コンポーネント事業で「注文住宅」の世界を開く

メルコ

俊敏な事業開拓と堅実経営

 PC市場の急拡大と歩調を合わせて、メモリ事業を柱に急成長を続けてきた。躍進の原動力は、ベンチャー的な性格の強かった周辺機器メーカーの中にあって、新規事業分野のいち早い開拓と、組織的な企業運営という堅実経営を両立させてきた牧社長の経営手腕に負うところが大きい。

 創業来、市場の変動に即応するために、ファブレスを基本方針としてきたが、昨年台湾に生産拠点を構え、生産、開発部門の大幅強化をはかった。同時にDOS/Vコンポーネント市場の参入と、従来の基本路線から大きく踏み出した施策を立て続けに打ち出し、同社の事業展開が新たな段階に突入したことを印象づけた。今期中間決算の売上高は223億3100万円で前年同期比33・5%を達成。経常利益は23億5100万円で同49・8%と引き続き高度成長を維持。昨年には周辺機器専業メーカーとしては国内初のISO9001の認証を取得。年内にも東証1部上場を達成する見通しが強い。

 昨年8月、名証二部からわずか7か月という短期間で、東証二部上場を果たしたメルコに、早くも東証一部の呼び声が高まっているさらに新規事業として昨年10月からは、DOS/V本体に必要な構成機器をすべて品揃えするコンポーネント事業にも進出した。その足取りは、従来の周辺機器メーカーという枠組みから大きく踏み出そうとしているかのようだ。急成長、拡大路線の先に、同社が描く企業ビジョンとは何なのか。「単なるパソコンメーカーを目指すつもりはまったくない」と断言する牧誠社長に聞いた。(本紙編集長・田中繁廣)

 SI絡めた新たな文化を

 

─ 昨年は名証、東証の二部上場に次いで、台湾での組立工場開設と非常にダイナミックな展開が続きましたね。パソコン市場の急成長に合わせた動きだったのですか。

牧 市場が一時の踊り場を抜け出して、急激に拡大しそうだから上場を急いだなんてことはありませんよ。公開からさらに上場をめざすという決意を固めたのはすでに7、8年前で、以来私としては、東証第一部をターゲットに営々と努力を重ねてきたつもりです。何でもいいから公開したいという意識ではなく、あくまでも長期的なビジョンがあったからこそ、昨年1月の名証二部についで、8月には東証二部への上場を果たせたわけです。

─ 経営環境は変わりましたか

牧 社会的信用度は雲泥の差でしょうね。たとえば、名証の時には、当社の株の出来高が日経の東京版には載っても、朝日にはでない。そうした意味で、地方市場の辛さを感じてきました。しかし、今は情報の露出度が全然違います。機関投資家の顔ぶれも店頭の時には一部に限定されていましたが、今は大手の生保や海外の証券などがどんどんコンタクトを取ってくる。

─ 東証一部は早ければ年内中という観測も出ていますが。

牧 いや、それは私が言えることじゃないんです。一部上場に必要なすべての条件はクリアしていますから、もう時間待ちということは確かですが、時期についてはご想像にお任せするしかない。

─ 一部上場の狙いは資金調達ですか。

枚 目的というわけではないが、資金調達の可能性を広げることが狙いてあることは確かですね。一部に出ると株に対する信用度が増して、需要も高まります。だから株価の変動をあまり心配しなくても、その気になれば株式の15%までは売ることができる。つまり、現在の時価評価額でいえば一回で200億円は調達できる勘定です。行きすぎると株式の需給バランスが崩れて、株価に影響しますから、あくまで理屈の上の計算ですが。

─ 膨大な資金力を背景に、メルコという企業はどう変わっていくんですか。

牧 私はね、コンポーネントメーカーを目指したいんですよ。実質的にはパソコンメーカーという見方もできるかもしれませんが、本体をアレンジするのに必要なマザーボードや、各種のカード、キーボードなどキーコンポーネントを総合的に供給できるメーカーになりたい。

─ パソコンメーカーとどう違うと。

牧 今の本体メーカーというのは一体型中心じゃないですか。いわば建て売り住宅の販売を指向している。我々はそうじゃなくて、建材や住宅設備メーカーをめざす。NECや富士通に対抗して、一体型なんてやる気は更々ないんです。一体型では満足できないユーザーに向けて、もっとニッチなマーケットを時間をかけてじっくり育て上げたいと思っているんです。

─ 具体的にはどんなマーケットが。

牧 たとえば小規模事業所向けのサーバーですよ。いまは中小企業のC/Sでも、みんな高いもの買っているじゃないですか。100台、200台のクライアントをつなぐのでなければ、サーバーは486SX/25で十分なんです。ところが1GB程度のディスクを備えたサーバーというと、実際にはペンティアムマシンしか選択肢がない。しかも何年かたってグレードアップしようとすれば、本体を丸ごと取り替えるしかないというわけでしょう。ユーザーの立場にすれば、無駄な投資を強いられているんです。

 アメリカではDECのミニコン全盛の時代から、サードパーティのSIがユーザーの身の丈にふさわしいシステムを組み上げて提供してきたという土壌がありましたね。ところが日本では、オフコンというクローズな時代が長く続きすぎた。だから、標準部品を使って独自のシステムをつくるというSI業者も育たなかったし、コンポーネントメーカーも成長しなかった。我々は、その新しいコンポーネントビジネスのインフラを立ち上げ、新しいパソコンの文化として日本市場に定着させていきたいんです。

 

 

RlSC搭載ボードも

 

─ 事業としてはメルコ製のオールインワンパソコンを売った方が手っ取り早いという気もしますが。

牧 大手の機先を制して、ペンティアム200のマシンを出そうと思えばできないことはない。しかし、馬鹿馬鹿しいじゃないですか。どうせならほかではできないことをやりたい。スピードが必要なら、ペンティアムよりひとケタ早いアルファやパワーPCを使ってPCI対応のマザーボードも揃えればいい。それならDOS/Vの周辺機器だって使えるわけです。しかも、各コンポーネントの接続検証をメルコが責任をもって行えば、486からRISCまでのスケーラビリティをもった信頼性の高いシステム環境を揃えることもできるそうしたこれまでにないコンポーネント市場を、インフラから立ち上げていきたいと真剣に考えているんです。

─ DOS/Vコンポーネントの組立教室を始めたのも、そうした発想からですか。

牧 そうなんです。いま東京、名古屋、大阪の3か所で開催していますが、マニアより、パソコンを良く知りたい、仕事に生かしたいという人が中心で、予想以上の盛況です。参加者の平均年齢は何歳くらいだと思いますか。

─ 20代前半ですかね。

牧 そう思うでしょう。ところが、実際には40歳前後がピークなんです。先ほど注文住宅という表現を使いましたが、メルコが提供するコンポーネントと教室から、実際に注文住宅を造る大工さん、つまりSIベンダーが育ってくるのではないかと大きな期待をかけてるんですよ。

─ かなり長期的な取り組みになりそうですね。

牧 長期的ですし、インフラづくりの段階から本格的にやっていこうと考えているんです。本音をいうと、DOS/Vコンポーネントを始める前に、本体メーカーにもっとベースモデルを大事にしてもらいたかった。今は裸のべースモデルに周辺機器を後付けで足していくと、内蔵モデルやオールインワンより高くなるでしょう。これを改善してもらおうと努力してきたけれど、もう駄目だと。そこまで考えた上で始めた事業ですから、中途半端な形でやるつもりはありません。

─ 将来的には主幹事業と考えているわけですか。

牧 メモリビジネスはいずれ頭打ちになると思ってるんです。うちの大きな柱でいられるのはあと5年くらいだろうと。少なくとも10年以内にはパソコン本体での増設容量が頭打ちになります。パソコンもメモリも、半導体の微細化技術に比例して進歩してきましたが、インテルがいくら頑張っでもそろそろ限界が見え始めてきている。 年商に占めるメモリの構成比は、現在59・4%で、当面はもっと伸びるでしょう。しかし、売り上げが横這いになる事態を想定すると、いまのうちにDOS/Vコンポーネントのような新しい主幹事業の基盤を作っておく必要があるということです。

─ そうした時代になれば、現在のパソコン市場自体が変わらざるを得ないということになりますね。

牧 そう、これは何もメルコに限ったことではないんですよ。国内の市場自体も、私は1500万台くらいまではいくと思います。しかし、どこかで伸びは止まるそういう時期がやってきます。そのときに市場を広げる原動力となるのは、もう、表計算やワープロのためのパソコンではない。FAなどの産業用機器や、カラオケ、インターネットなどの民生用機器に組み込まれたコンポーネントパソコンの市場です。21世紀は間違いなくそういう市場になります。メルコはそこに向けて、自社で接続検証まで行った本当に信頼性の高い製品を提供できるコンポーネントメーカーになりたい。そうした新しい文化の創出が、アメリカなどにはない、日本独自の画期的な利用技術の創造にもつながる可能性を秘めていると考えるからです。

 

 

 

≪眼光紙背≫

 表面は穏やかだが、柔かな物腰の奥に激しさを秘める人である。そのバランスの良さが牧社長の最大の持味である。メルコの事業姿勢にも、そうした人格が反映されているプリンタバッファ、EMSメモリと時代を見抜く目は確かだが、メルコの成長は先見性だけでなく、目標が定まった時の攻めの激しさにある。

 時にはそうした気質が業界に波紋を呼ぶ。HDDで見せた徹底的な市場攻略は競合の屋台骨を根底から揺さぶった。牧社長自身、「あれはやりすぎ」と素直に認める実にストレートで、人にも自身にも正直な人である。

 今回のコンポートネント事業は、同社の気質からすると、やや異質だ。短期攻略ではなく、教育という地盤固めからあえて迂廻とも思える布石を打つ。21世紀という長期の変化を見抜いたうえなのか。あるいは上場企業という、大人、の対処を身につけたのか。いずれにしてもメルコという企業が大きな脱皮の時期を迎えていることは確かである。