Special Feature
産業基盤の構築目指す「福島イノベーション・コースト構想」 浜通り地域に持続的な発展を
2024/09/02 09:00
週刊BCN 2024年09月02日vol.2028掲載
2011年に起こった東日本大震災と原子力災害で、企業活動や雇用が大きなダメージを被った福島県の浜通り地域。この地に新たな産業基盤を構築し、地域経済を回復する目的で進められている国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想(福島イノベ構想)」が始動して10年が経過した。さまざまな進展が見られる福島イノベ構想の現在地を紹介する。
(取材・文/大向琴音)
福島イノベーション・コースト構想推進機構
福島イノベ構想は14年6月、当時の原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)が座長を務め、産学官の有識者などで構成する「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会」によって取りまとめられた。浜通りを中心とする地域で一度失われた経済の復興のため、廃炉技術やロボットなどの研究・実証拠点を設置し、新技術や新産業の創出による産業基盤の再構築を目指す国家プロジェクトとして立ち上がった。
17年5月には、福島復興再生特別措置法改正法が成立し、福島イノベ構想の推進が法的に位置づけられた。中核的な推進機関として活動しているのが、同年に設立された福島イノベーション・コースト構想推進機構(イノベ機構)で、福島県からの受託事業や補助事業を中心に展開している。
イノベ地域にある産業団地
(イノベ機構のYouTube動画より抜粋)
福島イノベ構想は、浜通り地域など(いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村)を「イノベ地域」とし、重点6分野として設定した各領域で研究開発に取り組む企業の支援を実施している。重点6分野は▽廃炉▽ロボット・ドローン▽エネルギー・環境・リサイクル▽農林水産業▽医療関連▽航空宇宙―で、支援内容は産業集積を促進する取り組みや、交流の促進、情報発信など多岐にわたる。
産業集積に関する取り組みの一つとして、企業誘致がある。福島県がイノベ地域へ拠点を設置する企業に補助金を交付しているほか、イノベ機構はこれらの支援策を知ってもらえるよう、セミナーや現地の見学ツアーを開催し、実際の立地につなげる支援をしている。24年3月末時点で、補助金に採択された企業の立地件数は418社で、雇用創出数は4796人に上るなどの成果が出ている。
福島イノベーション・コースト構想推進機構 蘆田和也 事務局長
また、イノベ地域で重点6分野の実用化開発に取り組む企業を採択する「地域復興実用化開発等促進事業(イノベ実用化補助金)」に関しては、採択企業に対して事業化に向けた伴走支援も展開している。具体的には、公的団体や地元企業との関係構築に加え、実証場所の紹介や広報活動支援、知財戦略支援などを実施している。イノベ機構の蘆田和也・事務局長は「全国の人に、イノベ地域に拠点をつくってもらったり、地域の企業と連携して技術開発をしてもらったりすることで、いろいろな人が浜通り地域で活動するようになる」と説明する。
福島イノベ構想に参画し、域外より新たにイノベ地域内へと進出した企業から、地元企業が製造委託を受けるなどの動きも見られており、経済効果をさらに広げていくために、地元企業と進出企業のビジネスマッチング支援を実施している。18年から23年までに46件の取引が成立している上、企業同士で取引先を紹介するなどの事例もあるという。
20年までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されており、その後帰還困難区域も一部解除が進んでいる。生活環境の整備などの部分で復興は着実に進んでいるものの、浜通り地域などにおいては、建設業を除く域内総生産や製造品出荷額、居住人口や就業者数などの指標は完全には回復していない。今後の目標は、30年ごろまでに全国水準並みの域内総生産を達成し、自立的、持続的な産業発展を実現することだ。
蘆田事務局長は「現状は、イノベ地域などで全国の企業による開発が進んでいる段階。今後しっかりビジネスとして定着してほしい。その先に、福島イノベ構想を通じて企業同士が出会い、新しいビジネスが生まれることも期待したい」と今後を展望する。
大熊ダイヤモンドデバイス
福島イノベ構想の重点6分野のうち、廃炉の領域で技術の実用化を目指すのが、北海道大学と産業技術総合研究所発のスタートアップ企業である大熊ダイヤモンドデバイスだ。福島第一原子力発電所の廃炉作業に必要な技術を確立するため、ダイヤモンド半導体デバイスの商用化、量産化に取り組んでいる。ダイヤモンド半導体は、演算や記憶ではなく、電力の制御に用いるパワー半導体の材質として、非常に優れた特性を実現できると期待されている。実用化に成功すれば、通信機器の小型化・省電力化や、電気自動車の充電の高速化など、さまざまな分野にイノベーションをもたらすことになる。
同社は22年3月に設立し、同年には福島県大熊町との自治体連携枠でイノベ実用化補助金に採択された。主な研究拠点は札幌の北海道大学内のインキュベーション施設に置いているが、ダイヤモンド半導体デバイスの生産は福島第一原子力発電所がある大熊町で行うとしているのが特徴だ。
廃炉にあたって課題となるのが放射線。原子炉内に残る燃料デブリ取り出しの際、従来の半導体を搭載した機器では放射線による動作不良を起こす可能性がある。これに対してダイヤモンド半導体は、先に挙げた高い電力効率に加えて、放射線への耐性が強いという性質がある。さらに、300度以上の条件下でも耐えられる高温耐性があることから、注目を集めている。
大熊ダイヤモンドデバイス 星川尚久 代表取締役
同社はダイヤモンド半導体デバイスの設計、製造の前工程、後工程、組み立てまで一連の製品製造ノウハウを有しており、量産体制の構築を進めることで社会実装を目指している。星川尚久代表取締役は「ダイヤモンド半導体の技術がすごいとしても、ほしいと言われたときに提供できなければ産業化はできない」と、1社で製造まで行う理由を説明する。
福島イノベ構想では、研究開発のための補助金だけでなく、広報支援や、企業紹介の支援を受けた。特に、広報支援の面ではイノベ実用化補助金を活用したプロジェクトの成果をメディアに発信する目的で開催された合同プレス発表会に参加した。現在もかなり多くの問い合わせを受けるなど高い効果を得られたという。
今後は世界初となるダイヤモンド半導体デバイスの工場をイノベ地域である大熊町に建設する予定。将来的に、ダイヤモンド半導体デバイスを通じて廃炉を実現するだけでなく、エネルギー産業や宇宙産業などに活用していきたいとしており、星川代表取締役は「東日本大震災から学んだ上で、それを生かせる仕組みをつくりたいと考えた。まずはきちんと廃炉を完了させることが重要だが、廃炉だけでなく次の成長産業に対しても技術を実装することで、さらなる発展を目指すべき」と語る。ミツフジ
導電性繊維などの機能性繊維を開発・製造し、現在はウェアラブル機器も手掛けるミツフジは、体に装着したセンサーから心拍数などの生体情報を読み取るIoT製品を開発し、体調をモニタリングするためのモバイルアプリや管理者用のWebダッシュボードなどと併せた法人向けソリューション「hamon」を16年から提供している。熱中症のリスクなどがわかるため、建設業の現場などを中心に導入されている。
ミツフジは西陣織の帯工場として1954年に京都で創業したが、着物産業が衰退する中で機能性繊維に着目。その後、ウェアラブルIoTデバイス事業へとかじを切った。以前は自社の工場を所有していたが、それを手放し、いわゆるファブレスメーカーとして事業を行っていた。しかし、ウェア型のIoT製品を本格展開するにあたり、研究開発と製造の両方を社内で完結できる体制を再び持ちたいと考えていた。
そこで、18年に自社工場を建設するにあたり活用したのが、経済産業省の津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金だった。それまで福島に縁があったわけではないが、川俣町は古くからの絹織物の産地。川俣町とミツフジの両者とも繊維産業がルーツであったことが、福島県の中で川俣町を拠点として選んだ理由の一つになったという。
川俣町への企業立地後は、医療分野でイノベ実用化補助金にも採択された。これは、18年から20年までの3年間、着心地にこだわったスマートウェアやアプリの開発、アルゴリズム・データ解析の開発を、川俣町と密接に連携して実証実験を進めるプロジェクトで、実証実験には川俣町に住む約700人が参加し、実際にhamonを身に着けてアプリで健康状態のチェックなどを行った。
シャツ型で、より精度の高い生体情報を取ることができる「川俣モデル」が完成したのに加え、アプリのユーザビリティーの向上にもつながったという。
また、川俣町では全国平均と比べても少子高齢化が進んでいるのが現状で、健康管理に関する課題があった。実証実験を通じて健康状態を可視化できるようになったことで、健康管理の意識向上の効果も見られたという。
ミツフジ 蒲生瑞木 広報室長
ミツフジの蒲生瑞木・広報室長は「データに基づいた健康管理ができる、安全安心のまちづくりの実現に向けた第一歩を踏み出すことができた」とコメント。3年間の実証実験のみで終わらせるのではなく、実際にビジネスとして確立させていきたいとし、今後の展開に向けて積極的な姿勢を見せる。
(取材・文/大向琴音)

福島イノベーション・コースト構想推進機構
イノベ地域から新たなビジネスの創出目指す
福島イノベ構想は14年6月、当時の原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)が座長を務め、産学官の有識者などで構成する「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会」によって取りまとめられた。浜通りを中心とする地域で一度失われた経済の復興のため、廃炉技術やロボットなどの研究・実証拠点を設置し、新技術や新産業の創出による産業基盤の再構築を目指す国家プロジェクトとして立ち上がった。17年5月には、福島復興再生特別措置法改正法が成立し、福島イノベ構想の推進が法的に位置づけられた。中核的な推進機関として活動しているのが、同年に設立された福島イノベーション・コースト構想推進機構(イノベ機構)で、福島県からの受託事業や補助事業を中心に展開している。
(イノベ機構のYouTube動画より抜粋)
福島イノベ構想は、浜通り地域など(いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村)を「イノベ地域」とし、重点6分野として設定した各領域で研究開発に取り組む企業の支援を実施している。重点6分野は▽廃炉▽ロボット・ドローン▽エネルギー・環境・リサイクル▽農林水産業▽医療関連▽航空宇宙―で、支援内容は産業集積を促進する取り組みや、交流の促進、情報発信など多岐にわたる。
産業集積に関する取り組みの一つとして、企業誘致がある。福島県がイノベ地域へ拠点を設置する企業に補助金を交付しているほか、イノベ機構はこれらの支援策を知ってもらえるよう、セミナーや現地の見学ツアーを開催し、実際の立地につなげる支援をしている。24年3月末時点で、補助金に採択された企業の立地件数は418社で、雇用創出数は4796人に上るなどの成果が出ている。
また、イノベ地域で重点6分野の実用化開発に取り組む企業を採択する「地域復興実用化開発等促進事業(イノベ実用化補助金)」に関しては、採択企業に対して事業化に向けた伴走支援も展開している。具体的には、公的団体や地元企業との関係構築に加え、実証場所の紹介や広報活動支援、知財戦略支援などを実施している。イノベ機構の蘆田和也・事務局長は「全国の人に、イノベ地域に拠点をつくってもらったり、地域の企業と連携して技術開発をしてもらったりすることで、いろいろな人が浜通り地域で活動するようになる」と説明する。
福島イノベ構想に参画し、域外より新たにイノベ地域内へと進出した企業から、地元企業が製造委託を受けるなどの動きも見られており、経済効果をさらに広げていくために、地元企業と進出企業のビジネスマッチング支援を実施している。18年から23年までに46件の取引が成立している上、企業同士で取引先を紹介するなどの事例もあるという。
20年までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されており、その後帰還困難区域も一部解除が進んでいる。生活環境の整備などの部分で復興は着実に進んでいるものの、浜通り地域などにおいては、建設業を除く域内総生産や製造品出荷額、居住人口や就業者数などの指標は完全には回復していない。今後の目標は、30年ごろまでに全国水準並みの域内総生産を達成し、自立的、持続的な産業発展を実現することだ。
蘆田事務局長は「現状は、イノベ地域などで全国の企業による開発が進んでいる段階。今後しっかりビジネスとして定着してほしい。その先に、福島イノベ構想を通じて企業同士が出会い、新しいビジネスが生まれることも期待したい」と今後を展望する。
大熊ダイヤモンドデバイス
ダイヤモンド半導体で廃炉を実現
福島イノベ構想の重点6分野のうち、廃炉の領域で技術の実用化を目指すのが、北海道大学と産業技術総合研究所発のスタートアップ企業である大熊ダイヤモンドデバイスだ。福島第一原子力発電所の廃炉作業に必要な技術を確立するため、ダイヤモンド半導体デバイスの商用化、量産化に取り組んでいる。ダイヤモンド半導体は、演算や記憶ではなく、電力の制御に用いるパワー半導体の材質として、非常に優れた特性を実現できると期待されている。実用化に成功すれば、通信機器の小型化・省電力化や、電気自動車の充電の高速化など、さまざまな分野にイノベーションをもたらすことになる。同社は22年3月に設立し、同年には福島県大熊町との自治体連携枠でイノベ実用化補助金に採択された。主な研究拠点は札幌の北海道大学内のインキュベーション施設に置いているが、ダイヤモンド半導体デバイスの生産は福島第一原子力発電所がある大熊町で行うとしているのが特徴だ。
廃炉にあたって課題となるのが放射線。原子炉内に残る燃料デブリ取り出しの際、従来の半導体を搭載した機器では放射線による動作不良を起こす可能性がある。これに対してダイヤモンド半導体は、先に挙げた高い電力効率に加えて、放射線への耐性が強いという性質がある。さらに、300度以上の条件下でも耐えられる高温耐性があることから、注目を集めている。
同社はダイヤモンド半導体デバイスの設計、製造の前工程、後工程、組み立てまで一連の製品製造ノウハウを有しており、量産体制の構築を進めることで社会実装を目指している。星川尚久代表取締役は「ダイヤモンド半導体の技術がすごいとしても、ほしいと言われたときに提供できなければ産業化はできない」と、1社で製造まで行う理由を説明する。
福島イノベ構想では、研究開発のための補助金だけでなく、広報支援や、企業紹介の支援を受けた。特に、広報支援の面ではイノベ実用化補助金を活用したプロジェクトの成果をメディアに発信する目的で開催された合同プレス発表会に参加した。現在もかなり多くの問い合わせを受けるなど高い効果を得られたという。
今後は世界初となるダイヤモンド半導体デバイスの工場をイノベ地域である大熊町に建設する予定。将来的に、ダイヤモンド半導体デバイスを通じて廃炉を実現するだけでなく、エネルギー産業や宇宙産業などに活用していきたいとしており、星川代表取締役は「東日本大震災から学んだ上で、それを生かせる仕組みをつくりたいと考えた。まずはきちんと廃炉を完了させることが重要だが、廃炉だけでなく次の成長産業に対しても技術を実装することで、さらなる発展を目指すべき」と語る。
ミツフジ
実証実験を通じて地域の健康意識の向上へ
導電性繊維などの機能性繊維を開発・製造し、現在はウェアラブル機器も手掛けるミツフジは、体に装着したセンサーから心拍数などの生体情報を読み取るIoT製品を開発し、体調をモニタリングするためのモバイルアプリや管理者用のWebダッシュボードなどと併せた法人向けソリューション「hamon」を16年から提供している。熱中症のリスクなどがわかるため、建設業の現場などを中心に導入されている。ミツフジは西陣織の帯工場として1954年に京都で創業したが、着物産業が衰退する中で機能性繊維に着目。その後、ウェアラブルIoTデバイス事業へとかじを切った。以前は自社の工場を所有していたが、それを手放し、いわゆるファブレスメーカーとして事業を行っていた。しかし、ウェア型のIoT製品を本格展開するにあたり、研究開発と製造の両方を社内で完結できる体制を再び持ちたいと考えていた。
そこで、18年に自社工場を建設するにあたり活用したのが、経済産業省の津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金だった。それまで福島に縁があったわけではないが、川俣町は古くからの絹織物の産地。川俣町とミツフジの両者とも繊維産業がルーツであったことが、福島県の中で川俣町を拠点として選んだ理由の一つになったという。
川俣町への企業立地後は、医療分野でイノベ実用化補助金にも採択された。これは、18年から20年までの3年間、着心地にこだわったスマートウェアやアプリの開発、アルゴリズム・データ解析の開発を、川俣町と密接に連携して実証実験を進めるプロジェクトで、実証実験には川俣町に住む約700人が参加し、実際にhamonを身に着けてアプリで健康状態のチェックなどを行った。
シャツ型で、より精度の高い生体情報を取ることができる「川俣モデル」が完成したのに加え、アプリのユーザビリティーの向上にもつながったという。
また、川俣町では全国平均と比べても少子高齢化が進んでいるのが現状で、健康管理に関する課題があった。実証実験を通じて健康状態を可視化できるようになったことで、健康管理の意識向上の効果も見られたという。
ミツフジの蒲生瑞木・広報室長は「データに基づいた健康管理ができる、安全安心のまちづくりの実現に向けた第一歩を踏み出すことができた」とコメント。3年間の実証実験のみで終わらせるのではなく、実際にビジネスとして確立させていきたいとし、今後の展開に向けて積極的な姿勢を見せる。
2011年に起こった東日本大震災と原子力災害で、企業活動や雇用が大きなダメージを被った福島県の浜通り地域。この地に新たな産業基盤を構築し、地域経済を回復する目的で進められている国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想(福島イノベ構想)」が始動して10年が経過した。さまざまな進展が見られる福島イノベ構想の現在地を紹介する。
(取材・文/大向琴音)
福島イノベーション・コースト構想推進機構
福島イノベ構想は14年6月、当時の原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)が座長を務め、産学官の有識者などで構成する「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会」によって取りまとめられた。浜通りを中心とする地域で一度失われた経済の復興のため、廃炉技術やロボットなどの研究・実証拠点を設置し、新技術や新産業の創出による産業基盤の再構築を目指す国家プロジェクトとして立ち上がった。
17年5月には、福島復興再生特別措置法改正法が成立し、福島イノベ構想の推進が法的に位置づけられた。中核的な推進機関として活動しているのが、同年に設立された福島イノベーション・コースト構想推進機構(イノベ機構)で、福島県からの受託事業や補助事業を中心に展開している。
イノベ地域にある産業団地
(イノベ機構のYouTube動画より抜粋)
福島イノベ構想は、浜通り地域など(いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村)を「イノベ地域」とし、重点6分野として設定した各領域で研究開発に取り組む企業の支援を実施している。重点6分野は▽廃炉▽ロボット・ドローン▽エネルギー・環境・リサイクル▽農林水産業▽医療関連▽航空宇宙―で、支援内容は産業集積を促進する取り組みや、交流の促進、情報発信など多岐にわたる。
産業集積に関する取り組みの一つとして、企業誘致がある。福島県がイノベ地域へ拠点を設置する企業に補助金を交付しているほか、イノベ機構はこれらの支援策を知ってもらえるよう、セミナーや現地の見学ツアーを開催し、実際の立地につなげる支援をしている。24年3月末時点で、補助金に採択された企業の立地件数は418社で、雇用創出数は4796人に上るなどの成果が出ている。
福島イノベーション・コースト構想推進機構 蘆田和也 事務局長
また、イノベ地域で重点6分野の実用化開発に取り組む企業を採択する「地域復興実用化開発等促進事業(イノベ実用化補助金)」に関しては、採択企業に対して事業化に向けた伴走支援も展開している。具体的には、公的団体や地元企業との関係構築に加え、実証場所の紹介や広報活動支援、知財戦略支援などを実施している。イノベ機構の蘆田和也・事務局長は「全国の人に、イノベ地域に拠点をつくってもらったり、地域の企業と連携して技術開発をしてもらったりすることで、いろいろな人が浜通り地域で活動するようになる」と説明する。
福島イノベ構想に参画し、域外より新たにイノベ地域内へと進出した企業から、地元企業が製造委託を受けるなどの動きも見られており、経済効果をさらに広げていくために、地元企業と進出企業のビジネスマッチング支援を実施している。18年から23年までに46件の取引が成立している上、企業同士で取引先を紹介するなどの事例もあるという。
20年までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されており、その後帰還困難区域も一部解除が進んでいる。生活環境の整備などの部分で復興は着実に進んでいるものの、浜通り地域などにおいては、建設業を除く域内総生産や製造品出荷額、居住人口や就業者数などの指標は完全には回復していない。今後の目標は、30年ごろまでに全国水準並みの域内総生産を達成し、自立的、持続的な産業発展を実現することだ。
蘆田事務局長は「現状は、イノベ地域などで全国の企業による開発が進んでいる段階。今後しっかりビジネスとして定着してほしい。その先に、福島イノベ構想を通じて企業同士が出会い、新しいビジネスが生まれることも期待したい」と今後を展望する。
(取材・文/大向琴音)

福島イノベーション・コースト構想推進機構
イノベ地域から新たなビジネスの創出目指す
福島イノベ構想は14年6月、当時の原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)が座長を務め、産学官の有識者などで構成する「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会」によって取りまとめられた。浜通りを中心とする地域で一度失われた経済の復興のため、廃炉技術やロボットなどの研究・実証拠点を設置し、新技術や新産業の創出による産業基盤の再構築を目指す国家プロジェクトとして立ち上がった。17年5月には、福島復興再生特別措置法改正法が成立し、福島イノベ構想の推進が法的に位置づけられた。中核的な推進機関として活動しているのが、同年に設立された福島イノベーション・コースト構想推進機構(イノベ機構)で、福島県からの受託事業や補助事業を中心に展開している。
(イノベ機構のYouTube動画より抜粋)
福島イノベ構想は、浜通り地域など(いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村)を「イノベ地域」とし、重点6分野として設定した各領域で研究開発に取り組む企業の支援を実施している。重点6分野は▽廃炉▽ロボット・ドローン▽エネルギー・環境・リサイクル▽農林水産業▽医療関連▽航空宇宙―で、支援内容は産業集積を促進する取り組みや、交流の促進、情報発信など多岐にわたる。
産業集積に関する取り組みの一つとして、企業誘致がある。福島県がイノベ地域へ拠点を設置する企業に補助金を交付しているほか、イノベ機構はこれらの支援策を知ってもらえるよう、セミナーや現地の見学ツアーを開催し、実際の立地につなげる支援をしている。24年3月末時点で、補助金に採択された企業の立地件数は418社で、雇用創出数は4796人に上るなどの成果が出ている。
また、イノベ地域で重点6分野の実用化開発に取り組む企業を採択する「地域復興実用化開発等促進事業(イノベ実用化補助金)」に関しては、採択企業に対して事業化に向けた伴走支援も展開している。具体的には、公的団体や地元企業との関係構築に加え、実証場所の紹介や広報活動支援、知財戦略支援などを実施している。イノベ機構の蘆田和也・事務局長は「全国の人に、イノベ地域に拠点をつくってもらったり、地域の企業と連携して技術開発をしてもらったりすることで、いろいろな人が浜通り地域で活動するようになる」と説明する。
福島イノベ構想に参画し、域外より新たにイノベ地域内へと進出した企業から、地元企業が製造委託を受けるなどの動きも見られており、経済効果をさらに広げていくために、地元企業と進出企業のビジネスマッチング支援を実施している。18年から23年までに46件の取引が成立している上、企業同士で取引先を紹介するなどの事例もあるという。
20年までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されており、その後帰還困難区域も一部解除が進んでいる。生活環境の整備などの部分で復興は着実に進んでいるものの、浜通り地域などにおいては、建設業を除く域内総生産や製造品出荷額、居住人口や就業者数などの指標は完全には回復していない。今後の目標は、30年ごろまでに全国水準並みの域内総生産を達成し、自立的、持続的な産業発展を実現することだ。
蘆田事務局長は「現状は、イノベ地域などで全国の企業による開発が進んでいる段階。今後しっかりビジネスとして定着してほしい。その先に、福島イノベ構想を通じて企業同士が出会い、新しいビジネスが生まれることも期待したい」と今後を展望する。
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- 大熊ダイヤモンドデバイス ダイヤモンド半導体で廃炉を実現
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