【米サンフランシスコ発】米サンフランシスコで9月11、12の両日(現地時間)に開催された米Box(ボックス)の年次イベント「BoxWorks 2025」では、AIエージェント関連の新機能が数多く発表された。同社はAIエージェントを通じて、「Box」内に格納したデータの高度な活用を支援する「ICM(Intelligent Content Management)」戦略を推し進める方針だ。販売面ではサードパーティー製品との連携をパートナーが担い、付加価値を高めて顧客に届けることを支援していく。
(取材・文/堀 茜)
非構造化データをAIで活用可能に
同社はBoxにAI機能を搭載し、企業内に蓄積されたデータを活用するICMプラットフォームとして展開する戦略を取っている。提供する全てのAI機能が使える最上位プラン「Enterprise Advanced」を2025年1月から提供しており、ユーザーの用途に最適なAIエージェントをカスタマイズできる「Box AI Studio」や、ノーコードで業務に適したアプリケーションを作成できる「Box Apps」などの機能を搭載している。今回のイベントでは、▽インサイトを瞬時に生み出す▽非構造化データを構造化する▽あらゆるワークフローを自動化する―の3点にフォーカスし、さらなるAI機能の強化をアナウンスした。
このうち、最も強くフォーカスしているのが、非構造化データの活用だ。新機能「Box Extract」は、AIエージェントを活用し、非構造化データから重要なデータやインサイトを抽出する。PDF、スプレッドシート、スキャンデータ、画像など幅広い形式に対応し、企業内データの大部分を占める非構造化データをAIが扱えるかたちに変換する役割を担う。同社によると、企業が保有するデータの9割は非構造化データで、AI活用の障壁になっている。Box Extractが膨大な非構造化データから、高精度に構造化データを抽出することで、法的契約書、マーケティング素材、請求書、融資関連文書など、あらゆる形式のコンテンツでAI活用が可能になる。
米Box
アーロン・レヴィ 共同創業者CEO
基調講演でアーロン・レヴィ共同創業者CEOは、非構造化データがAI活用のかぎになるとした上で、「どうすれば非構造化データにアクセスし価値を生み出せるのか」に注力し続けていると強調した。レヴィCEOは、AIエージェントがエンタープライズに浸透し、人間に代わって働くようになることで、企業の生産性は飛躍的に高まるとの見通しを示し、「AIエージェントの活用で、人間は1000倍高速に働けるようになる」と言及。「AIが非構造化データから知見を引き出し、ワークフローを自動化することで、製品開発を高速化したり、サプライチェーンのリスク管理をしたりできる」と、Boxが実現しようとする世界観を紹介した。
Salesforceとの連携などパートナーが付加価値を高め商機
イベントの期間中、同社はパートナーサミットを開催した。グローバルGo-to-Marketパートナーシップ担当のジェイミー・ヤング・パールマン・バイスプレジデントが事業の状況について説明。同社の年間経常収益(ARR)の37%がパートナー経由の販売で、大型契約の半数以上がパートナーによるものだと報告した。「当社はこの1年、SIerとのパートナーエコシステム強化に力を入れてきた」(パールマンバイスプレジデント)結果、SIパートナーが獲得した契約数が前年比で2倍増と大きく伸長する見込みであるとした。パールマンバイスプレジデントは「パートナーと一緒に案件を取りに行くことで、皆さんのビジネス成長を支援していく」と間接販売にさらに注力する方針を示した。
間接販売への注力姿勢が示されたパートナーサミット
ここでもAIが事業成長のかぎとなる。Box AIのアクティブユーザーが前年比7倍になっており、パールマンバイスプレジデントは「Boxが“AI Ready”なプラットフォームであることを訴え、顧客にAIを商用環境で活用してもらうことが重要になる」と指摘した。
BoxをプラットフォームとしたAI活用によって、急成長を遂げているパートナーは少なくない。一例としてパートナーサミットでは、米シアトルに本社を置くコンサルティング企業のSlalom(スラロム)が、「Salesforce」との統合ツールを開発したケースを紹介した。AIでBox内のドキュメントを自動分析してSalesforceに反映したり、SOW(作業範囲記述書)を自動生成したりすることで、BoxとSalesforce間の情報連携や業務プロセスを大幅に効率化したという。Salesforceと併用するためにBoxを導入する企業が増えており、ビジネスチャンスが大きいことを示した。
パートナーサミットには、レヴィCEOも登壇した。「当社だけではビジネスは成立せず、SIer、リセラーなどパートナーとの協業が欠かせない」と強調。パートナーとの協業案件が加速度的に増えており、「Boxはマルチプラットフォームソリューションとしての役割を果たすために、コアのテクノロジーを開発して市場に出していくことにフォーカスしてきた」と自社のスタンスを説明した上で、「顧客の業界についてノウハウを持っているパートナーとビジネスを成長させるために、パートナープログラムにより投資する」と述べた。
自社での活用事例をエンタープライズに展開
ボックスは自社の業務においてもBoxのAI機能を活用する「Box on Box」という取り組みを強化している。基調講演では、オリビア・ノッテボーン・最高執行責任者(COO)がBoxによるBox AIの活用事例を紹介した。営業活動では、AIエージェントが見込み客にアプローチする際のコンテンツを作成したり、商談時に強調すべきポイントなどをまとめたりしている。AIエージェントの存在が、1週間に社員一人あたり5時間の業務効率化につながっているという。
米Box
オリビア・ノッテボーン COO
日本メディアの取材に応じたノッテボーンCOOは、パートナーに対して、ボックスの活用事例を参考にして、顧客にAI機能の使い方を提案してほしいとの考えを示し、「企業がどうやってAIを活用するかを考えた時、パートナーの役割が大きくなる」と指摘した。顧客が求めているもの、保有しているテクノロジースタックなどを詳細に把握するパートナーに、Boxのテクノロジーと顧客のニーズをすり合わせる役割を期待しているとした。
パートナーへの支援は、パートナーマネージャーという専任部隊を置き、最新情報の提供や営業同行などを行っているほか、イネーブルメントのプログラムとして、オンラインでソリューションの活用方法などを学習できるパートナーアカデミーを用意しており、コンテンツを順次拡充している。
同社が打ち出しているICMという戦略について、ノッテボーンCOOは「既存のお客様なら、当社がただのストレージベンダーではなくAIでパワフルな価値を提供していると理解しているが、ICMの価値をエンタープライズにもっと広めていくことが必要だ」との認識を示し、「パートナーの力を借りて当社のメッセージを広く示していきたい」と述べた。
AI活用によって、企業が保有するデータ量はさらに増えることが見込まれるが、容量無制限でデータを格納できるというBoxの優位性についてノッテボーンCOOは「データから知見を引き出し、ワークフローにつなげることが重要であり、データ量のハードルはあってはならないと考えている」と説明。「ストレージの単価は安くなってきており、容量制限を設けるつもりはない」とした。
好調な日本市場 グローバルの3割を目指す
イベントには日本から顧客やパートナーら約70人が参加し、最新機能やAIエージェントの活用事例に触れた。日本では100%間接販売という戦略が奏功し、業績は好調に推移している。日本法人Box Japanの佐藤範之社長は、国内市場での戦略について金融、公共、地方での拡販に注力しており、「ホワイトスペースが大きく、パートナーの力が色濃く出る分野になる」と分析。顧客がどんな課題を抱えているかを把握しているパートナーが、解決のためにBoxの機能をどう活用したらいいかを提案する「課題ドリブン」のアプローチで、さらなる成長を目指すとの考えを示す。
Box Japan
佐藤範之 社長
国内市場においては、AI機能をすべて使える最上位プランのEnterprise Advancedの普及はこれからだが、パートナーと自社のコンサルティングチームが共同で、どのような業務にどのAIエージェントが向いているかをスクリーニングする作業に取り組んでいる。佐藤社長は「AIでもっとこういうことをやりたいという要望が出れば、より幅広い機能が必要になるため、アップグレードを仕掛けていきたい」と意気込む。グローバルの中でも日本での売り上げは伸び率が高く、ボックスの世界全体の売上高に占める日本の比率は23%を占める。佐藤社長は「会計年度2027年の終わりには30%にしたい」との目標を掲げる。
新しい動きとして、Box Japanは8月、パートナーのマクニカ、その子会社であるNetpoleonと共同でシンガポールでの拡販に進出した。日本でのパートナー販売をモデルケースにしてさらに成長を図る狙いで、「日本の代理店モデルのナレッジを注入し、さらにビジネスを広げていきたい」(佐藤社長)とした。