売り上げを伸ばし、コストを抑える――。企業経営にとって、シンプルだが最も効果がある利益創出法だ。ダイワボウ情報システムは、徹底した増収戦略とコスト削減策を打ち出すことで、2005年度(06年3月期)に単体ベースで売上高4300億円、経常利益50億円を目指す。この4月に専務から昇格した松本紘和・新社長は、「物理的に達成可能なシェアは地域別、メーカー別ともに20%。現在との格差が即ち、成長すべき空間」と言い切る。
05年度に経常利益50億円が目標、会社を増収体質にもっていく
──増収にこだわっておられますね。
松本 ハードやソフトの製品単価の下落や販管費率を考えれば、増収を続けることが利益に対して最も効果的に貢献するからです。2005年度(06年3月期)に当社単体でざっくりと経常利益50億円を計画しています。この目標を達成するためには、売り上げ拡大が欠かせません。人件費は今後確実に上昇します。しかし、物流コストはそれほど増えていません。つまり当社のような卸販売会社は、人件費増をカバーする分の売上増を達成しないと、利益を出せないとも言えます。
絶対額で人件費を抑えるという方策もありますが、当社は創業してからまだ20年そこそこしか経っていないため、古くからの企業に比べれば、人件費は安い。このため、少なくともここ3年くらいは今のまま突き進んでいくことで、計画通りに業績を伸ばせることはできるという手応えを感じています。
20歳で入社した第1期生が、いま40歳前半です。まだ、社員の平均年齢が問題になるほど上がっている段階ではありません。しかし、今後10年を見据えると、40歳の社員は確実に50歳になり、いま30歳の社員は40歳になります。業績悪化で苦しむ企業が、50歳前後の社員を対象としたリストラに積極的であることを考えれば、社員の平均年齢が上がるインパクトは相当大きくなるものと思います。今後とも利益を出し続けるためには、増収体質にすると同時に、人件費の問題に今から取り組む必要があると考えています。
──具体的な施策についてはどうですか。
松本 第1段階として、昨年4月から管理職以上に年俸制を導入しました。今の段階では、月給ベースでそれほど差がついているわけでもなく、賞与(ボーナス)でも1.5倍の差はついていません。ただ今後、ボーナスベースで2倍の差をつけるというのは、問題ないと考えています。しかし、年収で2倍も格差をつけると、いろいろ歪みが出てくる危険性があります。たとえば、東京で月間5―6億円売り上げる支店長が、地方で同額を売りさばくのは至難の業です。当社の強みは全国展開している点であり、東京から地方に転勤すると年収が落ちるという構図になるのは問題です。また、人件費を減らすことが目的になってもダメです。
つまり、業績を高められる社員が長く仕事を続けられる報酬体系にして、なおかつ人件費を抑えるという仕組みを、今後どうつくるのかが課題です。昨年来、「年収に差をつける」と口では言っているものの、あまり差をつけられないのはこの課題があるためです。できる営業担当者が去るような会社では元も子もないですから。人事制度の研究の一環として、今年4月から入社3-4年の主任、係長クラスを対象に成果重視型報酬体系の研究に着手しました。ですが、支店長クラスの管理職の報酬体系の結果もまだ出ていないので、社員の反応を見ながら詳細を詰めていきます。また、ウェブで受注受付や在庫確認ができる「韋駄天」や、従来からの電子データ交換(EDI)など、電子的な受発注で効率化することにより、従来のアナログ的な受付業務に従事する社員数は減る傾向にあります。すでに、顧客からの受注金額のうち2割近くは電子的な方法によるものが占めており、今後も電子化の比率を高めていきます。
“高度”な商品やサービスを販売、メーカーとのパートナーシップを強固に
──昨年度を振り返って、事業概況はいかがでしたか。
松本 下半期(02年10月―03年3月)は、民間企業の需要が落ち込みました。地方では一般企業の設備投資が落ち込んだため、自治体や学校関連の入札案件にIT企業が群がっています。役所の入札案件では利益が確保できないと判断して、入札を自主的に降りたケースさえあります。消極的になっているわけではなく、ただ純粋に売値が合わず、利益が出せないからやらないだけです。10年前は「安売りのダイワボウ」と言われましたが、ここまで価格が下がるとさすがに厳しい。覚悟はしていたものの、利益率を高めにくい状態にあります。ひと昔前なら、パソコンやサーバーの大口案件は珍しくありませんでした。ところが昨年度は各支店とも5―10台といった小さな案件を拾って数字を積み重ねるという作業が続いています。このような状況で利益を確保するには、増収戦略が欠かせないと考えているわけです。
──中堅・中小企業向けの施策や、台頭するデルコンピュータへの対策は。
松本 実際、中小企業の担当者がヤマダ電機やヨドバシカメラなど、大手量販店で機材を購入するケースは増えていると思います。また、価格面で彼らに引っ張られているというのも事実です。彼らと同じ土俵で戦えば、値段で負けてしまいます。少なくとも、購入者側の立場で見れば、少しでも安い販売店に買いに出かけるというのは当然のことです。当社は、彼らと同じ土俵で勝負するのではなく、もう少し蕫高度﨟な商品やサービスを販売していきます。中堅・中小企業向け販売では、コンシューマ向けの販売とは異なるノウハウが必要です。この点で当社は、少なくとも量販店よりは高い水準のノウハウをもっており、差別化できる点だと考えています。
デルコンピュータに対する対策は、特に考えていません。新興勢力にいちいち対策を立てていたのでは、当社の本来歩むべき道を踏み外してしまいます。デルが市場シェアをどれだけ獲得するのかはわかりませんが、これはこれで仕方ないことだと考えています。逆にわれわれもシェアを獲っているわけですし、そういう実力がなければ、増収増益は到底、達成できません。顧客が、どうしても「デルにしてくれ」と言われれば、デルを納入することもあります。
──今後の方針は。
松本 デルと違い、われわれは日本国内でしか商売をしていません。国内市場における顧客データベースをしっかり組み上げ、メーカーとのパートナーシップをより強固にすることが今後の成長戦略上、重要な要素となってきます。当面は地域別とメーカー別ですべて10%以上のシェアを獲得します。現時点では、地域別では首都圏よりも地方のシェアが高く、メーカー別ではNECが多い。NECの国内出荷台数のうち、当社が流通させる台数は10%以上ありますが、ほかのメーカーではまだ低いところがあります。この比率を高めることが、顧客やメーカーとのパートナーシップの強化に結びつきます。地域別でも強く、メーカー別でも均質に強くなる余地がまだ十分にあります。物理的に達成可能なシェアは地域別、メーカー別ともに20%だと考えており、現在との格差が即ち、成長すべき空間なのです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
最終的に利益が出るかどうかの問題に尽きる――。松本社長の考えは明快だ。「メーカーとのパートナーシップのなかで、多少の支援はもらっているが、基本は自分たちでどう利益を出すかだ」「具体的な方策を考えるのは支店長クラスの幹部たちであり、社長の役割はどれだけ利益を出して、株主配当をするかにある」と話す。「デルやヤマダに食われるところはあるが、逆にわれわれだって彼らから獲ることもある。お互い様。20年以上も流通一筋でやってきた。そのノウハウは、そんな薄いものではない」3年後の売上高と利益目標を明確に定め、人事制度も成果重視に変える。社員全員の蕫やる気﨟を引き出す。(寶)
プロフィール
松本 紘和
(まつもと ひろかず)1940年、和歌山県生まれ。64年、大阪大学経済学部卒業。同年、大和紡績入社。88年、東京支店次長。90年、ダイワボウ情報システム入社、取締役。92年、常務取締役。96年、専務取締役。01年、代表取締役(現任)。03年4月、取締役社長(代表取締役)就任。
会社紹介
ディストリビュータ(流通)事業者であるダイワボウ情報システムは、増収とコスト削減にとりわけ力を入れる。システム販社やパソコン販売店への卸販売の比率は全体の約95%を占める。松本紘和社長は、「卸販売は当社のビジネスモデルそのもの。この比率は変わらない」と話す。パソコン販売店など、コンシューマ向けのパソコン卸販売が全体の3割弱で、残り7割強は民間企業や官公庁などに強いディーラー向けとなる。この7割を100とすれば、官公庁、学校、病院など公共系が約40%を占める。「法人や個人、民需や官需などの比率は関係ない。要は利益が出るか出ないかの問題」と、市場セグメントにはこだわらない考えを示す。