須田代表が描く広告業界の未来図

 博報堂がIT技術を駆使し、新しい広告の形を模索している。中心となるのは、社内横断プロジェクト「スダラボ」だ。プロジェクトの代表を務める須田和博・エグゼクティブ・クリエイティブディレクターは、活用が本格化している人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)が、「広告業界に新たな波を起こす」と考えている。

きっかけは上司の指示 大切にする「やってみる」精神

博報堂 スダラボ
須田和博
エグゼクティブ・クリエイティブ
ディレクター

 いわゆる広告業界は、もともと新聞や雑誌、ラジオ、テレビとともに繁栄してきた。その後、90年代から2000年代にかけてインターネットが普及。ユーザーが能動的に情報にアクセスし、自発的に情報を発信できる時代を迎え、広告の形態は多様化した。

 広告を取り巻く環境が大きく変化し、「次世代の広告」について考えることが業界の共通課題になっていた。同じ時期に上司から「自主プロジェクトの起案」を指示されていた須田代表は、「広告の新商品を開発し続けるラボ」をやることを決めた。

 スダラボが本格的に始動したのは、14年3月。社内のクリエイター計7人がメンバーになり、田んぼアートとその産地米が購入できるECサイトとを結びつけたスマートフォンアプリ「ネイチャーバーコード」を試作第一号として公開した。

須田代表は、「誰もやったことがないからこそ、思いついたら、とにかくやってみる。やってみて、初めてわかることがある」と強調する。

「Microsoft Azure」で迅速な開発サイクルを実現

 スダラボはこれまでネイチャーバーコードのほか、野菜に触れると生産者の声でしゃべるプロモーションツール「TALKABLE VEGETABLES(トーカブル・ベジタブル)」など、五つの広告新商品を開発してきた。そして第六弾として、鏡を使った広告配信システム「Face Targeting AD(フェイス ターゲティング アド)」を17年3月に打ち出した。
 

アドタイ・デイズ2017で高い関心を集めたFace Targeting AD

 Face Targeting ADは、鏡に映った人の年齢や性別、表情などを読み取って、顔の特徴や気分に応じて異なる広告を表示する。顔の画像自体は残さずに目の位置などの座標を保存、個人情報を保護しながら必要なデータを分析することができる。仕組みを支えているのは、マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上で提供されるAIサービス「Microsoft Cognitive Services」だ。

 スダラボは、16年9月にマイクロソフトからの提案を受け、サービスの採用を決定。それからきわめて短期間でFace Targeting ADの完成にこぎつけた。須田代表は、「これくらい急がないと、世の中のニーズに間に合わないし、一番乗りできないと話題にもならない。試しにつくって、すぐ見直す。もし技術的に無理なら、違うアイデアを考えることも重要」と説明する。

 さらに、マイクロソフトと連携する意義については、「クラウドサーバーを借りるだけで世界トップクラスのサービスを使えるのは、限られた期間でプロモーションを実施する広告会社にとって、とても大きなメリット」とアピールする。

 4月26~27日の2日間、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開催されたイベント「アドタイ・デイズ2017」では、Face Targeting ADが国内で初めて公開され、来場者の高い関心を集めた。
 

アドタイ・デイズ2017の会場では、TALKABLE VEGETABLESを改良した
「TALKING POP」も展示された

AIとIoTで新たな体験を「テクノロジーは怖くない」

 須田代表は、今後10年でAIとIoTを活用し新たな体験を生み出す流れが、広告業界で加速すると推測している。ただ、「すごい技術にもかかわらず、使い方を間違えて普及しなかった例は歴史をふり返るとたくさんある。AIも使い方を間違えると、そうなりかねない」とみている。

 AIというと、将来的に人間の仕事を奪ったり、人間が支配されたりするというマイナス面の予想もある。一般からもAIや顔認識の広告利用には一定の拒否反応が出ていたが、須田代表は、「企画者はテクノロジーを怖がらずにしっかり理解し、生活者に丁寧に配慮することが大切」と訴える。

 スダラボが挑戦するのは、博報堂にとっても業界にとっても未知の領域。広告会社として長年つちかってきたノウハウと、日進月歩のIT技術を組み合わせて、これからも時代を先取りする広告の新商品を矢継ぎ早に展開していく方針だ。