6月5日で40周年を迎えた協立情報通信。通信と情報を巧みに組み合わせ、事業を伸ばしてきた。だが、佐々木茂則社長は、「まだ目標に到達しておらず、40周年を祝う気になれない」と創業社長として厳しい評価を下す。今年を新創業の年と位置づけ、到来するユビキタス時代の新市場で“利用文化”の創造に力を入れ、これまでにない大きな成長を目指す。
「誘発」や「攻撃」で市場創出、08年までに年商100億円目指す
──創業からの40年間を振り返ると同時に、この先の目標をお聞かせください。
佐々木 今は、通信と情報を融合させる道具立てが急速に充実してきた段階です。これまでの40年間を振り返ると、ユビキタス時代の創造に向けて、ひたすら足場を固めてきたという点は評価できても、わたしが目指す目標にはまだ到底近づいていません。そういう意味で、40周年を祝う気にはなれないし、事業を拡大させる余地は依然として大きいままだと認識しています。今年は、新しい創業の年だと位置づけ、2008年の北京オリンピックまでには年商100億円の達成を目指していきます。昨年度(04年2月期)の売上高が62億円、営業利益2億2000万円でしたから、年商100億円は楽観的な目標ではあります。しかし、市場の需要をつかむ基盤は、これまでの積み重ねでほぼでき上がっていることから、決して到達不可能な数字ではありません。
これまでの40年間、オリンピックは10回分見てきました。創業した1964年は、東京オリンピックの年でした。わたしは東京・日本橋の百貨店の通信コーナーで、今でいうところのビジネスフォンを販売していました。今でこそ協立情報通信という名前はよく知られるようになりましたが、当時はまったく後ろ盾がない脱サラ起業家でしたから、メーカーの信用力をうまく活用することがビジネスを伸ばすうえで重要なことでした。
──NEC、オービックビジネスコンサルタント(OBC)、NTTドコモ、マイクロソフトのベンダー4社との関係を重視した経営をしておられます。
佐々木 これまで40年間のビジネスを振り返ると、有力なテクノロジーパートナーと良好な関係を保ち、驕ることなく、まじめに商売をしてきました。もし驕ったところがあれば、40年どころか3年ももたなかったでしょう。顧客企業はもちろんのこと、ともに成長できるテクノロジーパートナーとの関係強化を重視してきました。コンピュータとネットワークのNEC、業務アプリケーションのOBC、移動体通信のNTTドコモ、プラットフォームのマイクロソフトと、主要4社の商材を組み合わせれば、ユビキタス時代にふさわしい情報と通信を融合したソリューションを顧客企業へ提供できます。端的な事例としては、たとえばNTTドコモの次世代携帯電話「フォーマ」の画面にOBCの「勘定奉行」やマイクロソフトの「オフィス」の情報を呼び出すという動作は、当社が得意中の得意とするところです。
これからは、単なる電気的な信号を処理する道具を販売するだけでなく、これら道具を存分に活用し、その真価を発揮する“利用文化”の創造に貢献していくことを考えています。ユビキタス社会を構築するうえでの基本的な道具は揃ってきたものの、利用文化の底が浅いままだと、今後期待される大きな需要の盛り上がりを阻害する要因になりかねません。道具を活用する文化の成熟が不可欠であり、当社では顧客とともに、利用文化の深化に尽力していく方針です。
──NECは今年6月に「ユニバージュソリューション」として、IPテレフォニーパックなどITとネットワークを統合したソリューションの販売に乗り出しました。
佐々木 当社が進めてきた情報と通信の融合ソリューションを具現化した商材が、NECの「ユニバージュ」だと捉えています。とても興味深い製品群で、今後はユニバージュを使って、当社流の面白い展開ができる手応えを感じています。わたしは常々「誘発」や「攻撃」という手法を用いて、市場創造を手がけてきました。つまり、新しい市場を創造するにしても、受け身の姿勢ではうまくいかないという意味です。自ら新境地を切り開いていくには、何かそこに新しいエネルギーが必要となり、突破口を開く材料が必要になってきます。NECのユニバージュにしても、OBC、NTTドコモ、マイクロソフトにしても、市場創造をする素晴らしい材料を持ったテクノロジーパートナーであり、われわれはその材料を基盤に市場創造を実践していきます。顧客の需要を促す仕掛けなり、そのための初動体制を整え市場創造に必要な情報を発信していくことが、つまりは需要の「誘発」であったり、新しい市場へと切り込んでいく「攻撃」だと表現しています。
あくまでも通信と情報の融合にこだわる、利用技術や文化に踏み込んだ提案を
──主要テクノロジーパートナー4社の商材もそうですが、基本的には完成品やパッケージ製品の販売が中心で、オリジナル性に欠ける印象も受けます。
佐々木 商品だけなら電気街に買いに行けば済むわけで、われわれは必要ありません。当社は、通信や情報などのテクノロジーを融合させたソリューションサービスと、顧客とともに次世代の利用文化を創造するという大きな付加価値を持っています。01年、当社が東京都内に開設した「東京IT推進センター」では、まずは当社の取り扱い商材に触れていただき、そのなかから、個々の顧客企業においてどういう利活用が可能なのか、顧客と一緒に考えて提案していく場として活用しています。こうした顧客企業に向けたコンテンツサービスや教育サービスを拡充させることで、ユビキタス社会にふさわしい利用文化の創造に力を入れていきます。
もう1つ重要なことは、顧客先へ実装するスピードと価格、品質が他社よりも勝っているという点です。中堅・中小企業が必要とする部材は、NECやOBC、NTTドコモ、マイクロソフトの主要4社でほぼすべて揃うため、われわれは現在の手持ちの商材で、顧客の用途に合ったさまざまな情報システムを、迅速に、安く、安定した高い品質で納入することができます。つまり、どれだけ付加価値の高いモノを売るのかという点ではなく、どういう利活用を創造すれば顧客にとっての価値が高まり、利用文化の成熟度を高められるのかという点を重視し、ビジネスを展開すべきだということです。この基本さえ押さえてあれば、スピードと価格、品質の面でも、顧客満足度を高めることに注力しても構わないし、そうすべきだと考えています。
──通信や情報の融合によって、新しい利用文化の醸成が不可欠だと強く認識しておられるようですね。
佐々木 ここ数年で、ユビキタス社会を実現する技術基盤は整ってきたものの、これを利用する側の文化の成熟が、まだ進んでいません。当社は東京IT推進センターを活用するなどの啓発活動を通じて、利用文化の成熟度を高めようと努力していますが、業界全体としても、利用文化の創造はユビキタス社会を実現するうえで大きなテーマになっています。情報と通信の商材が統合しても、これを使う文化的な背景が不足していると、盛り上がりが鈍いものになりかねません。情報と通信の融合が進み、情報通信に対する社会の依存度はますます高まっていくなかで、利用技術や利用文化にまで深く入り込んだソリューションの提案が、われわれシステムインテグレータに求められてくると考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「陸上自衛隊で学んだ通信技術が、退職後に就職した会社でも役立った。脱サラして起業した時、後ろ盾も信用力も、自分にはないことが分かった」創業間もない頃は、東京・日本橋にある百貨店の通信機器売り場で、1964年当時としては最新式のボタン式電話を販売した。「有力ベンダーとの関係を強めることが、何の後ろ盾もない起業家が成功する近道」だと直感的に感じ取った。この直感は今も変わらない。NEC、マイクロソフト、OBC、NTTドコモ…。「どの企業も、いいコンセプトを持っていると親しみを感じた」ことから販売パートナーに加わり、新規市場開拓に邁進してきた。到来するユビキタス時代も、有力ベンダーの優れた商材を組み合わせることで、新しい市場づくりに力を入れる。(寶)
プロフィール
佐々木 茂則
(ささき しげのり)1935年生まれ、島根県出身。57年、陸上自衛隊通信隊に入隊。61年、岩通エンジニアリング(現・岩通システムソリューション)入社。64年、協立電設(現・協立情報通信)を設立。代表取締役に就任し、現在に至る。01年、放送大学教養学部卒業。03年、第44回電気通信協会賞受賞。
会社紹介
東京オリンピック開催年である1964年に創業。今年6月5日、創業40周年を迎えた。76年にNEC製品の販売を始め、86年にオービックビジネスコンサルタント(OBC)の商材が加わった。90年には移動体通信機器の販売に乗り出し、94年にドコモショップの開店など全国ネットワーク事業を開始した。01年に顧客とともに、ユビキタス時代の情報システムの在り方を考える場として「東京IT推進センター」を開設。ユーザーに向けた教育サービスを充実させた。ユビキタス情報空間を実現するテクノロジーが急速に進化していくなか、これらテクノロジーを活用する“利用文化”の成熟が求められていると分析。NECなどテクノロジーベンダーとのパートナーシップを強化しつつ、利用文化の振興に力を入れることでユビキタス時代の新たな市場創造に取り組む。