XML関連ビジネスで数々の実績をもち、専業ベンダーとして名を轟かせているインフォテリア。XMLを「見せるアプローチ」から「見せないアプローチ」へ。来年度には、XMLの価値を最大限に引き出す新製品を市場投入する。XMLの普及により、「企業をつなぐこと」がインフォテリアの使命でもある。
キーワードは「マルチチャネル」、開発コード名「アルテミス」
――インフォテリアでは、2002年度早々に新製品を発表するそうですが、どのような商品ですか。
平野 今までの製品は、XMLを使って新しいことが実現できるといった、XMLを意識して使うものでした。XMLを容易に利用可能とする「iコネクター」や、業種に特化したシステム統合を実現する「アステリア」などの製品を、さまざまな企業に提供してきました。
しかし、企業のデータがすべてXMLだとは限りません。XML以外のデータフォーマットやプロトコルを扱えるようになったのが新製品です。この製品を使えば、自社で実現したいソリューションの構築が可能となります。新しい製品を次世代アステリアと位置づけ、社内では、開発コード名で「アルテミス」と呼んでいます。
新製品は、「マルチチャネル」をキーワードに、XMLにとらわれずXMLの価値を最大限に引き出します。02年度の4-6月期をめどに発表する予定です。
4年目を迎えた02年度は、大きな変革の年と位置づけています。XMLを従来の「見せるアプローチ」から「見せないアプローチ」に変えて事業を展開していきます。それを形にしたのが「アルテミス」なのです。
今までの「アステリア」シリーズは、業界に特化した製品でもあります。例えば、「アステリア・フォー・ロゼッタネット」は製造業向け、「アステリア・フォー・アリバ」は間接材といった具合です。
ただ、今後は、ほかの業界を開拓することを狙っています。今までは、当社が独自に開拓してきましたが、まだまだ小さな規模ですので、開拓に限界があります。
新製品は、開発環境が良く、SIerが提供するシステムとの連携が容易ですので、SIerとしても新製品を活用して、得意分野にソリューションを提供することができます。
そういったチャネルを開拓していくことが、「アルテミス」を出す理由でもあるのです。
――なぜ、「見せるアプローチ」から「見せないアプローチ」に変革させるのですか。
平野 一昨年にXMLへの関心が高まり、昨年後半からは、XMLを利用する本格的な実装段階へと進んでいます。昨年後半から実装段階にきて、XMLは次第に盛り上がりを見せており、「What's XML?」から「How to XML」に変わってきてます。そのためにも、XMLだけでないデータやアプリケーションもつなぐことが求められています。
XMLが今後さらに普及するためには、エンドユーザーがXMLを意識しないことがカギとなってきます。そのため、当社としても、XMLを意識させない製品を提供することが重要だと判断しました。
――売上高の目標は。
平野 01年度は、前年度比110-115%増の見通しです。今後は02年度で同122%増、03年度で同150%増を目指します。
XMLの普及促進に尽力、電子政府が重要なカギ
――XMLは取引活動を行ううえで重要だといわれています。実際の普及状況はどうですか。
平野 取り引きの観点から「普及」という言葉を使うのであれば、まだまだですね。
XMLに対応すれば、確かに迅速な取り引き、標準的な取り引きが実現できますが、XMLは万能ではありません。XMLに対応しただけで標準化が図れるわけでなく、業界ごとの標準化への取り決めが固まらなければ、意味がありません。標準化は、まだ進化中の段階ですが、XMLが標準化を促進させることにつながることは確かです。
もし、業界標準が決まってから自社システムをXMLに対応させよう、といった企業がいたとすれば、競争社会では生き残れないでしょうね。
ただ、XMLは企業間の取り引きだけで活用されるのではありません。現在、XMLは社内のシステムとシステム、拠点と拠点をつなぐことに関して、積極的に使われているとみています。
システムとしては、何かしらでXMLを使っているという企業が増えてきている状況です。XMLがデータとデータの出口を結ぶゲートウェイだけでなく、社内でも活用でき、いろいろなものをつなぐということを各企業が認識していることは事実です。
――平野社長は、XMLコンソーシアムの副会長も務められています。同コンソーシアムは、XMLの推進が目的ですが、標準化を促すことも行っているのですか。
平野 XMLコンソーシアムは、そもそもXMLを活用する企業を増やすことが目的ですので、標準化を促すところまでは入り込んでいません。オアシスやW3Cのような標準化団体になることが目的ではないからです。
ただ、そういった団体との連携は強化していきます。XMLコンソーシアムのなかに、ほかの団体と連携するための渉外委員会があります。W3Cやオアシスをはじめ、ロゼッタネットやECOMとの連携を図っています。
――XMLの普及には、XML技術者推進委員会が認定する資格「XMLマスター」の取得者が増えることも重要な要素となってきますね。
平野 その通りです。XMLを理解しているのと理解していないのとでは大きく違います。
ITは、いまや管理部門の1つではなく、経営を担うものに変わってきています。企業としては、XMLマスターの取得者が多ければ、会社のアピールに活用できると考えます。
また、XMLマスターは、ベンダーに依存している資格ではありません。
現在は、最低限のXML知識習得を目的とした「ベーシック版」だけですが、さらにレベルが高い資格試験ができれば、政府の入札案件に役立ってくる可能性はあります。
――アジア地域では、国を挙げてXMLを普及させようという動きがありますが、日本では民間が普及・啓蒙を行っています。
平野 私は民間主導で行うことの方が重要だと考えています。民間の競争力で行わないと、世界での競争に負けてしまう。政府主導で行った場合は、日本のIT自体が発展しないとみています。
ただ、政府が普及に対して支援することは重要です。そのために、日本では「e-Japan重点計画」のなかで、「電子政府」を実現することを挙げています。電子政府は、XMLがベースですので、電子政府の実現がXMLの普及にもつながるのではないでしょうか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
平野社長は、「これからは大企業や中小企業、SOHOなどの規模に関わらず、専門力をもった企業が生き残る。企業間をつなぐことができれば、専門力をもった企業同士が集結して大きなプロジェクトを動かせる」と強調する。
世界市場が目まぐるしく変化していること、そのスピードに日本企業が迅速に対応しなければならない時代に直面していることを示唆している。
「極端な話だが、あるプロジェクトごとに会社を設立し、そのプロジェクトが完了したら会社を分散して利益を分ける。そして、また次のプロジェクトで会社を設立する。そんな社会を実現することが必要なのかもしれない」
こうした循環の確立こそが、インフォテリアの目指すところだ。(佐)
プロフィール
平野 洋一郎
(ひらの よういちろう)熊本県生まれ。キャリーラボ設立にあたり、熊本大学工学部を中退。1985年、キャリーラボで日本語ワードプロセッサの開発を行い、年間ベストセラーになる。87年、ロータスで、表計算ソフト「ロータス1-2-3」からグループウェア「ロータスノーツ/ドミノ」まで、幅広い製品企画とマーケティングを統括。98年、インフォテリアを設立し、代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
1998年の設立以来、売上高が前年度比120-130%増で推移。収益に関しては先行投資の関係上、まだ黒字を出していないが、01年度に単年度ベースで黒字化を達成できる見通し。
社内組織としては、XML技術者を育成するための認定トレーニングを手がける「教育部」を02年1月に設立した。また、デベロッパー支援制度やアドバイザリーボードの設置などにも取り組む。
製品に関しては、同社の主力製品であるBtoB向けXMLサーバー「アステリア」の新製品「アルテミス」(開発コード名)を今春に出荷する計画。新製品は「マルチチャネル」をコンセプトに、XMLにとらわれずXMLの価値を最大化させることを狙う。
今後も売上高で200%以上の成長が実現できる組織と仕組みを確立していく方針。02年度で前年度比122%増、03年度で同150%増を見込んでいる。