NTTソフトウェアは、小型のシステム案件を数多く獲得することに積極的だ。企業がIT投資を抑制していることに加え、ハードウェアメーカーがソリューション分野に軸足を移行、中国をはじめとするアジア地域のシステムインテグレータが国内市場に参入していることで競争が激化していることが要因だ。鶴保征城社長は、「厳しい市況のなか、大型のシステム案件に大人数で取り組むことがビジネス拡大につながるとは限らない。小人数で多くの案件をこなし、売り上げよりも利益を確保することに専念する」と強調する。
激しい競争に生き残るには
小型案件への対応がカギ
──ソリューション分野に参入する企業が多くなっていますが、このような動きをどうみていますか。
鶴保 大手ハードウェアメーカーがこれまでのスキルを生かし、ソリューション分野に参入している点と、中国をはじめとするアジア地域の企業が国内に参入しているという理由で競争が激化しているといえます。そのため、売り上げを伸ばそうとすると、利益を出せない厳しい条件でシステム案件を受注しなければなりません。
情報サービス産業協会(JISA)の統計では、特定サービス分野の売上高は20か月以上にわたり前年同月を上回っていましたが、昨年7月に前年同月を下回ってから市況が変わってきました。
システムインテグレータの経営者に話を聞くと、「企業がIT投資を抑制していることにより、ビジネス拡大が非常に厳しく、なおかつ大型の案件が減少している」という状況をよく耳にします。当社でも同様に、大型の案件が減少しているのが現状です。そこで、売り上げが減っても利益を確保できる体制に切り替えました。ソリューションを絞り込み、得意分野をもった特化型の企業を目指すことが、生き残るためのカギとなります。大・中・小の規模にこだわらず、さまざまな案件を獲得していくことに注力しています。
当社では、「IPプラットフォーム構築」をはじめとして、「モバイル応用」、「ECフロントシステム」、「ECバックボーンシステム」の4分野に特化し、ネットワークの構築からアプリケーションの開発までを手がけています。
アプリケーションの提供は、決して大型の案件とはいえませんので、結果的に小型の案件となるケースが多い。ですが、今後は小型の案件を数多く獲得することが重要だと考えています。
──小型の案件でビジネス拡大を図るということですか。
鶴保 そうです。小型の案件は、将来的に大きなビジネスに発展する可能性があります。
例を挙げますと、「IPプラットフォーム構築」の分野では、システム構築において、業務効率化を図ることに加え、ビジネスの拡大を求めるニーズが高い。そのため、いかに最適なアプリケーションを提供できるかが受注のカギだといえます。
──NTTソフトウェアでは、パッケージソフトでの販売が中心ですが、顧客企業のニーズに応えるという点でパッケージ販売に限界はないのですか。
鶴保 パッケージソフトが顧客のニーズに合っていないという認識はありません。パッケージは短期間で導入できることが強みです。基幹の業務ではパッケージ、そこにデータを入れる部分でカスタマイズを行うという組み合わせを行えば、パッケージとカスタマイズ双方の良いところを生かすことができます。
また、パッケージ販売で重要となるのがコンサルティングです。最近では、ブロードバンドを切り口に、経営戦略的なコンサルティングを含む総合的なソリューションを求めるニーズが高まっているのも事実です。
当社では、コンサルティング専門の事業部を設置しています。ソフトの生産性やプロセスの改善などは、営業担当者がコンサルティングを行えますが、企業のなかの経営戦略的な仕組みを変えるのであれば、コンサルティングとそれに見合うソフトをもっていることが求められます。開発とコンサルティングの両方を備えていることも当社の強みです。
社員のスキル向上を図り
多くの少数精鋭集団を揃える
──数多くの小型案件に取り組むうえで重要なことは何ですか。
鶴保 社員1人ひとりのスキルを上げることが必要となります。大型の案件では、営業、システムエンジニア、設計、製造、維持管理などで担当を分けていました。大型案件ではこれでも通用します。
ですが、小型の案件になると、システムエンジニアが設計も手がけたり、設計が製造も担当するなど1人で何役もこなさなければなりません。
現状は、これまで大型の案件が多かったため、社内で1つの案件に大人数で取り組むという傾向が抜けきれていないのが事実です。大型の案件に慣れると、「この案件は大人数でなければできない」と考えがちになります。
小型の案件を手がける際に、たとえば100人揃えた場合、1人の作業にかかる負担が小さくなりますが、重複作業が発生することで生産性が悪くなる危険性があります。10人弱の小人数で手がける場合は、1人の負担が大きくなるものの、効率的にこなすためにコミュニケーションやチームワークを図ることにより、重複作業がほんとどなくなる。
人数が10分の1だからといって、利益も10分の1とは限りません。逆に100人で手がけるシステムよりも顧客にとって最適なソリューションを提供できる力は十分にありますし、利益に関しても大人数で手がける案件より高くなる可能性もあります。
社内に多くの「少数精鋭集団」を揃えることが重要だということです。数多くの案件をこなすことや、潜在需要を掘り起こすことにもつながるといえます。
──「少数精鋭集団」を多く揃えるために必要なことは何ですか。
鶴保 官僚的な企業気質を排除することだと考えます。トップダウンばかりでなく、各社員が自分の意見をもち、上司が意見を吸い上げることも必要となります。
私自身も、時間があれば極力現場に行くことを心掛けていますし、顧客の反応など、マーケットがどこにあるのかを現場の社員から聞くことを徹底しています。
上司の意見にそのまま従うよりは、各社員の特性を生かすことができれば、会社が成長し、「少数精鋭集団」を揃える要因にもなるといえます。
──自治体がIT化に取り組んでいますが、自治体ビジネスでの実績はありますか。
鶴保 当社では、自治体ビジネスを積極的には行っていませんが、NTTグループのなかでNTT東西をはじめ、NTTコミュニケーションズなどが自治体ビジネスを積極的に展開しています。そんなこともあり、当社が認証やセキュリティなどの要素技術のノウハウをもっていることで、元請けではありませんが実績はあります。
要素技術のように、どの企業にも真似ができないノウハウは、さまざまな分野でビジネスを展開できることにもつながります。
──今年度の業績見通しは。
鶴保 売上高は480億円と見込んでおり、昨年度の544億円と比べると下回ります。しかし、経常利益は5億円と、昨年度の2億円を上回るとみています。売上高については、昨年度を下回っても問題はありません。今後は、利益を増やし続ける体制を一層強化することに注力していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
鶴保社長は、少数精鋭で小型のシステム案件を手がけることを、小人数の合唱団である「アンサンブル」、大人数で大型の案件に取り組むことを「オーケストラ」に例えた。
「アンサンブルでは、指揮とバイオリンなど1人で2種類の役割りを担当するケースが多い。小人数だからといって、大規模なオーケストラよりも劣るとはいい難い」と指摘する。
企業がIT投資を抑制し、なおかつシステム受注のために価格競争が激化するなか、大型案件の獲得は難しい状況だ。
「各社員が、オーケストラからアンサンブルまでをこなせるスキルをもてるような環境を整えていく」
そんな言葉が印象的だった。(佐)
プロフィール
鶴保 征城
(つるほ せいしろ)1942年生まれ、大阪府出身。66年、大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、日本電信電話公社電気通信研究所に入所。87年7月、日本電信電話(NTT)情報通信処理研究所基本システム研究部長。89年11月にNTTソフトウェア研究所長、93年6月にNTTデータ通信取締役開発本部長、95年6月にNTTソフトウェア常務取締役技術開発本部長を経て、97年6月に代表取締役社長に就任。情報サービス産業協会(JISA)常任理事、情報処理学会会長、XMLコンソーシアム会長。
会社紹介
NTTソフトウェアでは、2001年度(02年3月期)から「IPプラットフォーム構築」、「モバイル応用」、「ECフロントシステム」、「ECバックボーンシステム」の4分野に注力している。
「IPプラットフォーム構築」では、ブロードバンドソリューションのコンテンツ配信と連動した従量課金システムを提供。「モバイル応用」では、PDA(携帯情報端末)などを活用し、現場のメンテナンス要員や訪問員の業務を支援するシステムを「ECフロントシステム」と連動させた。
「ECバックボーンシステム」では、同社のエンタープライズ統合システム「イービーパワーシナジー」や、セキュリティシステム「eセキュリティソリューション」を中心とした事業強化を図っている。
01年度の業績は、売上高が544億円、経常利益が2億円。今年度(03年3月期)の業績見通し(期首予想)は、売上高480億円、経常利益5億円を見込む。