組み込み系ソフト開発を主力事業とするコアが好調だ。デジタル家電の需要拡大という追い風を受け、数多くの案件を受注。2004年3月1日には東証1部に上場した。今後はこれまでのノウハウを生かすことに加え、新しい組織の立ち上げやハードメーカーとの連携強化などに取り組む。昨年6月に就任した井手祥司社長は、「積極的にビジネス拡大を図る」と攻めの姿勢を崩さない。
主力事業を伸ばすため、04年度に評価・検証で新組織
──組み込み系ソフト開発事業が順調です。
井手 確かに今年度(2004年3月期)は、当社の組み込み系ソフト開発事業が好調に推移しています。今年度中間期の連結決算では、当事業の売上高が前年同期比35.6%増の21億2600万円と大幅な伸びを記録しました。携帯電話の高機能化への対応や、カーナビゲーションなど車載製品の安定受注などがビジネス拡大の大きな要因です。下期に入ってからも、この2つの事業は伸びています。今年度通期では、携帯電話への組み込みが30億円、車載製品が10億円の売上高を見込んでいます。また、デジタル家電機器の需要が急拡大していることや、地上デジタル放送が開始されたことなどにともない、デジタル家電製品への組み込み分野は、売上高が前年度比20%増の15億円の見通しです。
04年度は、この3製品を軸に伸びることはもちろん、それに付随するアプリケーションサービスが伸びるといえます。最近では、携帯電話に地図情報をダウンロードする「エアダウンロード」というサービスが開始されています。また、カメラ付き携帯電話の画素数が一層上がることや、ICカードを搭載した携帯電話が主流になるとも見ています。新たなサービスが伸びるとなれば、それに対応した携帯電話を開発することが必要になる。このため、ハードメーカー各社との連携がさらに深まると確信しています。さらに、ホームシアター分野の需要が海外で伸びています。国内外問わず、急拡大している製品を見据えながら、組み込み系ソフト開発事業にはますます力を入れていきます。
──新規に参入してくる企業が出てくるなど、競争が激しくなることはないでしょうか。
井手 もし、新規参入してきたとしても、意識的には競争しません。しかし、価格競争は必ず起きるとみています。そのため、いかにコスト安のなかでビジネスを拡大していくかが重要になってきます。そのため、04年度からは携帯電話などソフトウェアを組み込んだハードウェアの評価・検証を行う組織を設置します。これまでの組み込みソフト開発では、ハードの評価・検証を行うかどうかは各案件の契約内容によって異なりました。ですが、評価ビジネスを専門に手がける組織を設置することで、契約時に評価・検証までを確実に獲得できる体制を築いていきます。
当社では、中国にある子会社「上海コア」、「北京コア」で中国市場向けに販売される携帯電話の評価・検証をビジネス化しています。人員は50─60人体制で行っており、コストは、国内でシステムエンジニアを雇う金額の3分の1程度で済みます。しかし、製品の幅が広がってきた場合、中国で評価・検証するよりも時間的に国内で行った方が効率化が図れるという側面が出てきます。
ここで問題になってくるのが、人件費を含めたコストです。これを解決するために、山口県でアプリケーション開発などのeビジネスを手がけている当社の「西日本e─R&Dセンター」を拠点に、派遣会社と提携して、案件ごとに人員を増減させることでコストを抑えるようにします。品質については、中国市場での実績をマニュアル化することなどを徹底します。まずは、当社がソフトを組み込んだハードに関してのみ行い、初年度の売上高で2億円を見込んでいます。組み込みソフト開発のなかでは少ない額ですが、売上総利益率は30%前後になると試算しています。
買収、アライアンス、連携強化、攻めの姿勢を崩さない
──一方で、ビジネスソリューション事業は落ち込んでいますが、打つ手はあるのですか。
井手 今年度は、ビジネスソリューション事業の売上高は前年度比1.7%減の57億2600万円と落ち込む見通しです。しかし、これは大型プロジェクトが遅延したことが大きな要因です。このプロジェクトは、地銀における第3次オンラインの案件でした。来年度には確実に取り掛かれると見ていますので、大幅な売上増が期待できます。ビジネスソリューション事業を取り巻く環境で心配なのは、価格競争が一層激しくなっているという点です。この分野で生き残るためには、余程の価格破壊をしなければ利益を確保できません。組み込み系ソフト開発と比べれば売上総利益率で6%の差があるのが現状です。しかし、企業のIT投資意欲が出てきたのも事実です。昨年は提案しても振り向いてくれなかったのが、ここにきて変わってきました。こうした顧客企業の変化も踏まえて確実に案件を受注していきます。
──今年に入ってから、ソフト開発のギガを子会社化しました。その理由は。
井手 ギガはソフトウェア開発をはじめ、情報システムの運用や保守で実績がある会社です。そこで、当社が主力としている組み込み系ソフト開発事業の増強と、アウトソーシング事業の拡大を目的に子会社化しました。今後は、お互いのノウハウを組み合わせることで、今まで攻めきれていない、特に中堅・中小企業市場を開拓していきます。
──アライアンスという点では、何か予定がありますか。
井手 EMS(電子機器製造受託サービス)企業とアライアンスを組むことを計画しています。EMS企業との連携により、ハードウェアの設計から製造までを一貫して行うビジネスを昨年10月から開始しました。現段階で1社のEMS企業と提携しています。近いうちに、2社に増やす予定です。また、当社のIT資産管理ソフトである「ITAM」でパソコンメーカーとのアライアンスをさらに進めていきます。
これは、パソコンにITAMを組み込み、法人向けに販売するというビジネスです。パソコンメーカーにとっては、パソコンの品質を高めるという点でメリットが出てきます。また、顧客企業からはパソコンのウイルス対策やアプリケーションソフト管理などを行ううえで、セキュリティ関連製品と資産管理ソフトをあらかじめ組み込んで欲しいというニーズが出ています。以前、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)との協業で、サーバーにITAM製品を組み込んでIT資産管理サーバーとして販売した実績があります。これを今後は、クライアント製品にまで幅を広げていきます。4月には、メーカーとのアライアンスが具体化します。有力ソフトベンダーとの共同事業を展開することも視野に入れています。
──今年3月1日付で、東証1部に上場されました。
井手 昨年、東証2部に上場しましたが、上場までに当社にとって〝負〟になるものがすべて整理できたと自負しています。1部への指定替えにより、さらに透明感が出たといえます。今後も独立系の情報サービス企業として、高度な技術をもって、最適なソリューション、サービスを提供していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コアの前社長は、現在会長兼CEOを務める種村良平氏。コアの地位を一代で築き上げた創業者から昨年6月、井手社長兼COOはバトンを引き継いだ。「1973年に入社してから約30年間、いろいろなことがあった。社長兼COOとしての責任はあるものの、コアのコンセプト自体を変えるつもりはない」と強調する。「30年前はコアを知らない企業が多すぎて、仕事を獲得するのに苦労した」と振り返る。種村会長がよく言っていたのが、「2─3回失敗しても、1回ファインプレーをすれば良い。ノープレー、ノーエラーは良くない」だった。これが、井手社長が「変えるつもりはない」という「コアのコンセプト」だそうだ。(郁)
プロフィール
井手 祥司
井手祥司(いで しょうじ)1944年12月15日生まれ、広島県出身。68年3月、九州産業大学経営学部産業経営学科卒業。同年4月、日本電子開発(現キーウェアソリューションズ)に入社。73年4月に同社を退社し、同年5月にコアの前身会社であるデンケイに入社。85年1月、システムコアに転籍。86年7月、同社取締役。95年6月、代表取締役副社長。97年4月、コアグループ8社の合併にともない、コア取締役副社長兼経営管理本部長に就任。03年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
コアは、1962年に「システムコア」という社名で設立され、ソフトウェア開発を手がけてきた。北海道から九州まで各エリアに地域会社を設立したが、97年に地域会社8社を合併し、新生「コア」として誕生した。今年度(04年3月期)中間期の連結決算は、売上高が88億6200万円(前年同期比4.8%増)、営業利益が4億1800万円(同31.4%増)、経常利益が4億2100万円(同36.7%増)、最終利益が2億2100万円(同40.2%増)の増収増益。なかでも、主力分野の携帯電話やデジタル家電向けの組み込みソフト開発事業などが好調に推移。組み込みソフト開発事業の売上高は、前年同期比35.6%増の21億2600万円と大幅に拡大した。通期の業績予想は、売上高187億7000万円(前年度比5.5%増)、営業利益13億7000万円(同31.4%増)、経常利益13億9000万円(同30.8%増)、最終利益7億8000万円(同34.7%増)を見込む。