“超専門店”を目指す九十九電機。情報通信分野で時代に即した商材をずらりと並べる。これが九十九流の専門店の捉え方だ。右から左に流すブランドパソコンもいいが、個人・法人を問わない店頭BTOも完全に軌道に乗せた。パソコンだけにこだわることはない。創業時はアマチュア無線で、今はたまたまパソコンであるに過ぎない。九十九流・超専門店の追求は、まだ始まったばかりだ。
新商材を積極的に扱う、「情報通信の専門店」
――パソコン販売で、厳しい状況が続いています。
鈴木 NECやソニーなどのブランドパソコン販売台数の前年比だけに一喜一憂している時期は終わったのではないでしょうか。確かにパソコンがどれだけ売れたかが市況を判断する1つの目安にはなりますが、利用者の使い方はもっと多様になっています。情報通信をやるには何がなんでもパソコンが必要というわけではありません。携帯電話やゲーム機、ブロードバンド回線事業者が配布するようなセットトップボックス、AV機器など、インターネットにつながる機器は増える一方です。
ブランドパソコンの販売指数だけでは、この情報通信業界の動きを正確に反映できなくなる時期が、着実に近づいているのではないでしょうか。例えば、携帯電話はここ5-6年間、伸びに伸びましたが、今は頭打ちの様相を見せています。では、携帯電話市場はもう終わりかと言えば違います。携帯電話のインフラや人々の“ケータイ文化”を基盤に、次の新しい展開へと進んでいるのです。
――パソコンの機能が、携帯電話やゲーム機に浸透しているという見方もあります。
鈴木 そもそも「パソコンの機能」とはなんでしょうか。ウェブ、メール、LANなど、パソコンの普及を後押しするこれらの要素は、確かにパソコンをベースに発展しましたが、パソコンそのものが発祥の地ではありません。パソコンは単なる計算機であり、ウェブやメールは、コンピュータ本来の分野ではないんですね。だとすれば、これらの発展要素は、ほかの情報機器にどんどん吸収されていくのは当たり前だと言えます。たまたま汎用性に富むパソコンが、これら発展要素を吸収するのが速かったというだけの話しです。
――九十九電機の目指す方向は。
鈴木 1977年から25年間、パソコンを扱ってきましたが、いつまでも「パソコン専門店」とは言ってられません。パソコンは依然として重要な部分ではありますが、それよりも、もっと広い意味での「情報通信の専門店」を目指します。情報通信という領域での新しい商材を積極的に扱い、この領域での先駆者であり続けることが大切です。どのメーカーだって、小売りをする時代です。メーカーはメーカー、卸しは卸し、小売りは小売りといった区分けは、もう成り立ちません。
個人向けの販売か、法人向けの販売かといった区分けも曖昧になっています。コンパックが、販売施策や製品戦略で個人と法人の区分をなくす方針を打ち出し、IBMもアプティバをやめました。ソニーのバイオですらも、法人向けの売り込みに躍起になっています。同時に、「アセンブリシフト」(組み立て工程の移管)も、進んでいます。メーカーだけでなく、部材メーカー、卸し、小売り、一般消費者までが、パソコンをつくっています。一部のマグネシウム合金でできたノートパソコンは別として、汎用パソコンの組み立ては、急速にメーカーの手から離れようとしているのです。
これからのパソコンビジネスは、個人、法人を問わず、アセンブリシフトが進んでいるという現状を踏まえながら、柔軟に商材や売り方を選ぶことが大切です。当社では、(1)店頭、(2)ウェブ、(3)法人営業、(4)提携戦略――の4つの柱を基軸に、クリックからモルタルまで、あるいは個人から法人まで、全方位で取り組みます。社内では、ちょっと長いですが、これを片仮名で「クリック&モルタル&セールス(法人営業)ウィズ・アライアンス(提携戦略)」と呼んでいます。(笑)
石丸電気との提携、柔軟な関係を構築
――提携の話をお聞かせ下さい。昨年11月、石丸電気からの一方的な資金注入が話題になりました。
鈴木 誤解のないよう申し上げますが、当社の筆頭株主は、依然として私を含む役員です。石丸電気には当社の20%の株式をもってもらいました。業務提携と言っても、実際の現場では、単なる「商取引の相手」になりがちです。売る方は高く売りたいし、買う方は安く買いたい。これでは提携効果が薄れてしまいます。20%出資していただくことで、完全なパートナー企業になったわけです。双方の株の持ち合い方式でないことについても、ちゃんと理由があります。当社は、店頭市場への上場を目指している企業です。一方、石丸電気は株式公開の予定がありません。当社が公開を予定していない企業の株式をもつ利点よりも、公開を目指す企業の株式をもつ利点の方が大きいからです。したがって、当社は石丸電気の株式はもたず、石丸電気の方が当社の株式をもつことになりました。ポイントは、当社が、どこかの企業の子会社ではないということです。子会社になってしまうと、どうしても組織が硬直してしまいます。互いに足りないところを補完する提携でなくてはなりません。
――柔軟な提携関係が理想だと。
鈴木 「蜘蛛の巣(ウェブ)のような提携」を進めます。つまり、インターネットのウェブのように、必要に応じて柔軟に提携を結んでいく。今は、石丸電気以外に資本提携はありませんが、業務分野ではオノデンとも提携しています。ソフトのダウンロード販売では、コンピュータウェーブと提携しました。エイデンやデオデオ、上新電機などNEBA(日本電気大型店協会)系の提携は、規模の効率化を図る意味合いが強い。当社の場合は、規模を追求するのではなく、互いの得意分野を持ち寄り、新しい価値を創造していくという趣旨です。出店戦略についても同様です。どこでも扱っているような商材を大量に安く売る物量型店舗ではなく、これから立ち上がる新規商材、最先端の部材を積極的に取り扱う超専門店として出店します。当社の札幌店は、昨年6月、ヨドバシカメラやビックカメラなど大艦巨砲の大型店のすぐ近くに出店しました。競合他社に「鈴木さん、気は確かですか」と言われましたが、私は「大型店とは、業態が違います」と言い返しています。実際、札幌店は、着実に利益を出していますから。(笑)
眼光紙背 ~取材を終えて~
九十九電機には、当時、最先端だった通信機材の販売で起業したDNAがある。敗戦後間もない秋葉原で会社を興し、その後、アマチュア無線などの部品取り扱いを強化。パソコンを売り始めたのは1977年、アップル製品だった。「家電量販とは違う九十九の店舗に魅せられ、新しい社員が入る」。情報通信分野での異動はあっても、エアコン売場に飛ばされることはない。彼らは、これから伸びるであろう尖った商材を抵抗感なく店頭に並べ、販売動向を高い関心をもって観察する。社員350人全員が、社内掲示板や電子メールで、どの商材が売れたかの情報を活発に交換する。「今後も、最先端の商材を世界中から集める」。これが超専門店=九十九のDNAだ。(寶)
プロフィール
(すずき じゅんいち)1958年、東京都生まれ。81年、慶應義塾大学商学部卒業。84年、コロラド大学大学院経営管理学修士課程卒業。同年、九十九電機入社。専務取締役に就任。96年、日本コンピュータシステム販売店協会常任理事。97年、九十九電機代表取締役社長に就任。秋葉原電気街振興会常任理事。
会社紹介
今年度(2002年8月期)の売上高は300億円強の見込み。前年度比では、売上高・利益ともに微増の見通し。店舗は東京19、名古屋5、大阪1、札幌1店の計26店舗。社員数は約350人で、女性比率は25%。昨年の資本提携により石丸電気が株式の20%を所有し、第2位の大株主となる。筆頭株主は九十九の役員など。売り上げの2割は、法人向けとウェブでの販売が占める。来年度は、これを3割に高める。九十九独自のパソコン(ショップブランド)が好調で、前年の8倍に相当する月間3000台の販売実績を達成。自作パソコンについても、顧客が20万円の現金を握りしめて「理想のパソコンが欲しい」と要望するケースが増加。なかには10万円という少額予算も多いが、こうした一括購入は「予算モノ」と呼ばれ、九十九ならではの店頭BTO(受注生産)進展の原動力となっている。