業務ソリューション分野で、営業利益率30%を目指す。10月1日、東芝グループのソリューション機能を集約して発足した東芝ソリューションの河村進介社長は、収益率の拡大に全力を注ぐ。パッケージソフトを主体とした業務システムへの転換を図るとともに、グループ内外の人材を流動化。人的リソースを適材適所に配置し、間接人員の圧縮を進めることでコストを削減するなど、統合効果の最大化を狙う。
パッケージ主体のビジネスに転換、営業利益率30%を目指す
──利益率改善を最大の目標に掲げています。
河村 今年度(2004年3月期)連結売上高約3500億円のうち、ハードウェア販売の比率は約4割、ソフト・サービスの比率が約6割となっています。ハードウェアの販売比率が突出しているわけではなく、ソフト・サービスを主体とした会社であると言えます。しかし問題は、ソフト・サービスの中身にあります。現状では、たとえばシステム構築案件が100件あるとすれば、このうち60件くらいは、手組みのシステムが占めます。当たり前のことですが、ゼロから手作りで情報システムを組むのは、時間がかかるだけでなく、作り直しやバグ修正などに追われて、収益を上げにくくなっています。そこで、手組みによるソフト開発の比率を減らし、SAPやオラクルなどのパッケージを主体としたビジネスに転換します。
当社の主要ビジネスは業種ソリューション、業務ソリューション、プラットフォームソリューション、エンジニアリングソリューションの4つに分けることができます。売上構成比で見ると、業種および業務ソリューションがそれぞれ35%、プラットフォームソリューションが20%、エンジニアリングソリューションが10%となり、業種と業務の各ソリューションで売上高の約7割を占めることになります。製造業や流通業などの業種別のソリューションは、各業種に細分化したビジネスになるため、顧客の要望に沿った形で手組みのソフト開発が最後まで残る分野だと考えています。しかし一方で、財務会計や人事給与などの業務別のソリューションでは、できる限りパッケージを適用していきます。
──これからはパッケージ比率アップがビジネスの中心になっていく。
河村 05年度(06年3月期)までに、大幅にパッケージ化を進める業務ソリューション分野の利益率を30%に高めていくことを目指します。手組みによるソフト開発がどうしても残りやすい業種ソリューション分野の利益率の低さを補えるだけの高収益を、業務ソリューションで、生み出していきたいと考えています。具体的にイメージしているのは、「勘定奉行」シリーズなどで有名なオービックビジネスコンサルタント(OBC)です。OBCは、パッケージを中心としたソフト開発会社で、経常利益ベースでの昨年度の利益率が約4割。今年度も同等以上の高収益率を見込んでいると聞いています。当社でもOBCの収益モデルを参考にしつつ、売上高に対する業務ソリューションの営業利益率30%を目指します。
来年10月に新人事制度をスタート、営業と開発が一体となって受注獲得へ
──人事制度改革や間接費の削減にも力を入れるようですね。
河村 東芝情報システムやITサービス、東芝情報機器など東芝ソリューションの連結子会社とグループ会社が25社あります。この25社は、保守サービスやソフト開発、営業に特化していたり、銀行系や農協、高度道路交通システム(ITS)、物流、地域に強い会社など、各社ごとにさまざまな得意分野を持っています。来年10月をめどに、新人事制度をスタートさせ、まず、この25社のグループ会社のなかの人材の流動化を図ります。今年9月末まで、e―ソリューション社として東芝本体のなかに組み込まれていたときは、東芝の人事規定が厳しく、なかなか思い切った人材スカウトができませんでした。
今回、東芝本体から独立したタイミングで、人事制度の抜本的な見直しに着手しました。当社およびグループ会社25社のなかで、能力とやる気次第でさまざまな分野にチャレンジできる新人事制度をスタートさせ、グループ全体の活性化に結びつけます。同時に、間接スタッフの削減を推進します。今年10月、東芝の社内分社であるe―ソリューション社と東芝ITソリューションとが合併して東芝ソリューションになるとき、両社の間接部門スタッフは合わせて約430人いました。これを約150人削減して約280人にしています。削減したスタッフは、東芝本体に残したり配置転換してもらいました。
この下期末(04年3月末)までは、さらに事業部内の間接人員を約500人削減します。当社単体の社員は約5300人いますが、このうち事業部内にいる間接スタッフは約1000人。これを半分に減らし、販売管理費の削減に努めていきます。削減した間接スタッフは、収益を稼ぐ職種、部門への配置転換で吸収することを検討しています。この10月には、中国のニューソフト(東軟集団)と資本提携しました。東芝とニューソフトは、すでにITSなどの分野で提携していますが、今後は、東芝ソリューションのパートナーとしても連携を強化していく方針です。
──統合の効果は、早期に出てくる見込みですか。
河村 これまでは東芝本体のe―ソリュション社と、東芝ITソリューションとに分かれていました。社長が2人いて、スタッフも2倍。東芝ITソリューションはソフト開発が主体なので、e―ソリューション社が受注して、東芝ITソリューションに発注するという、“伝言ゲーム”ではないけれど、それに似た現象が起こっていたことも否めません。東芝ソリューションでは、伝言ゲームはいっさい認めません。間接スタッフを半減し、競争力をつけたうえで、営業担当と開発担当が一体となって、顧客からの受注を獲得する体制をつくりました。統合効果は、経営判断や経営戦略にもとづく体制づくりの高速化という面で、すでに効果を上げています。技術的にも、たとえば東芝の旧e―ソリューション社はオラクルやサン・マイクロシステムズの技術に詳しい。おそらく国内でも最高水準にあると自負しています。一方、旧東芝ITソリューションはSAPの技術に強かった。今は、この両社が統合したことで、オラクル、サン、SAPのいずれにも強くなりました。こうした技術的な点にも、統合効果が現れています。
──東芝ソリューションが「東芝」の冠を残した理由は。
河村 今回の東芝ソリューションの設立は、東芝グループにおいて、大規模なITソリューションを手がける唯一の会社を東芝本体から切り出したということです。これで、東芝本体には、ITソリューションを担当する部門はなくなりました。しかし、東芝を代表するソリューション専門会社から東芝の冠がなくなるのも具合が悪く、また、実際に営業をするうえで「東芝」という冠がまったくないよりはあった方がプラスに働くということもあります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「東芝の冠はあるものの、マルチベンダー対応であることには変わりない。当社では、これをプラットフォーム・フレキシブルと呼んでいる」「プラットフォーム・フリー」が一般的だが、「フリーでは無料という響きがあるため」、あえて「フレキシブル」を採用した。東芝ソリューションへの統合で、東芝本体にはITソリューションを手がける部門はなくなった。
「NECや日本lBMとの差別化策の1つとして、自社のハードウェアやプラットフォームへのこだわりをなくした」巨大企業の東芝を代表するシステムインテグレータとして、IT市場や顧客ニーズの変化に素早く対応するためには、「フレキシブル=柔軟性」は欠かせない。(寳)
プロフィール
河村 進介
(かわむら しんすけ)1944年、東京都生まれ。68年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、東芝入社。89年、産業システム事業部製造システム営業部長。92年、製造システム事業部製造システム企画室長。97年、流通・放送・金融システム事業部長。00年、常務情報・社会システム社副社長。e―ネット事業部長兼務。01年、常務e―ソリューション社副社長。02年、常務e―ソリューション社社長。03年6月、執行役常務e―ソリューション社社長兼東芝ITソリューション社長。03年10月、統合により東芝ソリューション社長に就任。
会社紹介
東芝ソリューションは、販売、技術、開発を一本化して、総合的なソリューション提供力の強化を目的に、今年10月1日、東芝の社内カンパニーである「e―ソリューション社」と、システム開発などを担当していた「東芝ITソリューション」が統合してスタートした。資本金200億円で、東芝の全額出資。単独の社員数約5300人、今年度(2004年3月期)の売上高は連結ベースで約3200億円を見込む。連結子会社などのグループ会社は25社あり、グループ全体の総人員は約1万800人。