IBMグループの総力を生かした“エンド・ツー・エンド”のサービスが成長のカギを握る――。アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBMビジネスコンサルティングサービス)の木村正治社長は、戦略立案からアウトソーシングまで一貫したサービス体系こそが、「顧客の求めているものであり、われわれの成長の原動力だ」と話す。大手企業だけでなく、パートナー販社とも組むことにより、中堅・中小企業向けコンサルティングサービスにも意欲を示す。
大企業から中堅・中小企業までカバー、エンド・ツー・エンドのサービスを提供
――PWCコンサルティングとの統合効果は出ていますか。
木村 エンド・ツー・エンドのサービスが提供できるようになった点が、最大の効果です。もともとPWCコンサルティングは、戦略立案やビジネスモデルのコンサルティングに強かった。一方、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のコンサルティング部門「ビジネス・イノベーション・サービス」は、ITを使った具体的なソリューションやシステム構築、アウトソーシングを得意としていました。前者は、いわゆる戦略コンサルティングで、後者はITコンサルティングと呼ばれるものです。これら2つを統合したことにより、最上流工程の戦略コンサルティングから、システム構築を経て、最終工程のアウトソーシングに至るまで、文字通りエンド・ツー・エンドの一貫したサービスが可能になりました。とはいえ、昨年10月の統合後、3か月ほどは統合作業に追われました。これらの成果が出始めたのは、今年に入ってからです。ただ、統合作業そのものは順調に進みました。お互いにコンサルタントの集まりなので、企業文化が近く、成果主義など価値観も共通していたという要因が大きかったと思います。
──“IBM直属のコンサルティング会社”になったわけですが、顧客の反応はどうですか。
木村 顧客によって、いくつかの見方があります。「ハードベンダー色が強くなった」、「コンサルティングをお願いしても、そのあとでIBM製品がくっついてくるのは、ちょっと困る」というものから、「すべてワンストップでお願いできるので助かる」というものまでさまざまです。ただし、詰まるところはコンサルティング能力であったり、システム構築能力で評価されるわけで、IBM系だろうが、そうでなかろうが、ほとんど影響はないと考えています。そもそもIBMのサービスは、アウトソーシングなど、特定のハードウェアに依存しないものですので、ハードウェアに左右される問題は出てきにくい。簡単な例を挙げれば、われわれが顧客から相談を受ける上流工程の段階は、「サーバーやパソコンをどれにしようか」という次元の話には、絶対になりません。経営戦略やトランスフォーメーション(経営変革)をどうすべきかという議論が中心であり、サーバーやパソコンのレベルではありません。
──システム販社との結びつきを強化する方針を打ち出されました。
木村 これまで、大手企業を中心にコンサルティングを手掛けてきましたが、規模の違いはあれ、抱えている経営課題は大手企業も中堅・中小企業も本質は変わりません。そこで、中堅・中小企業向けの蕫セット料金﨟みたいなものを用意して、利用しやすくすることを考えています。つまり、短時間で中堅・中小企業が抱える経営課題を解決し、その分、値頃感を打ち出す手法です。中堅・中小企業は、戦略立案の経営コンサルティングをして蕫おしまい﨟というよりは、そのあとのシステム構築やアウトソーシングまで、よりエンド・ツー・エンドのサービスを求める需要が大きいと分析しています。そこで、もともと日本IBMとお付き合いがあるシステム販社との連携強化を進めています。わたし自身、製品事業部やソフトウェア事業部、マーケティング担当など、さまざまな仕事を通じて、パートナーのシステム販社の方々と交流を深めてきました。つい先日も、パートナー販社さんから電子メールがきて、お互いに「よろしく」と挨拶を交わしたばかりです。
顧客が求めるトランスフォーメーション、経営効率や生産性向上に主眼を
――中堅・中小企業の市場そのものが変化しています。
木村 確かに、顧客の考え方は変わってきていると思います。以前なら、地元の付き合いとか、近くにいてすぐに駆けつけてくれる、あるいは、大手ベンダーより見積価格が安くて、親身になって相談に乗ってくれるなど、顧客との関係はいろいろありました。しかし、右肩上がりの時代は終わり、顧客の多くは困っているわけです。困っている時に、ハードウェアを手にぶらさげて営業に来られても、何の解決にもなりません。そもそも顧客社内でそのような予算は「削減対象」となり、商談に結びつきません。以前は、「支店をもう1つ増やすので、大至急パソコンを持って来い」という注文もありましたが、今は支店を増やすような時代ではありません。経営課題を解決したい顧客が多くを占めます。
パートナー販社の多くは、顧客企業に対するコンサルティング能力を強化し、この部分における事業規模の拡大を目指しています。まずは、業界動向セミナーなど、パートナー販社向けの情報提供を進めて、コンサルティング事業の立ち上げをお手伝いできればと考えています。この部分はパートナー販社から、とても高い関心をもっていただいております。サーバーやパソコンは、顧客から見ればそれほど重要ではありません。顧客は経営の効率化や生産性の向上など、トランスフォーメーションを求めているのです。この問題を解決する良いコンサルティングなり、提案なりができれば、顧客満足度は上がり、商談をまとめることができます。
──今後、特に力を入れる点は。
木村 顧客企業のトランスフォーメーションです。また、顧客の経営効率を高めるアウトソーシングにも力を入れます。トランスフォーメーションとアウトソーシングを組み合わせて蕫経営変革アウトソーシング﨟などと呼んでいますが、いずれも需要が高まってきている分野です。日本IBM本体のアウトソーシング部門と連携しながら、e-ビジネス・オンデマンドやトランスフォーメーションなどを組み合わせ、IBMグループとしての総力を発揮できる体制をつくります。
ポイントは、ソリューション1個とか、サービス1個という個別の提案はせず、エンド・ツー・エンドの一貫性ある提案が重要です。製造や間接部門など業務プロセス単位で商談を進めるのではなく、経営全体としてどう効率化するのかという視点で進めるべきしょう。個別の提案を繰り返していると、経営全体の観点から見てどうしても「無駄な投資」と認識されてしまい、「じゃあ、IT予算は2割削りましょう」という話になってしまいます。エンド・ツー・エンドで提案しないと、顧客が狙っている効果を出しにくい。ハードウェアやパッケージソフト製品を、次から次へと購入するという需要は、もう存在しません。ビジネスの仕組みやプロセスを変革し、経営効率を具体的に高める効果があるものにしか投資しないということを、改めて肝に銘じる必要があります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
東京・丸の内にある近代的なオフィスビル内に本社を構える。木村社長は、「ここはペーパーレスやモバイルワーク環境、あるいはオフィスのコラボレーションスペース化など、未来企業のあるべき姿の実験室だ」と披露する。「まず、われわれが実践して、実際に効果を上げているのを顧客に見てもらうことが大切。ここ丸の内ビルの本社は、そうした思いでつくった」そもそも、IBM自体が製造業者であり、サービス会社でもある。自らの経営改革の効果を顧客と共有し、同様の効果を上げてもらうという。この姿勢が、IBMビジネスコンサルティングサービスの本社デザインに込められている。(寶)
プロフィール
木村 正治
(きむら まさはる)1948年、東京都生まれ。70年、東京工業大学電子物理学科卒業。同年、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)入社。SE(システムエンジニア)、保険営業課長、流通営業本部長、製品事業部長などを経て、96年に取締役ソフトウェア事業部長。98年、取締役マーケティング担当。00年、常務取締役e-ビジネス事業担当。01年、常務取締役アジアパシフィック流通産業担当。02年、アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBMビジネスコンサルティングサービス)代表取締役社長。日本IBM常務取締役を兼務。
会社紹介
昨年10月、米IBMは米プライスウォーターハウスクーパース(PWC)のグローバル・ビジネス・コンサルティング兼テクノロジー・サービス部門であるPWCコンサルティングを買収した。これを受けて、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)でも同じく昨年10月、自社のコンサルティング部門である「ビジネス・イノベーション・サービス」(社員約900人)と、PWCコンサルティングの日本法人(同約1600人)を統合し、「アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス(IBMビジネスコンサルティングサービス)」(同約2500人)を立ち上げた。戦略立案を得意とするPWCのコンサルタントと、デリバリー(情報技術を駆使した業務改革)を得意とする日本IBMのコンサルタントが統合したことにより、最上流工程のコンサルティングから、最終工程のアウトソーシングまで、エンド・ツー・エンドのコンサルティングサービスが可能になった。