ソフトメーカーのクレオがビジネス転換に乗り出す。個人向け、企業向けの各ソフト市場で、新規顧客の開拓を見据えた新製品を発売。両ソフト分野と主力事業であるシステムインテグレーションビジネスとの連携を強化し、シナジー(相乗効果)の発揮を狙う。4月1日付で経営トップの座に就いた秋山雅幸社長は、「ビジネスソフト市場は低価格化や企業間競争が激しく、既存のビジネスモデルを推し進めるだけでは生き残っていけない」と現状を認識。「反転反攻」に打って出る構えだ。
筆まめの携帯電話版を発売、“季節商品”という概念を変える
──社長就任から1か月余りが過ぎました。クレオの新しい方向性は固まりましたか。
秋山 ここ数年、当社の業績は決して良いとはいえません。そのため、今年度(2005年3月期)はキーワードに「反転反攻」を掲げ、従来型ビジネスのなかに新しいビジネスモデルを加え、今後の10年間も競合他社と十分に戦っていける企業にしていきます。当社の看板ソフトである「筆まめ」は、年間15─16億円の売上規模で伸びが止まっています。年賀状ソフトのなかではシンボリックなソフトと自負しているのですが、売り上げが伸び悩んでいる点が課題です。これは、年賀状需要の減少により新規顧客が獲得できないことや、低価格ソフトの登場、雑誌に付録としてついている簡易版ハガキ作成ソフトなどによる過当競争が要因といえます。こうした厳しい環境のなか、コンテンツを含めビジネスプロセスを再検討し、新しいビジネスモデルを構築していかなければ、生き残れないと実感しています。
──具体的には。
秋山 今秋をめどに、筆まめの携帯電話版を発売することを計画しています。最近では、年賀状を書く代わりに、携帯メールで年始の挨拶を済ませる若者が多い。こうした需要に対応していきます。新製品は、携帯電話のメール機能を使って年賀状を作成できるのが特徴です。パソコンと違い、携帯電話はキーボードやマウスを使うわけではないため、ボタンで簡単に操作できるように仕上げます。また、筆まめの住所録機能を携帯電話版でも提供する予定です。この機能はハガキを作成する時だけでなく、取引先データの管理にも活用しているビジネスマンが多いからです。そのため、ハガキ作成機能とは別に、住所録機能だけを企業向けに販売していくことも視野に入れています。
実際、企業の間では、各営業担当者が社内の取引先データを共有し、携帯電話を通じて閲覧したいというニーズが出てきています。宅配便などを手掛ける配送業者であれば、住所録データが携帯電話に対応していれば、配達の効率化にもつながるといえます。筆まめを活用できる端末がパソコンだけという点や、ハガキ作成の時だけ筆まめが活用されているといった視点を変えることが、新規需要を開拓するカギになると確信しています。携帯電話版の販売方法は、パッケージやダウンロード、ASP方式など最適な売り方を今後詰めていく予定です。
──最近では、ビジネスソフトの販売が厳しいため、ソフトコーナーを縮小する量販店が目立ちます。量販店でのパッケージ販売という従来型ビジネスの強化策は。
秋山 量販店での筆まめは現在、“季節商品”としての色が濃いといえます。ハガキ作成ソフト市場でトップシェアを維持していくために、新しいバージョンを継続して発売していくことはもちろんですが、携帯電話版の提供で“季節商品”という概念を変えることができ、パッケージソフトの販売増にもつながるのではないかとみています。
携帯電話版のサービスを立ち上げるのは、筆まめビジネスの売り上げが伸び悩み、利益確保が難しくなっていることが最大の要因です。率直に言って、筆まめビジネスの人員が過剰になり過ぎています。社内的には、新しいビジネスに人員を振り分けることで収益性を上げるのが狙いです。筆まめビジネスの利益率は1ケタ台前半です。担当している人員で割れば、ビジネスになっていないのが現状です。今年度は、まず売り上げを前年度比で2ケタ増、利益率を1ケタ台後半に引き上げます。
ソフトウェアビジネスはサービス業、積極的なパートナー戦略の展開へ
──業務ソリューションの強化も課題ですね。
秋山 人事給与、財務会計ソフトの開発やソリューションを提供するCBMS(クレオ・ビジネス・マネージャー・サービス)事業では、ソフト開発に今年度は思い切った投資を行います。最近では人事・会計ソフトの分野で、中堅・中小企業市場に参入するメーカーが増えています。当社のソフトは、中小企業での導入は多いものの、中堅企業へのアプローチが足りないと痛感しています。中堅企業向けのソフトを開発することで、顧客層の幅を広げます。年度末需要に合わせた発売を予定しています。
また、センターを活用したリモート監視を行うことも検討しています。現段階では、当社はリモート監視センターを持ち合わせていないため、監視サポートの技術をもつ企業とアライアンスを組む計画です。人事・会計ソフトにおける当社の強みは、3か月で導入できるという短納期に加え、中小企業への販売実績が多かったことから価格面で優位性があります。しかし、価格面については、他社も低価格化を進めているため、競争が激しくなることは必至です。そんななか、新製品では付加機能やサービスを追加して提供することで差別化を図っていきます。
──個人向けプロダクト製品を企業向けにも販売していくことや、CBMS事業で顧客層の幅を広げるための新製品を発売することは、売り上げの5割以上を占めるシステムインテグレーションビジネスを強化することにもつながりますね。
秋山 そうです。各ビジネスの収益性を高めることに加え、これまでバラバラだった各ビジネスの連携強化も狙いとしています。筆まめは、コンシューマ市場での圧倒的な地位を誇っていると自負していますが、ビジネス用途の点では知名度が低い。連携を強化することで各事業の相乗効果を発揮できると確信しています。当社のシステムインテグレーションはこれまで、システムエンジニア(SE)の派遣ビジネスの色が濃かったといえます。しかし、今後はSEを派遣するだけのビジネスでは利益増につながらないといえます。ソフトウェアビジネスはサービス業です。顧客が求める機能に、いかに早く対応していけるかが生き残っていく道といえます。実際、インテグレーションの売り上げは決して下がっていません。しかも、システム構築の段階でトラブルの発生をなくせば、利益を充分に獲得できます。
──新規ビジネスを拡大していくうえでの営業戦略は。
秋山 直接販売と間接販売の双方を手掛けているため、これまでは本格的にパートナー戦略を掲げることはありませんでした。しかし、今後はアライアンスなど積極的なパートナー戦略を展開し、提携企業の販売ルートも活用して拡販につなげていきたいと考えます。CBMSやシステムインテグレーションといった企業向けビジネスの販売パートナーが、個人向けソフトである筆まめも販売するという構図を構築するため、パートナー支援策の強化を検討します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コンシューマ向けソフトのなかで、ハガキ作成ソフトは普及率が高く、成熟した市場といわれている。このため、各メーカーはビジネス拡大に力を注ぐものの、なかなか売上増に結びつかないのが現状だ。一方、業務ソフト関連市場は、大手メーカーが中堅・中小企業市場に相次ぎ参入するなど競争が激しくなっている。こうした環境下、「既存のビジネスを展開しているだけでは生き残っていけない」と秋山社長は現状を見つめる。新しいビジネスを立ち上げるにも、既存のビジネスを全く無にするにはリスクが大きい。この難解な方程式を解くべく、「反転反攻」をキーワードに、既存ビジネスをベースにいかに新しい取り組みができるかに挑戦している。(郁)
プロフィール
秋山 雅幸
(あきやま まさゆき)1947年1月19日、新潟県生まれ。70年3月、東京大学経済学部卒業。同年4月、富士通入社。88年12月、第1システム統括部長。99年4月、第1システム事業部長。02年4月、金融営業本部長代理。02年12月、クレオに入社し専務執行役員に就任。03年6月、専務取締役。04年4月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1974年3月に設立されたクレオは、ハガキ作成ソフト「筆まめ」によりコンシューマ市場で圧倒的な地位を誇っている。企業向けでは、人事給与・財務会計ソフトのパッケージ販売をはじめ、システムインテグレーションビジネスを手がける。今年3月で30周年を迎えた。03年度(04年3月期)の連結業績は、売上高が前年度比1.8%増の116億円、経常利益が同1.0%増の2億1000万円、最終損益が4000万円の黒字(前年度は1億4800万円の赤字)と、黒字転換を達成したもようだ。だが、コンシューマ市場におけるビジネスソフトの低迷や企業向けソフトの競争激化などにより、厳しい状況が続くことは必至と判断。今年度(05年3月期)は、既存のビジネスを生かした新しいビジネスを立ち上げることに力を注ぐ。加えて、コンシューマ市場でのソフト販売、企業向けのパッケージ販売、システムインテグレーション事業によるシナジー(相乗効果)の発揮も視野に入れる。