合併特例法は実質的に1年延長の形になりそうだ。しかし、合併自治体に時間的な余裕はできても、情報システム統合を担当するシステムインテグレータやベンダーにとって、時間が少ない状況には変わりない。CDCソリューションズは、合併自治体のIT統合コンサルティングをこれまでに30件以上受注してきた。さらに、会社設立からの課題だった統合型フロントシステムもビジネスの戦列に加わった。中尾宏行社長は、「合併コンサルを通じて自治体を開拓した。統合型フロントシステムでさらに事業拡大を見込む」と意欲を見せる。
市町村合併でITコンサルティング、第3者的立場で評価する
──合併自治体では庁舎の場所や組織の問題など、さまざまな形でしこりを残しているところが多い。情報システムの統合でも、そういう危険性をはらんでいます。
中尾 実際、これまで1つの自治体がベンダー1社と付き合って来たのとは異なり、市町村合併では、複数の自治体に複数のベンダーが入り乱れる状況になっています。自治体だけの話し合いでは解決できない問題も多い。そこで「第3者的な立場から、ベンダーの提案やプロジェクトの進め方の評価をしてもらいたい」というニーズが生まれ、CDCソリューションズ(CDCS)はIT統合のコンサルティングを事業化しました。今では、提案依頼書(RFP)に対する評価、業者の提案を評価して業者決定するところからコンサルを始める案件が非常に多くなっています。合併して新しい市ができるというのは、これまで条例や規則があったのとは異なり、白紙から立ち上げるのに等しい。情報システムにしても、条例や規則という前提のないところから構築しなければならないという難しさがあります。当初はベンダーによって提案内容の差がありましたが、合併特例法の期限が迫ってきて、その内容の差はなくなってきました。
──合併特例法は実質的に1年間の延長になるが、自治体の合併に対する考えが変わるわけではない。IT統合についても、パッケージかカスタマイズかで綱引きが続きそうです。
中尾 時間が限られているなかで、大手ベンダーではパッケージソフトの導入を進める方向に変わっています。そうした動きを踏まえ、CDCSとしても、新しい自治体に移行した時にデータの移行が完了しており最低限の業務が行えるようにシステムを構築し、使い勝手の良さをアップするなどのカスタマイズについては合併後に投資してやる方がいいだろう、というような提案をしています。最初からカスタマイズを中心にシステム構築を目指せば、時間切れとなる恐れもある。新しい自治体ができた時に、住民に迷惑をかけないことを最重要の使命として、どのようにプロジェクトを進めるかを提案しているわけです。
業者選定までにはRFPを作ったりなどで約3か月。メーカーが決まる以前のその段階から、新しい自治体の業務を既存のパッケージに合わせることができるならば、そのままパッケージを採用した方がいいですよ、というように言うケースもある。メーカーにも自治体にも、基本的にはパッケージ利用が時間的にも早いけど、カスタマイズする部分も最低限出てくる。できれば、パッケージに合わせた業務スタイルを確立した方が効率的なので、合併協議会の各分科会に対して業務の進め方の見直しを要望することもあります。逆に地元のシステムインテグレータなど、合併のIT統合の仕事が初めて、という企業もある。その企業にとっては、何から始めていいのか分からないというのが本音だ。その場合、CDCSが合併日までのスケジュールの作り方から、作業項目などについてもアドバイスする場合もあります。
──合併時のIT統合にかかわる多くの課題の“交通整理”を求められている。
中尾 そういう点で期待されているというのは事実でしょう。最初に手がけた南アルプス市は、地域特性や情報システム担当者の決断も早かったことで、非常にスムーズに進んだ。現在までに36件程度の合併プロジェクトを受注し、今後もいくつかの案件を獲得できそうですが、これまでの実績が非常に自治体から評価されているというのが実感です。すでに完了した合併案件もあるが、きっちりと交通整理ができ合併当日にシステムの安定稼動ができたことが評価されており、期待に応えることができていると自負しています。
電子自治体案件の本格的商談はこれから、地域のシステムインテグレータも注目
──その一方で、会社設立時からの課題だった統合型フロントシステム「e-nexPort」の開発が完了し、コンサルだけではなく電子自治体構築のシステム提供もビジネスの領域に。
中尾 CDCSのビジネスコンセプト自体、e-nexPortのようなツールを使って自治体の電子化を進めることに置いていました。時間はかかりましたが、昨年秋の開発完了から非常に高い評価を受けています。電子申請のための商談が進んでおり、今年度上期中に受注できる見込みも立った。ただ、地方自治体ではまず合併ありき、となっていることで、メーカーも合併に集中している段階。電子申請システムは後回しになっているため、急速に需要が立ち上がる状況にはない。本格的な商談は、2005年度のシステム案件として予算作成の段階から始まると見ています。合併に伴う情報システム統合のコンサルから自治体ビジネスを始めることになりましたが、これにより自治体からの信頼を得て、CDCSという名前が認知され、e-nexPortが加わったことで電子自治体構築ビジネスを拡大できるようになりました。これまでは自治体とベンダー1対1の付き合いだったが、そこにわれわれのようなコンサルやツールを提供する業者が加わって、3者で電子自治体を構築する仕組みが定着することを期待しています。
──e-nexPortのビジネスでは地域の有力なシステムインテグレータに対し、ツールとして供給していくことを表明していますね。
中尾 現在、検討しているところも含めて10社以上と商談を進めています。すでに開発キットとして購入したところもありますが、具体的にパートナーとしての契約などは、秋以降になりそうです。当面はツールとして供給していくことが中心となり、われわれのソリューションとして提供するのはもう少し後になるでしょう。期待以上に地域のシステムインテグレータからも注目されています。これまでメインフレーム中心の自治体システムでは、中央のメーカーがシステムを作って、地域のシステムインテグレータは下請け的な立場で、プロジェクトに参画せざるを得なかった。しかし、クライアント/サーバー(C/S)化などのなかで、地域のベンダーが中心になるチャンスも増え、電子化のための有力なツールとして期待されているようです。
──一方で、県単位での電子申請フロントシステムの共同利用の動きが活発になるなど、e-nexPortの事業拡大にも難しい面があるのでは。
中尾 確かに電子申請などの共同運用が多くの県で検討されています。しかし、県が中心となって開発するフロントシステムで、市町村単位のさまざまな電子申請をカバーできるようなシステムを構築できるわけではありません。e-nexPortは、市町村レベルでの電子申請システムを開発する際の基盤システムとしての需要があると考えています。合併コンサルを通じて、市町村レベルのニーズについては把握しています。コンサルやツールの提供、システム開発で“痒いところに手が届く”ように、自治体の電子申請システム開発ニーズに応えていくつもりです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
統合型フロントシステムの開発に時間がかかったことで、逆に市町村合併のコンサルに注力してきた。それが、電子自治体構築にも効果を発揮することになる、と中尾社長は見ている。出資企業も設立当初に比べ倍以上に増えた。「これからも出資企業は出てくるかもしれない」と、電子自治体構築ビジネスへの参入する企業が参画してくる可能性も否定しない。こうした自信もやはり、「オンリーワン製品」である統合型フロントシステムという〝弾〟を得たからともいえる。電子申請システムについての競合相手は、もはや総務省か。市町村のニーズに応えるシステムを提供できるという自信にあふれた態度は、まったく揺るがない。(蒼)
プロフィール
中尾 宏行
(なかお ひろゆき)1947年生まれ、東京都出身。71年、東京理科大学理学部物理学科卒。同年、三井情報開発入社。79年、日本ナレッジインダストリー(現アイエックス・ナレッジ)入社。87年、取締役証券システム部長。97年、常務取締役。01年、CDCソリューションズ常務取締役。03年6月から現職。
会社紹介
アイエックス・ナレッジ(IKI)、アルゴ21、ウッドランド、情報技術開発などが出資し、2001年10月に設立。社名のCDCとは「コミュニティ・データ・センター」が由来。市町村合併の情報システム統合だけでなく、電子自治体構築のためのコンサルティング、システム開発を行っている。現在ではテプコシステムズ、松下電工インフォメーションシステムズ、アイネット、コアサイエンス、日本データコントロールが出資企業に加わり、資本金も当初の4500万円から8500万円に拡大した。売上高は2002年度(03年3月期)1億1000万円、03年度(04年3月期)2億5000万円と倍増。04年度の予想は売上高6億6000万円で、設立後初の最終黒字を目指す。