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<特別レポート> サンワサプライのLANケーブル事業 ラスト10メートルがネットワークの生命線 高速LANケーブルの品質へのこだわり

2008/02/27 19:56

週刊BCN 2008年02月25日vol.1224掲載

 コンピュータサプライベンダーのサンワサプライ(山田哲也社長)は、高速LANケーブルのリーディングカンパニーとして、品質保証にも積極的に取り組んでいる。同社とともに、「カテゴリ(Cat)6e」「同7」などLANケーブルの新製品開発を手掛けたネットワークインテグレータのベガシステムズ(若尾和正社長)は、「1本のケーブルが世界につながっている。だから徹底的なチェックで高品質を維持することが必要」と、品質保証に万全を期す。こうしたひとつひとつのこだわりが、ネットワーク社会を支える技術へと続いている。

世界を結ぶ“ケーブル”の価値アジア発世界へ メタル最高峰の「Cat7」

 サンワサプライとベガシステムズは、高速通信が可能なLAN用パッチケーブルの開発を共同で行っている。

 ケーブルの両端にコネクタが取り付けられたパッチケーブルは、購入後すぐに使える手軽さから人気がある。それゆえ差別化も難しいとされていたが、両社は他社に先駆けて、従来の10倍となる10Gbpsの通信速度を誇る製品を2003年に独自に開発。1Gbps用規格「カテゴリ(以下Cat)6」の拡張版「Cat6e」と位置付け、製品化に乗り出した。

 そして、2007年2月には、メタルケーブルで機器接続をした際に起こる混信「エイリアン・クロストーク」の課題を解決する「Cat7」のパッチケーブルを世界で初めて量産化に成功した。

 ベガシステムズの若尾社長は当時を振り返り、「『どんな規格なのか』、『聞いたことがない』と、販売店やSIerからよくいわれました。LANケーブルの規格『カテゴリ』は、米国標準化団体が規格を策定していますが、日本は米国の規格を重視しがちです。日本、そしてアジア発の世界標準があってもいいと思います」と、世界のネットワーク市場をリードする技術立国・日本をアピールするために、ケーブル開発に力を注いでいるという。

 実際に、Cat6シリーズ以前のLANケーブルは、8芯の銅線を2本ずつらせん状によりをかけ、4対のケーブルで構成されている。ケーブルには、7本の細い銅線をよりあわせている「より線ケーブル」と、8芯の銅線が1本ずつの銅線でできている「単線ケーブル」があり、より線は取り回しが容易、単線は高速に対応という特徴を備えている。一見同じように見えるが、金属の性質上、通る電気の周波数が高いほど外周に近い部分しか利用できない「表皮効果」で、一本道とでこぼこ道のように、単線ケーブルのほうが信号を遮る障害が少なく、スムーズにデータを送ることができる。このため、1000BASE-T対応では単線ケーブルを推奨しており、ケーブル内のらせん状の2本、4対のケーブルに、よりを強くかけることでデータ通信の信号のロスを最小限に抑えている。こうした一つ一つを大事にする点が信頼の証でもある。

 なお、高速な通信を行うと、4対の銅線が隣り合うため、電磁波の働きでデータが乗り移るノイズ(混信:エイリアン・クロストーク)が構造上起こりえる。そこで、Cat7では、1組あたり2500Mbpsの高速通信を行うことで10Gbpsの高速化を実現。さらに、1組ずつ金属製の絶縁皮膜(銀紙)で包み込み、4組まとめてもう一度銀紙で包む二重構造によって混信を極限まで抑えている。

 また、もうひとつ欠かせない重要なポイントがコネクタで、せっかくノイズ対策のためによりを強くしても、プラグ部分ではよりを戻す必要がある。

 このより戻しをできるだけ小さくし、コネクタの形状を従来のホリゾンタル方式(横一列)からアルタネート方式(段差型)に変更して不具合を軽減したほか、電波暗室で漏洩電波の計測を行い、設計通りの通信速度が確保できているか性能検査を徹底している。

 また、Cat7は、多重皮膜の構造を採用しているため、直径が約1.5倍と大きい。それゆえ、ケーブルをコネクタ規格「RJ45」に当てはめる作業は困難を極めたが、Cat7用の金型を作り直すなど工夫を凝らし、利便性の課題をクリアしていった。

 こうしたケーブルへの取り組みから誕生したCat7は、現在の技術ではメタルケーブルでこれ以上の高速化は難しいことから、メタルLANケーブルの最高峰といわれ、基幹系サーバーなどミッションクリティカルな領域で需要が高まっている。

 価格は他のカテゴリ製品より高価だが、取り扱いの難しさ、コスト高によりLANの普及が伸び悩む光ケーブルとメタル線の溝を埋める有用性に注目が集まり、競合他社が追随するほど大きな反響を呼んでいる。

 「ネットワークトラブルの約80%がLANケーブルに原因があるといわれています。たった1本のケーブルですが、世界を結ぶ1本でもあります。どれだけ高速でも最後の10メートルはLANケーブルが必要です。それだけに責任は非常に重いのです」と若尾社長。

 これまで多くの他社にはない独自技術を生み出してきたが、その源泉は、両社のLANケーブルにかける想いの深さにほかならない。
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徹底した素材のチェック 品質管理に仕入先まで訪問

 Cat7は、完成度の高さから「最後の規格」になると予測されており、それゆえ長年の使用に耐えられる経年劣化の少ない品質の高さと耐久性が求められている。

 サンワサプライでは、台湾のLANケーブルメーカーなどと組んで中国南部の広東省に専属のLANパッチケーブル工場を設立しているが、より徹底した品質管理を実現するため、生産現場にもメスを入れた。

 若尾社長は年に数回、中国に渡り、工場や取引先を視察し、安くていいものを厳選し、高品質の維持に努めている。「昨日までパンダと遊んでいた女の子がLANケーブルを作るというのが中国工場、そうした現状を理解したうえで、中国を重要なパートナーとして位置付け、高品質を保つ生産管理体制を徹底しています」(若尾社長)。そのこだわりは、工場設備はもとより、ケーブルの素材となる銅線にも及ぶ。

 LANケーブルには、導体の太さを示す「AWG(American Wire Gauge)」が表記されている。この基準は、銅線の太さ、断面積、単位長さ当たりの抵抗値で示されるが、太さを実際に計測し、長さと抵抗によって銅線の純度や品質まで規格に適合しているかを見定めている。

 「ケーブルに限らず、どこから素材を仕入れているかを調べ、その内容まで把握している企業は極わずかしかいないでしょう。手間暇かけて品質管理を徹底している点が、サンワサプライの強みなのです。目指すは、“Be No.1 in The World”、LANケーブルで世界一です」と若尾社長は、最善を尽くすことが、ひいては世界でトップのケーブルに近づくとも力説する。

photo また、パッチケーブルは両端にコネクタが取り付けられているが、そのアセンブリは、よりを戻す行程から取り付けまでが手作業で行われる。二重構造のCat7を除いて、カテゴリが高くなるほど、8本の芯のよりは強く、固く、力も根気も要る作業だ。

 「数百円で買えるケーブルですが、その裏側で作業している苦労を体感してもらうため、サンワサプライでは社員にケーブルつくりの講習会を開催しています」と、売る側が作る作業を知るからこそ、より説得力のあるビジネスができる。そうした相乗効果もサンワサプライの躍進に拍車をかけている。

 なお、月産数万本の大量生産は中国が拠点となるが、今すぐ欲しいという企業に対しては、日本を起点に、10cm刻みで特注対応を受付け、スピーディーなデリバリーサービスを行っている。

 また、万が一トラブルが発生した場合でも、ネットワークに精通した若尾社長が率いるベガシステムズがサポートセンターとして十全に対応する。

 「なぜ、ここまでケーブルに傾注するのか、その答えは『LANケーブルのことはサンワサプライ』と自信を持っていえるためです。多くのコンピュータサプライベンダーの中で、何か一つでも飛びぬけて強みを持つことは非常に大切です。ケーブルだけでなく、ゆくゆくは他の製品も市場を引っ張る、そうした自信につながっていければいいですね」と若尾社長。企業の成長、さらにその先にある日本の技術力を世界に。モノづくりにかける想いの強さが、サンワサプライの原動力となっている。(週刊BCN 2008年2月25日号掲載)

営業を対象にLANケーブルの
技術習得勉強会を開催

販売第一線の営業が
実際にLANケーブルを作成

 サンワサプライは、ケーブル事業の一層の拡大に向け、販売の前線に立つ営業の育成にも力を注ぐ。その好例が、2月にベガシステムズ若尾社長の協力のもと、名古屋地区を担当する若手の営業を対象に開催した勉強会だ。

 「LANケーブルの技術習得」をテーマに、LANケーブルの基本構造、ケーブルによるトラブル、通信伝送や施行技術に関するレクチャー、そして最も重要なメニューとなる「実際にLANケーブルを作る」作業と内容も充実している。

 参加した営業部員の手元には、ケーブルやコネクタといったLANケーブルを構成するパーツ、専用の工具が並び、細かな作業工程が一つ一つ説明される。「100本作る」という冗談とは思えない若尾社長を前に、黙々とLANケーブルが作られていく。しかし、なぜ、営業部員がLANケーブルを作成する必要があるのだろうか。

自社製品の高付加価値を再認識

 もちろん、単に作れるようになることが目的ではない。若尾社長は「1つの商品の中身を深く知ることは、自社製品に対する自信と信頼の礎になる」とその意図を説明する。

 例えば、NEXT(Near End Cross Talk/自己ノイズ)といわれる通信障害の原因は、LANケーブルの先端部のより戻しの長さだ。そこで、サンワサプライは、生産過程で意識することなくより戻しを短くできるように、部材のコネクタを自社で開発。属人的な生産技術のハードルを、パーツの改良でクリアしてきた。

 こうした自社の強みを改めて認識することが、「パッケージ化された商品」ではなく「付加価値の高い商品」としてサンワブランドのLANケーブルの拡販に拍車をかけることになる。

 以前にも同様の勉強会に参加したことがある杭生恭宏・サンワサプライ営業部エリアマネージャーは、「平均的な製品知識だけではなく、LANケーブルを作ることによって、施工現場で技術者に対して指示できるようなプラスアルファの理解が深められます。営業としての提案に厚みが増すことは言うまでもありません」と、勉強会の意義を話す。

仕入れる銅素材にまで及ぶ
生産工場の厳密なチェック体制

 勉強会では、作成したLANケーブルの通信速度をテスター(FLUKE networks社)で測定。それぞれの数値にバラつきが出たことからも、いかに高品質な生産を平準化することが難しいかが判る。

 サンワサプライのLANケーブルを生産する中国工場は、その設備などにおいて数十におよぶ項目で厳密にチェックされる。それだけに留まらず、工場が仕入れる銅線(ケーブルの素材)の太さや純度まで検査する徹底ぶりだ。製品の構造的な付加価値に加え、そうした生産体制の後ろ盾を理解することで「サンワサプライのLANケーブルは他の追随を許さない」(若尾社長)ということを営業は再認識する。

 勉強会は、今回を皮切りに、東京、名古屋、大阪などの拠点で順次開催する予定だ。

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