。
デジタル庁 吉田泰己 企画官
具体的には、ソフトウェアを提供しているベンダーは自社製品を、販売会社は導入支援の内容を登録でき、登録が完了すると「カタログサイト」に掲載される。自治体は製品を選び、導入支援の内容を選択するというステップで調達先を絞り込む。入札手続きの簡略化で工数や期間の削減が見込める。吉田泰己・企画官は「調達期間を1カ月程度に短縮できる」と説明した。
(2月19日・2003号掲載)
Pick up2 米OpenAI(オープンAI)
日本法人のOpenAI Japanを設立
米OpenAI(オープンAI)は4月15日、日本法人のOpenAI Japanを設立し、同日から東京での事業活動を開始した。社長に就任したのは、3月までアマゾン・ウェブ・サービス・ジャパン(AWSジャパン)でトップを務めた長崎忠雄氏。先進的な活用事例の創出に加え、政府との関係も強化する姿勢だ。
OpenAI Japan 長崎忠雄 社長
日本法人はアジアで初めての拠点で、英語圏以外でも初となる。日本はグローバルでも重要な市場だとし、日本の企業や研究機関との協業による技術開発の推進と、日本市場での生成AI導入の加速を目指す考え。同日には、大規模言語モデルのGPT-4を日本語に最適化させたカスタムモデルの開発を紹介し、日本市場進出への“本気度”を示した。
OpenAI Japanの長崎社長は、「既に多くの日本のお客様にオープンAIのツールを利用していただいている。それらがどのような使われ方をしていて、何が足りなくて、もっと使っていただくには何をしたらいいか、というところにまずは時間を使いたい」と述べた。
(4月22日・2011号掲載)
Pick up3 電機大手3社の2023年度決算
事業変革の成果が数字に表れる
電機大手3社の23年度の業績では、売上高の伸び以上に、利益率の向上が特徴的な決算となった。
富士通は、売上高にあたる売上収益は前年度比1.1%増の3兆7560億円と微増にとどまったものの、システム構築ビジネスの「サービスソリューション」事業では、調整後営業利益が45.5%増となるなど、収益性が改善。新事業ブランド「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」の売り上げは目標を上回り、前年度比84%増の3679億円に成長した。
電機大手3社の決算を伝えた5月23日・2013号の紙面
NECは、売上収益が前年度比5.0%増の3兆4772億円、調整後営業利益が同8.8%増の2235億円。「コアDX」事業では初期基盤投資が一巡したことで収益性が改善し、23年度の売上収益が前期比1459億円増の3860億円、調整後営業利益が208億円増の246億円となった。
日立製作所では、IT関連事業の「デジタルシステム&サービス」セグメントにおいて、売上収益が前年度比9%増の2兆5986億円、調整後営業利益に一部の償却費を足し戻すなどしたAdjusted EBITAが397億円増の3334億円。製造・流通向けにLumada事業が拡大したことなどを主な要因として説明した。
(5月13日・2013号掲載)
Pick up4 東京工業大学や富士通など7団体
「富岳」で学習したLLMを公開
東京工業大学や富士通など7団体は5月10日、理化学研究所が運用するスーパーコンピューター「富岳」で学習した、日本語能力に優れた大規模言語モデル(LLM)「Fugaku-LLM」を開発したと発表した。開発者や研究者向けにはオープンソースで公開したのに加えて、富士通のサイトを通じて誰でも無償で試すことができる。
東京工業大学 横田理央 教授
Fugaku-LLMのパラメーター数は130億で、国内で多く開発されている70億より高性能。日本語能力が優れており、敬語など日本語の特徴を捉えた自然な対話ができるという。
深層学習のフレームワークを富岳に移植し、LLMの深層学習モデル「Transformer」を富岳上で最適化することで学習の演算速度を6倍にしたほか、富岳向けに通信を最適化し、通信速度を3倍と高速化したことで、富岳搭載のCPUでLLMの学習が可能になった。
同大の学術国際情報センターの横田理央・教授は「LLMの開発において米NVIDIA(エヌビディア)一強になっている中で新たな選択肢になればいいと考えている」と語った。
(5月20日・2014号掲載)