構造改革を経て、方向は定まった。あとは成長軌道に乗せるだけだ。本業はあくまでもITとネットワークを融合した領域にある。パソコン、半導体、ソフトサービスなどグループ子会社のコーポレートガバナンス(企業統治)を大幅に強化し、金杉新体制による本業重視の経営にドライブがかかる。
カンパニー制を廃止、情報と通信を融合し、将来の成長へ
――前任の西垣浩司社長は、半導体事業を独立させるなどの構造改革を進めましたが、金杉社長は今、何から始めようとされていますか。 金杉 私の使命は、本業の業績を軌道に乗せることです。西垣前社長の構造改革で、あらかたの方向付けがなされたので、今度は私がこの方向性を引き継ぎ、より一段と業績を回復させます。構造改革はあくまでも手段であり、目的は本業の業績回復にあります。今年4月に、社内カンパニー制を廃して、IT(情報)とネットワーク(通信)を統合できる組織に改変しました。これまでは、情報と通信が別カンパニーになっていましたが、これを1つの組織にまとめることで、将来の成長に結びつける考えです。NECの本業は、ITとネットワークの統合にあります。この本業を強化し、収益を上げられるよう軌道に乗せることが、構造改革の最終的な目的です。
――情報と通信の融合は、古くて新しい課題です。この両分野は、同じ事柄でも使う用語が違うなど、双方に大きな壁があるように感じられます。 金杉 われわれの側から見れば、確かにそういう側面もありますが、市場の動きはそうではありません。顧客企業は、情報と通信の両方を含めたシステムを求めています。だからこそ、私はカンパニー制をやめたのです。カンパニー制のいいところもあります。私もカンパニー社長を3年やりました。自己責任で構造改革を推進できましたし、動きやすい利点がある一方で、他のカンパニーとの壁ができやすい欠点がありました。構造改革に区切りがついた時点で、カンパニー制をやめて、情報と通信を融合していきます。
確かに、両社は顧客も違えば、事業文化も違います。まずは「アプリケーション」、「ミドルウェア」、「ハードウェア」のそれぞれの階層で、情報と通信の双方の担当役員を入れ替えました。つまり、ITの役員が通信の担当になり、その逆もあります。たとえば、これまで情報分野の総合接続サービス「ビッグローブ」の瀧澤(三郎氏)を、執行役員ブロードバンドソリューション事業本部長に異動させました。通信分野においてもソリューション事業を展開しなければならないため、ソリューションの分かる人間をここに持ってきたということです。
――NECソフト、NECモバイリング、NECフィールディングなど、グループ企業の大型上場が続いています。昨年11月に分社化したNECエレクトロニクスなど、今後もグループ企業の大型上場が続くのですか。
金杉 NECエレクトロニクスは上場準備中です。上場することで会社や社員に活力が出て、これにより企業価値が上がれば上場の効果があります。NECソフトやNECフィールディングなど、親会社を遥かに上回る株価で、そのうち当社が買収されてしまうのではないかと心配しているくらいです(笑)。
――子会社が成長していく過程で、いずれ親会社に対して対抗意識を燃やしてくるといった懸念はないのですか。 金杉 それはコーポレートガバナンス(企業統治)の問題です。中核事業を上場させる場合は、筆頭株主として、または発注者として、上場子会社の方向付けはしっかりガバナンスしています。中核事業でない領域では、株式公開したキャピタルゲインさえ入ればいいわけですが、そうでない中核事業では上場子会社の独立性は認めつつも、グループのなかでの役割を明確にし、NEC本体が役員を送り込むなどのガバナンスが必要です。
パソコン子会社2社を統合、パートナー支援も拡充
――7月1日付でパソコン子会社2社を統合しました。当初は製造と販売の2つのパソコン子会社をつくり、互いに競争をさせているような印象を受けましたが。 金杉 パソコン事業の大改革のシナリオのなかで、当初から製販一体化する計画でした。しかし、工場の統廃合や工場のサービス会社化、さらに余剰人員の問題など、一足飛びに製販一体に行けなかったという背景があります。まずは、製造と販売とをそれぞれ子会社として設立し、段階を踏んで、今回、NECパーソナルプロダクツという形で製販を一本化したわけです。この2年間、私はパソコン事業にどっぷり漬かっていますよ。おかげで、パソコンがすっかり好きになりました。あれだけ赤字を出した事業にも関わらず、私は相当の時間を費やして取り組みました。群馬の工場のサービス会社化に際しては、NECフィールディングの全面的な協力を取り付けるなど、私でないとできない荒技もしました。また、パソコンの製造から販売までを一括して管理する情報システムに約60億円も注ぎ込みました。
パソコン子会社合併以前は、私は製販両方の役員を兼任し、毎月、双方の取締役会に参加しました。当社のパソコン事業は、過半数のシェアがあった体制のままオープンの時代を迎えてしまい、赤字事業に陥りました。しかし、一連の構造改革で、今のシェア約30%の事業規模に見合った体制となり、生産も中国への移管を進めています。さらに、パソコンとビッグローブを同じ事業ライン「パーソナルソリューション事業ライン」に置き、私の直轄事業にしました。NEC本体の本業は、「ITとネットワークの統合」ですが、NECのブランドを支えるという意味では、パソコン事業は依然として重要な位置を占めています。一般消費者に広くブランドを浸透させるために必要であるばかりか、パソコンは今後とも中核的なインターネットアプライアンスになると考えています。当社では、これにビッグローブと、NTTドコモとやっている携帯電話を組み合わせたパーソナル向け事業を展開していく方針です。
――パートナー向けの施策についてはどうですか。 金杉 当社のハードウェアの販売については、パートナー販社への依存度が高い。ところが、パートナーは当社のハードウェアを販売しただけでは儲かりません。付加価値があるビジネスを展開しなければならないのが現状です。当社も含めて、メーカーがやるパートナーに対する支援体制は依然として不十分です。今年4月の組織変更では、販売店を支援するパートナービジネス営業事業本部に、府中事業場(東京都府中市)でサーバーの開発・生産を担当していた津田(芳明氏)を、国内営業事業ラインのパートナービジネス担当の執行役員に異動させました。これにより、パートナーと国内営業部門、府中事業場の開発・生産の現場が完全に一本化します。現在約370社ある当社のパートナーに対して、技術分野から営業分野に至るまで一貫した支援策を提供できる体制をつくりました。今後は、パートナーに対する教育サービスや、顧客データベースを基盤とした付加価値販売の推進など、パートナー支援を拡充させていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビュー全般を通じ、ほぼ一貫して厳しい表情だった金杉社長だが、その分、時折のぞかせる笑顔が印象的だ。2000年春から3年間、NECソリューションズを社長として率い、パソコンの中国生産移転や国内事業再編なども陣頭指揮。この辺りの話になると言葉も弾む。現在、業績は回復基調にあるものの、株主資本比率が10%を割り込み、株価に響いている。年金代行返上などで改善を見込むものの、まずは「さらなる収益改善」が至上課題でもある。昨年のNECフィールディングに続き、今月下旬には半導体子会社、NECエレクトロニクスが上場の予定。グループの企業価値増大に向け、コーポレートガバナンス(企業統治)の手腕が注目度を増している。(夏)
プロフィール
金杉 明信
(かなすぎ あきのぶ)1941年、東京都生まれ。64年、慶應義塾大学工学部電気工学科卒業。67年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営学部修士課程修了(MBA)。同年、日本電気(NEC)入社。情報処理装置システム事業部長、C&C医療システム事業部長、第四C&Cシステム事業本部長兼支配人などを経て、95年に取締役支配人。99年、常務取締役。00年、取締役常務NECソリューションズカンパニー社長。同年、取締役専務。03年3月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
昨年11月に半導体部門をNECエレクトロニクスとして分社化したほか、ここ数年でNECソフト、NECモバイリング、NECフィールディングなど既存子会社を次々と株式公開させた。この7月1日には、パソコン製造子会社のNECカスタムテクニカと、同販売子会社のNECカスタマックスを合併させ、NECパーソナルプロダクツを設立するなど、グループ企業の再編、統廃合、株式公開を積極的に進める。
一方、NEC本体は、IT(情報)とネットワーク(通信)の両ソリューションを統合させた蕫本業﨟に経営資源を集中する。今年4月の組織改編では、それぞれ別の社内カンパニーだったITとネットワークの両事業を1つに統合した。同時に、株式公開を果たした中核的な子会社に対しては、その独立性を認めつつも、NECグループのなかでの役割分担を明確に定義したコーポレートガバナンスを強化する。