低迷する景気を横目に、セキュリティ市場が順調だ。なかでも、インターネットセキュリティシステムズは、情報を守るためのセキュリティソリューションを提供し、国内市場で群を抜いた成長を遂げる企業のひとつ。林界宏社長は、「企業ではセキュリティに関する意識が変わりつつある」と強調。これまでの顧客層に加え、新しい需要開拓に余念がない。
中規模企業の需要狙う、ビジネスTCO削減を実現
――2002年度(02年12月期)下期がスタートしていますが、どのような戦略で臨むのですか。
林 中規模企業の需要を開拓します。そのために、ハード・ソフト込みで価格が30万円以下のセキュリティソリューションを提供していきます。当社では、国内で150社近くの企業とマスターディストリビューター契約やリセラー契約を結んでおり、そのパートナーを通じて中規模企業の需要掘り起こしを図ります。
また、セキュリティシステムのTCO(システム総保有コスト)だけでなく、セキュリティを利用してビジネスのTCO削減が実現できるサービスも提供していきます。セキュリティシステムは、導入することに意味があるのでなく、導入することでセキュリティが守られ、なおかつ企業に利益が出なければ意味がありません。ビジネスのTCOが削減できなければ、企業はセキュリティに投資しないでしょう。
――官公庁へのアプローチは。
林 中央省庁へは、部分的な製品提供を含めると、99%以上の導入率を誇っています。そのカバー率を生かし、各省庁に対し、トータルソリューションを提案することがビジネス拡大のカギとなります。加えて、開拓し切れていない地方自治体にもアプローチをかけていきます。
――収益率を高める策は。
林 サービスビジネスの売上比率を高めていきます。これまでは、不正侵入検知や脆弱性検査などのライセンス製品が売上高の60%以上を占め、保守料やMSS(マネージド・セキュリティ・サービス)監視サービスなどのサブスクリプションが約24%でした。近い将来、サブスクリプションを45%まで引き上げることを目指します。
――売上高の増加とともに、社員も増強していくのですか。
林 従業員数は、現在200人弱です。基本的には、売上高の増加にともない人員を増強していきますが、売上高と同じ比率で増やすつもりはありません。それよりも、チャネルとのアライアンスを強化しながら拡販していくことが重要だと考えています。
――日本以外のアジア地域では、需要があるのですか。
林 政府や通信事業者のセキュリティに対する関心が強い国が多くあります。また、企業としても需要が多い。日本以外のアジア地域でビジネスを成功するためには、シェアを獲ることが重要です。よって、競合他社に負けない価格で提供し、プライスリーダーとしてシェアを拡大していくことに注力しています。
当社では、3年先の戦略を考えています。3年後を考え、いま何をすべきかを考える。日本のセキュリティ市場は、やっと動き出したばかりです。例えて言うなら、滑走路でやっと動き出した程度です。そのため、まだまだチャンスがある。もっとも、いつかは成熟期に入るでしょうが。アジア地域でのビジネス拡大は、日本のセキュリティ市場が成熟した場合を視野に入れた戦略でもあります。
企業のセキュリティ意識が変化、プロバイダ自身も変革が必要
――今年度上期(02年1―6月期)の業績を振り返り、市場環境はどうだったと考えますか。
林 今年度上期は、売上高が前年同期比25.5%増の21億5800万円でした。経常利益は2億9200万円と前年同期より15.1%減少しましたが、当期純利益が同15.6%増の2億5600万円となりました。売上高や利益を「2倍にしろ」という投資家がいるかもしれませんけど(笑)、経済低迷に反して、順調に推移したといえます。
業績が伸びたのは、昨年9月に発生した米国同時多発テロ事件により、企業や官公庁のセキュリティに対する意識が高まったことが要因です。それに、セキュリティに対する意識が変わったことも事実です。
経常利益が前年同期を下回ったのは、ドル安による為替差損の発生などによるものです。恵比寿(東京都渋谷区)にあった本社と、中野坂上(同中野区)にあった監視センターを目黒(同品川区)に移転し、オフィスを統合したことで特別損失が発生しましたが、投資有価証券の売却などによる特別利益の計上で、当期純利益は増加しました。
――企業のセキュリティに対する意識は、具体的にどのように変わったのですか。
林 顧客のインフラ自体が変わったことが挙げられます。以前は、セキュリティというと、暗号化やウイルス対策などが主流でした。もちろん、暗号化やウイルス対策に関する需要はまだまだあるといえますが、企業内がネットワーク化し、ブロードバンドが普及するにつれ、個人が気をつけていれば感染しない状況ではなくなった。
加えて、ウイルスを増殖させながら攻撃するハッカーが出現していることからも分かるように、複雑なウイルスやハッカーにより、セキュリティに関する対策も複雑化しています。また、ビジネス環境が変わってくると、システムを24時間365日稼動しなければならなくなります。企業としては、セキュリティシステムを導入するとなれば、TCOをいかに抑えることができるかを求めます。
さらに、市場を取り巻く環境をみますと、経済全体の低迷が影響し、伸びているといってもセキュリティ市場の伸び率が鈍化している状況です。それに、今年度の官公庁のセキュリティに対する予算が期待よりも組まれていなかったことに加え、企業がセキュリティにおけるハードウェアやソフトウェア製品の導入に対して慎重だったケースが多かったのも事実です。
ですので、ウイルス対策の製品やサービスだけを提供していればいいわけではありませんし、ファイアウォールだけを提供していれば売り上げが増加するとも言い難い。セキュリティ関連の製品やサービスを提供する我々プロバイダ自身も、変わらなければなりません。当社では、世界6拠点に点在する監視センターや、ワールドワイドで展開するセキュリティ専門家集団「X-Force」と「GTOC(グローバル・スリート・オペレーションズ・センター)」などを武器に、当社ならではの監視セキュリティサービス「マネージド・セキュリティ・サービス(MSS)」を提供できることが強みです。
セキュリティ検査・監視を行い、検知・防御する製品やサービス、一貫した対応や対策を適確に行える「プロテクションソリューション」の提供に注力しています。言い換えれば、セキュリティの「矛」の部分を提供していることになります。今後は、ビジネス環境の変化にともなう顧客ニーズに応えるため、ファイアウォールやPKI(公開鍵基盤)、暗号化など、「盾」の部分を提供する企業とのアライアンスも強化していきます。
――今年度の業績目標は。
林 売上高で52億1000万円、経常利益で11億4600万円、当期純利益で7億2600万円の見通しです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
97年の設立当初、インターネットセキュリティシステムズは、社員が林界宏社長を含め2人だった。林社長は、「20坪のオフィスで、机代わりにダンボールを使ったこともあった」と当時を振り返る。今年4月に本社を移転。「東京に点在していた営業所と監視センターを1か所に集めることで、営業担当者や技術者の情報共有を活発にできる」。
5年の月日を経て、1000坪のオフィス、200人弱の従業員を抱える企業に成長した。「社員からの要望で、卓球やビリヤードなどができ、なおかつ仕事が終わったらお酒が飲めるリフレッシュルームを設けた(笑)」そんな気配りも社員の志気を高め、企業の成長をもたらす要因かもしれない。(佐)
プロフィール
1958年3月、中華民国台湾省台北市生まれ。81年10月に来日し、83年3月、日本語学校国際学友会卒業。88年3月、青山学院大学経営学部卒業。同年4月にアシスト入社、リクルートやダン&ブラッドストリート・ソフトウェア(現エス・エス・ジェイ)などに出向する。97年2月にインターネットセキュリティシステムズ社長兼CEOに就任。ISSグループ・アジア/パシフィック地域社長を兼務する。
会社紹介
インターネットセキュリティシステムズは、米ISSインベストメントホールディングスのアジア・パシフィック地域の拠点として、1997年2月に設立された。以来、積極的に海外への進出および拡大を図っている。現在では、インドやインドネシア、マレーシア、タイ、韓国、中国、台湾、香港、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどに販売拠点をもつ。
国内では、01年2月に西日本の営業拠点として、大阪市北区に大阪営業所を開設。同年4月にはトレーニングセンターを東京都渋谷区に設置し、翌5月に東京都内でリモートセキュリティ監視センターを開設した。02年4月には、業務拡張にともない東京都品川区に本社を移転、東京オフィスを統合した。
02年度上期(02年1―6月期)の業績は、売上高が前年同期比25.5%増の21億5800万円、経常利益が同24.8%減の2億9200万円、当期純利益が同15.6%増の2億5600万円。通期では、売上高で前期比40.8%増の52億1000万円、経常利益で同52.8%増の11億4600万円、当期純利益で同77.5%増の7億2600万円を見込む。