RPAの大手として知られる米UiPath(ユーアイパス)は近年、AIエージェントとRPAを活用して業務プロセスを自動化する「エージェンティックオートメーション」の概念を掲げ、製品の開発・展開を進めている。AIエージェントの登場を受けてRPAの意義が問われる中、非定型業務にも対応できるAIエージェントの柔軟性と、ルールベースで行動するRPAを掛け合わせ、従来以上に「信頼できる」自動化ソリューションとして進化させる狙いだ。要となる基盤の国内提供も6月に始まり、日本法人は訴求を強化している。RPA×AIエージェントは市場で唯一無二の存在となれるだろうか。
(取材・文/大畑直悠)
役割分担で互いを補完
同社が提唱するエージェンティックオートメーションは、人間とRPA、AIエージェントが適材適所で役割分担しつつ、業務プロセスを自動化する考え方。同社は従来、RPAを最大の武器として業務の自動化を支援してきた一方で、製品の適用範囲が一つのシステム内で完結できるタスクにとどまるという課題があった。AIエージェントの登場によって、RPAの強みを補完し、複数システムを横断した業務プロセス全体を包括的に自動化するビジョンが描けるようになる。
日本法人は2025年6月に、エージェンティックオートメーションを実現する基盤「UiPath Platform for Agentic Automation」の提供を開始した。中核機能はワークフローの構築を担う「UiPath Maestro」とAIエージェントの構築基盤「UiPath Agent Builder」だ。
UiPath Maestroは、自動化プロセスの「設計」「実装」「運用」「監視」「最適化」までを一貫してサポートする製品となる。業務内容に応じてAIエージェントやRPA、人間の役割を決定してワークフローを作成するほか、プロセスの実行状況や結果の可視化、ボトルネックとなる非効率性の特定・解消、修正した際の影響分析までカバーする。RPAとともに同社が得意としてきたプロセスマイニングの技術や知見を反映させており、プロダクトマーケティング部の夏目健・部長は「業務プロセスは一度つくって終わりということにはならない。課題の発見や分析、改善を一貫して支援し、事業環境の変化にも対応しながら継続的にアップデートできるようにする」とアピールする。
夏目 健 部長
UiPath Agent BuilderはノーコードでAIエージェントを開発可能で、生成AIアシスタント「Autopilot」と自然言語で会話しながら構築したり、性能の評価や改善点の推奨を受けたりできる。AIエージェントが業務を実行する際に利用するRPAワークフローの指定や、人間の介入が必要となる状況を設定できる点が特徴だ。夏目部長は「AIエージェント開発のスペシャリストと言える人材はまだあまりいない。Autopilotで求められるスキルの要件を下げ、市民開発を可能にしていく」と話す。
初動の手応えは上々のようだ。24年11月の製品発表後にプライベートプレビューを実施。グローバルで150社を超える企業が先行利用し、財務や人事、営業、法務など幅広いユースケースが試された。国内からも金融、製造、通信などの業界から数社が参加したという。
顧客としては大企業だけではなく、中堅・中小企業まで幅広い顧客を想定する。夏目部長は「人手不足に悩む企業は多く、熟練者の高齢化や退職も課題だ。業務プロセスの中に蓄積されてきたノウハウやスキルの喪失を防ぐ意味でも、熟練者のナレッジをデータベース化してAIエージェントに反映し、業務プロセスを最適化したいとする要望が多い」と話す。
“広げる”と“狭める”で価値創出
AIエージェントの浸透によって、RPAが不要になる──。そんな話も一部からは聞こえてくる。こんな声に対し、夏目部長は「当社は、“そうはならない”というメッセージを出してきた」と強調する。その上で夏目部長はエージェントがRPAをツールとして利用できる仕組みが競合優位性になるとし「RPAが自動化を“広げる”と同時に“狭める”価値をもたらす」と表現する。
“広げる”とは、自動化するワークフローの範囲は、AIエージェント単体よりも拡大できるとの意味だ。連携に必要なAPIが非公開、またはそもそもAPIが存在しないシステムであっても、RPAによるUI操作で自動化ワークフローに組み込める。
一方、“狭める”とは「ルールベースで行動を限定し、決まった作業を確実に実行する」というRPAの特徴を生かして、自動化プロセスのコントロール性を担保できる点を指す。
夏目部長は「AIエージェントによる創造性や学習による進化は、毎回同じ行動を起こすとは限らないということでもある。パフォーマンスの面でも、業務によっては不必要な判断が毎回挟まり、余計な処理時間が生まれる」と指摘。ルールベースで行動を定義したRPAを介してAIエージェントが稼働すれば、決まった処理を確実に実行する領域を業務プロセス内に確保でき、「自動化に信頼性を確保できる」と話す。
AIエージェントが判断できない状況に対して、人間のオペレーターに判断を委ねる仕組みを構築できる点も強みとなり、夏目部長は「ロボットとAIエージェントがメインで業務をこなす中で、人間による承認やチェックの部分がさらに大切になる」との認識を示す。
パートナーの役割はより大きく
UiPath Platform for Agentic Automationは、提供開始時から全てのパートナーが取り扱える。RPAとAIエージェントの利点を組み合わせた業務自動化のコンセプトはパートナーにも受け入れられているようだ。執行役員の渡邉興司・パートナー営業本部本部長は「パートナーから非常にポジティブな反応を得ている。PoCで止まりがちな生成AIの導入において、地に足がついた生成AI活用の方法が見えたとの評価を受けている」と手応えを語る。
ワークフローの構築や改善を支援する上では、パートナーの役割がこれまでよりも大きくなるとの見立てだ。渡邉本部長は「RPAによる自動化の際には顧客の事業部門が“市民開発者”として業務改善を推進する取り組みが盛んで、パートナーはこれを支援していた。エージェンティックオートメーションにおいては、BPM(ビジネスプロセス管理)の観点から業務の棚卸しやプロセスの整理、SIが必要になり、プロ開発者の役割がより重要になる。パートナーには広い業務プロセスを見渡してもらい、市民開発者には把握しにくい部門横断型の自動化をビジネスチャンスにつなげてほしい」と呼び掛けた。
渡邉興司 本部長
AIエージェントの構築に関して、渡邉本部長は「組織横断的な大きな業務プロセスの自動化に必要なAIエージェントはプロ開発者がつくり、一連のプロセスの末端にあたるラストワンマイルに関しては市民開発者が担うハイブリッドなかたちになるだろう」と展望。パートナーによるAIエージェントの構築のサポートにも期待を示す。
すでにRPAを導入している顧客をターゲットとし、パートナーと共同で提案を進める。渡邉本部長は「これまでRPAの支援で培った顧客の業務プロセスへの理解を生かし、UiPath Maestroを活用して自動化の範囲を広げてほしい」と話す。RPAによるルールベースのプロセスでは例外処理が複雑で手がつけられなかった部分や、人間の判断を介在させる必要がある部分へのAIエージェントの適用を推進する。
パートナー支援では、トレーニングの提供に注力する方針だ。パートナーによってはRPAの提供には習熟しているものの、AIエージェントの構築の面では不慣れな場合も考えられる。グローバルで提供するトレーニングプログラムの日本語化のリードタイム短縮や、プログラムをパッケージングしたワークショップの開催、認定資格のバウチャーの無料提供や資格獲得のサポートなどを通じてスキルの向上につなげる。加えて、グローバルで先行する成功事例を共有し、ビジネス面でも後押しする構えだ。
実装事例も登場
すでにパートナーによる事例も生まれている。6月13日に都内で開催されたイベントでは、パーソルワークスイッチコンサルティングが、UiPath Maestroなどを活用して、グループ会社であるパーソルビジネスプロセスデザインの新卒採用業務の自動化を支援した例を紹介した。
このケースでは、面談シナリオを作成するエージェントとRPAを組み合わせた業務改善を実現。まず、RPAが採用管理システム(ATS)から採用候補者の情報を取得し、これを基にエージェントが面談シナリオを作成。出力したシナリオをRPAがATSに書き込み、面接官が事前に確認できるようにした。面談後はAIエージェントが録画データを基に面談内容をまとめ、RPAがATSに入力する。年間で1500~2000時間の業務時間の削減を見込めるという。
イベントにはTISなども登壇し、エージェンティックオートメーションの販売に注力する方針を示した。TISは市民開発者とプロ開発者が協働する体制の構築や、顧客の経営直下の組織と協力し、部門の壁を越えた施策を実行することが重要になるとの認識を示した。