アクセンチュアは、年率2割成長という強気の売上計画を立てる。人員も今の約2000人から4―5年以内に2倍に増やす。コンサルティング会社としての本来の強みである“戦略コンサルティング”部門の強化に加え、情報システム分野を指す「デリバリー」部門の収益性を高めることで、持続的な成長を狙う。IT投資が減退するなか、プロダクツ(製品)をもたないビジネス手法で大胆な拡大路線を軌道に乗せられるのか。4月に就任したばかりの村山徹新社長の手腕に注目が集まる。
“長いお付き合い”に力を入れる
“結果”を出して顧客の信頼を得る
──中国・大連にデリバリーセンターを開設するなど、デリバリー分野の強化を前面に押し出しています。
村山 デリバリー部分の強化は、「具現化こそが最大の戦略」と標榜した森・前社長(森正勝・現会長)時代からの一貫した施策です。上流行程のコンサルティングで、具現化まで関与しない蕫アイデア出し﨟の仕事もありますが、これは一部分にすぎません。こうした顧客との短いお付き合いではなく、情報システムの設計から開発、保守、運用、アウトソーシングに至るまで、踏み込んだ長いお付き合い﨟ができる仕事の受注に力を入れています。
アクセンチュアでは、戦略立案の上流行程部分を「戦略コンサルティング」、ITによる業務改革など中・下流の情報システム分野を「デリバリー」と総括しています。同業のコンサルティング事務所のなかには、デリバリーをやらないところも少なくありませんが、当社ではデリバリーを重視する道を選んだわけです。
実際、当社の社員約2000人のうち、約1割が最上流行程の戦略コンサルタントにすぎません。その他は主にデリバリーに従事しています。コンサルタントとして顧客と契約し、固い守秘義務を結んでいるため、ほかのコンピュータベンダーのように、構築や運用を手がける情報システムの事例を公にできないのが残念です。少なくともデリバリーをやっていなければ、現社員の10分の1、200人の戦略コンサルタントだけで十分人手が足りるでしょう。つまり、1800人分の人手で情報システムを手がけているということです。
──大手コンピュータベンダーと競合していますが。
村山 コンピュータベンダーは、コンピュータを納入し、保守・サポートすることで、顧客との間で信頼関係を築いてきました。IBMや国産ベンダーによるこうした信頼関係は、われわれにはない、彼らの大きな財産です。顧客のもとに足繁く通う営業担当者を数多く抱えているコンピュータベンダーに対して、われわれは営業機能をもっていない。ともすれば、製品も営業担当者もないわれわれは、コンサルティングだけの短い関係になってしまうこともあります。
しかし、経営におけるITの位置づけは大きく変わりました。今どき「省力化」のためだけにITを導入する経営者はいません。ITへの投資は、本業のビジネスへの投資そのものであり、「電算室の予算」ではなくなっています。つまりは、本業のビジネスで成功するパートナーになり得るかどうかが、これからの顧客との信頼関係に結びついていくのです。
冒頭の「具現化こそが最大の戦略」とは、コンサルティングで戦略を描くだけでなく、本業のビジネスが成功し、次の戦略を立案し、また成功するという“好循環”を創り出すことです。
簡単に言えば、投資をして、投資以上の収益=リターンを得るという“結果”を出し続けることです。これにより、顧客の信頼を勝ち得るというのが、われわれの戦略です。4年間のリースが切れたから、「次に切り替えましょう」というリターンの議論が抜け落ちた投資は、いずれなくなります。
コンサルティングは、いわば「非日常的なお付き合い」だったわけですが、コンサルティングで描いたビジネスモデルを実現し、リターンを顧客にもたらすことで、「日常的なお付き合い」に変わります。コンピュータベンダーとは、手法こそは違いますが、顧客との信頼関係を永続的にもつという姿勢は共通しています。
中国・大連にデリバリーセンター開設
顧客向けに生産能力をフル活用
──IBMはPwCコンサルティングを買収し、コンサルティング機能を強化しています。
村山 彼らとわれわれとは、まったく性質が異なります。われわれのようなコンサルティング会社が情報システムを組むには、遅かれ早かれ、外部からハードやソフトを調達しなければなりません。われわれは顧客の要望に合わせて、最適なハードやソフトを選択しますが、コンピュータベンダーの基本的な考え方は、「自社製品ありき」でしょう。この点で、大きく異なります。
当社は昨年来、富士通と提携関係にある一方、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)やNECなど、主要ベンダーやシステムプロバイダと提携関係にあります。ただし、この関係が蕫固定的﨟ではない点がポイントです。必要に応じて領域を限り、それぞれ部分的に提携しています。全面提携は絶対にあり得ません。
いずれにしても、デリバリーとなったら、コンピュータメーカーの力を借りざるを得ません。提携して最初から協力するのか、途中からお願いして協力を得るのかの違いです。だったら時と場合によって、供給者側の色に染まらないよう、適宜、提携関係を結んだ方がいいじゃないかということです。最近では、岐阜県の電子県庁化にともなう情報システムを、NTT Comなどと共同で受注した実績があり、今後、より深い関係を顧客先と結んでいく方針です。
──コンサルティングを含むと、割高になるという批判があります。
村山 価格は市場が決めることです。社員の生産性を高める努力を継続しつつ、社内の給与体系も精鋭の戦略コンサルタント部門と、デリバリー部門とで2本立てにすることでコストを抑えています。今は戦略コンサルティングとデリバリーとで2つに分けているだけですが、市場が細分化すれば、給与体系をさらに細分化してもいいのです。
この3月、中国・大連にデリバリーセンターを開設しましたが、ここではとくに日本企業を意識しています。ソフト開発やアウトソーシングなど、中国の生産能力をフルに活用します。われわれの顧客の、国内における競争力の強化だけでなく、顧客企業が中国へ商品やサービスを売り込みに進出した際にも、コンサルティングとデリバリーの両面で力強い支援を実現します。
──イラク戦争や重症急性呼吸器症候群(SARS)など、不透明感が強まっています。
村山 1991年の湾岸戦争の時も経済は低迷しました。だからといって、企業が投資を全面的に凍結したわけではありません。しかし、投資の規模を縮小すると同時に、投資案件を優先順位の上位だけに絞り込むことは確かです。つまり、優先順位の1番から5番まで、まんべんなく投資額を減らすというものではなく、1番と2番といった具合に絞り込んでいます。
私は、主に製造業のコンサルタントとして仕事をしてきました。たとえば、自動車メーカーでは、深刻な不況時でもトップ2社の売り上げはさほど減りません。ところが3位以下のメーカーは大打撃を受けます。企業の投資でも個人の消費でも、お金を使う先を絞り込むのです。これをITに当てはめれば、いかにITへの投資の優先順位を上げるか、つまりリターンを確約できる投資に仕上げるかで、この苦境を乗り切れると考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「IT投資額を上回るリターン(収益)がいつ実現するのかという説明責任が、われわれに強く求められている」と話す。
サプライチェーンマネジメント(SCM)1つ取っても、日次で在庫が見えるようにするのと、週次とでは、投資額がケタ違いに異なる。
あるいは情報システムの完成度を100点満点にするのに5年費やすよりも、70点でも2年で完成させる方が良い場合が多い。
「要は商談した時点で、いつ投資が回収できて、どのくらいの収益が上がるのかを明確に説明できるかどうかがポイント」
たとえば、約束通り2年後にリターンが得られれば、すぐに次の投資を提案する。
この“好循環”を創り出せるかどうかが成長のカギとなる。(寶)
プロフィール
村山 徹
(むらやま とおる)1954年、三重県四日市市生まれ。80年、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年、アクセンチュア入社。90年、アソシエイト・パートナー。92年、戦略グループ統括パートナー。00年、製造・流通業本部統括パートナー。03年4月、代表取締役社長に就任。主な著書は、「考える営業」、「決定版リエンジニアリング」、「CRM顧客はそこにいる」、「E―ビジネス戦略」(いずれも東洋経済新報社刊)など。
会社紹介
昨年度(2002年8月期)の国内売上高は前年度比12%増の421億円。社員数約2000人。今後、毎年約2割増のペースで売上高の拡大を目指す。企画立案に特化した上流行程のコンサルティングでは、顧客との長期的な取り引きは難しいと判断し、早い段階から基幹系システムの構築やアウトソーシングの受託を始めた。
アクセンチュアでは、これら情報システム部門を「デリバリー」と総括しており、実質的な収益の基盤となっている。3月には、中国・大連市にソフト開発やアウトソーシングなどを受け持つデリバリーセンターを開設した。05年までに技術者を1000人規模に増やす。
世界での売上高は昨年度が115億7000万米ドル(約1兆3800億円)。社員約7万5000人。47か国に110拠点を展開している。