駅前から日本のIT産業を支える――。全国約360校、在籍生徒数約7万人のパソコン教室を運営するアビバジャパン。大学・専門学校とは違った切り口で、実年層を中心にIT適応能力の向上に努める。本業ビジネスに加え、全国3000―4000社とも言われるパソコン教室事業者を対象とした「全国パソコン教育事業協同組合」の設立にも賛同した。IT教育のリーダーとして、パソコン教室業界の未来開拓の先陣を切る。
業界はとても未熟、事業者の連携で発展を
――パソコン教室ビジネスの概況を教えて下さい。
牧野 我々の業界は、とても未熟です。全国3000―4000社あると言われているパソコン教室事業者のうち、トップが年商約220億円、次が約30億円、3番手は約10億円で、年商5億円を上回る事業者は10社ほどしかない。残りは中小零細が大半で、業界としての基盤が脆弱です。すべての事業者の年商を足し合わせても、パソコン教室の市場規模は400億円前後。これではダメだということで、今年7月、全国パソコン教育事業協同組合の決起集会を開き、業界として永続的な発展を模索し始めたところです。
昨年、政府が「IT講習会」と称して、国民のIT適応能力向上を目的に500億円を超える予算を組みました。しかし、これを受注できたのは、我々パソコン教室事業者ではなく、予算の9割以上を人材派遣やメーカー系企業が獲得しました。とてつもなく大きなビジネスチャンスを、みすみす逃しました。中学、高校、大学などのIT教育が拡充するに従い、パソコン教室を利用する若年層が最盛期の半分以下に落ち込むなど、逆風も吹いています。7月から活動を始めた組合に賛同していただいた約200社のパソコン教室事業者のうち、すでに2―3社が教室ビジネスから撤退するという厳しい状況です。
――どう打開しますか。
牧野 かねてから、私は「IT教育サービスの市場規模は1兆円を超える」と試算しています。まだ20分の1も開拓できていない。今後も、IT化がどんどん進むにあたり、再雇用に向けた実年層の教育サービス需要は、ますます拡大します。しかし、我々パソコン教室事業者は、中小零細が中心で、これら潜在的な需要をなかなか開拓できない。組合の活動を通じて、少しでも、市場を開拓できるよう、情報や経営ノウハウの提供を進める考えです。
当社に限った戦略で言えば、30歳代後半から50歳代を中心に、再雇用促進型のIT教育に力を入れる方針です。若年層については、彼らの通う学校におけるIT教育が拡充したために、当社においても1996年の構成比16%に比べて、今年は半減しました。教室数が増えているため、絶対数は増えているのですが、構成比が下がりました。この反面、実年層が増え、授業内容も仕事に直結し、実践的なコースが人気を博すようになりました。従って、現役で仕事の第一線に出られる30―50歳代に向けて、再雇用促進型のIT教育サービスを提供するというのが、当面の基本路線です。
IT教育サービスを利用する人々をピラミッド型のヒエラルキーに例えるなら、頂点部分の高度な技能を身につけたい人は、大学や専門学校に任せます。アビバは、中間のボディ(本体)部分をメインターゲットとし、ボリューム(量)を狙います。再雇用促進型教育の中心がITであることを考えれば、あながち外れてはいません。
IT業界と協力しあう、両者勝ちのビジネスモデルへ
――教育体制やカリキュラムの構成は。
牧野 当社では、全国約360教室に、約1600人の講師が勤めています。1600人すべてが当社の正社員です。原則として、アルバイトや非常勤講師はいないのが最大の特徴です。講師社員は、約20日間の集合研修と、教室での実地研修の計約300時間という教育を経ることで、安定した教育サービスを提供できるよう訓練しています。300時間で40万円の教育経費を投じています。カリキュラムは、パソコンの基本操作から、ワード、エクセルの使い方、資格取得まで幅広く用意しています。こだわっている点は、まず「キーボードを正確に使えるようになること」と「インターネットから情報の出し入れができること」です。 生徒さんのなかには、表計算の関数を覚えるのに意欲を燃やす方や、ワープロでの文書作成に熱中する方がおられます。ですが、当社の方針である再雇用促進型で重視する点は、あくまでも業務で役立つ実践的な教育です。高度な関数やマクロ計算ではなく、キーボードが速く正確に打てて、業務に必要な月次や年次報告書を作成できる業務ノウハウの習得を強く推奨しています。
加えて、「インターネット」の習得です。生徒さんに多いのが、コンピュータを「電算機」か「ワープロ専用機」と勘違いしているケースです。私は、コンピュータを漢字で表すとしたら、「電子情報伝達機」であると思います。昔は、「電算機」で済んだかもしれませんが、今は、ネットを通じて情報を双方向に伝達する役割の方が大きい。カリキュラムのなかでも、以前はワード(タイピング)→エクセル→ウェブの順番で学びましたが、今は、ワード→ウェブ→エクセルの順番に変えました。文字入力は必須項目なので、タイピングを含むワード習得をトップにもってきています。次は、情報伝達機を使ううえで欠かせないウェブ関連の授業を優先しました。生徒さんには、できるだけ自分のウェブを開設し、自らが情報を発信する経験をもって欲しいと勧めています。
――授業料が高いという声も聞こえますが。
牧野 果たして「高い」と言えるでしょうか。アビバでは、業務に耐えられるパソコン技能を身につけるのに最低100時間、約20万円の授業料をいただいております。資格を取得できるまで技能を高めるには、200時間、約35万円の授業料が必要です。専門学校や大学に通うとしたら年間100万円近くかかります。専門学校・大学は授業の時間数が多いですが、我々のように駅前で、気軽に誰でも、必要なときに、必要な技能を身につけられる細かな教育サービスは提供できない。そう考えれば、35万円で目的の技能や資格を取得できる教育サービスは、逆に「割安」だと思います。
――コンピュータ業界との協業については。
牧野 まだそれほど進展しているとは言えません。富士通の一部のパソコンを立ち上げれば、アビバのアイコンが出てくる程度です。また、「インターネットからの情報の出し入れ」を学ぶ課程で、ウェブ制作の時間がありますが、これにIBMのホームページ・ビルダーを使っています。当社では、全国で約5000台のパソコンが稼働していますが、これらのパソコン向けにIBMが格安でソフトを提供してくれました。値段は言えませんが、とにかく安い値段です。在籍する生徒だけでも7万人おり、彼らが個人でウェブ制作ソフトを購入する場合、大半がIBMのホームページ・ビルダーを選ぶことは容易に想像できます。
コンピュータ業界の方々は、大学や専門学校向けには、割と安くハードやソフトを納入する傾向があるのですが、どうも我々パソコン教室向けに商売をするときは、急に「末端の営業マン感覚」で、高く売りつけようとする場合が多い。IBMのケースのように、お互いうまく協力しあえば、両者勝ちのビジネスモデルが築けると考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「自らを“教育者である”と大上段に構えるのは好きじゃない」そもそも、今の大学や専門学校の在り方に疑問を感じてアビバをつくった。「大学は山の頂上にキャンパスを移し、学生に“登ってこい”と言う。そんな態度では、社会の実情や需要に合った、きめ細かな教育サービスは期待できない」
スクールビジネスを、「教育を食い物にする」と批判するお偉方もいる。だが、そういう大学でさえも、最近では駅前にサテライトキャンパスを作り始めている。「大学など高等教育と、実務に即したスクールでは、教育内容は大きく違う。だが、駅前のパソコン教室こそが、日本のIT産業を支える“縁の下の力持ち”になりえる」と、闘志を燃やす。(寶)
プロフィール
(まきの つねお)1948年、愛知県生まれ。76年、神奈川大学法学部卒業。79年、名教ゼミを開設。学習塾・家庭教師派遣などを手がける。84年、名古屋ワープロ学院を開設。96年、社名をアビバジャパンに変更し、教室名を日本パソコン学院アビバとする。全国パソコン教育事業協同組合専務理事。
会社紹介
昨年度(2002年3月期)の単体売上高は195億円。今年度(03年3月期)は売上高220億円、経常利益7億円を見込む。グループ会社はアビオ学院、アプランドルスタッフ、アビバ出版社で、今年度の連結売上高は235億円の見通し。売り上げの大半を全国約360か所のパソコン教室を運営するアビバジャパンが占める。来年度、教室数を400教室に増やし、05+年度(06年3月期)には500教室にする計画。パソコン稼働台数は約5000台。グループ社員数は約2300人。うち日本パソコン学院アビバの講師は約1600人。