シトリックス・システムズ・ジャパンは、米シトリックス・システムズの日本法人として設立され、わずか6年で主力ミドルウェア「メタフレーム」の顧客を国内に約7000社(団体)抱えるまでに成長した。昨年3月には、米本社が大幅な戦略拡大を表明。田中正利社長は、「新戦略で潜在需要は増える。国内IT業界のメジャーを目指す」と、拡大路線をひた走る考えだ。
出荷、売り上げともに30%増、セキュリティ製品も投入
──昨年は、国内の業績が急激に伸びた“当たり年”だったようですが。
田中 国内で当社の主力ミドルウェア「メタフレーム」は昨年度(2003年12月期)、出荷数、売上高ともに前年度に比べて約30%増え、顧客数も累計6900─7000社(団体)に達しました。企業内で分散化するソフトをサーバー側で集約するミドルウェアとして、システム構築上のデファクトスタンダードになりつつあると認識しています。最近のIT市場では特に、アクセス・インフラ戦略に基づくメタフレームに“追い風”が吹いているようです。メタフレームを導入したユーザーからは、とりわけセキュリティを確保する面で満足度が高いようです。セキュリティのニーズは、今後も継続的に増えるでしょう。さらに、企業内ネットワークに外からモバイル端末でリモートアクセスすることが関心事になっています。この先は、この2つを切り口にしたソリューションが伸びると期待しています。
──国内の企業では、リモートアクセスに関するニーズは、まだそれほど高くないと思うのですが。
田中 メタフレームの導入段階から、モバイルを使いリモートアクセスしようとするニーズは少ないと思います。ですが、すでに社内でメタフレームを使っている企業では今後、リモートアクセスも利用できると発見するケースが増えると思います。国内ユーザーにメタフレームの事例をプリントで配布していますが、その中には、リモートアクセスに関する国内の事例が6件ほど載っています。多くの企業の社員は、大半が何らかの形でオフィスから離れて活動しています。リモートアクセスをする目的でメタフレームを導入するのではなく、メタフレームの利用環境をリモートアクセスまで広げ、社内インフラの基盤に発展させる事例が増えてくると思います。
──セキュリティに関する製品は、どんな切り口から伸びてくると思いますか。
田中 メタフレームは、セキュア・ゲートウェイと呼ぶ機能を搭載しています。世界トップレベルの128ビット暗号化技術を使用して、社外からインターネットを経由し社内システムに安全にアクセスできます。サーバーにアクセスする際にインターネット上でIPアドレスを使うと危険が多いので、セキュア・ゲートウェイでは、ユーザーチケッティングという方法で、社内サーバーのIPアドレスをチケットに交換し、外部から不正アクセスを防ぐのです。
企業の社員や納入業者などのビジネスパートナーが外から社内のシステムにアクセスしてくる場合でも、サーバーを守りやすいのです。そのため、ビジネス拡大に向けてダイナミックにIT投資をしたいと考えている企業にとっては、不安のない魅力的な製品となっています。昨年はメタフレーム単品という考えから、セキュリティやアプリケーション管理、アクセス管理、パスワード管理など、メタフレームを1つの製品群(スイート)にする戦略に切り替えました。今年は国内市場に「メタフレーム・セキュア・アクセス・マネージャー」という新製品も投入します。セキュリティに加え、アクセス管理もシングルポイントで行えるようになります。
──ただ、これらの製品をシトリックスが単独で拡販するには限界がありますね。
田中 当社は、企業システムのインフラの一部を預かっているに過ぎません。メタフレームを導入するためのベースになるハードウェアベンダーや、OSベンダーのマイクロソフトなどと関係を強化する必要があります。それ以外でも、ネットワークを扱うキャリアやISV(独立系ソフトベンダー)、システムインテグレータなど、関係する業界のすべてとパートナーになるのを鉄則としています。このため、今年はその具体的な戦略として、これらパートナーと共同で製品をエンドユーザーに分かりやすく説明し販売する「エンタープライズ・セールス」と呼ぶ組織を社内に新設する予定で、現在人材を募集しています。また、今年1月からは、エンドユーザー向けにシステムの要件定義などを支援するコンサルティング・サービスを開始しています。
業務ソフトベンダーなどとアライアンス、「アクセス・インフラ」というジャンルを作る
──メタフレームはウィンドウズサーバー2003などで標準のターミナルサービス機能と競合するとの声を聞きますが。
田中 実は、OSをマルチユーザーに対応させるシトリックスのマルチウィン技術が、マイクロソフトにOEM(相手先ブランドによる生産)供給されていました。マイクロソフトはこの技術を核に、ターミナルサービス機能を開発しました。OSのコアに入れる部分はシトリックスがマイクロソフトに提供し、これにアドオンする形で付加機能を提供したのがメタフレームだと考えて欲しいのです。だが、両者を並べると、場合によっては競合関係にあります。 ウィンドウズのターミナルサービス機能では、TCP/IPでインターネットにアクセスするところまでサポートしていません。一方、メタフレームは、ユーザーインターフェイスのやり取りを行う、シトリックスが独自に開発したプロトコル「ICA(インディペンデント・コンピューティング・アーキテクチャ)」が高速で画面表示をするので、インターネット環境でも使いやすい状況が生まれます。
──では、ウェブアプリケーションとメタフレームとの関連はどうなのですか。
田中 ウェブアプリケーションは、基本的にクライアントとのやり取りが画面単位になっており、ブラウザを使ったインタラクティブな作業に弱点があります。また、ブラウザのバージョンがやり取りする相手同士で違うと、見え方が一定しません。最も重要なのは、企業内で過去に構築した情報をウェブ化するには、大変な労力を必要とすることです。しかし、メタフレームのウェブインターフェイス機能を使えば、ブラウザからメタフレームを起動して、アプリケーションをシームレスにリモートできるのです。
──業務ソフトベンダーやモバイル関連ハードベンダーなどとのアライアンスの今後は。
田中 中堅・中小企業向けにパッケージを提供する業務ソフトベンダーやシステムインテグレータとは、各社が持つアプリケーションとメタフレームをバンドルさせる形でアライアンスを拡充します。さらに、モバイル端末だけでなく、無線LANなどワイヤレスの世界を扱う通信キャリアとの協業は、次のチャネル戦略の主になると考えています。今後も丹念にアライアンスを掘り起こし、アクセス・インフラという1つのジャンルを形成したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
田中社長は大学卒業後、東芝に入社してメインフレームの設計を担当。東芝のノートパソコンの海外展開でも死力を尽くした。「だから、今の東芝の厳しい現状は痛いほど分かる」と話す。
メインフレームのほかにも、UNIXやウィンドウズを使ったシステム開発経験がある。おまけにJavaも知り尽くす。ソフトウェアに関しては向かうところ敵なしだ。「ストレスは自分から集める」と、敢えて逆境を求める性格。座右の銘は「艱難辛苦汝を珠にす」である。ストレスは、大好きなカリフォルニアワインが癒してくれているようだ。今年で60歳を迎える。趣味はゴルフ、ダイビングとアウトドア派で、「野鳥をこよなく愛す」が口癖。いかにも若い社長だ。(吾)
プロフィール
田中 正利
(たなか まさとし)1944年、大阪府生まれ。67年、大阪大学基礎工学部卒業。同年、東芝に入社し、大型計算機やパソコンの開発を担当。93年、サン・マイクロシステムズ(日本法人)でSolaris、Javaなどのソフト子会社を担当。98年、シトリックス・システムズ・ジャパンの日本戦略担当ディレクタに就任。99年から現職。99-03年は、ASPの普及を目的にNTTデータなど国内IT企業約50社で立ち上げた「ASPインダストリー・コンソーシアム・ジャパン」の理事として、国内のASP市場の拡大にも貢献した。
会社紹介
米IBMのパソコン用OS「OS/2」の開発チームが独立し、1989年に創設されたのが米シトリックス・システムズ。その8年後の1997年に日本法人は設立された。シトリックスは、あらゆるクライアント環境からでもサーバーにあるアプリケーションを快適に操作できる「サーバー・ベース・コンピューティング」の概念を引っ提げ、主力ミドルウェア「メタフレーム」を世界で約12万社に導入してきた。
昨年3月にはこの概念を拡充し、各種デバイスからも企業内のアプリケーションに簡単に安心してアクセスできる「アクセス・インフラストラクチャー」へと戦略拡大を図った。このため、「メタフレーム」は単体の製品としてだけでなく、「アクセススイート(製品群)」として様変わり。今年中に製品群すべてを日本語化し、リリースする予定だ。日本法人では、国内のデバイスベンダーやISV(独立系ソフトウェアベンダー)など、同社と相互補完でソリューション開発を行うパートナー戦略を拡充。今年からは、コンサルティング部門を設けるなど、さらなる飛躍に向け組織改革にも余念がない。