日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)は、会員企業間の技術連携を促進し、より幅広いIT需要に応えられる体制づくりに取り組む。6月9日付で新会長に就任した淺田隆治・ウッドランド会長は、「ごまめの歯ぎしりはするな」と、技術力のある中小・ベンチャー企業の技術連携を強化することで、政府調達レベルの大規模情報システムの受注に耐えうる仕組みづくりに力を入れる。
委員会活動の充実を図り、3年以内に会員数1000社へ
──会員数が頭打ちになっているように見えます。抜本的な改革が期待されているところですが、新会長としてどのような施策をお考えですか。
淺田 日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)は、中小・ベンチャー企業の育成に重点を置いて活動していく点で、今後とも変わりません。日本の中小・ベンチャーを取り巻く支援体制は、近年、大幅に整備が進んだと認識しています。今後は、中小・ベンチャー企業の中身をこれまで以上に充実させていくことがJPSAの重要な役割の1つだと考えています。JPSAでは、会員同士のアライアンスを推進する「アライアンスビジネス委員会」や「人材育成・教育委員会」など、委員会活動を強化してきました。オープンソース分野や国際的な活動にも力を入れています。これら委員会活動の充実を図り、会員であることのメリットを最大化することで、現在の準会員なども含めた会員数約500社を、3年以内をめどに倍の1000社に増やす考えです。
米国のIT産業が世界でいち早く勃興したのは、シリコンバレーの存在が大きく影響したと考えています。ソフトウェアの開発は、基本的に才能あるエンジニア個人の頭脳からつくられるもので、個人の創意工夫が大切にされない風土では良いソフトは生まれません。しかし一方で、情報システムは地球規模で稼働する巨大なものもあり、独立した小さな技術者集団だけでは対応しきれない場合も多くあります。シリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルなどが、まるでブドウのつるのように発達し、個々の独立した小さい技術者集団を結び付け、大きな生産力に転換できたことが、その後の米国IT産業の発展で大きな役割を果たしました。つまり、ソフトウェアは、没個性でもダメで、個々人がバラバラになっていても成長しないという特性があります。そうしたなか、国内ではJPSAが仲介役となり、ブドウのつるのように会員企業を結び付け、大きな仕事を成し遂げられるよう貢献していきます。
──日本にシリコンバレーモデルをそのまま当てはめるには無理があるような気がします。「つる」を張るような母集団をどこに求めていくお考えですか。
淺田 JPSAが設立母体となった東京都小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合(TSK)は、現在、約4000社・17万7000人の組合員がいます。平均すると1社あたり約40人の中小・ベンチャー企業の集団です。JPSAが各種委員会活動などを通じてこれら4000社のベンチャー企業へのメリットを打ち出せば、また、多くの企業のJPSAへの入会が期待できます。母集団としては17万人以上いることになり、大手システムベンダー以上の規模を誇っています。JPSA会員とTSK会員は、相互に加盟している企業が多いのも特徴の1つです。ただ、これら4000社の企業を束ねていくとき、「商売人の集団」であったり、「仲良しクラブ」であったりしては、うまく行きません。基本はあくまでも技術情報の交換から始まります。相手の技術を見定めて、連携できるところはどんどん連携する。「ごまめの歯ぎしり」をしていても仕方がないわけで、4000社・17万人が技術的に連携し、大きな力を発揮することが求められているのです。これが実現することは、日本版の巨大なシリコンバレーをつくるのと同じ効果が得られるでしよう。
ベンチャー企業の技術連携を全面支援、JPSAが1つの巨大な企業として活動する
──会員を増やし、会費収入が増えれば、より活発な活動が可能になりますし、政府に対する影響力も増します。
淺田 JPSAは、財政的に豊かでなかった時期もあり、JPSAの認定試験である「CAD利用技術者試験」や「パソコン財務会計主任者試験」を収益の柱の1つにしていることも事実です。これら認定制度は、公益的に意義のあるものであり、収益の柱の1つにすることは決して卑下することではありません。健全な財務基盤を維持することは、JPSAの運営上、重要なことです。今後、会員が増えていけば、会費収入の増大も見込めることから、これまで以上に活動の領域を広げることができます。ただ、政府への影響力という意味では、すでに経済産業省などがベンチャー支援制度の充実を図ったことから、今の段階でどうこう異議を申し立てる考えはありません。そうではなくて、政府はJPSAやTSKの会員にとって大切な主要顧客と位置づけています。われわれは17万人以上の人材を母集団としているプロ集団であり、政府にはITベンダーの1つとしてご愛顧いただきたいと考えています。
政府調達は発注額が巨大で、大手ITベンダー4社がシェアの多くを占めています。われわれ中小・ベンチャー企業は、幾重にも重なった下請け構造のもとで政府調達の仕事を獲っているのが現実です。周知の通り、下請け構造の末端では価格抑制の圧力が強く、収益性の高いビジネスはできません。そこで、政府調達に関して、もっとベンチャー企業が活躍できる場所を政府に求めたいところなのですが、これも困難が予想されます。なぜなら、政府の指導により下請け多重構造になっているわけではなく、われわれIT業界自らがその構造をつくっているからです。政府の力でこれを崩せるものではありません。解決するには、われわれ自身が「自分たちの力で立つ」という意志を持つことが欠かせません。JPSAは、こうしたベンチャー企業の連携を全面的に支援します。JPSA会員の技術マップは、大手4社の持つ技術マップと同様の幅広さがあると自負しています。個々の会員企業が得意の技術を持って自立していると同時に、JPSAが1つの巨大な企業のように活動すれば、政府調達の巨大な情報システムのプライム(主契約)受注も可能となります。多重下請け構造を突き崩せる潜在力は十分にあります。繰り返しになりますが、ごまめの歯ぎしりをしていてはダメです。
──OS(基本ソフト)やデータベース、ERP(統合基幹業務システム)などで欧米企業が優勢ですが、国内企業が劣勢返上できる分野はどこですか。
淺田 わたしは、業務アプリケーションの分野は早晩、国産勢優位になるのは間違いないと思います。外資に負ける気がしません。言語と習慣の違いは、そんな簡単に乗り越えられないからです。ただ、国内の業務アプリケーション分野でどれだけ優位に立っても、所詮は言語と習慣のなかで勝ったものなので、グローバル展開しにくい。グローバルで優位に立つには、アプリケーションもさることながら、ミドルウェアやOSなど基盤分野で秀でる必要があります。たとえば、情報家電の組み込みソフトやゲームソフトなどが成功事例だと言えます。企業や政府で使う業務システム分野においても、個々の中小・ベンチャー企業が持ち前の技術をうまく連携させて、基盤ソフト分野で優勢を勝ち取っていくことが、日本のIT産業の振興に欠かせないと考えています。JPSAは、こうしたベンチャー企業の技術連携を全面支援する中心機関として活動していく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本にシリコンバレーがあるとすれば、それは東京──。淺田さんの住まいは神戸(兵庫県)で、ウッドランドの本社は大阪にあるにもかかわらず、週の半分は東京に足を運ぶゆえんである。「日本はITベンチャー大国であり、東京に集積している。シリコンバレーからITが勃興したように、JPSAが東京に集中する中小・ベンチャー企業の技術連携の橋渡し役になることで日本のIT産業の底上げを図る。技術連携を基盤として、大規模情報システムの開発も可能にする」と、連携支援の拡充に力を入れる。「ソフトウェアは、個性が生きる小規模な技術者集団が活躍してこそ独創的な発展が望める。だが、それだけでは大きな仕事はできない」と、JPSAならではの業界振興策を描く。(寶)
プロフィール
淺田 隆治
(あさだ りゅうじ)1939年生まれ、奈良県出身。64年、京都大学文学部卒業。同年、神戸市立中学校教員。76年、ウッドランド監査役。88年、専務取締役。97年、代表取締役社長。同年、日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)常任理事。00年、JPSA副会長。03年、ウッドランド代表取締役会長。04年6月9日、JPSA会長に就任。
会社紹介
日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)は、今後3年以内をめどに準会員などを含めた会員数を、現在の約500社から倍の1000社に増やす。「アライアンスビジネス委員会」など各種委員会活動を充実させることで、会員のメリットを最大化する。
個々の企業が持つ技術的な強みを連携し、大規模なシステム開発にも耐えうる基盤づくりを進める。また、JPSAが設立母体となった東京都小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合(TSK)に加盟する約4000社・17万7000人にもJPSA会員になるメリットを訴求。会員数拡大に弾みをつける。
会員数を増やすことで財政基盤を強化すると同時に、カバーする技術マップの範囲を広げ、より幅広い需要に対応できる技術連携づくりに力を入れる。すでに、現在のJPSA会員の技術マップは「大手ITベンダーに匹敵する広さ」(淺田隆治会長)と位置づけており、今後とも引き続き拡充を急ぐ。