企業変革運動「リ・エンタープライジング(Re-Enterprising)」の最終年度を迎える日本ユニシス。変革の総仕上げとして、今年4月に続き、7月にも大きな組織再編を実施した。グループ子会社の大幅な増員・増強を図る一方で、日本ユニシス本体はスリム化し、新規事業の開発に専念できる体制へとつくり変えた。変革を推進する島田精一社長に聞いた。
リ・エンタープライジングの最終年度、社内組織の再編を進める
──日本ユニシスの大変革の効果はいかがですか。
島田 2001年、社長に就任してから打ち出した変革運動が「リ・エンタープライジング」です。これは企業の変革運動であり、顧客の価値を高めることを目的としています。3年目の今年は、その最終年度に当たり、一連の行動の総仕上げとして、社内組織の再編を進めました。以前のわれわれのイメージは、どちらかと言えばメインフレーム色が強く、保守的だというものでした。その一方、顧客満足度(CS)調査は毎年トップクラスで、一度受注した仕事は、どんな障害を乗り越えてもやり遂げる、赤字が出ても、途中で投げ出さないというスタイルです。これは、今から45年前の1958年、日本ユニシスが創業したときからの企業文化です。メインフレームのビジネスは、ハードを売ると、ソフトウェアが売れ、システム構築が売れ、サービス・サポートが売れるという理想的なビジネスモデルです。ところがここ10年、このビジネスモデルが崩れつつあるのは周知の通りです。
当社でも、過去10年間で連結売上高が10%減っています。サービス・サポートの売り上げは過去10年間で60%ほど伸びていますが、ハードウェアの売り上げ減を補いきれていないということです。IT市場は過去10年間を通して見れば拡大基調にあるものの、これに追いついていないというのが反省材料です。変革運動の結果、まず目に見えて伸びてきた新規事業領域が.NETビジネスです。これは、当社が開発した大型IAサーバー(PCサーバー)「ES7000シリーズ」と、マイクロソフトのウィンドウズサーバーを基盤としたシステムで、企業の大規模基幹システムを組み上げるというビジネスです。ビジネスそのものの規模はまだ小さいのですが、.NETで大規模基幹システムを構築する分野ではシェアを伸ばしており、少なくとも業界他社より3年は先行しています。
──変革を終えた後、来年度からの新しいキーワードは。
島田 それはまだ考えている途中です(笑)。来年4月までには発表できると思います。これまでが変革の基盤づくりだとすれば、来年度以降は、この基盤を足かがりに、どこまで成長軌道に乗せられるかということがテーマになると考えています。今年度は、この成長に向けた基盤づくりの総仕上げとして、組織改編を進めています。今年4月には、新規領域の開拓を専門とする「ビジネス・ディベロップメント・センター」を新設しました。われわれ日本ユニシスは、どちらかと言えば、システム構築の蕫中流工程﨟からビジネスに参加してきた傾向があります。つまり「提案依頼書」を受け取ってから提案をしていました。これを、最上流工程から参画できるよう、社内外からITを駆使した経営戦略を立てられる人材を集めたのが同センターです。
今、IT戦略を抜きにして経営戦略は考えられなくなりました。IT戦略が経営戦略と同期化することで、ITの重要性がますます高まっています。このような時代では、ITを供給する側も、顧客が抱える問題や業界の勢力図など、ビジネスのコンサルティングができなければ、最上流工程からITビジネスに参画することは困難です。提案依頼が来てからでは、ハードやソフト、サービスなど個々の商品を顧客の要望どおりに販売する蕫商品ベンダー﨟に過ぎません。もう1つ。顧客の企業価値を高める時には、できるだけ安く達成しなければなりません。顧客企業が、信頼性が高いメインフレームからウィンドウズサーバーに置き換えているのは、価格が安いという要因が大きい。当社のES7000でメインフレームと同等の信頼性を得ることができれば、高い競争力を発揮できます。
ソフト開発の生産性を高め、グループ全体で営業利益100億円へ
──7月の組織再編は、価格競争力を高めるという目的も含まれているわけですね。
島田 まず、ソフト開発の生産性を高めるために日本ユニシス本体に在籍していた約1000人の技術者を、子会社の日本ユニシス・ソフトウェアに出向させ、約2000人の規模に拡大しました。また、サポート・サービスやネットワーク構築を手掛ける子会社のユニアデックスにも、本体から約400人の人員を出向させ、同じく2000人体制に増強しました。これまでのソフト開発では、日本ユニシス本体内の各部門でそれぞれ技術者を抱えていました。各部門ごとに技術者がいると、細かなソフト開発にすぐ対応できるなど便利な面もあります。しかし、技術者が分散していることで、生産性が上がらず、コスト高になるという欠点もあります。生産性と技術水準を高めるためには、集中的な教育や、技術者同士の交流が欠かせません。たとえば、大規模なプロジェクトがいくつも同時に走っているとき、技術者が分散していると、どうしても効率的な人員配置がしにくい。この点、1つの会社に人員を集めて蕫シングルマネジメントを実施することで、効率化を図りました。サポート・サービスおよびネットワーク構築のユニアデックスは、当社からの案件だけでなく、同業他社のサポート・サービスも受注しています。
──人材を外に出してしまうと、本体とのバランスが逆転するのでは。
島田 わたしが社長に就任したときは、約6000人が日本ユニシス本体に勤務し、約3000人がグループ会社に勤務していました。これを、就任以来続けてきた再編により、この7月までに、日本ユニシス本体の人員を半分の約3000人に減らし、グループ会社を約6000人に増やしました。人員規模だけを見るならば、すでに逆転しています。日本ユニシス単体は、コンサルティングをはじめとする上流工程や新規ビジネスの開拓に主軸を置き、グループ会社はサポート・サービスやソフト開発、アウトソーシングなどの特定分野で強く成長させるためです。ユニアデックスは、97年に独立して以来、急成長を遂げており、売上高の半分近くがグループ外から稼ぎ出したものです。本体のなかに埋没していては、とてもこれほどまで成長できなかったでしょう。ユニアデックスは、たとえば、株式上場の準備を始めれば、2年で上場できます。
ユニアデックスだけでなく、日本ユニシス・ソフトウェア、教育サービスの日本ユニシス・ラーニング、アウトソーシングの日本ユニシス情報システム、エイタスなど、伸びているグループ会社が多数あります。今年度(04年3月期)の日本ユニシスグループ全体の連結営業利益は100億円を目指していますが、この利益の約半分は連結子会社が稼ぎ出す見込みです。前向きに、明るく、逃げず、知ったかぶりせず――。グループ経営の体制が整った今、日本ユニシスは成長に向けて、本格的に動き出しますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「日本ユニシス本体よりも高収益を実現する子会社を、どんどん生み出したい」島田社長は、01年の就任当時から今年7月までに、日本ユニシス本体に約6000人いた社員の約半分をグループ子会社に移管させた。本体は、新規ビジネスの開拓に力を入れ、グループ各社は、それぞれの得意分野で伸びるようにするためだ。「将来的には、高収益を達成した子会社が上場して、本体を買収するくらいの勢いが欲しい」と話す。すぐやる、必ずやる、できるまでやる――。粘り強く、面倒見がよい日本ユニシスの企業文化を継承しつつ、オープンアーキテクチャを基盤とした新規ビジネス領域の開発に、グループの総力を挙げて取り組む。(寶)
プロフィール
島田 精一
(しまだせいいち)1937年、東京都生まれ。61年、東京大学法学部卒業。同年、三井物産入社。70年、イタリア三井物産。85年、メキシコ三井物産副社長。87年、三井物産業務部企画室長兼総務室長。90年、情報産業開発部長兼新事業室長。92年、取締役情報産業本部長。96年、代表取締役常務取締役業務部長。98年、代表取締役専務取締役CIO。00年、代表取締役副社長CIO。01年、日本ユニシス代表取締役社長CEO。
会社紹介
昨年度(2003年3月期)の連結実績は売上高3088億円、営業利益88億円、経常利益90億円だった。今年度(04年3月期)の売上高は前年度比4.9%増の3240億円、営業利益は同13.2%増の100億円、経常利益は同6.5%増の96億円を予定する。アウトソーシング事業が引き続き伸びるほか、日本ユニシス本体のコンサルティング・プリセールス能力を強化したことによる新規システムサービスの案件が増加。また、ユニアデックスなどグループ子会社の業績が好調に推移しており、今年度、営業利益の約半分をグループ子会社が稼ぎ出す見込み。