IT不況に立ち向かうべく、エプソン販売は提案販売を積極化する。コンシューマ市場では、液晶プロジェクタによる「ホームシアター」をパソコンショップとの協業で訴求。インクジェットプリンタでは、「オンデマンドプリンティング」を一層浸透させる。法人市場では、レーザープリンタやラージフォーマットなどを導入・内製化することで、コスト削減が図れると提案する。6月26日付で社長に就任した真道昌良氏は、「IT不況は『ブーム』が萎んだだけ。『トレンド』は決して下がってない。顧客ニーズを適確に捉えることが重要だ」と強調する。
不況は「ブーム」が萎んだだけ「トレンド」を捉えることがカギ
――パソコン本体や関連機器市場は前年割れしているものが多い状況です。今年1/6月を振り返って、どのような感触だったでしょうか。
真道 経済の先行きが不透明だったことから、IT市場も低迷の時期だったと思います。法人市場では、IT投資を抑制する企業が多かった。コンシューマ市場では、消費者の目にとまるような製品が出ていないこともあり、元気がなかったといえます。コンシューマ・法人ともに「ITにお金を出す」意識が下がったことで、「IT化」というブームが萎んだように思えます。
――このまま低迷が続くのでしょうか。
真道 いいえ。そうは考えていません。「ブーム」と「トレンド」で分けた場合、今回のIT不況は、「ブーム」が萎んだだけに過ぎません。コンシューマ市場では、パソコンがある程度普及し、インクジェットプリンタやスキャナなどの周辺機器市場もそれなりに拡大しました。消費者にとっては、「もの珍しい」製品が市場に出ていないので、自分の生活と関わりのある製品を購入する傾向が高くなったといえます。
「トレンド」とは、「ニーズ」のことを指しますが、それは決して下がっていません。法人市場でいえば、「ITを活用して業務の効率化を図りたい」というニーズは、むしろ高まっています。「eCRM」や「eコマース」など、「e」とつくものは、まだまだニーズがある。今後、IT市場でビジネスを拡大していくためには、消費者に価値ある製品を提供していくことはもちろん、今ある製品のさまざまな用途を提案していくことが重要になります。
――「トレンド」を盛り上げることで、IT市場も拡大していくということですね。
真道 そうです。コンシューマ市場では、液晶プロジェクタが重要なアイテムとなります。これは企業向け用途が大半でしたが、今後は、「ホームシアター」という新しいコンセプトを個人ユーザーに訴求していきます。
現在は、プラズマディスプレイテレビの価格が70/100万円です。将来的にはテクノロジーが進化し、価格が下がってくるでしょうが、消費者は今のところはまだ価格が高いと感じています。したがって、液晶プロジェクタが家庭に浸透するチャンスは大きい。また、消費者は、映画館や劇場など、暗い場所で見るということに慣れています。液晶プロジェクタで「部屋を暗くして見る」ということを消費者が理解すれば、新しい文化が創出され、マーケットとして確立していく可能性が高い。
――「ホームシアター」の概念を訴求していくには、何が必要ですか。
真道 これは、当社のマーケティング戦略を含め、ショップの方にも協力してもらうことが必要でしょう。例えば、ショップで液晶プロジェクタを使って実際に映画が見られるような、暗く仕切られたスペースを作ることです。現在、家族連れの集まりそうな郊外店や駅前店舗を中心に、液晶プロジェクタの良さが分かるようなスペース作りを提案しています。
分かりやすい用途提案でビジネス拡大につなげる
――ほかの製品では、液晶プロジェクタのように提案できるものはありますか。
真道 やはりインクジェットプリンタでしょう。デジタルカメラ市場が依然として堅調に伸びており、非常に多くの消費者に普及していますから、写真とプリンタとの融合性を一層訴求していきます。また、スキャナも需要があるとみています。当社のスキャナは、高解像度のCCD方式により、ネガフィルムからのスキャンも可能です。デジカメだけでなく、銀塩カメラで撮影した写真も家庭でプリントできるという、広い範囲での「ホームフォト」の世界を広めていきます。
――ホームフォトの世界を広めるには、一般消費者に分かりやすい提案をしなければなりません。
真道 確かに一般消費者は、銀塩カメラで撮ったフィルムをプリントする時は、街のDPEにもっていくのが普通です。デジタルカメラの写真データも、きれいにプリントしたい時はカメラ屋にもっていく場合が多い。消費者は、DPEやカメラ屋にもっていった方が画質が良いと思っています。しかし、スキャナやプリンタを家庭に普及させるには、ショップと大差ないほど高画質だということを分かってもらわなければなりません。また、一般家庭向けを謳うのであれば、機能の単純化も必要になってくる。ITを使うことで、日常生活をより楽しいものにできると訴えていけば、たとえ成熟した市場でも拡大していくと考えます。
――最近のBCNランキングでは、機種別で競合他社がトップを維持しています。
真道 インクジェットプリンタでは、消費者ニーズが多様化しています。それぞれのユーザーニーズに合った機種を揃え、ラインアップを豊富にすることがカギとなります。確かに、機種別でトップシェアを獲得するのは重要ですが、どの機種も均等に人気があるというトータルシェアでトップを獲得することが重要だと考えます。上級者向け機種から初心者向け機種まで、すべて人気製品になることを目指します。
――法人市場はどうですか。
真道 法人市場では、カラーレーザープリンタとラージフォーマットプリンタを中心に業務効率化を深堀りし、顧客企業のビジネスをサポートしていきます。高画質で、外注に出すよりも安く迅速に印刷できるという「オンデマンド・プリンティング」をコンセプトに拡販を図ります。ラージフォーマットでは、ポスターひとつとっても、コストや時間がかかっていた外注工程を内製化することで、高画質でコストが安く、迅速にポスターを作成できることを提案します。カラーレーザープリンタでは、名刺作成で1枚あたり約10円以上のコスト削減が図れることや、DMで100枚作成の場合、コストが4分の1程度に減らすことができるといった提案販売を行っています。
当社の「LP/8800C」シリーズは、モデルによってさまざまですが、価格が25万8000円の低価格機種も用意しています。印刷速度は、モノクロで毎分35枚と国内最速を誇っています。一般的に、カラーコピーの活用頻度は、1日平均で2割程度といわれています。2割活用するために高価格のレーザープリンタを導入するよりも、コストパフォーマンスのあるプリンタを導入した方が企業にとってもメリットとなります。法人市場は、当社の売上高全体の6割を占めるビジネスです。顧客企業の課題を吸い上げ、各ニーズにあった製品・用途を提案していくことでビジネス拡大につなげていきます。
――今後の売上見通しは。
真道 昨年度は、売上高が約2600億円でした。この売上高を今後3年間で4000億円規模に引き上げることを計画しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
真道社長は、6月26日付でトップに就任したばかり。陣頭指揮をするにあたり、まずは「事業部を超えたビジネスを社員に意識させたい」と話す。また、「メーカーが顧客の情報を知ることも重要。当社の営業担当者がセイコーエプソンの技術者に情報を伝えることに加え、技術者が営業担当者と一緒に顧客の現場に出向くなど、協調関係を深める」よう指示を飛ばす。
もちろん海外のグループ会社とも、広範囲の情報共有化を進めることに余念がない。一連の取り組みは、「さまざまな情報を共有することでヒントを得て、各製品の新しい用途を顧客に提供するため」だ。シームレスな連携を強化していくことで、新しい市場を創出していく。(佐)
プロフィール
(しんどう まさよし)1947年1月9日生まれ。長野県出身。69年、早稲田大学法学部卒業後、諏訪精工舎(現セイコーエプソン)入社。87年、経営企画部長。88年、TP生販管理部長。その後、機器国内営業戦略室部長、情報機器管理部長、中国室部長などを兼務。96年、取締役、00年、常務取締役を経て、02年4月にエプソン販売の顧問。同年6月、同社取締役社長に就任。
会社紹介
BCNランキングによると、エプソン販売はインクジェットプリンタ市場で50%前後のシェアを獲り、首位の座を維持し続けている。だが、インクジェットプリンタは成熟した市場だともいわれている。このため、今後売り上げの確保が厳しくなるのは必至だ。そうした状況をにらみ、同社では、「写真とプリンタをつなぐ」をコンセプトに、初心者でも家庭で手軽に写真現像ができることを広め、同市場のさらなる拡大を狙う。また、液晶プロジェクタで「ホームシアター」を訴求し、コンシューマ分野に新しい市場を創出していく。法人市場では、カラーレーザーやラージフォーマットを中心に、販社に分かりやすい用途提案を呼びかけ、法人ビジネス拡大に注力する。昨年度の売上高は約2600億円とほぼ前年度並みで推移。さまざまな取り組みにより、今後3年間で4000億円規模にまで引き上げる。