パソコン専門店や家電量販店などの多くが“低価格化”に象徴される激しい競争を繰り広げるなか、ギガスケーズデンキが増収増益を続けている。自社の力量を見極め、体力を温存しながらペースを保つ。これが同社流の業績の伸ばし方だ。今年4月1日にギガスと事業統合。さらに、10月1日には八千代ムセン電機との統合も控える。加藤修一社長は「家電量販業界でのポジションを高める」ことで、売上高1兆円達成も視野に入れる。
大型店舗の出店が成長路線の土台に、今年度は大型店中心に17店舗をオープン
──業績が増収増益で推移していますね。
加藤 特に珍しいことをしたわけではありません。強いて挙げれば、家電量販業界で起こっている価格競争やポイント還元などに追随せず、ペースを保っていることが成長している要因ではないでしょうか。
当社では、業績を伸ばすために、「無理をしてでも売り上げを伸ばせ」といったような号令をかけないようにしています。「頑張らない」、「無理なことは行わない」、「小出しに力を出す」ことをコンセプトにしています。企業の力量を見極め、無理な戦略を行わなければ、しっかりとした実力が身に付きます。
社員に対し、トップがあまり無理なことを要求すると、会社全体のポテンシャルが下がる危険性があります。会社が出せる100%の力のうち、80%程度の力を出すという余裕のもった目標を立てることが最適といえます。
「業績を上げなければならない」と、120%の力を使い無理をすると体力がもちません。予想に反して業績が縮小していくのであれば、それは減少しないように手を打っていないからといえます。そのため、当社ではどのような環境でも成長できる土台作りに力を注いでいます。当社のペースは、売り上げが年率平均25%の成長で進むことです。このペースを保ち、2010年度には1兆円規模の売り上げが当面の目標です。
──04年度(05年3月期)は、3000平方メートル前後の店舗を中心に出店することを計画しています。大型店を出店する意図は。
加藤 出店は、成長路線を走る土台作りに最も重要な戦略です。今年度は、売上増の達成で店舗の大型化がカギになるといえます。大型店舗の出店を行えば、売り場面積が増えることで売り上げが伸びる。売上増になれば、自然と利益も出るようになると試算しています。
しかも、昨年度は出店が11店舗、閉鎖が13店舗と出店を控えることで体力を蓄えていました。今年度は、出店17店舗、閉鎖13店舗と出店を増やします。しかも、大型店舗を中心にオープンしますので、全店舗の売り場面積の合計は、昨年度よりも4万平方メートル増えることになります。
──今年度は、地域戦略で策はありますか。
加藤 今年度に限らず、出店地域は全国規模を狙っていますので、特に力を入れる地域はありません。当社では、直営店が関東地区での出店、フランチャイズ店が各地域というコンセプトで展開しています。しかも、今年度は各地域で競合他社よりも売り場面積の大きいショップを構えることを念頭に置いています。
正直な話、小規模な店舗で十分に利益を出せるのであれば、小型店舗の方が投資額や販管費がかからないで済むのですが、当社は業界の中で圧倒的な力を誇示しているというわけではありません。ですので、大型店舗を出し、各地域でのマーケットシェアを拡大していきます。
フロアに関しては、各地域の特性や顧客層にもよりますが、できるだけ提案型のコーナー作りを徹底していきます。
──最近では、パソコンや家電、関連機器だけでなく、海外ブランドのバックや時計などを販売する業態も増えました。新商材の販売など、ショップの業態を変更する方向性はありますか。
加藤 当社は、あくまでも家電量販店です。今のところは、店舗の業態を変更するなどといったことは考えていません。余計なことは行わず、一般的な家電量販店を目指しています。
当社は競合他社に比べ“シンプルな量販店”と、お客さんからは見られているのではないでしょうか。競合他社が特徴のある量販店の業態を作れば、当社が“シンプル”という特徴をもった量販店になりますし(笑)。また、業態変更で他社との差別化を図ろうとも思っていません。他社を気にすることなく、お客さんベースで販売形態を決めていきます。
家電量販業界で地位を高める、マーケットシェア拡大狙う
──今年4月1日付でギガスと事業統合しました。効果は出ていますか。
加藤 事業統合は、売り上げや店舗数が増えるといった企業規模自体を拡大するための戦略ですので、すでに効果が出ているといえます。売上規模に関していえば、ギガスとの統合で4割程度の拡大を見込んでいます。
事業統合による効率化は、仕入部門の統一化をすでに図りました。仕入商品に関しては、もともとケーズデンキとギガスの商品にさほど違いがありませんでしたので、影響は出ていません。物流については、ケーズデンキが関東地区、ギガスが中京地区を中心に店舗展開を行っていますので、一本化を図る必要はないと判断しています。
今年10月には八千代ムセン電機との事業統合を控えています。この統合では、5割程度の売上増が期待できます。
──ギガスや八千代ムセン電機は売り場面積1平方メートルあたりの売上高が、競合他社と比べて高いと聞きます。これも事業統合に踏み切った要因ですか。
加藤 その通りです。昨年度の時点で、売り場面積あたりの売り上げはギガスが業界で2位、八千代ムセン電機が業界で3位でした。ケーズデンキは業界で5位の位置にいます。この3社が事業統合すれば、まず業界で2位は確保できるといえます。しかも、3社の店舗作りのノウハウを組み合わせれば、業界でトップになることが可能ではないかと確信しています。
──事業統合にリスクは付き物ですが。
加藤 一般的には、事業統合のリスクとして、本社機能の一本化に時間がかかることによる業績の悪化、商習慣の違いによる社員の志気低下などがいわれています。
ですが、これまでも当社は統廃合を繰り返してきた経験をもっていますし、特に商習慣に関するリスクは月日の経過で消えるものです。ですから、問題にはしていません。事業統合は、マーケットシェアが上がり、業界でのポジションも高まります。事業統合で企業規模を拡大しなければ、業界から淘汰される危険性が高く、逆に事業統合をしない方が高リスクといえます。
当社から積極的に事業統合を進めることはしませんが、今後も相手企業との話し合いで事業統合が最適だと判断すれば行っていくつもりです。
──業務提携は視野に入れていますか。
加藤 視野に入れていません。業務提携しただけで、メーカーに「卸値を安くしてくれ」というのは責任がないのではないでしょうか。提携であろうと仕入部門などを組織化し、機能の一本化などを行わなければ、業務提携する意味がありません。
しかも、顧客ニーズに合った商材を仕入れることが販売増になり、コスト削減や効率化につながります。当社では商品を選んで仕入れています。そういった点でも、大量に仕入れるための業務提携は、当社にとってメリットを見出せないものといえます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
加藤社長は、家電量販ビジネスについて、“終わりのない駅伝”とたとえる。
「100メートル競争のような全力疾走では体力が続かなくなる。自分のペースを保ち、体力を温存することが長い距離を走るカギになる」と強調する。
「実力以上の力を出そうとすれば、オーバーペースを続け体力を使い果たすことになる。これでは、逆に自分の力が発揮できないのではないか」
激しい競争に追随すればするほど、企業の存続にかかわる危険性が高まるとの考えからだ。
「(2代目の社長であるため)私は2番目のランナー。3番手に走るランナーにタスキを渡すことが使命」と、企業の存続を見据え、年率平均で25%成長を続けられる企業を目指していく。(郁)
プロフィール
加藤 修一
(かとう しゅういち)1946年4月7日生まれ。69年4月、加藤電機商会(現・ギガスケーズデンキ)入社。71年12月、取締役営業部長。73年9月、代表取締役専務。82年3月、代表取締役社長。91年7月、家電量販店のよつば電機(現・東北ケーズデンキ)の子会社化にともない、同社の代表取締役社長に兼務で就任。2003年5月には子会社のデジックスケーズの社長も兼ねる。
会社紹介
ギガスケーズデンキの2003年度(04年3月期)連結業績は、売上高が前年度比12.9%増の2200億円、営業利益が同7.5%増の31億3600万円、経常利益が同15.6%増の61億900万円、最終利益が同60.3%増の30億7800万円と順調に推移した。
今年度(05年3月期)の連結業績予想は、売上高で前年度比40.0%増の3080億円、営業利益で同5.2%増の33億円、経常利益で同36.7%増の83億5000万円、最終利益で同55.9%増の48億円の見込み。今年4月1日付で、中堅家電量販店のギガスと事業統合したことが、大幅な増収増益を達成する要因になる。今年10月1日には、八千代ムセン電機との事業統合も予定。事業規模を一気に拡大させる。2010年度には1兆円規模の売上高を目指す。
事業統合で店舗数が増加し、全国網での店舗展開を着々と進めている。今年度は、大型店舗の出店にも力を入れており、出店する各地域でマーケットシェアを高めていく方針だ。