ミロク情報サービス(MJS)は2006年度(07年3月期)を「第2創業」の年と定め、今年度(05年3月期)から大幅な事業転換に踏み出す。会計専用機の既存ユーザー数で業界3位につけながらも、オープン化や会計ソフトウェアの普及の波に飲まれ、ここ数年、業績が悪化していた。現状打破に向け、今年度には中堅・大企業向けの新たなERP(統合基幹業務システム)の開発に乗り出すほか、運用・サービスの新たな領域として中堅・大企業市場を開拓。「トータルソリューションベンダー」へ業態転換を図るべく、投資も積極姿勢に転じる。
多種多様なサービス開発へ“種まき”を、単品ビジネスから複合ビジネスへ転換
──2004年度(05年3月期)は、大幅な事業改革を断行するようですが。
是枝 今年度は、全体として「サービス事業」の拡大を図るための仕掛け作りを、1年かけて行う計画です。まずは、会計事務所チャネル事業で2月から、国税庁の電子申告・納税に対応した「エースリンク電子申告」や、国税庁長官が定める電子証明書を個人事業者や中小企業に配布する「MJS電子証明書発行サービス」を始めました。これにともない、法人向け電子認証基盤や認証事業の構築支援サービス「ブレード」による認証局を構築。当社の顧客である全国約8300会計事務所とその顧問先企業約50万社に対し、個人認証カードをできるだけ多く発行していきます。今年度は、電子申告・納税のサービスを足がかりに、企業、会計事務所向けシステムに金融、電子商取引などの認証関連アプリケーションを連動させて、多種多様なサービスを開発するための“種まき”を開始します。
──電子証明書関連のビジネス確立に向けて、具体的にどんな“種まき”をするのですか。
是枝 まずは、電子申告・納税を実施する環境づくりをするために、会計事務所から顧問先企業に対し、電子申告・納税に必要な個人認証カードを配ってもらいます。当面は、10万社以上に個人認証カードを発行することを目指します。個人認証カードは有料ですが、1年間は低価格で提供して、普及に努めます。個人認証カードが多くの顧問先企業に渡れば、さまざまなアプリケーションを付加した多様なサービスを生み出すことができます。電子証明書に関連した新たなアプリケーションとしては、金融、決裁、電子商取引などのサービスを検討中で、今年度中に仕込む計画です。従って、金融機関やカード会社など、金融サービスを提供する会社とアライアンスを組み、当社の電子証明書サービスを付加していくことが重要になりますが、概ね構想はできています。
──昨年度の上期には、中小企業向けのERP(統合基幹業務システム)「MJSリンクシリーズ」をリニューアルしました。
是枝 この「MJSリンクシリーズ」などを本格的なトータルソリューションとして提供できるよう、さらに磨きをかけます。現在のパッケージ売りから、「トータルソリューションビジネス」を提供するベンダーへと、事業変革を短期的に行っていきます。今年度中には、中小企業あるいは中堅・大企業の財務会計などに関するニーズを把握して、「顧客の満足度」、「顧客の期待」を超えた付加価値の高いサービスを構築したいと思います。具体的には、これまで当社がソフトやパッケージ、ソリューションを提供してきた会計事務所や中小企業に対するシステムの「運用・サポートビジネス」を拡充し、運用・サポートを行っていくなかで信頼感を得て、顧客ニーズに応じた当社の新たなソリューションを提供していきます。
──会計事務所のシステム構築に強みを持つミロク情報サービスが、「トータルソリューションビジネス」という分野に新規参入するのですね。
是枝 「MJSリンクシリーズ」をコアにしながら、システム構築のITコンサルティング的な性格を帯びたビジネスを展開するため、順次変貌を遂げていきます。そのために、より一層システム構築のノウハウを身に付けるIT教育を強化するほか、システムインテグレータやITコンサルタントと業務提携を進めていくことになります。今までは、人事、財務、給与、販売など各パッケージを単体で売る業務形態でした。今後は、これらのパッケージやCRM(顧客情報管理)などを含めたトータルなソリューションを提供したいと思います。現在、新たなCRMパッケージを独自開発しています。単品ビジネスから複合ビジネスへ転換していくのです。
──つまり、今年度はこうしたアプリケーションやソリューション開発の“仕込み”を行う重要な準備期間になる。
是枝 これまで当社が得意分野としていた中小・中堅企業向けビジネスは従来通り進めていきます。しかし今年度は、システムインテグレータやITコンサルタントが扱う上で魅力的な中堅・大企業向けソリューションを展開するため、本格的なオブジェクト指向(部品化によるソフト開発の手法)により全体最適化した製品を作り上げます。 ERP大手のSAPとも十分に戦える製品として、来年度上期中にはオブジェクト指向に基づくまったく新しい中堅・大企業向けERP製品を出荷する予定です。このため、新製品開発の専門組織として4月1日付で「新商品企画開発本部」を新設しました。ここに人材を積極的に投入します。この本部長には、私自らが就き陣頭指揮を執ります。
中堅・大企業をターゲットに、運用・サービスで利益を
──中堅・大企業向けビジネスは、他のシステムインテグレータでさえ躊躇する領域で、大変リスクが高いと思うのですが。
是枝 大企業に強みのあるSAPなどが中小企業市場に進出するには限界があります。しかも、大企業向けでは、ERPを構築すると億単位でシステム構築費がかかります。当社は、中小・中堅企業領域で培ったノウハウをもとに、コストパフォーマンスの面でこれらを上回る製品を出せると思います。当社は、主力事業だった会計専用機の出荷を2年前に止め、大半を汎用機売りに移行しました。しかし、売上増には貢献しても、利益率を高めるまでには至りませんでした。ですから、オープンプラットフォームのERPを作り、運用・サービスで利益を上げるビジネスモデルを構築したいのです。
当社は、すでに会計事務所を通じて中小・中堅企業の顧客を獲得しています。それらの経験をもとに、中堅・大企業向けに伸ばしていきます。来年度(06年3月期)上期までに新たなERPを出し、再来年度(07年3月期)が当社にとっては「第2創業」の年になると考えています。
──4月1日には会計ソフトウェア「かんたん会計」などを出していた旧ユニシンクの営業権を譲り受け、新会社「ミロク・ユニソフト」をスタートさせました。
是枝 パソコン量販店の流通網を通じて、当社の会計事務所統合管理システム「エースリンクシリーズ」とデータ連携できる「かんたん会計」を広く行き渡らせ、中小企業を当社の会計事務所ネットワークに呼び込みたいと思います。従来は、会計事務所から顧問先企業を開拓してきました。量販店でパッケージを中小企業に販売することで、中小企業を会計事務所のシステムに組み込む逆の“商流”を作りたいと思います。旧ユニシンクの営業権獲得は、そこが最大の目的です。会計ソフト販売では、どうしても量販店に足繁く通う必要があります。早速、当社の全国拠点の営業担当者が量販店を積極的に回るようにしました。会計ソフトの販売で高い利益を上げることは考えていません。顧客層を拡大して、当社の次の主力事業になる運用・サービスに呼び込みたいのです。当面、量販店向け販売では、「打倒弥生」を目標にしています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ミロク情報サービスが1977年に創業して以来、ずっと役員の立場で経営の指揮を執ってきた。しかし、オープン化の波に押され業績が悪化。「ここ数年は辛酸をなめたが、これがいい経験になった」と、逆境を乗り越え「第2創業」に向かう。大学生時代は、映画監督になろうと映画会社の松竹を受験するも失敗。今でもこの芸術家志向は変わらず、美術工芸品を鑑賞しに美術館や博物館によく足を運ぶ。ミロク情報サービスの活発な文化活動もこの影響からか。4月1日付で新たに「新商品企画開発部長」の肩書きが加わった。中堅・大企業の領域にビジネスの帆を進める。「SAPと競合するような存在になる」と、意気込みは相当なもの。今後が楽しみだ。(吾)
プロフィール
是枝 伸彦
是枝伸彦(これえだのぶひこ)1937年9月11日生まれ、鹿児島県出身。60年、中央大学法学部卒業。同年、東京オフィスマシンに入社。65年、ミロク経理に入社。73年より同社取締役を務め、その後副社長となる。77年、ミロク情報サービスを設立し、取締役に就任。80年に代表取締役社長、95年に会長兼務となる。83年、社団法人日本情報通信振興協議会設立に参加、常任理事。85年、音声VAN協議会を立上げ会長に就任。94年、情報通信4団体統合により社団法人テレコムサービス協会設立、副会長に就任した。
会社紹介
会計専用機メーカーとして一時代を築いたミロク情報サービス(MJS)。2年前からは、会計専用機の販売を中止し、汎用機を中心とするサーバーなどのハードウェア販売に加え、税理士・公認会計士事務所とその顧問先企業向けの業務用アプリケーションソフトの開発・販売を行っている。
しかし、パソコン量販店を通じた会計ソフトウェアが普及し始め、顧問先企業の顧客が減少。同社が主力としていた会計事務所を中心とするシステム構築ビジネスが揺らいだ。これにともない、2001年度(02年3月期)で赤字に転落。この窮状を打開するため、会計専用機の販売を中止。この結果、02年度(03年3月期)に再び黒字転換を果たし、さらに昨年度(04年3月期)は企業向けERP(統合基幹業務システム)と運用・サービスの強化により、黒字幅は一段と拡大したもようだ。
今年度(05年3月期)は、4月1日付で旧ユニシンクの営業権を獲得するなど「積極的な戦略転換を図るための“種まき”をする」(是枝社長)方針。ソフト開発の強化などを進め、大幅な事業改革を断行する。