AI関連の旺盛な需要を受け、データセンター(DC)のニーズが高まっている。大量の電力消費を伴うGPUサーバーはその冷却にも大がかりな装置を稼働する必要があるため、DCに必要なエネルギーは増加の一途をたどっている。今後、電力の確保と供給がおぼつかなければ国内のDC活用が進まず、ひいては経済発展や企業の競争力に影響するとの指摘もある。課題に対し、国は制度改正で事業者にさらなる省エネ化を促す方針で、現場では水冷をはじめとした電力コストなどを下げる取り組みに期待が集まる。関係する事業者らに、現状の認識や注力する取り組みを聞いた。
(取材・文/下澤 悠)
経済産業省
新設DCのPUE1.3義務化へ テナント型事業者も制度対象に
経済産業省の資源エネルギー庁は、2029年度以降に新設される一定規模以上のDCに対し、稼働後2年の経過以降、PUE※が1.3以下となるように運用する義務を定める方針だ。従来、DC事業者に対しては中長期計画書の提出や定期報告、PUE1.4以下を目標とするベンチマーク(BM)制度などが設けられていたが、さらなるDCの効率化を促すために新制度を加える。既存のDCなどに対しても、PUEの目標設定と報告、一部情報の公開などが求められるようになる。
経済産業省の今村萌音室長補佐(左)と川田沙梨課長補佐
省エネルギー・新エネルギー部省エネルギー課の川田沙梨・課長補佐は、「日本はそもそもエネルギー状況が豊かではなく、電力をどんどん使っていいわけではない。DCでは電力需要の大きな伸びが今後見込まれるが、消費エネルギーを減らす余地はまだある」と制度改正の理由を説明。一方で、ITやAIの活用によって国際競争力を高めることは重要視しており、「DCの誘致や新設は進めるが、何も歯止めがなければエネルギーの安定供給に支障が生じるかもしれない。両方のバランスをとって進めていきたい」と述べる。商務情報政策局情報産業課AI産業戦略室の今村萌音・室長補佐は、国が示した制度に基づいて運営することで、DC事業者側も事業への理解を得られやすくなるだろうと指摘する。
既設のBM制度と新設制度の両方で、建物や付帯設備などを持たずに保有するIT機器の機能を顧客に提供する「テナント型」業者も、面積やエネルギー使用量が一定以上の場合、新たに対象に加わる。
これは、他社の建屋を借りてホスティングやクラウドなどのサービスを提供する事業者も、専有部分は自らメンテナンスや独自の設備を運用するケースもあるとして、省エネの取り組みの余地があると判断したためという。
新規制と対象拡大については、5月に有識者らによる審議会で了承された。パブリックコメントを経て、本年度中に省エネ法に関係する省令や告示などが改正される見通しだ。
※Power Usage Effectiveness:電力使用効率、DCの全消費電力をサーバーなどIT機器の消費電力で割った値で、小さいほど効率が高いことを示す
MCデジタル・リアルティ
「電力消費、より逼迫」 省エネ化に向け水冷の配管施工進める
国内で計8棟のDCを運用するMCデジタル・リアルティ(MCDR)の畠山孝成社長は「DCの電力消費は多くの課題に直面している。実際、24年よりも25年は状況が逼迫してると見ている」と話し、AI需要によるDCの消費電力増への対応が必要だとの認識を改めて示す。
MCデジタル・リアルティ
畠山孝成 社長
同社の丁硯冬・ソリューションアーキテクトは、「(AIサーバーの高度化で)空冷は限界にきており、現在は水冷でないと冷やせない領域だ」と強調。同社も水冷を積極的に取り入れており、特に25年に入ってからは水冷対応の依頼がかなり増えているという。
丁ソリューションアーキテクトによる水冷方式の比較に基づくと、冷却プレートを直接GPUなどに接触させる「DLC(Direct Liquid Cooling:直接液冷方式)」は、対応サーバーでしか使えないものの冷却効率が良く、ファンの音も発生しないため、同社が広く取り入れている。冷却水が流れる装置をラックの後ろに取り付ける「リアドア方式」は、既存機器にも対応しやすいが冷却効率はやや劣る。サーバーを丸ごと冷却液に浸す「液浸方式」は導入コストが高いが、冷却効率は非常に良いため将来的な活用の可能性があるとする。
ここ数年で建てられた同社のDCは、設計段階で既にPUEが1.4を下回るようにつくられており、実効PUEはさらに下がることが見込まれるという。水冷サーバーへ水を供給するための配管施工などは、現在も開業中のDCで行われている。千葉県印西市でMCDRが運用するDC「NRT12」では8月、モーターやファンを製造するニデックが、大規模液冷装置を試験運用する。試験の対象は、現状主流であるラック単位の装置より大規模なデータホール単位の「In-Row CDU(Coolant Distribution Unit)」。これを使用した液冷装置が、サーバールーム内の電力効率を従来型空冷比で30%向上を実現することを検証する。ニデックはCDU製造のグローバル大手で、ラック単位のCDUでは約6000台の出荷実績を有する。ニデックは今後も、研究開発によりDCの電力消費削減に貢献すると表明している。
MCDRの畠山社長は、業界として、国内DC事業の成長とエネルギー供給の課題に対し、国家戦略の整備や官民連携の取り組みを強化すべきだとも指摘。既存のDC集積地での、電力供給の効率化やネットワークの拡充につながるインフラ整備強化や制度改善を挙げた。中でも現在のDCに引き込む電力の申し込み制度について、過剰な量の申請を抑制する仕組みづくりが求められると訴え、「実需に見合った電力確保の仕組みへと改善すれば、既存の集積地でも電力のボトルネックは結構解消されるのではないか」との考えを示す。
KDDI
エネルギー価格はDC経営に打撃 省エネ・再エネ推進で顧客ニーズに応える
KDDIの市村豪・技術企画本部エネルギー戦略室室長は、「ここ数年の再エネ賦課金を含めた電気代の上昇傾向は、経営にインパクトがある内容だと思っている。サービス価格に転嫁できないことも多い中、事業者としては、再エネ賦課金の1円の上昇は全体で数十億円単位の影響があり、大きな課題だ」と、現在のエネルギーコストの負担感を表現する。サーバーの発熱量が今後増える見通しから、DCの安定的な運用と冷却にかかる電力消費を抑えるための道筋を立てた。
KDDIの兵田聡グループリーダー(左)と市村豪室長
冷却方法として従来一般的だった空冷と比べ、水冷はGPUなどに冷却プレートを直接当てて熱を奪うため、熱伝導の効率が良い。手法として有力なのはやはり水冷だとして、同社は大阪・堺と東京・多摩のDCへの導入に向けて動いている。さまざまな水冷サーバー製品が既に発売されているものの、実際に事業者が導入する際には運用上の問題がないか確認し、きちんと冷却水が流れる配管構成や導入のポリシーなどを定める必要がある。
同社では、水冷の技術検証を東京・渋谷のDCで行っている。「DCは建てた時期によって内部の設計が異なっており、またパートナーを通じて最新技術を把握する目的もある」(市村室長)といい、サーバーメーカーの米Super Micro Computer(スーパーマイクロコンピューター)および、ニデックが水冷技術支援、篠原電機がダミーロードの提供で参加しているという。
水冷の冷却効率のベンチマークとしては同社も、資源エネルギー庁が29年度以降新設のDCに課す方針であるPUE1.3を意識。市村室長は「1.3ギリギリというよりは、この基準を当然クリアできるレベル感でしっかりとやっていかないといけない」と話す。事業者が契約している電力には当然上限があるため、冷却に使う電力を少なくできれば、DCの利用効率が上がるというメリットもある。
利用する顧客の側でも、省エネの取り組みは重視されるという。市村室長は「基本的には、設備を冷やすための電力が高い分お客様への請求が高くなってしまうので、効率が良いほうが好まれる」と指摘。また、兵田聡・サステナビリティ企画部カーボンニュートラル・環境Gグループリーダーは、「環境負荷を下げる目的で、再生エネルギーを並行して入れていくのも必要不可欠だ」と強調する。「省エネと再エネがしっかりできているかどうかは、お客様のニーズとして高まるのではないかと捉えている。当社は『Telehouse』ブランドで展開する世界のDCで、使用電力の100%を実質再生可能エネルギー由来の電力へ切り替えることを目指している」と力を込める。
Quantum Mesh
「液浸」の検証でPUE 1.03を記録
DC運営のスタートアップQuantum Meshは、冷却液にサーバーを丸ごと入れて冷やす「液浸」技術を用いたGPUサーバーシステム「HydroBooster(ハイドロブースター)」を開発し、4月から提供している。冷却効率が良く、空調設備の初期投資と運用段階の電力の両方のコストを大幅削減できるとしている。同社の実測によると、今回のシステムでPUEは1.03を記録している。
Quantum Meshの篠原裕幸共同創業者兼代表取締役。
後ろがHydroBooster
サーバーから発生する熱を冷却液が吸収し、くみ上げた地下水と熱交換する仕組み。水は汚れずに地下に戻すことができるという。大規模な空調屋外機、室内冷凍機や空調機材などが不要になるため、設置空間も従来の5~3分の1程度に収まる。高密度での設置・運用が可能で、同社が推進するコンテナ型DC(20フィート)では、HydroBoosterを12台(2Uサーバーで換算すると96台)収容することができる。冷却液は絶縁性オイルで、ENEOS製の「ENEOS IX Type-J」を採用。DCの構築・運用などを担うNew Rule Labを販売代理店とした。
HydroBooster内部
液浸は従来から注目されてきた冷却技術だが、メンテナンスの難しさなどからこれまで普及していなかった。篠原裕幸・共同創業者兼代表取締役は「電力やデータ主権の観点から1カ所にデータを集めすぎることには問題があると考えており、多極分散型のDCを進めたい。分散型でもエネルギー効率を良くするため、液浸を取り入れている。短期間でDCを設置する機動力も、これからは求められてくる」と、開発の意義を説明する。