パソコン販売店に勝ち組と負け組があるならば、T・ZONE.は負け組だ。最盛期には全26店舗、年商1400億円を売り上げたT・ZONE.。だが、昨年後半から大リストラを敢行し、わずか3店舗に減らした。電子機器卸売りからも撤退。専門商社の亜土電子工業の面影すら残らない。T・ZONE.に“復活の日”はあるのか。
赤字店舗はすべて閉鎖3店舗で確実な収益を
――昨年10月時点で15店舗あったT・ZONE.店舗を一気に3店舗に減らしました。年商180億円余りの法人向け電子部品卸の事業も撤退しました。T・ZONE.再建の見込みは。
横山 再建が私の使命です。再建するには、まず、赤字を止めなければなりません。T・ZONE.の赤字店舗のすべてを閉めた結果、秋葉原2店舗、吉祥寺1店舗の計3店舗しか残らなかったというだけの話です。店舗事業に集中するため、法人向けの電子機器卸事業からも撤退しました。旧本店に当たるT・ZONE.ミナミ本店も、赤字の元凶の1つだったため、5月末で閉めました。日本橋店も不採算であると判断し、6月9日に閉店します。旧本店の昨年度(2002年3月期)の売上高は115億円ありましたが、経常損失は5億8000万円もの赤字を出しました。
新しい本店となる「T・ZONE.アキバプレース」(5月31日開店)の売上規模は、今年度22億円と小振りですが、それでも8000万円の経常利益を上げる見込みです。今年度上期(02年4-9月)は、旧本店T・ZONE.ミナミなどが出し続けた赤字と閉店にともなう損失のため、当期損益で7億2700万円の赤字を出しますが、不採算店舗を閉めた後の下期(02年10月-03年3月)には、3200万円の黒字を出す計画です。金額的には小さいですが、ちゃんと黒字を出せるかどうかがポイントです。
――最盛期には年商1400億円を売り上げたT・ZONE.ですが、今年度(03年3月期)の売上見込みは128億円と、10分の1以下に減ってしまいました。
横山 T・ZONE.は、96年に250億円もの在庫評価損を計上してから、一気に経営難が表面化しました。在庫の管理が甘い一方で、取り引き拡大のために仕入ればかり増やした結果です。また、ヨドバシカメラやビックカメラ、ヤマダ電機などとの勢力争いにも負けました。採算が合わない以上、撤退はやむを得ません。店舗数を減らしても、株式上場を維持できるよう、健全な財務体質をつくることが当面の目標です。T・ZONE.再生状況をより早く的確に開示するため、今年度から四半期毎に業績を公表します。
――大リストラを敢行するヴィーナス・ファンドとは、どんな組織なのですか。
横山 「会社再建型の投資信託」を手掛ける投資事業組合です。主な出資元は、中小企業向け融資を手掛ける商工ファンドです。ほかにマイダスキャピタルや、個人投資家なども出資しています。
店員はパーツの専門家に秋葉原の特性に合った店舗へ
――95年当時、社員数880人で北は札幌から南は福岡まで、26店舗も展開していました。これが3店舗に激減すれば人員削減は避けられません。
横山 人員は減らします。すでに今年3月末の時点で231人に減っており、今後は3店舗体制に相応しい数に減らします。残った社員には、今後、T・ZONE.事業の中心となる自作パソコン部品の専門家になってもらいます。ビデオカードならビデオカード専門、マザーボードならずっとマザーボード担当として、知識の深堀りをします。店員1人ひとりが“一芸”をもち、店員の名刺には得意分野を印刷します。顧客1人ひとりに積極的に名刺を渡し、店員の指名制に近い購買スタイルに仕上げます。
店員あたりの売上高に応じた報酬体系や、売り場ごとに4人1組になって在庫責任をもたせる「在庫リスク連帯責任制」を導入します。これらの施策により、商品ごとの専門知識をもつ店員が、自らの責任で商材を仕入れ、売り切る仕組みにします。また、T・ZONE.ブランドとは別に、パソコン用の美少女ゲームなどアミューズメントを取り扱う専門店「エマニア」を、秋葉原の新本店開店と同時の5月31日にオープンしました。これよりT・ZONE.3店舗、エマニア1店舗の計4店舗体制となります。
――自作パソコンと美少女ゲームに特化した人材だけに絞り込むわけですか。
横山 そうです。秋葉原の顧客属性を考えれば、自然な成り行きです。これまでのように、T・ZONE.で商品を確認して実際の購入はヨドバシやビックに行くという構図を何とかして打ち砕きます。逆に、パソコン本体を中心に取り扱う量販店に行っても、「お客さん、その手の商品はT・ZONE.に行かなきゃダメですよ」と、量販店の店員に言わしめる商売をします。秋葉原に来るマニア向けの“濃い”商材を揃えるということは、これまでのサプライチェーンマネジメント(SCM)も抜本的に変えなければなりません。組み立て部品や美少女ゲームなどのマニア向けの商材は、仕入れを一歩間違えば、パソコン本体以上に不良在庫の山になりやすい。これを避けるために、販売の現場が顧客の声を聞きながら、自己責任の範囲で、追加発注や新規商材を仕入れる“マーケティング能力”をもたなければなりません。
――T・ZONE.を再建し、エマニアを立ち上げた後は、売却するのですか。
横山 ヴィーナス・ファンドは、T・ZONE.の82.8%に相当する9639万5000株を1株5円(総額約4億8000万円)で購入しています。株式上場を維持しつつ経営を立て直し、株価が上がれば、当然、売却することも考えられます。売却方法は2つ。経営権の掌握に必要な51%を手元に残し、30%程度の株価を売却する方法。もう1つは、すべて売却する方法です。後者の方式で株主が変われば、社長も交代するということは十分にあり得ます。
いずれにしても、経営を立て直し、株価を上げることが最低条件であることに変わりはありません。このためには、最低でも3-5年はT・ZONE.の経営を続ける必要があります。事業計画上は、2年間で経営再建までの目途をつけます。今年度(03年3月期)は赤字ですが、来年度(04年3月期)は通期で黒字を達成するということです。ただし、自作パソコンと美少女ゲームが、2年後、3年後まで秋葉原のトレンドであり続けるかは疑問であり、早期にT・ZONE.やエマニアの安定的な成長戦略を確立させることが大きな課題です。秋葉原で独自の店構えを構築できた後には、ほかの地域への新規出店も検討します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
横山社長が再建を手がける企業はT・ZONE.で2件目。最初は累損2000万円を抱えるレンタルサーバー会社だった。資産はサーバー4台だけ。社員はゼロ。年商わずか140万円。「この会社の社長になると、債権者から『借金2000万円の保証人になってもらう』との通知が来て、ギョッとした。手取り18万円で塾講師時代より給料が減った。だが、2年後には再建した。再建できたのは赤字で本業のレンタルサーバー事業をやめたから」「この点、T・ZONE.は借金がなく、人材が揃っている。赤字事業をさっぱり清算し、再出発すれば、きっとうまくいく」赤字事業を切り捨てた後、新しい成長路線を描き切ることができるのか。会社再建型投資機関が送り込んだ若手経営者の手腕に期待したい。(寶)
プロフィール
(よこやま たかとし)1966年、東京生まれ。91年、都留文科大学文学部卒業。同年、東洋情報システム(現TIS)入社。TISで3年ほどメインフレームの仕事に従事した後、学習塾講師、秋葉原自作パソコン店の店員などを経て、00年、倒産寸前だったレンタルサーバー会社ネットベースの社長に就任。2年間でネットベースを再建し、02年5月、再建を目的としてT・ZONE.社長に就任。
会社紹介
1998年、T・ZONE.を運営する亜土電子工業を救済買収したCSKグループだったが、経営建て直しに失敗。02年3月、商工ファンド系の会社再建型投資事業組合のヴィーナス・ファンド(安井淳一郎社長)に売却する。現在、T・ZONE.は、秋葉原2店舗と吉祥寺1店舗の計3店舗に減らし、再建に向けて出発した。秋葉原電気街の原点に回帰し、専門店とは何か、次のトレンドとなる商材は何かを自問自答する。新しい成長路線が見つかるまでは新規出店しない。昨年度(02年3月期)の売上高は438億4400万円、営業損失22億7700万円、経常損失28億9200万円のそれぞれ赤字。今年度(03年3月期)の予想は、売上高128億4500万円、営業損失4億3000万円、経常損失3億9000万円のそれぞれ赤字。来年度(04年3月期)は、通期での黒字化を目指す。すでに今年度下期から、リストラ効果で、営業利益、経常利益ともわずかながら黒字化する見通し。